(村本大輔)いま、1個思ったんですけどね、そういうユダヤの人とか黒人の歴史とかっていうのを笑いにさせない空気って、もしかしたらこの前あったじゃないですか。「水原希子ちゃんが在日で、韓国名を名乗っていないのはなんでだ? 堂々と自信があるなら、韓国名を名乗るべきなんじゃないか?」みたいな。いろいろあったわけじゃないですか。
(斉藤充)ひどいね。あれね。本当に。
水原希子バッシング問題
(村本大輔)ひどいじゃないですか。だからそれを、その日本名を名乗らなくてはいけないといういろいろな理由があるわけじゃないですか。その中で、周りの空気……名乗らせてしまう空気。そういうのを認めようとしない空気っていうのが日本には存在するんじゃないかと。
(町山智浩)ウーピー・ゴールドバーグっていう人がいるじゃないですか。ウーピー・ゴールドバーグっていうのは、あり得ない名前なんですよ。
(村本大輔)どういうことですか?
(丸屋九兵衛)「ゴールドバーグ」って言ったら、ユダヤ系なんですよ。
(村本大輔)ええっ?
(丸屋九兵衛)ゴールドバーグ、ゴールドリング、シルバーマン……。
(町山智浩)「ゴールド」「シルバー」「ダイヤモンド」はユダヤ系の名前なんです。
(村本大輔)へー!
(丸屋九兵衛)高いものはだいたいユダヤに行っているっていう。
(町山智浩)っていうのは、昔質屋さんをやっていたから。ユダヤ系が。だから宝石系、貴金属が。で、「ウーピー・ゴールドバーグ(Whoopi Goldberg)」っていうのを黒人が名乗ること自体がジョークなんですよ。あれ。
(村本大輔)!
(町山智浩)じゃあ、「ウーピー」ってなんだと思う?
(村本大輔)ウーピー?
(町山智浩)ウーピーってね、ブーブークッションのことなんです。
(村本大輔)ええっ?
(町山智浩)座るとブーッと鳴るやつ、あるじゃない? あれ、ウーピーって言うんですよ。英語で。だから、ウーピー・ゴールドバーグってデタラメな名前なの。
(村本大輔)えっ? あの人自身はユダヤじゃないですよね。ユダヤ人の名前をつけて、ブーブークッションの……ええっ?
(町山智浩)だからウーピー・ゴールドバーグってすっごいヘンテコな名前なの。もう名前だけでジョークの人って日本だと芸人さんでいます?
(村本大輔)たけし軍団にいっぱい。
(町山智浩)あ、そうそう。だから玉袋筋太郎みたいなもんですよ。
(丸屋九兵衛)しかもそこに人種ネタが入っている。
(村本大輔)へー! ウーピー・ゴールドバーグの若手の時に出会いたかった。どんなネタがあるのか、ちょっと。
(町山智浩)(笑)。でも、ウーピー・ゴールドバーグがすごいのは、ウーピー・ゴールドバーグってなんでアメリカですごく有名になったか?っていうと、すごい長いジョークがあるんですよ。それ、しゃべるのを20分ぐらいやるんですよ。それは、身体障害者の下半身不随になった女性の告白っていうジョークなんですよ。だから、下半身不随で車椅子に乗っていて。「だから、誰も私をナンパしてくれない」とかそういう話をずっとするわけですよ。で、「これでも濡れるのに……」みたいな話をするわけですよ。でも、それがすっごいウケて。それは、はじめて下半身不随とか身体障害者の人がコメディーに登場した瞬間だったんですよ。
(村本大輔)へー!
(町山智浩)で、そういう人たちが「私たちのことをはじめてお笑いにしてくれた!」って喜んで。それでウーピー・ゴールドバーグの格がバンと上がって。
(村本大輔)やっぱり喜ぶんですね。
(町山智浩)喜ぶんですよ。だって、ないことにされているから。
(村本大輔)ねえ。それがやっぱり気持ちいい。でも、アメリカのやつってそれを認めて。「一緒でしょ」って。
(町山智浩)だからそれこそ、希子ちゃんのことだと、在日韓国人とか在日朝鮮人……俺もそうですよ。俺も父親が韓国系ですから。なぜ、それってお笑いにまるでなっていないんだろう?って思うんですよ。
(村本大輔)うん。まあ、吉本の在日の後輩なんか、僕の知っているやつはそれをやったりするんですけど。その当事者は。
(町山智浩)でも、それをステージでお笑いにしないじゃん?
