(斉藤充)そもそもね、政治のネタを上手いこと返すっていうそもそものあれがないですよね。だから、スキルも育たないし。それ以外のことはものすごくフィジカルが強いじゃないですか。
(村本大輔)バカなことをとにかく言おう!ってバラエティー番組やったらやるんですけど。世の中のそういうものに対しては……。
(斉藤充)そうなんですよ。それを上手く消化すれば。
(村本大輔)それ、前におっしゃっていたシェイクスピアの『リア王』の話。ああいうところからも来ているんじゃないですか?
(町山智浩)そうそうそう。あのね、まあ前も話したんですけど、黒人の人たちがラップでバトルをするんですよ。フリースタイルみたいな。
(斉藤充)いま、やってますよね。『フリースタイルダンジョン』みたいな。
(町山智浩)そうそう。あれってもともと、子供同士の「ヨーマム(お前の母ちゃん)」っていう。「お前の母ちゃんでべそ!」って日本だと言うんですけど。
(丸屋九兵衛)それがもっとひどいんですよ。「お前の母ちゃんは毛深すぎてウンコが遭難する」とか。それが、ウェイアンズ兄弟のネタで。
(町山智浩)伝統的なのは「お前の母ちゃん、ブサイクすぎてブサイクコンテストに出ようとしたら『プロの方はお断り』って言われたよ」とかね。そういうのを言うと、言われた方も笑っちゃうじゃないですか。だから、政治家についても批判するような笑いを言っても、言われた方も、立場が反対側の人も笑うようなことを言ったら勝ちなんですよ。
(村本大輔)うんうんうん。
(町山智浩)だから政治的に右か左か? じゃなくて、どっちも笑うように言う。だからどっちも茶化す。そこまで行ったらもう全然、勝ちだと思うんですね。そこまでやらないで……たとえば安倍総理でもいいですよ。「安倍総理を批判したら、安倍総理を指示している人から嫌われるな」とか、そういう判断じゃなくて。安倍総理に対してどういう立場を持っている人も笑うように茶化すんですよ。
(村本大輔)『朝まで生テレビ』に昔、(立川)談志師匠とかが出ていた時でも、やっぱりこういう真面目なことをみんな言いますよね。たとえば、『アッコにおまかせ』とか、結構わちゃわちゃしていたらグッと行くと思うんですけど。「論客として出てくれ」ってことなのか。あと、論客として格を上げたいっていう芸人もいるじゃないですか。
(丸屋九兵衛)いまの政治とお笑いの話で、方向性が逆転するんですけど。私の知り合いというか友人で、台湾の国会議員がいまして。台湾の国会議員で、ヘビーメタルシンガーなんですね。ホンマに。
(町山智浩)国会議員で? 市会議員とかじゃなくて?
(村本大輔)違う。ヘビーメタルの、まあデスメタルですよ。「ウォォォォーッ!」みたいに歌うシンガーなんやけど、出馬して国会議員になりまして。その彼が、普段は地獄の八将軍のメイクとかして歌を歌っているような人なんですけど、その人がさっき言ったキー&ピールの「ニグロタウン」っていうネタが大好きっていう。
(町山智浩)ニグロタウンっていうネタがあるんですよ。
(丸屋九兵衛)頭を殴られて、気がついたら黒人だけの夢のような街に来ていたっていう。そこで白人の警官に嫌がらせをされなくてすむ。「ニグロタウン~♪」みたいな。それが好きなヘビーメタル国会議員っていう。こういうのがなんで日本にはおれへんのや?って思ったりもする。
ニグロタウン
(村本大輔)どこで入ってきて、どこで学んで……だからお笑いの歴史はもしかしたら、そんなに……。
(町山智浩)上岡(龍太郎)さんがやっていたよね。横山ノックさんとかも。あのへんはすっごく政治的なネタをやっていましたよね。
(村本大輔)いま求めているのって「回し」とか。上手にいろんな人に話を振って。「芸人さんはバランスを取ってください」ってよく言われるんです。
(町山智浩)バランスを芸人が取っていいのかな、それ?
(斉藤充)「バランスを取ってください」って言われるんですか?
(村本大輔)言われたこと、あります。だから普通の、たとえばアイドルの人とか司会者よりも上手に話を拾ったりするから。話を広げるっていう……。
(丸屋九兵衛)それやったら、司会者は何をしてるの?
