宇多丸・ZEEBRA『今日は一日”RAP”三昧』対談書き起こし

宇多丸・BOSE『今日は一日”RAP”三昧』対談書き起こし 今日は一日RAP三昧

(宇多丸)いちばん最初に僕ね、キングギドラのデモテープをもらったのは、あれはでも93、4年ぐらいだと思うんですよね。

(ZEEBRA)93、4、そんなもんですね。たぶんね、俺は覚えているのはね、『Fine』っていう雑誌が当時ありましてね。

(宇多丸)当時はね、日本のヒップホップの最新情報は音楽誌ではなく、サーファー雑誌『Fine』が引っ張っていたんですよね。

(ZEEBRA)そうなんですよね。そこのそういうコーナーのところの中に、ライムスターの宇多丸……当時は「MC SHIRO」って書いてありましたけども。「MC SHIROの持ち物チェック」みたいなページがあってですね。そのページの中に「キングギドラのデモテープ」とかっていうのがバッグの中に入っているって書いてあったのが、「キングギドラ」ってはじめて活字になった……。

(宇多丸)メディアに載った最初だという。

(DJ YANATAKE)へー!(笑)。

(ZEEBRA)それとですね、同じ雑誌の後の方に高木完さんの「HARDCORE FLASH」。そこのところにも「キングギドラのデモが……」って。同じ号にいっぺんにバンッ!って載っかったっていう。

(宇多丸)いやー、ギドラはね、ペイジャーショックも大きかったですけど、ギドラのデモテープのいきなりの完成度の高さは、これはやっぱり衝撃だったんで。「このまま音源化できるじゃん! あと、このラップの上手い人、なあに?」みたいな感じが衝撃……だから、結構最初からできているなとは思っていたんだけど、ジブさんはあれですよね。その後に僕らがアルバム『Egotopia』の『口から出まかせ』という曲に呼ぶ前後ぐらいからちょっとラップの仕方をより、いまのジブさんに近い、ちょっとハードな感じに変えて。

(ZEEBRA)そうですね。うん。

(宇多丸)とかもあってね。でも最初からすごかったですよね。

(ZEEBRA)なんかね、やっぱりいろいろと見ていたんですよね。で、やっぱりシーンに出てきてみて、「ああ、こんな感じなんだな」って思うことによって自分のスタンスが固まったというか。

(宇多丸)たとえば僕、さっき言いましたけども。日本のシーンにとってはマイクロフォン・ペイジャーの登場っていうのはいちばん大事件だったんですけど、ペイジャーなんかを見ていて、やっぱり「これはシーンの中でデカいぞ」っていう感じはありました?

(ZEEBRA)俺はだからそれこそよくインタビューなんかでも言わしていただいているんですけどね、ペイジャーというよりもまずは俺、クラッシュ・ポッセを『ダンス・ダンス・ダンス』の番組で出ているのを見て。で、「おっ、なんかすげーBDPのインスト2枚使い……これ、たぶんインストはないからイントロのところの2枚使いなんじゃねえか?」とか、とにかくそういう、「てめー、俺の大好きなの使ってやがる、こいつら!」みたいな。

(宇多丸)ものすごくツボを抑えたところをやっていると。

(ZEEBRA)そう。で、「最近はこういうやつらもいるんだ。うれしいな!」って思ったのがまず、クラッシュ・ポッセだったんですね。

(宇多丸)クラッシュ・ポッセ、かっこよかった。

(ZEEBRA)で、その後に見ていて、日本語ラップを自分たちではじめてみたと。そうなると、日本語ラップのシーンのところに行かないといけないわけですね。

(宇多丸)まあ、勝たないといけないわけですからね。

(ZEEBRA)で、「いまのはどんな具合でしょう?」ってなって見た時に、やっぱり見渡してまずマイクロフォン・ペイジャーとライムスターだと。

(宇多丸)ああ、すいませんね。気を遣っていただいてありがとうございます。

(ZEEBRA)いや、本当にそうなんですよ。この2つをとにかくやっつけねえと、俺らはトップに立てねえぞと。

(宇多丸)たぶんヒップホップ的アティチュードっていう点でやっぱりペイジャー。ガツンとありますし、たぶんキングギドラの登場以前できっちり韻を踏むみたいな感じはライムスがたぶんがんばってやっていたっていうことですからね。

