町山智浩 ドキュメンタリー映画『海は燃えている』を語る

町山智浩 ドキュメンタリー映画『海は燃えている』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で難民が押し寄せるイタリアの最南端の島の状況を描いたドキュメンタリー映画『海は燃えている』を紹介していました。

海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~(字幕版)

(町山智浩)今日はイタリア映画なんですけど、『海は燃えている』というタイトルの映画で。これ、いまアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされているんですけども。ドキュメンタリーで、アフリカのチュニジアに非常に近いイタリアのシチリアの南の端にあるちっちゃな島が舞台なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、ランペドゥーザという島で、人口が5500人しかいないんですけども。そこで主人公は12才の男の子のサムエレくんっていう子なんですよ。その子がお父さん……ここは全員が漁師になるんで。食べ物がすごく美味そうなところでね、イカとかウニとかそんなもんばっかりを食べていてね、めちゃめちゃこの島、食べ物が美味そうなんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)で、「将来は漁師にならなきゃならないよ」みたいな感じでのんびり暮らしているところを見せていくんですけど、ラジオが聞こえてくると「今日、また250人の難民を乗せた船が沿岸救助隊に救出されました。そのうち、30何人は死んでいます」というようなラジオが流れ来るんですよ。毎日のように、その島では。

(赤江珠緒)うん。

難民が押し寄せる島

(町山智浩)で、その島はちょうどアフリカの方……リビアであるとか、シリアであるとか、そういった国から難民がボートに乗って来た時にいちばん最初にたどり着くところだそうなんですよ。

(赤江珠緒)ああ、その通り道なんですね。

(町山智浩)はい。だからね、この15年間ぐらいでもう50万人以上、この島に難民が来ているらしいんですよ。

(赤江珠緒)そんなに? 人口5500人の島に?

(町山智浩)そうなんですよ。で、そのたどり着く前後で2万7000人以上が亡くなっているんですね。で、この島が世界的に注目されたのは、2年ぐらい前に転覆事故で360人が全部死ぬっていう事故が起こったんですね。で、非常に有名になって。波打ち際に子供たちの死体が打ち寄せられるという写真が有名になりましたけども。そういう島なんですよ。で、この映画はかなり強烈で、難民が船の中で死んでいるのとか、全部映すんですよね。でね、これで難民の人が話すんですけど、そのボートに乗るために……狭いボートに100人以上、200人とか乗せられているんですけど、1人がそのボートに乗るお金って、業者に払っているんですが、10万円とか15万円とか払っているんですって。1人10万円払って、この船1艘で何千万円って儲かっているんですよ。

(山里亮太)はー……

(町山智浩)で、詰め込まれて、水もないし。大抵は脱水症状でそのまま船の中で死んでいくんですよ。10万円払って死ぬか?っていう……

(赤江珠緒)うわー。

(町山智浩)ただ、彼らはそれでも来たんだと。子供や女の人が多いんですね。で、旦那が奥さんや子供を乗せていくらしいんですよ。それが、たとえばナイジェリアの人だと、ボコ・ハラムという凶悪な反政府ゲリラがものすごい女性たちを誘拐したり、あと子供をさらって少年兵にしたりして殺しまくってますんで。まあ、子供や女の人はそこから逃げるしかないんですよ。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)で、リビアはリビアでISISが暴れまくっているんで、もう逃げるしかない。シリアはISISとロシアの空爆ですから。彼らは別にお金目当てで移民しているわけでもなんでもなくて、本当に爆弾で殺されるから逃げてきているんですよ。それなのに、この人たちの行き場がヨーロッパもアメリカもない状態になっていっているわけですよ。特に、アメリカの場合にはトランプの前からですけど。何十年にも渡る、はっきり言うとブッシュ政権のイラク戦争からずっと続いている中東における混乱状態を作り出したのはアメリカなので。アメリカは責任があるんですが、トランプはたぶん「俺がやったんじゃねえよ」ってことでしょうね。

イスラム圏からの人々を入国禁止するドナルド・トランプ

https://miyearnzzlabo.com/archives/41922

(赤江珠緒)そういう歴史は引き継いでいかないんですか? 大統領なのに。

(町山智浩)まあ、歴史とか勉強しない人なので。だって、日本車は日本から送られて来るって思っていた人ですから。6割はアメリカで作っているのに。そのぐらいのレベルの人なので、まあ受け入れないわけですよ。ただね、この『海は燃えている』っていう映画はちょっと不思議な映画で。難民たちの残酷な状況っていうのを見せるんですけど、それと一方で主人公の12才の少年サムエレくんがただ遊んでいるものを見せていくんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その子供のサムエレくんが楽しく遊んでいるのと、難民たちのどんどん死んでいくのが入れ子。行ったり来たりして描かれるんですけど、それが交わらないんですよ。だから見ている人は「一体なんだろう? この映画は何が言いたいんだろう?」っていうことがわからないんですね。で、ナレーションとかもほとんど入らないです。っていうか、ゼロですね。だからこの2つの、少年の日常と難民たちの大量死を結びつけるのは観客なんですよ。余白があるんです。大きな余白があって、その空白は観客が自分で見ながら考えて埋めなきゃならないんですよ。

(赤江珠緒)でも、同じ時間、同じ時刻に起きていることではあるんですもんね。

(町山智浩)起きていることなんですよ。で、監督はいくつかインタビューでヒントを言ってくれていて。まずこのサムエレくん。要するに、「自分の島でどんどん難民が来て死んでいくのに、そのことを何も話さないし全く気にしてないように見えるサムエレくんっていうのは、監督も含めた難民と直接関係ない世界中の人々みんなのことを意味しているんですよ」って監督は言っています。

