(宇多丸)ということで、いとうさんにメッセージがすごいいっぱい来ているんですよ。リクエストもいっぱい来てるんですけど、ちょっと質問が来ているのでご紹介させてください。女性の方。「せいこうさんだ、せいこうさんだ、うれしい! たっぷりいろんな話を聞かせてください。ステージパフォーマンスの機会は少ないせいこうさんだと思いますが、参考にしていたりアドバイスをもらったりするアーティストさんはいらっしゃいますか? あと最近の若いラッパーで『こいつはすげえ!』という人がいたら教えてください」という。
(いとうせいこう)ああ、もう、ゆるふわギャング、面白かったですよ。
(宇多丸・ヤナタケ)おおーっ!
(いとうせいこう)僕、プラスチックスを感じる。中西俊夫と(佐藤)チカさんを感じる。
(宇多丸)なるほどー!
(いとうせいこう)すっごいいい。言葉の選び方とか音楽のセンスのよさだよね。
(宇多丸)なんか、とっぽい感じっていうかね。かっこいいよね。
(いとうせいこう)「いやー、出てきたな! やっぱり出てくるんだ!」って思って聞いてますね。
(宇多丸)男女混成のかっこよさっていうか、クールな距離感もあります。ゆるふわギャング。で、「パフォーマンスで参考にしていたりアドバイスをもらったりするアーティストはいらっしゃいますか?」って。
(いとうせいこう)僕はコーネル・ウェストっていうアメリカの政治・哲学者っていうのがいて。コーネル・ウェストってアメリカではラッパーたちといっぱいコラボしているわけ。アルバムも3つぐらい出していて。コーネル・ウェストの演説にかなうものがないんですよ。僕はずっとスピーチの歴史を追うようになっているから。
(宇多丸)いとうさんは演説をね。そうですよね。
(いとうせいこう)だってラップってもともとはラスト・ポエッツがいて、ギル・スコット・ヘロンがいて……っていう。アメリカでも、そういうスピーチみたいなものの伝統の中で見るべきだと思っている。そうすると、アメリカにはいまコーネル・ウェストっていうすごい、政治的なアジテーションがものすごい人。
(宇多丸)これはやっぱり言っている内容のみならず、たとえば声の抑揚だったり、ブレスポイントだったり、そういう?
(いとうせいこう)そう! 自然にラップになっちゃう人。「ああ、コーネル・ウェストには勝ちたいな!」って思っているんだよね。
(宇多丸)あと、やっぱりアメリカっていうか英語はライムしやすい。
(いとうせいこう)そうなんです! ズルい!
(宇多丸)これ、ちょっと突っ込んだ話をしちゃいますけども、音素が違うから。
(いとうせいこう)しょうがない。まあ、子音だけで成り立つからね。「ブリック」って言った場合の「ブ」は「BU」じゃなくて「BRICK」。レンガの。
(宇多丸)それだけでハマっちゃう。
(いとうせいこう)それを僕らは「子音+母音」「子音+母音」「母音のみ」だけだから。
(宇多丸)だから、日本人のラップが韻に……まあ、最近またそういうのも外れましたけども、韻を長めに凝って踏まなきゃいけないのは、そうしないとライムに聞こえないからなんですよ。
(いとうせいこう)そうなんですよ!
(宇多丸)という問題がね。
(いとうせいこう)だからこそ、面白い問題もあるんだよね。一音で一文字みたいなものをどういう風に組み合わせて面白くしていくか。
(宇多丸)そういうね、開拓の歴史をまたこの後、90年代に聞いていくんですが。その日本人ラッパーがどんどん出てくるにあたって、先ほどクラブ文化の黎明期。それまではディスコのDJだったものがクラブになったので、人員が急に必要になったのか、コンテストがめちゃめちゃ開かれるようになって。
(いとうせいこう)ああ、そうかも!
(宇多丸)で、そここそが登竜門というか。僕らも後にはGALAXYというサークルで参加したりしましたし、もちろんスチャダラパーもそういうところから出てきましたけど。あとDJクラッシュさんとかね、出てきましたけど。その中で最初に……要するに、それまで有名な人じゃなかったというか、それまでキャリアがあったわけじゃなくて、ある意味純ラッパーとして登場したのがECD。
(いとうせいこう)うん、そうだったね。
(宇多丸)石田さんでございます。で、石田さんは高木完さんとか藤原ヒロシさん、屋敷豪太さん、KUDOさん、中西俊夫さんが結成したヒップホップレーベル、メジャーフォースがピックアップしたという。このメジャーフォースは最初のヒップホップレーベルですから。
(いとうせいこう)そうだね。だからデフ・ジャムみたいなものを日本でもないか?って言ったら、まああれがあったという。
(宇多丸)もう当時はメジャーフォースに入れるか入れないかしかないという。
(いとうせいこう)フハハハハッ!
