吉田豪さんがTBSラジオ『タマフル』に出演。2014年に読んだタレント本の中で、特に考えさせられた3作品を紹介していました。
(宇多丸)最初の部門は、2014年タレント本部門!はい、ということで、タレント本と言えば、もちろんこの方でございます。『昨年4月、知名度はないが質の良いアイドル特集』以来のご出演となります。プロインタビュアーで書評家、吉田豪さんです。
(吉田豪)はい、どもでーす。
(宇多丸)大変ご無沙汰しております。
(吉田豪)ただでもあれですよね。番組は出てないですけど、オールスター感謝祭に出た後にここで飲んでたりとか。
(宇多丸)ああ、そうですね(笑)。
(吉田豪)遊びには来てるんですよ(笑)。
(宇多丸)そうですね。いらしていただきました。ありがとうございます。なおかつですね、今日のタレント本紹介に関してですよ、なんか今週水曜の『たまむすび』で告知していただいた際にですね、『波風を立てにいきます』っていうね。ちょっとおだやかではない発言もされて・・・
(吉田豪)立てていきますよー(笑)。
(宇多丸)やめてください!人の番組で、やめてください!っていうね。
(吉田豪)スキンヘッドの人のね、話題をね。目の前にもいますけど(笑)。
(宇多丸)ああ、そうですか。なんでしょう?スキンヘッドの人の話題ってどういうことなんでしょうか?っていうことで、さっそくタレント本部門ベスト3の発表。お願いします。くくりがあるんですね?
(吉田豪)ありますね。いいですか?2014年いろいろと考えさせられたタレント本。
(宇多丸)いろいろと考えさせられたっていう、欺瞞に満ちた・・・
(吉田豪)完全に面白い!っていう一言じゃないんですけど、話がふくらみやすいっていうか。本当、考えさせられますよ。
(宇多丸)考えさせられる。
(吉田豪)ちょっと、第三位ぐらいでもすぐわかってもらえると思いますね。
(宇多丸)なるほど。じゃあどんどん行きましょうかね。はい。
(吉田豪)三位がですね、東京キララ社から出ました『ホタテのお父さん』。安岡力斗っていう、力也さんの息子さんが書いた本なんです。
第三位 安岡力斗『ホタテのお父さん』
(宇多丸)なるほど。はいはいはい。
(吉田豪)で、お父さんの話を書いてるんですけど。
(宇多丸)この写真がまず、すごいですね。
(吉田豪)闘病中のお父さんと息子さんなんですけどね。あの、本当力也さんってファンタジーっていうか幻想の世界に生きた人っていうか、ギミックの人なんですよ。どこまでがリアルかわからない。
(宇多丸)ああ、武勇伝みたいな?
(吉田豪)そうです、そうです。で、僕、インタビューでその力也さんの伝説を検証するのとかやってるわけですよ。それが今年の頭に出てるんですけど。『人間コク宝サブカル伝』っていうのに入ってまして。生い立ちの話から、結構いろいろしてるわけですね。
(宇多丸)ふんふん。
(吉田豪)最初にまず、イタリアでマフィアのドンの次男坊として生まれたと。で、おじいちゃんの時代からずっと昔から家はマフィアで。ただ、ある資料だと『おじいさんは右翼の大物だった』とも書いてたんですよ。どっちだろう?と思ったら、『それはウチのお袋の方』って言われて(笑)。そうなんですか!?みたいな。
(宇多丸)父方はイタリアンマフィアで、母方は右翼の大物?
(吉田豪)ところが、そのへんもミステリーなんですよ。正直言って。この本でも書いてます。息子さんが。『通説ではイタリアの地で日本人の母とマフィアの父の間に生まれ、父が抗争で命を失うと同時に、お母さんと子どもで日本に帰国したとなっている。僕も父からはそう聞かされて来た。事の真相は明らかではないが、たしかなのは安岡力也の父はイタリア人であること。そして、実の父親に会ったことが一度もないことだけだ』っていうね。
(宇多丸)ああー、だからその真相は、やっぱね。力也さんがもう持って行っちゃったっていう。
(吉田豪)ところが、ぜんぜん生きてる時に、山城新伍さんが『軟派の硬意地』っていう本を昔出していて。
(宇多丸)また、違う角度から。
(吉田豪)これが1983年に出た本なんですけど、『ホタテマンの父はマフィアのボス(?)』っていう章がありまして。それが全部嘘だって書いてるんですよ(笑)。
(宇多丸)山城新伍さんがバラしちゃってる?
