渡辺志保 Kendrick Lamarアルバム『DAMN.』を語る

渡辺志保 Kendrick Lamarアルバム『DAMN.』を語る INSIDE OUT

(渡辺志保)(ツイートを読む)「ケンドリック・ラマーがコーチェラのステージでナイキのコルテッツを履いていたんですけど、リーボックとの契約は満了したんですかね?」っていうことで。結構ね、ケンドリックはリーボックと契約しつつもステージ衣装ではコルテッツを履いていることが多いですね。私の印象から言うと。で、コルテッツって結構ウェストコーストのラッパーたちの間では昔からみなさん、定番で履いてきたモデルでもありますし。なので、リーボックとの契約は満了したんですかね? たしか去年も新しいモデルが出ていたような気がするんですけども。ちょっと私もディグれたらこのへん、ディグりたいなと思います。

(中略)

(渡辺志保)はい。というわけでどんどんどんどんこのナード色の強い解説を進めていきたいと思うんですけども。いま、『ELEMENT.』を聞いてもらって。かつ、「Nobody pray for me(誰も俺のために祈ってくれねえ)」っていうのをひとつ、テーマにしているんじゃないか?っていう風にお話をしていましたけども。その「祈り」ってやっぱりちょっと宗教色の濃いものだと思うんですけども。それもまた、『DAMN.』の特徴かなと思っていて。もちろんほら、日本人とキリスト教っていうのはちょっと遠いかもしれないですけども。まあ、アメリカにおける宗教、特にキリスト教っていうのはすごく大きいものだし。かつ、それがアフリカン・アメリカンで……まあ、彼らにとっての宗教っていうのはまたちょっと違う距離感がもちろんあるはずなんですよ。

で、たとえば3曲目『YAH.』っていう曲があります。これ、ただの「YAH」じゃなくて、神様を表す「ヤハウェ(Yahweh)」の「YAH」だという風に書いているところもありますし。あと、その宗教性というところにリンクさせますと、各曲全部さ、『DAMN.』っていうアルバムのタイトルもそうだけど、『BLOOD.』とか『YAH.』もそうだし、『HUMBLE.』『LOVE.』『FEAR.』って全部、単語、単語で「.」がついて完結しているんですけど。それもまた、七つの大罪っていうのがキリスト教でありますけども、それとリンクしているんじゃないか?っていうような読み方もありまして。

たとえば7曲目の『PRIDE.』っていうのは、これは実際に七つの大罪の中にもあって。それによると「強欲」っていう……自分の譲れないプライドっていう意味もあるんだけど、聖書の中ではそれは「強欲」。しかも、罪の中でも最も重いものとされているらしいんですね。で、9曲目の『LUST.』っていうのは「色欲」。なんでちょっと、欲望ですね。そういったことを表していると。

で、ちなみにこれね、もう全国のハイパーナードたちがあれやこれやと思考をめぐらせていたんですけども。リリースされた週、4月14日というのがキリストが亡くなった金曜日、4月14日。プラス、キリストが復活すると言われているのが「復活の日曜日」と言われる4月16日なんですよ。それで、たとえば4月14日に『DAMN.』を出して1回ケンドリックは死んだ。しかし、その2日後の日曜日にもしかしたら2枚目のアルバムでケンドリックが復活するんじゃないか?っていう、アルバム2作をほぼ同時に出すんじゃないか?っていうことですごいみんなGuessin’ Guessin’……(笑)。本当にすごい、「これはさすがにこじつけでは?」みたいな論争が巻き起こっていて。日本だとPlayatunerさんというメディアがありますけども。あそこでもすっごい、褒め言葉だけどハイパーナードな感じで解説をしてらっしゃったので。

まあ結局、4月16日には何もなかった。コーチェラのライブはありましたけど、リリースは何もなかったっていうことで、いま一応たぶん完結しているんだけども。そうでなくともすごい面白い考察になっているので、みなさんこのへんも時間がある人は追いかけてほしいなという風に思います。