(村本大輔)そいつはね、やったりするんですよ。
(町山智浩)ああ、それはやるんだ。
(丸屋九兵衛)それをメジャーにしたい。
(村本大輔)それは、やっぱりお客さんに……マイノリティー、少数だから。たとえば、コリアンタウンとかの劇場だったらウケると思うんですね。本当にすごい人種って少ないじゃないですか。ちょっと古いじゃないですか。まだ混ざり合ってないから……。
(町山智浩)でも、いまアメリカはインド系のコメディアンとかイスラム系のコメディアンが増えているんですよ。でもそれって、すごく少ないけど、「インド系の家庭ではこんなおかしいことがあるんですよ」っていう話をして。ぜんぜんインド系の人たちの生活を知らない人たちがそれを笑うっていうネタをやっているから、そのやり方は有りなんですよ。
(村本大輔)多様性がありますもんね。黒人はこんなだったとか。イタリア系は……とか。
(丸屋九兵衛)その民族自体のシェアはめっちゃ少なくとも、それを示すことで「ああ、そうだったんだ」と言いつつ笑えるっていうネタはありますよね。
(町山智浩)だから、黒人のネタなんかだと、黒人の人たちって家具。ソファーとかをビニールをかぶせたまま、ずっと使うの。どうしてか?っていうと、「いつか売れるかもしれないから」って言って(笑)。そのセコいのとかをネタにするんですよ。だから「なんで黒人っていうのは『いつか売れる』と言いながら、10年ぐらいずっとビニールをかけたままソファーに座ってやがるんだ? 売れねえよ、そんなの、古くて」ってネタをやるんだけど(笑)。
(村本大輔)へー!
(町山智浩)それは、白人はその世界を知らないわけ。だから、笑うわけですよ。「えっ、黒人ってそうなんだ」って笑うんですよ。それは、彼らが黒人だからこそ知っているネタなんですよ。だからアラブ系の人はアラブ系独特のネタをやるわけですよ。「みんな、知らないでしょ? アラブ人の家庭ではこんなことがあるんですよ」ってネタをやるんですよ。それでありなんですよ。
(村本大輔)そういうのを芸人が、当事者はね。でも、やらせない空気ってあるんですか? どっか。
(斉藤充)たとえばアメリカなんかは子供の時からそのクラスにいろんな人が……それはもちろん民族もそうだし、障害も含めていろんな人が子供の時からいるわけですよね。同じところに。だから、そもそも慣れているんですよね。数の問題っていうよりも。でも、日本は「とりあえず全員日本人」っていうことになっているじゃないですか。
(村本大輔)障害を持っている人たちも分けようとしますしね。
(斉藤充)そう。あと、在日の方とか、アイヌも。本当は全然単一民族でも何でもないのに、形式上は単一民族っていうことになるじゃないですか。学校の中ではね。
(村本大輔)この国は気持ち悪いんですよ。
(斉藤充)だから、いないことになっちゃっているんですよ。子供の時から。
(村本大輔)吉本の人間がたとえば当て逃げとか犯罪とかを犯したら、みんなイジるんですよ。それだったら在日とか普通に当たり前に……犯罪の方が逆にイジりにくいんじゃないか?ってことなのに、なんか言ったらアカンみたいな。
(町山智浩)犯罪の方が問題だよね(笑)。
(村本大輔)ねえ。そういうのをすっごい、言っちゃダメなんじゃないか? みたいな空気があるんですよ。気持ちが悪い。
(丸屋九兵衛)「ワシ、在日やねんけど……」っていうそういう漫才が出てきてほしい。
(村本大輔)在日の芸人、やったらエエのにね。
(丸屋九兵衛)だからホンマは前田日明にやってほしかった。芸人ちゃうけど、あの人の話はめっちゃ面白くて。
(斉藤充)スポーツ選手はめちゃめちゃ多いですからね。
(丸屋九兵衛)前田日明ってウルトラマンが大好きでね。ウルトラマンの最終回でウルトラマンがゼットンに倒されてしまったことをきっかけに空手を学ぶようになってああなったという。
(町山智浩)ウルトラマンの代わりに怪獣を倒そうと思ったという(笑)。
(丸屋九兵衛)まあ、その時点でおもろい人なんですけど。でも、ウルトラマンが好きで好きで。ゴモラが出てくる回、ありますやん。
(町山智浩)大阪が舞台なんです。大阪城を破壊するんです。
(丸屋九兵衛)大阪で暴れて、大阪城を破壊してしまうんですね。で、それを見た前田日明少年……コ・イルミョンくんは心配になって翌朝、大阪城を見に行ったんですよ。そしたら、大阪城は何もなってへんから通りがかりのおっちゃんに、「これ、どないしたん?」って言ったら、「これな、徹夜でみんなで修繕してん」って。
(町山智浩)ああ、いいおっちゃんだな、それ! いい話だ!
(丸屋九兵衛)それ、ホンマにおっちゃんが言うたんか、前田日明が作ったんかはわからないですよ。
(町山智浩)でも、いい話ですね。
(丸屋九兵衛)素敵な話でしょう? こういうのをやってほしいなと。
(村本大輔)アメリカではこういうのは当たり前に。こういう冗談の切り返しってありますよね。
(町山智浩)ああ、それは反射神経なんだよね。
(村本大輔)言うじゃないですか。噂ですけど、シュワちゃんが生卵を投げられて、「ハムもくれよ」って言ったみたいな。あと、大統領もケーキをぶつけられて「甘さが足りないな」みたいな。
(町山智浩)ああ、それはレーガン大統領が撃たれた時に……。
(村本大輔)撃たれた?