(村本大輔)芸人が司会者なんですよ。
(町山智浩)芸人が司会者になっている。話を回すのが上手くて、場をまとめて、バランスを取るのが上手いっていうのが求められているんですね。
(村本大輔)引き立たせる、みたいな。
(丸屋九兵衛)それは、『アーセニオ・ホール・ショー(The Arsenio Hall Show)』?
(町山智浩)ああ、そうですね。あんまり上手くいかなかったですけど。エディ・マーフィーの弟子みたいな人がいて。
(丸屋九兵衛)『星の王子ニューヨークへ行く』っていう映画のあのお付きのハンサムな男、おったでしょう? あれがその後、『アーセニオ・ホール・ショー』っていうトーク番組をやって。まあ一時、流行りましたけども。
(村本大輔)そうなんすか。日本はそうですよね。みんな司会者をやりますね。
(斉藤充)あと、座組が多いしね。日本のワイドショーって。それで回しの役割ってすごおい大切じゃないですか。でも、向こうのたとえばレイトショーとかね、1 on 1(1対1)だし。みんな、いまだったらジミー・キンメルとかジョン・スチュワートとか。みんな回しているんだけど、やっぱり茶化すし。1 on 1ですごくインタビューの中でも笑いを取れるし。あの感じってなかなか日本の……そもそもああいうスタイルのものがまず、数字を取らないからやらないんだけど。
(町山智浩)うんうん。
(斉藤充)で、別に結論があるわけでもなくて、笑って終わるみたいな番組も多いじゃないですか。でも、日本って、たとえば僕、『朝ナマ』なんかでも別に「この話題、笑えれば終わり」っていうのがあったっていいと思うんですよ。でも、日本の人って「真面目な時にお前、笑っている場合じゃない!」みたいなことを言われるんですよ。
(町山智浩)ああ、そうなんだよね。
(斉藤充)だって笑えれば、別にいいじゃんっていう考え方が日本って全くない。
(村本大輔)それで周りのコメンテーターの人、評論家がすっごい苦い顔をするんですよ。「何をバカなことを言ってるんだ?」みたいな。
(町山智浩)ああー、そうなの?
(村本大輔)面白いことを言ったとしても、みんなが笑わないんです。真面目な教授とか、「こんな時に何を言っているんだ?」みたいな。
(斉藤充)笑えていれば、別に結論だったりしません? 笑えれば、それで終わりっていう。ものが完結するっていう。
(町山智浩)「いちばんおかしいことを言った人が勝ち」ってすればいいんだよね。
(斉藤充)そうそう。たとえば。
(村本大輔)答えはないんだから。
(斉藤充)どうせ答えはないし、どうせ論破できないんだから。
(丸屋九兵衛)それ、ここでやったら?
(村本大輔)この番組は結構、シリアの人を呼んでいろいろやったりしてますね。
(町山智浩)そう。いちばんおかしいことを言った人が勝ちだよね。いちばん笑わせた人が勝ちだよね。
(斉藤充)だって全員が笑ったら、平和なんだから。全員が笑えば、幸せなんだから。結論じゃないですか。
(村本大輔)環境っていうのはちょっとずつじゃなきゃ変えていきづらいんですけど。僕がいちばん腑に落ちないのは、ああいうところで勉強して。いろいろなことを学ぶじゃないですか。それをなぜ、作品にして。たとえばヘイトスピーチのことを番組で学んだら、それを1個作品にして舞台とかでやりゃあいいのに。お笑いとして。勉強をしたことを。知識を得れるんだから。それを、みんな舞台に立たなくなるんですよ。なぜか。
(町山智浩)えっ?
(村本大輔)もう立たなくなる。テレビに出て、ある程度……。
(丸屋九兵衛)さっきの(海外の)コメディアンがスタンダップからコントに行き、コントから俳優になり、映画の人になってしまいましたっていう、そのコースみたいなことを言っている?
(村本大輔)そうです。だいぶ早い段階で。お笑いって「劇場(出演)を断りだしたら一人前」みたいな空気があるんですよ。
(町山智浩)ええっ!?
(村本大輔)そうですよ。
(町山智浩)なんで?
お笑い芸人が成功するスキームが日本には1つしかない
(斉藤充)日本はお笑いの方が食べていくスキーム、スターになるスキームってはっきり言って1個しかないんですよね。テレビで有名になって、もっと言うとCMが決まって、大金持ちになる。
(村本大輔)で、司会者です。ひな壇の面白い方じゃなくて、(司会者として)回しをやりだしたらギャラがグッと上がってね。
(斉藤充)そうそうそう。で、なおかつそこからCMがつく、みたいな。
(町山智浩)「回しをやる」ってことは、完全に安全な人になるっていうことじゃないですか。
(村本大輔)そうそうそう。
(丸屋九兵衛)「お笑いで全員殺してやろう!」って思わないの? 要するに、それですよね?