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っていう感じで「Wickedness or Weakness」、そして「Nobody pray for me」っていうメッセージ+宗教色が濃いというところをいま、話しているんですけども。その、いま最初から述べたようなことが全て詰まっているのが、実は『HUMBLE.』だったんですよ。で、『HUMBLE.』ってミュージックビデオでは冒頭に「Wickedness or Weakness」っていう言葉が入っていて。「悪さなのか、弱さなのか。お前、ちゃんと見なきゃいけない」っていうのが入っている。で、その後にイントロで「Nobody pray for me!」っていうのをケンドリックがワーッて叫んでいるんですよ。で、かつ『HUMBLE.』のジャケットではPope(教皇)の格好をしたケンドリックが映っているし。それにミュージックビデオは結構印象的なシーンだけど、最後の晩餐を模して、ケンドリックがキリストのように振る舞っている最後の晩餐みたいなシーンもあったりして。

『HUMBLE.』ってちょうどね、リリースされた時に私も『INSIDE OUT』で解説しましたけど。マイク・ウィル・メイド・イットのビートを使ってケンドリックが「俺が左スィングしたらバイラルヒット。右スィングですぐに返ってくるぜ!」みたいなことも歌っていたりとか。これもまたビッグ・ショーンとドレイクに向けたディスがあるんじゃないか? みたいな話をしていて。

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なので今度のアルバムはもう全方位的にケンドリックが「マーダー、マーダー、マーダー! キル、キル、キル!」みたいなテンションのアルバムになるんじゃないかな? なんてことも思ったんですけど、実際にフタを開けてみると、実はその『HUMBLE.』に散りばめられていた小さなエッセンスっていうのが実はアルバム全体を織りなす大事なピースのひとつひとつになっていたということになるんですよね。なので、シングル『HUMBLE.』単体で聞くよりも、アルバムを通して聞く『HUMBLE.』ってすっごい印象がガラッと変わるんですよ。で、私はこれを聞いたことに「あ、なんかデジャヴ?」って思って。これ、『To Pimp A Butterfly』の時に私が『i』っていうシングルを聞いた時の感覚と全く一緒で。

最初に『i』を聞いた時も、あれって「自分を愛さなきゃいけないんだぜ」っていうすっごいポジティブなメッセージの曲だったし。曲調もちょっとヒップホップではない、ポップ・ロックっぽい曲調。かつ、ファンキーな曲調だったりしたから、「あれ、ケンドリックさん、やっぱりここまで売れちゃうと、結構こういうポップ寄りに行っちゃう?」みたいな感じだったんだけど。でもあれもさ、アルバム全体で聞くと、ケンドリック自身の苦悩があって。「自分はラッパーとしても、どうすればいいかわからない」みたいな感じでホテルで1人で酒を食らって、ハウスキーピングのおばちゃんが来てもシカトする。そんでもって『You』っていう曲があって。「本当に俺、どうすりゃエエねん?」っていう自暴自棄になった後の『i』だったんですよね。

だから本当にそれと今回も一緒で。まあ、『i』ほどガラッと180度主張が変わるものではないんですけども。でも『HUMBLE.』もこれだけキルキルキル!っていう勢いいいケンドリックの姿もあれば、アルバムをフタを開けてみると、めちゃめちゃ弱いケンドリックもこの中には詰まっているっていうことで。いや、さすがよく練られておりますなということを感じました。まあ、こういう感じで各曲のテーマが複雑に絡み合っているっていうのも今回のテーマのひとつかなという風に思っています。で、さっき述べたFOXニュースのことなんかもそうなんだけど。あれも何度かに渡って楽曲の中に登場するし。まあさっきも言っていた「Nobody pray for me」っていうフレーズに関しても、ちょっと言い方を変えながらっていうのもあるんだけど、何回もアルバムの中に出てくるんですよ。で、ちなみにあと、「RoyaltyとLoyalty」っていうのも常に出てくるテーマでもあります。

なので、こうした小さなひとつひとつのテーマを反復、そして反芻することでより、アルバムの構造が複雑になっているのかな?っていう風に思っているんですよね。で、ちなみに私がこのアルバムの中ですごい好きな流れがあって。6曲目『LOYALTY.』。出ました。リリちゃん(リアーナ)が出てきますね。リリちゃんが出てきて、仲間との愛とか忠誠心、あとはパートナーとの愛を歌うんだけど、そこのリリちゃんが登場する時の1ライン目。「Bad gyal RiRi now(バッドガール・リリが来ました!)」っていう風に登場してきて。もう、「お前がバッドガールなのは知ってる!」っていう感じがするんですけど。その後にも、「Hundred carats on my name Run the atlas, I’m a natural, I’m alright(私の名前は百カラットの輝き。そして宇宙は私で回っている。私はナチュラル、オールライト)」っていうのを……もうバッドガール・リリ・パワーがすごいんですよ。