(町山智浩)銃撃されたんですよ。その時に、「ダッキングしなかった」って言ったんですよね。
(村本大輔)逆に安倍総理とかだったら「あんな人たちに言われたくない!」みたいな、ちょっとマジで返すわけじゃないですか。でも、アメリカはちょっとエッジを効かせるじゃないですか。
(町山智浩)「ジョークで返さないと負け」っていうのがあるんですよ。
(丸屋九兵衛)格が下がるんです。
ジョークで返さないと負け
(村本大輔)たしかに、あれを言った瞬間にちょっと格が下がった感じになりますよね。ちょっとムキになって返して、みたいな。
(丸屋九兵衛)そうそう。だから余裕を見せられる人間だったらギャグで返せるやん?って。
(町山智浩)だからアメリカのコメディーでは結構ヤジがすごくて。インド系とかアラブ系のコメディアンがいると「テロリスト!」とか「ISIS!」とかお客さんがやるんですよ。「オサマ・ビンラディン!」とか、そういう嫌な客が。みんな酔っ払っているから。みんなお酒飲んでいたでしょう?
(村本大輔)あそこはお酒を飲んで見ますから。
(町山智浩)みんなね。でも、それを上手く返す人たちがいるんですよ。それを返せるかどうかなんだね。
(丸屋九兵衛)そこでたぶんコメディアンになれるかなれへんかが分かれるから。言うたらなんやけど、日本のいろんな人たちはそのレベルに達していないかもしれない。
(村本大輔)日本の芸人はでもね、そういうの返しますよ。もちろん、レベルはすごい高いと思うんですよ。
(斉藤充)テレビで売れている人っていうのは、そこが評価されているわけです。
(村本大輔)さんまさん、街で思いっきり蹴られて「ナイスキック」って言ったんですよ。
(町山智浩)ああーっ、上手いなー!
(村本大輔)芸人はもちろん、そういうの当たり前にできるんですよ。だから僕は結構寿司職人みたいな……本当にシャリと魚で繊細に料理を作るのと、アメリカっていう1個ドンドンッ!って笑いというか。大味な感じの……繊細さは日本の、「チンコ」って(ストレートに)言うことができないから、それをいかにして言うのか?っていうのを考えて成り立った国ではありますね。お笑いは。
(町山智浩)ああ、それはあるかもね。
(斉藤充)ストレートな下ネタをやっても面白くないっていうことは、1個先に行っている部分はありますね。
(町山智浩)それはあるんだけど、ただあまりにもさ、清廉潔白な人にお笑いの人たちがなりすぎて。
(村本大輔)無味無臭ですね。
(町山智浩)無味無臭。特に、芸能人の恋愛関係とかに関してものすごく倫理的に批判したりするから、「それは違うだろう?」っていう。それはおかしいですよ。どう考えても、おかしい。お笑いって……志村けんはおっぱい吸っていたような(笑)。
(丸屋九兵衛)それをやるかどうかはともかくとして、おかしいことを言う人がいないのは、おかしい。
(町山智浩)とにかく政治のやつに関しては、本当にみんなこんなになって政治家の話とかを聞いているんですよ。で、(そのまんま)東さんはもう平気で変なことを言うんだけど、お笑いの人たちは政治問題に関して余計なことを言うと素人だからいけないと思っちゃっているんだよね。
(村本大輔)うーん。
(町山智浩)バカなことを言ってはいけないって。バカなことを言うのを待っているのに。くだらないことを言って、「くだらないな!」って突っ込まれればいいじゃないですか。でも、頭が悪そうに見えるから言わないみたいになっちゃっていて。で、たまに言うと、すごくいいことを言おうとするんですよ。「いいことなんかいいよ! もっとくだらないことを言え!」とか思いますけどね(笑)。
(村本大輔)そうなんすよね。
(町山智浩)なんでお笑いの人がいいことを言おうとするんだよ!
(丸屋九兵衛)まあまあ、結局堂々巡りですけど、それがスタジオの空気ってことで同調圧力があるわけですよね?
(村本大輔)あと、これをやってこういうことを求められているっていう……それがたとえば舞台とか何かしらで「ちょっとジョークを言って」ってなったらみんなやるんですけど。
(斉藤充)バラエティーの現場だったらみんなそれができるスキルはあるわけじゃないですか。やっぱり報道の独特のスタジオの雰囲気とかはあると思いますよ。
(村本大輔)1対10みたいな。
(斉藤充)そうそう。そこはたしかにね、「同調圧力」って言っていいのかはわからないですけど。あとはでもやっぱり、政治とか社会ネタみたいなことに対して……。
(町山智浩)何かの立場を取ると反対の立場の人を敵に回すっていう問題があって。
(斉藤充)そもそもイデオロギーを言うだけで人気がなくなるみたいな。あるでしょう?
(村本大輔)ああ、本当そうです。日本は「タレントは発言力があるから政治のことは言うな」。でもアメリカは「発言力があるから言え」っていう。
(町山智浩)そうなんだよね。そこが違うんだよね。