(ZEEBRA)さっきも言っていたけど。番組、聞いていたんですけどね。アメリカのラップの音に日本語を合わせていくっていうね。そこの部分に関して、やっぱりライムスはファーストとかもすごいいろんなことをトライしているし。そういったところをいろいろと思いましたですね。

(宇多丸)でも、ギドラはそこでやっぱり、これはDJ KEN-BOさんの名言ですけども。「はじめてアティチュードとスキルが日本人として一致したグループが出てきたのがキングギドラだ」っていう言い方をしていて、これは見事だなと思いましたけど。

(ZEEBRA)はあはあはあ。

(宇多丸)「はあはあはあ」って困っちゃうね。そういうことを言われてもね(笑)。

(ZEEBRA)うん。言われちゃうと困っちゃうんだけど、でも、そもそも当時ね……(笑)。すごい懐かしいんですけど、あなたたちにも聞きましたし、ペイジャーにも聞いたんですけど。「ライムスターとか聞いたりしないの?」とか……。

(宇多丸)ああ、「お互いどう思っているの?」と。

(ZEEBRA)そう。「お互い、どう思っているの?」って当時、俺が両方に聞いたらですね、「いや、別にあっちはあっちでやってるから……」って両方とも言っていて、マジかよ?っていう(笑)。

(高橋・ヤナタケ)アハハハハッ!

(宇多丸)でもそれってさ、いま思えばまあ、意識しあっているっていうかね。だって同じイベントに出てさ、やりあっているわけですからね。

(ZEEBRA)なんか俺はね、その後にもっともっと普通にひとつの土俵みたいな感じに全部がなっていったじゃない? もっとそういう風になればいいのになってはじめから思っていたので。

(宇多丸)うんうん。ジブさんはその後、本当に横断的にというか、どこのクルーともきっちり渡り合ってというか、そういう感じになったもんね。だから要は、ジブさんとかキングギドラが参入してきたところぐらいからようやく「シーン」っていう感じになってきたのね。それまでは本当にシーンっていうか、なんかちっちゃい島宇宙がポツン、ポツンってある……。

(DJ YANATAKE)ジャンルもね、いろいろと。ヒップホップだけじゃなくてレゲエとかテクノとかハウスの人たちとかも全部一緒にイベントをやったりしていましたもんね。

(宇多丸)そういえばヒップホップだけのイベントっていうのが始まったのも結構90年代のそのぐらいの時期だったりするから。

(ZEEBRA)だからそれこそさっきのさ、ペイジャーのTWIGYのリリックだけどさ、「パンクじゃねえ」みたいなところ、あるじゃない? そのへんってやっぱり、前までの世代とのすごく大きな違いで。

(宇多丸)「新しいロックとしてのヒップホップ」みたいな言い方をしていたけど、別に我々は最初からヒップホップ好きなわけだから……みたいなね。

(ZEEBRA)そうなんだよね。だからたぶんそれが第一世代っていうことなんだろうなって俺は思っていて。

(宇多丸)ロックサイドもそうだし、あとたとえばブラックミュージック的な解釈のヒップホップみたいな評価はあったけど。やっぱり俺はそれも不満で。「そういうソウルとかはいいけど、そういうのとはまた全然違う基準がヒップホップはあるんだけどな……」みたいな。だからたぶん僕らぐらいから完全に純ヒップホップ価値観みたいなのが始まったっていうことじゃないかなと思いますね。

(ZEEBRA)そうだね。

(宇多丸)シーンの中でギドラ、瞬く間に成功を収めたという感じだと思いますけども、どういう風なビジョンというか、どういう風にしていきたいな、みたいなビジョンはジブさんにありました? 始めた頃とかは。

(ZEEBRA)まあやっぱり、いまでも変わらないんですよね。全体的なことというか。とにかく、さっき言っていたように、世界標準みたいなものがどことなくどこかに常にあって。ヒップホップには。で、それをやっぱりある程度意識もした上で、オリジナリティーもありつつ……っていうところの形で。それで日本の中でもしっかり根付くということをどうすればいいんだ?っていうことですよね。

(宇多丸)うんうん。それはじゃあ、いまだに模索しているということですか?