で、その後にリリちゃんがこの曲の最後でも「It’s so hard to be humble(謙虚でいるのは難しい)」っていう風に歌っていて。ここでも「HUMBLE.」がアルバムの中で流れる前に、リリちゃんが「ハンブル(謙虚)って難しいな」って自分で歌っているんですよね。というわけで、ここでそのリアーナとケンドリック、なにげにこれが初コラボなんですよね。まあ、いまごろドレイクが歯ぎしりしているかもしれないんですけども。このリリちゃんとケンドリック、どんな曲に仕上がっているのか聞いていただきたいと思います。ケンドリック・ラマーで『LOYALTY. feat. リアーナ』。

Kendrick Lamar feat. Rhianna『LOYALTY.』

はい。いま聞いていただいておりますのはケンドリック・ラマー最新アルバム『DAMN.』から『LOYALTY. feat. リアーナ』。で、ここでリリちゃんが「こんだけ成功してるバッドガールの私でございますから、ハンブル(謙虚)でいるのは難しいでございますわね」ってことをリリックでも歌っているんですけど、アルバムの中だとこの後、ジ・インターネットの最初のメンバーだったスティーブ・レイシーがプロデュースした『PRIDE.』に移って。ここではまた、『LOYALTY.』はさ、カンフー・ケニーだったケンちゃんなんだけど、『PRIDE.』は一転して「俺はパーフェクトじゃないってわかっているよ」っていう風に言ったりしていて。こっちとしては「あれ? あなた、世界最強のラッパーじゃなかったんですか?」っていう気がするんですけど、そういう風に弱音を吐露している。

かつ、この曲すごいのは、ケンドリックのバースが、ボーカルのピッチが1ラインごとに違うのよ。だからそれもすっごい不安定な彼の心を、そのピッチを変えることで表しているんじゃないか?っていう風にも思いますし。で、その後、さっきも話した『HUMBLE.』に続くんだけど、その『HUMBLE.』の後にアルバムの中だと『LUST.』と『LOVE.』が続く。その『LUST.』っていうのはさっきも言いました。七つの大罪にあります「色欲」ですね。言うなればインスタントな欲。セフレみたいな。なんだけど、『LOVE.』はもちろん本当に愛する人と向き合う感情ですから、その『LUST.』と『LOVE.』を対比させて歌っているんだけど。

ちなみに『LUST.』の中では結構普通の黒人男性・女性……なんだけど、普通じゃないね。ちょっとゲットーなところに住んでいるというか、もしかしたらコンプトンなのかもしれないですけど。そういうところに住んでいそうな黒人男女の日常をケンドリックがなりきってラップしているんだけど。たとえば、「朝起きて、シャワーを浴びて、俺はリーンを飲んで銃を持ってクラブに行くんだぜ」とか。女の子バージョンだと「家賃は彼氏に払ってもらって。私は今日も他のビッチが妬むような写真をインスタにポストします。でもって、クラブに行ってケツ振って。ああ、楽しい!」みたいなことをラップしているんですよ。それがインスタントな欲求に基づく『LUST.』なんですね。

で、ちなみにこの曲、バース2では今度は普通の男女の視点を経て、次はケンドリックの視点。で、最後はアメリカ国民の生活っていうかアメリカ国民の視点でラップをしていて。「朝起きて『あの選挙の結果は嘘だって言ってくれよ!』ってニュースを見るんだ」ってラップをしていて。「あの選挙の結果」っていうのはもちろん、去年行われたアメリカの大統領選挙で。もう「トランプが当選したって嘘だって言ってくれよ」ってデイリーニュースを見るというような内容になっておりまして。そこからだんだん「俺とアメリカ」みたいなテーマがこの『DAMN.』の中にも出てくるんですよね。ちなみに『LOVE.』でフィーチャーされている新人シンガー ザカリもすごいこのアルバムでいい仕事をめちゃめちゃしていますので。ぜひともみなさん、『DAMN.』を買って聞いていただければと思うんですけども。