(吉田豪)あの、なんか怖い人に絡まれた時に、『ウチの親父はマフィアでどうのこうの・・・』みたいなことを言って、上手いこと抱き込んで。『お前のところには、じゃあ親父がマシンガンを送ってやるから』とか言ってすっかり仲良くなって・・・みたいな。『当然、全て嘘である』って書いてありましたよ(笑)。
(宇多丸)(笑)。でもそれ、山城さんも亡くなられてるから、もうちょっとそういう意味でも検証がしづらいですけどね。
(吉田豪)だからそういう風に本当、ミステリーな人で。たとえば僕がブッチャーと戦い。ストリートファイトしたことがあるんです。
(宇多丸)ブッチャーとの戦いっていうとさ、当然リング上かと思ったら、ストリートファイト?
(吉田豪)六本木のストリートファイトで。僕が聞いた時は、ブッチャーが女に絡んでたから、路上に引っ張り出して。ちょうど工事中でブロックがいっぱいあったんで、ブロックで頭をパカンと割ったんだけど、1発じゃ倒れねえ。頭から血が出るだけで。で、しょうがないから、もう1回ブロックでバターン!ってやったらズデン!となって倒れたんだけど、その2週間後くらいにバッタリ会って飲んで仲良くなって・・・みたいな。いまは親友だよ!みたいな。
(宇多丸)(笑)
(吉田豪)話をしてるんですけど。最近、爆笑問題の田中さんと『オトナスコラ』っていう本を作りまして。この関係でスコラの編集部に行って、スコラのバックナンバーをたっぷり見てきたんですよ。これ、宇多丸さんにも自慢したいようなすごい記事がいっぱいあって。ちょっとチラチラ見せますよ。
(宇多丸)いいなー。
(吉田豪)最高でしたよ、これ。笹川良一とブラックエンペラーの対談とか(笑)。
(宇多丸)すごいなー!へー!やっぱり暴走族ブームっていう感じだったんですかね?
(吉田豪)とか、これも最高。全盛期。スタローン対猪木の対談。
(宇多丸)あっ、これすごい!
(吉田豪)写真だけでも。これ、これ。この2ショット。
(宇多丸)うわーっ!これ!
(吉田豪)ファイティングポーズ。
(宇多丸)僕、いますぐ抜けます!
(吉田豪)(笑)
(宇多丸)これで抜けます!うわっ、最高!
(吉田豪)最高なんですよ。
(宇多丸)へー!スコラ、すごいなー。
(吉田豪)とか、これもぜんぜん知らなかったんですけど。力也さんの娘さんが17才で水着ショットやっていて。『ホタテっ子17才』って(笑)。
(宇多丸)ちょっと(笑)。あの、女の子に貝のたとえはどうかな?(笑)。
(吉田豪)顔が本当、力也さんに激似だったんですけど。この中に、力也さんのインタビューが出てて。ブッチャーと戦った直後のインタビューだったんですよ。おお、これは立体的にできる!と思って読んだら、『酔っぱらってたからブロックで殴ってもブッチャーはガクンと来ただけで倒れなかった』と。
(宇多丸)あ、やっぱでもそこはそうなんだ。
(吉田豪)で、『頭から血をペロッと舐めてニターッと笑ったから、俺、後ろを振り向かないで懸命に逃げた』って書いてあって(笑)。
(宇多丸)(爆笑)
(吉田豪)何年かたっている間に話が膨らんでいることが判明っていう。
(宇多丸)2発目で倒したとはだいぶ違うけど。こっちの方がでも、実際殴ったところまでは本当っていうのがむしろ、すごいですよね。
(吉田豪)みたいな。だから、力也さんってなんなんだろう?みたいに考えていくのが面白いなと思った時に、この本に素晴らしいエピソードが出ていて。『ブラックレイン』で松田優作さんと共演した時に、優作さんが末期がんっていう病気を隠して撮影に挑んだけど、たった1人、父にだけは病気を打ち明けていたと。このエピソードを映画雑誌で息子さんが読んで感動したらしいんですよ。
(宇多丸)うんうんうん。
(吉田豪)で、ある日、親子で一緒にブラックレインを見る機会があって。一緒に見ていたら、力也さんが『あの野郎、俺にも黙ってやがって・・・』ってボヤいたらしくて(笑)。
(宇多丸)(笑)
(吉田豪)『ええっ!?』っていう(笑)。
(宇多丸)ちょっとだから、場合によって少し変わっていくんですかね?