(ZEEBRA)そうそうそう。まあ、どんどん進んでいっているし、どんどん成功していっているとは思っていますけども。まだまだやらなきゃいけないことはいっぱいあるなと思っています。

(宇多丸)それこそ最近ね、ジブさんは「ヒップホップ・アクティビスト」って言い方をしているけど。たとえば『フリースタイル・ダンジョン』……まあ、『フリースタイル・ダンジョン』の前からいろいろとジブさんは『高校生ラップ選手権』とかそういうのにも関わったりとか。いろんなシーンに関わってきているけど。『フリースタイル・ダンジョン』の思わぬさ、ここまでになるとはだって想像していなかったでしょう? 最初は。

(ZEEBRA)まあ、ねえ。上手く行きそうかなとは思ってはいたもののね。ここまでとは思っていなかった。

(宇多丸)だって地上波で何度もさ、いろんなことをやってなかなか上手くいかなかったわけじゃないすか。ねえ。いろいろあるわけじゃないですか。『シュガーヒルストリート』とかいろいろあったわけじゃないですか。

(ZEEBRA)もう、黒歴史ですからね。あのへんは。

(宇多丸)いや、そんなことないよ。1個1個がんばったのはあると思うんだけど。で、いったん、話が現在・未来の話になりますけども。『フリースタイル・ダンジョン』で考えられない、いままでとは規模が違う浸透の仕方というか、日本語ラップがブレイクして。何回目かの黄金期を迎えつつあるというのはあるけど、今後どうしていきたいというか、どういう風になっていってほしいとか。ビジョンとかってことはありますかね?

いままでのブームとの違い

(ZEEBRA)今回の、たとえばブームがちょっといままでと違うかな? という感じがするというところで行くと、さっきから言っている、いわゆる外国のものと一緒に育っていくというか、そういった感じがあまり国内にいま、ないよね。

(宇多丸)ああー。

(ZEEBRA)もちろんヒップホップが好きな人。それこそやっている連中とか最新のものを追いかけている連中はそうやってやっているんだけど。

(宇多丸)プレイヤーにそういう人はいるけど。

(ZEEBRA)そう。それがあまりまだ、USのヒップホップが、かつて日本のヒップホップが流行った時みたいには流行っていない。

(宇多丸)ああ、そういえば90年代は日本語ラップも流行っていたけど、同時にUSのヒップホップもみんなめちゃくちゃ聞いていたもんね。

(ZEEBRA)そう。っていうのはね、俺ら全員が布教をしていたんだよ。その時に。

(宇多丸)やっぱりそれはね。

(ZEEBRA)そう。それももっとしなきゃダメですよ。やっぱり。

(宇多丸)だから今日、これですよ。『今日は一日”RAP”三昧』ですよ。

(ZEEBRA)だから日本語ラッパーもね、もっとみんなUSのものも聞いて。っていうかUSのものよりもいいものを作ろうと思っていたら、聞かざるをえないでしょう?

(宇多丸)これね、まさに僕が実は今日……ボーちゃんとかにもそうだし、やっぱり「アメリカのラップをどの程度意識してやっていますか?」っていうのをずっと聞いていきたいっていうか。それこそが日本語ラップというものを進化させてきた原動力だと僕は思っているんで。

(ZEEBRA)そうですね。

(宇多丸)日本語ラップから直で影響を受けてやるのもいいけど、「どうやったらこの感じを日本語にできるのか?」っていうところで新しい日本語表現が生まれたりするというか。そういうことだと思うんで。

(ZEEBRA)なんかわからないけど、他の国も確実にそうだから。そこの国の中だけで発展しまくっているヒップホップとか、別にあんまり聞いたことないし。

(宇多丸)これまたヒップホップという文化の特殊性というかね。さっきの、世界共通ルールで、ルールが改正されました。さあ、このルールでどうやりますか?っていう、ちょっとスポーツみたいな面があるから。

(ZEEBRA)そうそうそう。だからそのへんは他のジャンルとはすごい違うなというところなんで。もっと上手く扱っていってほしいなと思いますね。

(宇多丸)という意味で、この並行して語るというこの形式を取らせていただいているわけです。というわけで、すいませんね。インフルで暇しているところを。

(ZEEBRA)いえいえ。ちょうどいい暇つぶしになりました(笑)。

(宇多丸)じゃあ、ギドラを1曲、かけたいんですが。『見まわそう』。95年『空からの力』より。ジブさんの方から曲紹介をお願いします。

(ZEEBRA)はい。ということでキングギドラ『見まわそう』!

(宇多丸)ジブさん、ありがとうございます!

(ZEEBRA)うぇいよー!

(宇多丸)お大事に!

キングギドラ『見まわそう』

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/46786

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