これが私が言いたかったパート2のテーマ「Nobody pray for me」っていうことですね。で、テーマ3。3つ目がありまして。これは「Reverse」というテーマ。これは別に「Reverse」という単語が何回も出てくるわけじゃないんですけど。私が感じたことの一つでして。このアルバム、14曲目の『DUCKWORTH.』っていう曲で幕を閉じるんです。で、「DUCKWORTH」ってたぶんみなさん、聞いたハイパーナードたちはこの曲がどういう歌か知っていると思うんですけど。「DUCKWORTH」っていうのはケンドリックの名字なんですね。イコール、ケンドリックのお父さんについて歌っている曲。あと、街でいちばんのならず者じゃないですけど、ちょっと危険なギャングスタ代表みたいな感じでアンソニーさんというキャラクターがこの『DUCKWORTH.』の中には出てくる。

で、アンソニーとダックワースさんの話をしているんだけど、それがどういう話になっているか?っていうのは、ぜひぜひアルバムを聞いて感じていただきたいんだけど。まあ、言ったらそのアンソニーさんっていうのはTDEの社長さんなんですよね。で、その2人の物語っていうのを歌っているんだが、その後で、なんとこの『DUCKWORTH.』の曲が終わったら、レコードをよく逆回転する「キュルキュルキュルキュル……」っていう音がありますよね。で、その「キュルキュルキュルキュル……」っていう音が入って、その音がだんだんだんだんゆっくりになるのよ。で、ゆっくりになったら、よく聞くとそれが2曲目の『DNA.』の歌詞が聞こえてくる。それをさらに聞いていると、なんと1曲目の『BLOOD.』の最初のケンドリックのモノローグのところ。「So I was takin’ a walk the other day,(ある日、僕は道を歩いて散歩をしていたら……)」っていう、あのケンドリックの声が流れてこの『DAMN.』っていうアルバムが終わるんですよ。

っていうことは、リバースしてるのよね。普通にアルバムをオールリピートでかけていたら14曲目が終わって1曲目が流れるのは至極当たり前なんだけど。その一連の動作っていうのをもうすでにアルバムの最後の曲の中にケンドリックが入れているんですね。しかも自動的に1曲目になるんじゃなくて、ちゃんとリバースして1曲目に移るっていうのがちょっとキモかなと思っていて。で、ちなみに12曲目に『FEAR.』っていう曲があるんですけど、そこでも逆回転された、リバースで再生されたケンドリックのボーカルが使われているんですよ。で、これは私の本当にただの感想なんだけど。リバースするっていうことは、元に来た道と全く同じ道をたどるっていうことで、距離的にそこから遠くに行ったり、近くに行ったり、発展することはないっていう風に私は思っていて。グルグル同じところを回る。

ケンドリックのストーリーを『BLOOD.』からバーッと来て『DUCKWORTH.』まで聞きました。そしたらまた『BLOOD.』に戻る。また同じことの繰り返し=逃げられない閉塞感みたいなものを表しているんじゃないかな?っていう風に感じたんですね。で、『To Pimp A Butterfly』ではたとえばシチュエーションをホテルの部屋とか、あとコンプトンの街。あとは、アフリカに行くようなこともラップして。そのシチュエーションを変えてケンドリックがラップしてきたし。かつ、『Alright』という曲に関してはアメリカや世界に向けて希望を伝えるアンセムの役目も果たした。のだが、今作ではさっきも述べたようにめっちゃ家族の話題も多いし、とにかく自分のことを弱さと悪さ。善と悪の両方からスポットライトを当てて、それを鬱になっちゃうぐらいの感覚でひたすら自分の周りのこと、そして自分のことをラップしているアルバムなんですよ。なんでちょっと外の世界に向けたアンセムはこのアルバムにはないっていうか。『DNA.』とか『HUMBLE.』もとにかく自分がどんだけすごいかってことを歌っている曲になりますので、そこが『To Pimp A Butterfly』とはいちばん違うところかなという風に思ったんですよね。

で、ちなみにケンドリックなんですけど、Tマガジンっていう媒体があって、そこんこインタビューでは「いま興味があるのは家族のことなんだ」って言っていて。で、インタビュアーが「あなたの新しいアルバムはどんなアルバムになりますかね?」って質問をしたんですよ。そしたら、「あなた、子供います?」っていう風に聞かれて。「います。娘がいます」「たとえば娘がいます。彼女がいろいろ経験して、いつかその娘が『パパ、彼と結婚するんだ』って婚約者を連れてくるかもしれない。それは男親としては最も目を背けたい事実だけど、それを受容することを学んでいかねばならないし、その事実からは逃げちゃいけない。この僕の新しいアルバムはそういう内容になると思います」っていう風に言っているので、あたかも私が感じた「閉塞感があって、ひたすら自分のことについて歌っているアルバム」っていうのは間違っていない解釈なのかな?っていう風に思ったりもしました。