(吉田豪)『父は家族にまで本当のことを言えない寂しい人だった』みたいな書き方をしてるんですけど。僕はそうじゃなくて、家族の前でもちゃんと演じ続けた男っていう意味で、真樹日佐夫先生にも近いものを感じていて。ギミックを背負い続けて亡くなった人、みたいな。
(宇多丸)ああ、ちゃんと幻想をずっと守ってくれるっていうか。
(吉田豪)みたいなかっこよさが伝わる本で。でも、これを最後まで読んでいて、もう1個衝撃というか、もう1個幻想が高まったのが、力也さんが危篤になって。まだ亡くなる前ですけど。仲間たちが次々病室に集まった時に、裕也さんが現れて、突然父のベッドの前にひざまずくと、何を思ったのか手を合わせて拝み始めて。『あの、親父まだ死んでません。拝むなんてやめてください!』って息子さんが激怒するっていう(笑)。
(宇多丸)(爆笑)
(吉田豪)展開があったんですけど。裕也さんもすごいですよね。やっぱりね(笑)。
(宇多丸)すごい(笑)。もうなんか、すげー!としか言いようがない。超人たちが。
(吉田豪)超人(笑)。
(宇多丸)おもしろ超人たちが。
(吉田豪)そんな状況でも、そんなことをやっているっていう。
(宇多丸)いやー、あ、そうなんだ。
(吉田豪)裕也すげー!って思ったっていう(笑)。
(宇多丸)でも単純にそのエピソードだけで面白いですね。その息子さんのね。
(吉田豪)当時の力也さんの若い頃の話だけでも面白いですよ。奥さんをナンパしたのが実は奥さんを竹の子族で。当時、原宿在住の力也さんがナンパしてるんですけど。で、力斗っていう名前も実は北斗の拳が大好きだったから力斗みたいな(笑)。
(宇多丸)えっ、そんな理由?(笑)。
(吉田豪)エピソードが全部いいんですよね(笑)。ぜひともね。
(宇多丸)あ、すごいなー。
(吉田豪)こういう風にいろいろと考えさせられる。
(宇多丸)考えさせられる。真実とは何か?
(吉田豪)そう(笑)。
(宇多丸)真実が偉いわけじゃないってことかもしれないですね。
(吉田豪)そういうことですね。
(宇多丸)はい。それではベスト2の方をお願いします。
(吉田豪)ベスト2はですね、長渕剛『長渕語・録』。
第二位 長渕剛『長渕語・録』
(宇多丸)もうすでに、その時点で、そりゃあ考えさせられるでしょうよっていう。
(吉田豪)すごいですよね。だって、カバーっていうか帯がカバーと同じサイズっていうか(笑)。
(宇多丸)えっ?これ、帯なんですか?表紙でしょ?だって。
(吉田豪)帯っていうか、カバー違いが山ほど出てるんですよ。
(宇多丸)カバー違い!?そんなAKBみたいな、そういう?
(吉田豪)通常の帯で売られているのが書店バージョンで。コンビニではカバーが何種類かあって、みたいな感じで。ファンなら全部買わなきゃ!みたいな・・・
(宇多丸)ねえ。コンプリート。うん。
(吉田豪)でも長渕さん、どっかでAKBの商法を批判してた気がするな・・・と思いながら(笑)。ちょっとモヤッとしながら。
(宇多丸)そこも考えさせられるポイント(笑)。
(吉田豪)あの、実は僕、長渕さんを今年、取材してまして。そん時に衝撃を受けたんですよ。その資料も見せますけどね。前日のメールの時点で衝撃で。まず長渕さんの取材が前日になって、『「犬を連れてきたい」って長渕さんが言ってます』って言われて。犬っていうのが本当に、巨大な犬なんですよ。
(宇多丸)ふんふん。
(吉田豪)で、それを連れて行くのに、志穂美悦子さんが来ますと。悦っちゃんが犬を連れて来る。
(宇多丸)ちょっと待ってください。これね、我々的にはちょっと・・・
(吉田豪)で、まずテンションが上がって。マジ!?と思ったのプラス、あと、『運動をする場合があります』って言われて。
(宇多丸)ちょっと待ってください(笑)。
(吉田豪)えっ!?っていう(笑)。『運動する場合は、全て30分ズレこみます』と。
(宇多丸)パンダとかじゃないんだからさ(笑)。おかしいでしょ?それ。
(吉田豪)もうよくわかんないけど。で、プラス、『撮影のコーディネーターで冨永愛さんが来ます』って書いてあって。当時はまだ、いまは多少有名になったんですけど、お弟子さんなんですよね。
(宇多丸)えっ!?冨永愛さんが?