(宇多丸)メジャーフォースの人にかわいがられるかどうかしかないので。
(いとうせいこう)俺たちも細々とアストロ・ネーションっていうのでがんばっていたんだけどね。でもね、やっぱりメジャーフォースの場合、ファッションにもつながっていくやり方があったじゃないですか。おしゃれな。
(宇多丸)ということで、そのメジャーフォースからデビューしたECD。ある意味、日本人純粋ラッパー第一号ですよね。ECDの1989年。これ、もういま聞くと違う響き方がするんだな。ECDで『Pico Curie』。
ECD『Pico Curie』
(宇多丸)はい。ECDで『Pico Curie』でございます。かけてしまいましたー! ということでございます。ECDが登場したわけですから、その後にはスチャダラパーが登場し、まあ我々が活動を始め、このあとの90年代ヒップホップシーンにつながっていく布石は打たれたということだと思います。ということで、いとうさんにせっかく来ていただいたんで、ラップでもやらかしますか。で、僕はいとうさんに普通にライブをやっていただいて、それをただ聞いてね、「イエイ、イエイ!」なんてやっているつもりだったんですけど……。
(いとうせいこう)そうは行かないよ。やっぱり。
(宇多丸)僕はいとうさんに人生を変えられた男ですからね。「これからの時代はかならずヒップホップの時代になるんだ」という言葉を信じて。
(いとうせいこう)で、なったんだからね。
(宇多丸)なったからいいけど、これ、ならなかったら本当にね、「いとうさん! どこがヒップホップの時代なんすか!」っていうね(笑)。でもね、まさかこうなるとは。
(いとうせいこう)なるよ。この音楽は。
(宇多丸)なったわけですから。世界的になったわけですから。それを予言されていたということで。じゃあいとうさん、一緒に曲をやりましょう。いとうさんのアルバム『MESS/AGE』という、これは日本語ラップアルバムっていうか……。
(いとうせいこう)フルアルバムでははじめて。
(宇多丸)はじめてですよね。しかも、めちゃめちゃコンセプトアルバムで。そこにまたよせばいいのに、日本語韻辞典をつけました。あんなことをやられるとね、わかりやすいけどね、困ります。だって、そこに使われた韻は踏みたくないんだもん!
(いとうせいこう)そうだね。
(宇多丸)「なにを後進ラッパー殺し、してんだよ!?」っていう。
(いとうせいこう)アハハハハッ! そうだったのか! 悪い悪い。良かれと思ってさ。
(宇多丸)そういう問題もあるじゃないですか。まあ、素晴らしいアルバム『MESS/AGE』に入っている曲。ただ、僕はこれ、オリジナルバージョンは高校時代に聞いていた覚えがあるんで、たぶん1987年とかには、もう?
(いとうせいこう)まあライブではずーっとやっていた曲なんですよ。
(宇多丸)しかもこれも、その時代のことを歌っているんだけど、さっきの石田さんじゃないですけど。いま聞くとまたね、リアリティーが、重みが違うんですよ。
(いとうせいこう)不思議なもんですよね。詞ってね。
(宇多丸)本当ですよね。ということで、じゃあせっかく私、向いにいますので。フィーチャリング宇多丸ということで、よろしいでしょうか?
(いとうせいこう)いいと思います。
(宇多丸)いとうさんの89年のアルバムでリリースされた曲をライムスターが昨年、『再建設的』というアルバムでカバーさせていただきましたけど、そのトラックに乗せてお送りさせていただきたいと思います。いとうせいこう feat. 宇多丸で『噂だけの世紀末』!
(スタジオライブおわり)
(宇多丸)やったー! ということで、いとうせいこう feat. 宇多丸。DJはヤナタケで『噂だけの世紀末』。カマしてしまいました~!
(いとうせいこう)ありがとうございました!
(宇多丸)やったー!
(いとうせいこう)こんな日が来るとはね。宇多丸とね。
(宇多丸)ねえ。よかったです。やっててよかったです。ねえ。「お母さん、僕、NHKでいとうさんとラップしてるよ!」(笑)。
(いとうせいこう)アハハハハッ!
(宇多丸)きっと母も喜んでいると思います。ということでございます。いとうさん、あっという間に時間がまいりまして。
(いとうせいこう)本当ですね。
(宇多丸)いかがですか? こんな日が来たということで。
(いとうせいこう)いやー、本当にそれだけヒップホップが……また昔の、それこそ
初期衝動。僕の初期衝動の80年代のヒップホップをガンガン聞けるの、うれしかったなー。楽屋で眠るつもりが全然寝ていません。
(宇多丸)申し訳ございません(笑)。ここから先、本当にヒップホップの現在、そして未来にまで至るところまで。
(いとうせいこう)そうそう。最後はBAD HOPだしね(笑)。
(宇多丸)そうなんです! NHKで最後BAD HOPがスタジオライブ。痛快ですよね!
(いとうせいこう)アハハハハッ!
(宇多丸)こんな時代が来てしまいました。ということで、いとうせいこうさん、ありがとうございました!
(いとうせいこう)ありがとうございました。
<書き起こしおわり>