(町山智浩)わかるわかる(笑)。そう。
(斉藤充)それでお金持ちに……要するにお笑いで一生食べていけるだけの財をなすには、もうその道しかないんですよ。でも、アメリカだったらそれこそマジソン・スクエア・ガーデンで3日間ライブをやるとか。別にテレビなんかに出なくたって大金持ちになれる。いろんなコースがあるから。
(村本大輔)だから劇場はお客さんを見ていても、この前アメリカのコメディーストアに行った時にカップルたちが本当に格闘技でも見に行くかのような感じで。
(町山智浩)カップルが多かったね。
(村本大輔)お酒を飲んで。でも、日本っていうのはファミリーがバッと来て、「テレビに出ている人が何をするのかわからんけど、とりあえずお笑いライブに来てみました」っていう人が多いの。
(丸屋九兵衛)これ、ファミリーがアカンのちゃう?
(町山智浩)(笑)
(丸屋九兵衛)またちょっと畑が違いますけども、キッスという何十年もやっているロックバンドがありますやん? あのロックバンドが70年代に始めて、70年代後半の方になるとものすごい人気になるんですね。その時に、中心メンバーが(舞台の)袖から客席を覗いてみたら、ファミリーばっかりおったと。「俺たちはいつの間にこんな安全な存在になってしもうたんや?」って。
(村本大輔)うんうん。
(町山智浩)それはでも、親がファンでさ、娘を連れてきているとか……。
(丸屋九兵衛)でも72年ぐらいから始めて、78年ぐらいの話だから。その段階で。
(町山智浩)ああ、そうなんだ。
(斉藤充)まだ結構全盛期だ。
(丸屋九兵衛)まだエース・フレーリーとかおった頃で。
(村本大輔)あ、いったんCMです。
(CM明け)
(村本大輔)もうあと2分しかないです。
(丸屋九兵衛)だからまあ、いま言うたのは「なんでこんなに制作費がないねん」問題。
(村本大輔)うーん……。
(町山智浩)あと、やっぱりコマーシャルに出たいと思うのがよくないと思うよ、俺。
(斉藤充)だから、そこにしか成功事例がなくて。結局いまの日本の事務所制度っていうのはコマーシャルで……要するに、テレビのドラマっていうのはコマーシャルを勝ち取るために出ているんですよね。大してあれもギャラはよくないから。
(丸屋九兵衛)コマーシャル、でもテリー・クルーズの制汗剤コマーシャルみたいな。あれは最高でしたけどね。
(町山智浩)(笑)
(村本大輔)ワイドショーで芸人がそういうのを言わないっていうのはもしかしたら、ちゃんと制作者の意図をくんで、しっかりと仕事をしないといけないっていうのがあるから。ちゃんとこなそうとして、自分の……それを、わかんないです。水道橋博士みたいにパッと辞めるとかっていうスタンスを。これが会社やから。ここしかないんです。
(町山智浩)でも、アメリカの地上波でCBSで回しをやっている、トークショーの司会をやっていちばん人気のスティーヴン・コルベアはもう徹底的にトランプと戦って。「トランプは嘘ばっかりついてやがって全然口が信用ならねえ。あの口はプーチンのチンコをくわえるぐらいしか役に立たねえな」って……地上波でやったよ!
(村本大輔)だから日本の芸人はある種サラリーマンなんですね。たぶん。テレビ局とか吉本とかいろいろと……その、自分のリスクをかけてでも。
(丸屋九兵衛)逆にサラリーマンなの、ここの2人(丸屋・斉藤)なんですよね。
(町山智浩)この人、これでサラリーマンですからね(笑)。全然見えないよ!
(村本大輔)へー、そうなんですか。
(斉藤充)僕は普通のサラリーマンですよ(笑)。
(村本大輔)いやー、面白かったです。広がりますね。
(町山智浩)すごいでしょ、この人(笑)。
(丸屋九兵衛)いっぺんしか会うたことないのに連れてこられて「すごいでしょ?」って言われているし……。
(村本大輔)いや、面白い。すごい勉強になりました。
<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/44772