(吉田豪)そうなんです。で、冨永さんの本をプロデュースしたりとか、舞台をプロデュースとかいましてるんですけど。当時、謎だらけで。で、半信半疑で行ったら本当、悦っちゃんいるし、犬いるし、冨永愛いるし。さらには、撮影スタジオが完全にトレーニングジムに変わってたんです。
(宇多丸)(爆笑)。これは運動するための場所じゃないですか!もう、だって。あ、持ち込んでるんだ。
(吉田豪)持ち込んでるんですよ。作り変えてるんですよ。
(宇多丸)はー。運動する気、満々じゃないですか。もう(笑)。やめてくださいよ!って話だけど。
(吉田豪)で、さらに女性誌の取材で、事前に言われてたのが、『女性誌なのでかわいらしい話を聞いてほしい』みたいなのだったんですけど。いざインタビュー始まったら、長渕さんがとにかく口にするのは『死ぬ気』とか『殺す』とか、そういうフレーズしか出てこないんですよ。で、なおかつ、普通にインタビュー終わったんですけど、原稿チェックを受けたら、現場で言ってない発言。『君なんかも本気でやんなきゃダメだよ。明日死んでもいいっていう本気だよ。わかる?つまり、みんな本気、本気って言うんだけど、死ぬ気でいかないと本質なんか見えてこないだろ?インタビューも本気でかかってこないとね!』っていうね。現場で言ってない挑発的な発言を原稿チェックで加えたりとかして。
(宇多丸)(笑)。さらに、こうグイグイ。
(吉田豪)原稿チェックも本気!っていう(笑)。なんなんだろう?って思っていのが、『長渕語・録』を読むと謎が解けるんですよ。
(宇多丸)解ける?
(吉田豪)全てが、長渕さんはこういう考えでそういうことをやってるんだなっていうのがわかる本っていう。
(宇多丸)どういう考えなの?
(吉田豪)つまり、取材で長渕ファミリー一同、実は娘さんも一緒に来たんですよ。ファミリー一同で現れるのも、『人を愛する時はこれ以上愛したら爆発するんじゃないか?っていうぐらい愛するよ』っていう。
(宇多丸)『これ以上愛したら爆発するんじゃないか?』って・・・
(吉田豪)お弟子さんも一緒に愛するっていう感じで。
(宇多丸)ちょっと・・・考えさせるフレーズが・・・
(吉田豪)いや、そこはでもぜんぜんね。奥さんもちゃんと。で、あとね、『すごい!って言わせたい。ただ、それだけよ。ただそれだけで頑張っている自分がいる』っていうことで。これでだから肉体を作り変えたりとか、直前にものすごいテンションで運動したりとかするんだろうなと思ったんですよ。
(宇多丸)うんうん。
(吉田豪)だからインタビュアーに死ぬ気を求めるのも、『どれだけ本気で生きて死ぬか?それだけのことだ。俺と関わる人間たちが、俺と同じくらいのボルテージを持ってないと俺は許せなくなっちゃうのよ。そこでいつも摩擦が生まれる』っていう。
(宇多丸)なるほど、なるほど。
(吉田豪)たぶん長渕さんのトラブルっていうのはだいたいこういうことなんだろうなっていう風に思ってきて。
(宇多丸)真面目だってことなんですね。
(吉田豪)そうです。で、長渕さんの本って実はほぼ出てなくて。本当、長髪時代の本。『俺らの旅はハイウェイ』とか。そういうのぐらいしか。あとはなんか、詩画集みたいなものしか出てなくて。たぶん長渕さんの本気に付き合える人がいないんですよね。
(宇多丸)あ、本を作るにしてもね。
(吉田豪)そうそうそう(笑)。
(宇多丸)そうだよね。一冊、だってインタビューでその騒ぎなんだから、これ一冊となったら・・・
(吉田豪)大変な騒ぎですよ(笑)。
(宇多丸)さっきの『首をはねておきました』ってことになりかねない。うん。
(吉田豪)ただ、本当いろんなことが謎が解けて。最近、長渕さんがちょっと面倒なトラブルに巻き込まれてるというか。元マネージャーさんに暴力を振るったみたいになったんですけど。あれも調べてみると、ぜんぜん長渕さん悪くないっていうか。マネージャーさんがちょっといわくつきの人らしいんですよね。
(宇多丸)うん。
(吉田豪)バブルガムブラザーズがちょっと騒動になった時。ブラザー・コーンさんが1回捕まったじゃないですか。実はあれ、すぐ出てきて。『実は悪いのはマネージャーで。マネージャーが全部嘘をついて。アイツの方が実は黒い関係だ』って言って。実際その黒い関係の名前を語って云々で捕まったマネージャーなんですよ。
(宇多丸)あ、その人なんすか?
