渡辺志保 Kendrick Lamarアルバム『DAMN.』を語る

渡辺志保 Kendrick Lamarアルバム『DAMN.』を語る INSIDE OUT

渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でケンドリック・ラマーの新作アルバム『DAMN.』について1時間、たっぷりと話していました。

ケンドリック・ラマーの新作。待ってました!

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(渡辺志保)というわけでみなさん、これから60分間、今日はなんとケンドリック・ラマーの最新アルバム『DAMN.』について語り尽くすという企画を行いますので、ぜひぜひ聞いていただきたい。そしてTwitterでもバシバシ参加していただきたく思います。

(中略)

でもって、先週末はみなさん、どのようにお過ごしでしたでしょうか? 私はケンドリック、コーチェラ、ケンドリック、コーチェラ、ケンドリック、コーチェラ、Lick-G、コーチェラみたいな感じの。もうずーっと家でケンドリックのアルバムを聞きながら今日の準備をしたりとか。で、あとはもう、全米を揺るがすほどの巨大音楽フェス、コーチェラフェスがね、3日間ぶっ通しでやっていまして。日本時間の今日の夕方ぐらいまでやっていたましたけど、3日間ぶっ通しでやっていて。それをしかも、全アーティストじゃないけどちょいちょいストリーミング中継もしていまして。しかも、それをYouTubeで自分の好きなアーティストとかをプログラミングしておくと、YouTubeからアラートが来て。

「もうすぐフューチャーのステージが始まります」とか「もうすぐグッチ・メインのステージが始まります」みたいなのを教えてくれて。もう家でずっとそれを見ていたというような感じなんですけど。フューチャーのステージもね、ドレイクが出てきて『Jumpman』をやったりしてヤバかったし。グッチ・メインのステージはグッチ・メインのステージでもう、アトランタ祭り、わっしょーい!っていう。で、フューチャーのステージにもミーゴスが出て、グッチ・メインのステージにもミーゴスが出て。あと、DJキャレドのステージにもミーゴスが出て……という感じで、私が聞いた中では計4回ぐらいミーゴスが3日間のフェスの中で出て、『Bad and Boujee』をやりまくったっていう話も聞いているし。

コーチェラでのケンドリックのパフォーマンス

で、3日目のトリがケンドリックだったわけなんですけども、なぜかケンドリックのステージにもこの後ろでかかっているフューチャーが出て『Mask Off』をやるというね。あの、「モリ、パコ、セッ!(molly, Percocets)」っていうね、もう何人に聞いたのかよくわかんないっていうのがあれですけども。

でも、それぐらいいまのフューチャーって、ケンドリックも呼びたくなるような感じのね。そこまで威力を持つ、すっごいスーパーファビュラスなラッパーなんだなということが私、このコーチェラで再度実感したという感じでした。私、2週間後ぐらいに実はアトランタに行って、フューチャーのツアーをアトランタで見てくるっていうすっごいハイプなイベントがございますので。ますます楽しみが募ったというような感じです。

(DJ YANATAKE)あ、ヤナタケでございます。しかし、ここまでだけでも楽しそうに話をするね(笑)。

(渡辺志保)(笑)。もうヨダレが出そうで(笑)

(DJ YANATAKE)まあその、ヨダレが出そうなほど、後ほどしゃべっていただきたいんですけども……。

(中略)

(渡辺志保)いやー、もう本当ね、ぶっちゃけLick-Gくんのライブ会場でAKLOくんに会ったんですよ。AKLOくんも見に来ていてい。で、「なんかやるらしいじゃーん。『INSIDE OUT』で特集、やるらしいじゃーん」ってああいう感じで来て。「いや、もう本当、ビビるよね」とかいう話をしていて。で、まあ前もケンドリック。2015年にリリースした『To Pimp A Butterfly(TPAB)』の時もAKLOさんがこの『INSIDE OUT』でまるっと濃厚な解説をしてくださって。

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ただ、あれって発売から3週間たっていたんですよ。私、いま14日にケンドリックのアルバムが出たから、まだ3日ぐらいしかたっていないのね。だから、ディグの浅さがあるし。まだ自分の中でも不安定なところとかもあるから……。

(DJ YANATAKE)それはでも、ねえ。事前に、やる前に話していて。まず、1回やってみよう。できるところまでやってみよう。で、またさ、2回やっても3回やってもいいような気がする。で、あのね、絶対にAKLO、聞いていると思うんですよ。俺(笑)。で、AKLOは絶対に何か言いたいことが出てきたら、AKLOさんもまた呼んだりとか。他にもケンドリックについて言いたいみたいな人がいたらまた呼んで。また2回、3回やればいいじゃないですか。だからまずは、最速でやるっていうのが結構大事だったので、今日は志保さんに無理を言ってお願いしました。

(渡辺志保)いや、とんでもございません。私こそ無理を言って。パイロット版ということでやらせていただきますけども。みなさん、聞いた? 聞いたでしょう? 聞いてるでしょ、みんな?っていう感じですけど。先週、4月14日(金)にリリースになりましたケンドリック・ラマー4枚目の最新作『DAMN.』っていうアルバムですけども。もう最近、みなさん日本ってアメリカより時間が進んでいるから、たとえばアメリカ時間で14日になった途端に発売しますっていうアルバムは実は日本の前の日のお昼ぐらいにもう買えちゃうパターンが結構あって。その前の週に出たジョーイ・バッドアスとかはそうだったのよ。アメリカに先駆けて日本でもうゲットできる!っていう。