で、なぜケンドリックがこういうアルバムを作ったか?っていうことなんですけど、やっぱりオバマ大統領がホワイトハウスを去り、その後にトランプが大統領になったという事実は大きく関連しているんじゃないかという風に思っています。で、オバマ大統領といえば、「2015年の俺のベストトラックはケンドリックの『How Much a Dollar Cost』です」っていう。「ケンドリックの曲、大好き! なんらならホワイトハウスにも呼んじゃった!」っていうこともありましたし。もうめっちゃ頼れるビッグホーミーみたいな感じなんですよ。

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だからさ、ケンドリックのバックはもうオバマが守ってくれていたみたいな感じなんだけど、そんなオバマ前大統領が去ってしまい、トランプが来ちゃった。しかもケンドリックはFOXニュースにめっちゃ嫌われているという。めっちゃそれで「どうしよう、どうしよう……」っていう焦燥感とか、あと曲の中でも歌われているけど、渇き。なにか、愛情をめっちゃ求めるみたいな、そういう気分になったのかな?っていう。で、まさに「DAMN! トランプが大統領になって……DAMN!」っていう気持ちだったんじゃないかな?って言う風に感じております。で、その気持ちがめっちゃ込められているのが、やはりこれはいちばん話題になっている曲かもしれないですね。U2を招いた『XXX.』じゃないかと思います。

この曲でケンドリックはもう「本当にアメリカに絶望しました」っていう気持ちをタフにラップしているんですよ。で、自暴自棄になって銃を手に取る描写もあったりとか。その後にジョニーっていう子が出てくるんだよね。で、以前もケンドリックのラップのリトル・ジョニーっていうのが出てきたんだけど、ここで歌われているジョニーっていうのは結構コンプトンとかちょっと危険な地域に育った典型的なアフリカン・アメリカンの少年がジョニーなんじゃないかなという風に思っていて。「ジョニーはもう学校に行きたくないんだって。ジョニーはもう本を読むのはダサいって言ってるんだよね。ジョニーはハスラーで、昨日殺人を犯してしまったんだってさ」みたいなことをラップしていると。

で、バース2では「お前らが俺たちに教えたことを振り返ってみろよ。ストリートには殺人があふれているじゃないか!」みたいなこともラップしていて。「Donald Trump’s in office We lost Barack and promised to never doubt him again(いまやこの国はトランプが仕切っている。俺たちはバラクを失ってしまった)」……この「バラク」って言っているのがまたポイントかなと思って。バラクって名前だから。名字のオバマじゃなくて、名前のバラクって前大統領のことを呼んでいるっていうのも結構ポイントかなという風に思っておりまして。で、この曲、最後は「America’s reflections of me, that’s what a mirror does(アメリカは俺の写し鏡だ)」っていう風に締めているんですね。っていうことは、結構ここから読み取れるテーマがひとつ。「Me against the world」みたなテーマももしかしたら隠れているのかな? という風に思いました。

というわけで、最後の最後なんですけども、このU2が参加したケンドリックの『XXX.』を聞いてほしいと思います。

Kendrick Lamar feat. U2『XXX.』

はい。いま聞いていおりますのはケンドリック・ラマーの最新アルバム『DAMN.』から『XXX. feat. U2』でした。これね、最初の部分はこういう風にすっごいテンポよく進むんだけど、後半ね、ガラッと曲調が変わってボノが歌い出すっていうところがありますので。もしみなさん、『DAMN.』をまだ聞いてない方がいれば、もう聞いて、聞いて! みたいな。で、もうしゃべり足りないから、みなさん、しゃべりたい方がいたらどんどん私に連絡ください。で、みんなで『DAMN.』会をしましょう。で、いつか『INSIDE OUT』でもそれこそAKLOくんとか呼んで、またみんなで『DAMN.』について語る放送をしてもいいとさえ、私は思っております。なので本当に今回のアルバム、一言でいうと、ケンドリックがとことん自分に向き合って。そしてアメリカに向き合って、掘り下げるところまで掘り下げた超複雑難解なアルバムなんじゃないかと思っています。

この後、また今回も国内版がリリースされるような感じのことを聞きましたので。そうするとね、解説・対訳などもついてますから。またこのアルバムの楽しみ方が広がるんじゃないかと思っております。というわけで、ご清聴ありがとうございました。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/42997

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