(吉田豪)その人が長渕さんのところにいて。で、その人に対して長渕さんが『勝負するか?』って言ってやってるから、ただの正義の味方に見えてくるんですよ(笑)。
(宇多丸)当然それは起こるというか。起こるべきことが。
(吉田豪)みたいな、立体的になってくるんですよね。でも、この本で僕がいちばん痺れた長渕さんのフレーズが、『ヤクザと表現者と上手く付き合える手段はたったひとつ。決して怒らせないことだな。この二者に、いわゆる常識論なんかはハナっから通じるわけがない』っていうね。
(宇多丸)ほうほうほう。まあ、これはでもシンプルながら、その通りだなっていうフレーズですね。
(吉田豪)表現者として(笑)。思いますか?
(宇多丸)サクッと行くなっていうね。その通りだっていう。考えさせられる。
(吉田豪)はい。というね。そして、最後ですかね。
(宇多丸)さあ、問題はここなんでしょうね。きっとね。
(吉田豪)スキンヘッドの人。やっぱりね、いろいろ問題を起こしやすい。
(宇多丸)いや、ちょっと待って下さい。私は別に何の問題も。波風立てない方でございます。一位。
(吉田豪)はい。幻冬舎のね、大ベストセラー。百田尚樹さんの『殉愛』ですね。
第一位 百田尚樹『殉愛』
(宇多丸)殉愛。これ、もうめちゃくちゃ売れてるんですね。
(吉田豪)そうですね。たかじんさんに殉じた未亡人の素晴らしさを書いた結果、それってどうなの?みたいな感じでいろいろ摩擦が起きている本。
(宇多丸)ちょっと事実と違うんじゃないか?的な揉め方ですか?
(吉田豪)まあ、奥さんとスタッフのことがあまりにも敵視されすぎて、両者とも、『それ、話が違いますよ』になっていて。
(宇多丸)あまりにも悪役に描きすぎちゃっている?
(吉田豪)プラス、奥さん側の矛盾点がどんどん出てきたりとか。百田さんが書いてないことみたいなものがおかしいでしょ?ってなって。プラス、そういうものが全くマスコミで報じられない感じの気持ち悪さっていうのがあったんですね。
(宇多丸)ああ、そうなんですか?
(吉田豪)最近、ようやく報じられ始めたんですけど。初期の段階で、ネットで騒がれてる時に、やっぱり僕がとあるテレビ局に行ったら、『百田さんの騒動、面白いですよねー!ウチではできないですけど』っていう感じで(笑)。
(宇多丸)ああ、そうですか。
(吉田豪)『ええっ?なんでですか?』って・・・
(宇多丸)なんでそんなタブー化してるんですか?
(吉田豪)やっぱね、売れっ子。映画いっぱい作って、みたいな状態で。出版タブー&放送タブーに相当入り込んじゃっていて。
(宇多丸)ああ、そうなんだ。
(吉田豪)そうだったんですよ。で、『それ、どうやったらいじれるようになるんですか?』っつったら、『まあね、たぶん百田さんが商品価値ないって判断された時ですかね?』って。
(宇多丸)ヒドいこと言うね(笑)。
(吉田豪)テレビの中の人、怖い!っていう(笑)。
(宇多丸)っていうかさ、生々しいこと言い過ぎでしょう?
(吉田豪)生々しいわー!っていう(笑)。
(宇多丸)っていうかさ、脚本で書いたらボツになるようなセリフじゃない。普通に。悪役のね、セリフで。
(吉田豪)でも、実際にそんな感じで。いろんなところで、たとえば年末って雑誌とかでも年間10大ニュースとか聞かれるじゃないですか。いろんなところで、百田さんの騒動と乃木坂の路上キスの話をすると、『勘弁して下さい』って言われることが非常に多くて。
(宇多丸)乃木坂、だってみんな知ってることじゃないですかね。だって。
(吉田豪)しかもちゃんと公式にコメントもしてるのに。あの、NGがすごい多くかったですよ。
(宇多丸)やっぱりあれですかね?幻説みたいなことなんですかね?これはね。
(吉田豪)すべてまぼろし(笑)。
(宇多丸)すべてまぼろし説なんですかね?