(山里亮太)ああ、我々もだ。

(町山智浩)つまり、「この人たちは大変な事態になっているっていうことはわかっているのに、知らないふりをして。見ないふりをして生活をしている全ての人なんだ。それがサムエレくんなんだ」と言ってますね。ただ、その中で1人だけお医者さんがいて。この難民を死に物狂いで助けている地元のお医者さんがいるんですよ。で、このお医者さんしかこの島にはいないらしくて。サムエレくんが教科書が読みにくいということで、このお医者さんのところに行くんですね。そうすると、左側に物を出しても全然わからないと言うんですよ。この子は。で、お医者さんの診断は「瞳孔は動いているらしいので、左目は見えている。でも、君はその目に入った映像を君の脳が拒否しているんだ。受け取っていないんだよ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これはまさに「見て見ないふりをしている」っていうことなんですよね。で、このサムエレくんはでも全くその難民問題について関わらないんですけども、突然またお医者さんに来るんですね。それで、「息苦しくてしょうがないんだ、僕」って言うんですよ。で、体を調べるけど、全く異常がないんですよ。で、お医者さんは「精神的なものじゃないかな?」って言うんですよ。これは、この息苦しさっていうのはたぶんみんな経験したことがあると思うんですよ。

(赤江珠緒)うん?

(町山智浩)たとえば、テレビで難民とか虐殺されている子供とか、飢えている子供とかを見た時に……でも、そういう状況じゃない時。ご飯を食べていたりね、その後にお笑い番組を見たいとか、そういう時にそれを見ちゃった時に、見て見ないふりをするでしょう?

(赤江珠緒)うーん……

(町山智浩)息を止めるようにして。息苦しいじゃないですか、それ。あと、身体に障害がある人をデートしている時とかにすれ違って見ちゃった時とか。見て見ないふりをして、心をシャットアウトするじゃないですか。その息苦しさなんですよ。このサムエレくんの息苦しさは、たぶん。ただ、これは僕が思ったことで、監督はそこまで言っていないんですけど。まあ、それぞれ……これは空白がすごく大きな映画なので、見た人はみんなそれぞれの気持ちで空白を埋める映画だなと思いましたね。

(赤江珠緒)そうですね。これが世界の現実ですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからいろいろと手取り足取り言ってくれる映画もあるんですけど、そうじゃない映画もあるんで。で、あと難民……ひどいんですけど。アメリカは受け入れないんですけど。でも、日本にも難民の申請をしている人たちは多くて。2015年だけで1万人以上いるらしいんですね。でも、実際に日本政府が受け入れた難民の数って、たった27人だそうですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。そうなんだよな……

(町山智浩)で、この数の少なさは先進国中では韓国と並んで日本が最低レベルらしいですね。

(赤江珠緒)うーん……

(町山智浩)というようなことがいろいろある……まあ、結構美しい映画でね。ウニとか美味しそうなんですけど、いろんなことを考えさせられる映画でしたね。

(赤江珠緒)ねえ。海もだって、きれいですもんね。船が浮いているように見えるっていうような。あの透明度の高い海ですもんね。

(町山智浩)ものすごい透明でね。で、イカでスパゲッティを食べるっていうことがめちゃくちゃ美味そうなんですけど、その横で難民の人たちが餓死しているんですよ。子供がね。

(赤江珠緒)うーん。

(町山智浩)という映画が『海は燃えている』っていう映画で。ちょっと強烈でしたね。これ、2月11日から日本でも公開されますね。

(赤江珠緒)はい。もうね、いまの冒頭のトランプ大統領のいろんな政策と全くもってリンクしているので。

(町山智浩)そう。実は今日ね、アメリカは日系人が第2次大戦の時に日系人だということで強制収容所に入れられたんですけど。それに対して戦ったコレマツさん(フレッド・トヨサブロー・コレマツ)っていう人の誕生日で、記念日だったんですよ。で、日系人というだけで何もしないのに刑務所にブチ込まれて家畜のように暮らさせられて、その時に全財産を奪われたんですけども。日系人の人たちは。それと戦った人の記念日に、トランプはやらかしているんですよね。全く同じことを繰り返して。

(赤江珠緒)そうですか……何も知らないんですね。

(町山智浩)何も懲りていないんですよ。だってその日系人の件は憲法違反っていうことになって、アメリカ政府はその後に謝罪しているんですよ。だから、「こういうことは二度としません」って言ったんですよ。レーガン大統領も、クリントン大統領も。もうやろうとしているというね。

(赤江珠緒)怖いですね。

(町山智浩)まあ、「知らないよ」っていうことでしょうね。トランプはね。

(山里亮太)そうね。あの人は息苦しくないのかね?

(町山智浩)そう。息苦しくないんでしょうね。頭の方は風通しがいいんでね。

(山里亮太)(笑)。「地毛だ!」って言ってましたよ。

(町山智浩)といことで本当にね。自由の女神にはね、「難民をここに送ってください」って書いてあるんですよ。アメリカはそういう人を助けますという。そういうのを全部踏み潰してますね。アメリカという国は、それで始まっていますから!

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)宗教難民によって始まった国なんですから。

(赤江珠緒)『海は燃えている』は2月11日からBunkamuraル・シネマ他、全国順次ロードショーとなります。今日はアカデミー賞ドキュメンタリー賞にノミネートされた映画『海は燃えている』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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