(吉田豪)でも、個人的にいちばん怖いと思ったのが、『ウチはどっちも大丈夫ですよ』って言ったところがあったんですよ。それがちょうど選挙の期間だったんですけど、『自民党の批判じゃなければ大丈夫ですよ』って言われて。まあ、選挙期間だからなと思ったんですけど、ちょっと待てよ!と。なぜ、自民党だけなんだ?って(笑)。
(宇多丸)(笑)
(吉田豪)そっちの方が怖くないか!?っていう(笑)。
(宇多丸)いや、なんか、すごいですね(笑)。
(吉田豪)要望書って、それ?っていう。
(宇多丸)それ、メディアの人が言ってるんですか?
(吉田豪)メディアの人。『全ての政治関係』とか『選挙』って言えばわかりますよ。怖っ!って思って。
(宇多丸)なんかすごい、ディストピア・・・
(吉田豪)考えさせられますよね?(笑)。いろいろと。
(宇多丸)考えさせられますよね。考えさせられるっていうか、怖いわ!ディストピアだよ!
(吉田豪)ディストピアですよ。
(宇多丸)ひえー!
(吉田豪)で、そんな殉愛なんですけどね、殉愛をいじるのも大変でしたよ、やっぱり。書評を書くのも大変だったんですけど。
(宇多丸)そこはやっぱり、こう?
(吉田豪)1回ストップがかかったのを、『上手くやりますんで』で突破してAERAで書評を書いたんですけどね。で、そこでも書いたんですけど、なにかに似てるんですよ。この騒動って。
(宇多丸)ほうほう。
(吉田豪)遺言書は無効だと主張する遺族。まあ、娘さんですね。が、一部スタッフと組んでたりとか。プラス、遺言で後継者と認められて、みたいな。極真会館の騒動に激似なんですよ。
(宇多丸)ああ、そうなんですか。
(吉田豪)松井章圭さんと、遺族派みたいな感じで。と、思ってこの本を読んでいると、エピローグ部分。最後に百田さんがこう書いてるんですよ。『読者にはにわかには信じられないかもしれないが、この物語は全て真実である』って(笑)。
(宇多丸)ちょっと待って!梶原一騎的なフレーズが・・・
(吉田豪)いや、完全に『空手バカ一代』なんですよ。でも、空手バカ一代が『これは事実談であり、この男は実在する』って書いたんですけど、あれって大半が本当じゃなかったじゃないですか?(笑)。
(宇多丸)ああ、なるほど。なるほど。
(吉田豪)で、これもそのへんが、これからミステリーになっていく部分。
(宇多丸)そういう意味ではさっきの力也さんの話じゃないけど、ちょっとある意味、イリュージョンを。
(吉田豪)最初からイリュージョンとして提示してればよかったんですよね。『これ、空手バカ一代ですよ』っていう感じで書いてれば・・・
(宇多丸)だから最後まで読むと、それがある意味タネ明かしして。『あっ、そうか!そういうスタンスか!』って。
(吉田豪)梶原イズム!?みたいな(笑)。
(宇多丸)これ、でも相当リテラシーがいる読み方ですよね?はっきり言って(笑)。
(吉田豪)っていう本だと思います。だから本当、ねえ。単純に、未亡人と不仲な側を取材しなかったのが単純な問題なんですよ。それだけの話なんですよ。
(宇多丸)ノンフィクションと銘打ってしまっている以上は。
(吉田豪)通常はだからノンフィクションって、そういう側を取材して。あれっ?って思う部分が出た時に、本人がちょっと揺らぎだすじゃないですか。だから揺らぎがなさすぎるんですよ。最初から、『これは敵』って設定して。それをただただ書いている感じだから。そこが良くないっていうか・・・
(宇多丸)まあ、問題が起こるのも。
(吉田豪)放送作家の仕事だなっていう感じが正直したっていう。
(宇多丸)なるほど、なるほど。いろんな側面からあれですね。考えさせられる・・・
(吉田豪)そんな感じですかね?
(宇多丸)いや、でもさすがやっぱり吉田さんはいいですよね。波風は立ててるようで、本人はスーッとその上を、シューッと滑っている感じでね。巧みなものでございます。手だれでございます。正直。匠の技をね。
(吉田豪)ギリ、地雷は踏まずにっていうね(笑)。
(宇多丸)これ、地雷だけは、番組に置いていく感じでね。嫌だなっていう(笑)。
<書き起こしおわり>