なんだけど、ケンドリックはさすが、それはTDEが許さない! みたいな感じで。もともと日本の発売予定日は4月16日にセットされていて。だからどうがんばってもUSより早くゲトれないようになっていたんですよ。もう、やきもきっていう感じなんですけど。で、14日の朝、私7時半ぐらいに起きて。朝、まずTwitterを見たらもうリーク音源が出回っているんですよね。で、世界中のヒップホップナードが「俺、いまから2曲目の『DNA.』聞きまーす」とかそういうのをリーク音源を聞いたクソナードがTwitterでガヤガヤガヤガヤやっていて。

で、なんならXXLもそのクソナードたちの発言を集めた……「最初にケンドリックのアルバムを聞いたファンたちのリアクションをまとめました!」みたいなまとめ記事とかを作っていて。そんなの、やるんじゃねえよ! と。ただ、私も人間だから気になって、リーク音源を聞いちゃいけないと思いつつ、リリックだけチェックしたんですよ。で、ラップ・ジーニアスにアクセスしたらもう全曲のリリックが全部上がっていて。なんならクソナードたちがそれにどんどんどんどん注釈をつけ始めているというのが4月14日の日本時間の朝、もうすでに行われていたから。

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で、こっちはもうやきもき、やきもきして。なんなら、アメリカで14日になった瞬間にもうアップルミュージックとかiTunesとかSpotifyでバーッと発表されたんですけど、なかなか日本はリアルタイムにゲットすることができなくて。Spotifyがいちばんはやかったんですかね。で、アップルミュージックとかiTunesはアメリカよりも80分ぐらい遅れて日本で解禁になったということで。本当に焦らされて焦らされて聞くことになったアルバムでしたね。で、その後もやっぱり一斉にヒップホップメディア、いろんな世界中のブログがワーッとレビューを書き始めたりとか、いろんな考察を述べ始めたりして。本当になんかもう、波。ケンドリックのデカい波が来た! みたいに感じましたね。

カンフー・ケニー

で、ひとつこれ、自分のトークがだんだんシリアスになる前に言っておきたいんだけど、今回カンフー・ケニーっていうケンドリックのオルターエゴみたいな、生まれ変わったケンドリックみたいなキャラがいまして。今日、行ったコーチェラのライブでも結構このカンフー・ケニーがフィーチャーされていて。コーチェラのステージが始まった時、安っぽい中国の昔のアニメみたいな感じの映画のセットが出てきて。「お前は選ばれしカンフー・ケニーだ!」みたいな感じの茶番のムービーが流れていたんですけど。

でも、そんだけこのアルバムで「カンフー・ケニー、カンフー・ケニー」っていうキャラクターが連呼されていて。これって、ケンドリックにとってはなにか重要な意味を持つキャラクターなんだろうなって思いながらアルバムを聞いて今日のコーチェラのライブを見ていたんですけども。まずひとつ、コーチェラのライブで私、Twitterでも言ったんだけどさ。カンフーって中国発祥のひとつのカルチャーっていうか武道じゃないですか。で、さっそくステージ上に忍者の格好をして日本刀を持っているダンサーの人とか出てきて。「ああ、よくありがちなアジアのカルチャーひとまとめ……ケンドリックさんもそういうところ、あるんだ」と思ってちょっとガッカリしたのがあるんですけど。

でも、そのカンフー・ケニーに入れる気合いっていうのがすごくて。今回のコーチェラのライブもそうなんだけど、彼、グリルも作っていて。で、ちゃんと漢字で「功夫肯尼(カンフー・ケニー)」って歯に刻んであるグリルを作っているんですよ。それ、ネットで写真見れるんですけど。

#KendrickLamar's new custom grill with "Kung Fu Kenny" in Chinese letters ???? (via @ifandco)

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で、私、意地悪だからさ。よくありがちなデザインだけで漢字を選んで、実はすっげー恥ずかしい意味のタトゥーをしている人とかいるじゃないですか。だからそういう意味だったら嫌だなと思って、ちゃんとグーグルで調べたんですけど。ちゃんと「カンフー」を中国語(功夫)で書いた漢字と、あと「ケニー」っていうのもバービー人形、ありますよね? で、バービーちゃんの彼氏は「ケン」っていう名前だけどそのケンの中国語表記っていうのがあって。ちゃんとそれをフィーチャーしたグリルになっていたんで。「ああ、ちゃんとカンフー・ケニーって通じるようなグリルなんだな」っていうのを調べたりして週末をすごしていました。

っていうのがひとつありまして。あともうひとつ、ヒップホップファン的にはびっくりするかもしれないんですけど、このアルバム、何ヶ所かにキッド・カプリがフィーチャーされているんですよね。で、何をしているか?っていうと、「World Premire!」っていう往年のヒップホップファンなら「おっ!」って思うはずのキッド・カプリのシャウトが数か所にフィーチャーされていて。しかもそれはちゃんとキッド・カプリがTDEから連絡を受けて、LAまで飛んでレコーディングした声らしいんですよ。で、ちょっと前ですけど、ドレイクがムーディーマンの声をサンプリングして使っていたりしましたけど、もしかして今後、なんかアイコニックなDJがラッパーの曲の冒頭でしゃべったりするのが流行るのかどうかわからないですけど……。

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なので、ヤナタケさんとかもしかしたらね、オファーがあるかもしれないですけども。

(DJ YANATAKE)ないでしょう(笑)。志保とかあるんじゃない?

(渡辺志保)いやいや、特徴的な……「ヤナタケさんの笑い声をここにフィーチャーしたいんですけど」みたいなのがあるかもしれないなということをね。

(DJ YANATAKE)まあでも、DJ TY-KOHとかが呼ばれるような感じだよね。

(渡辺志保)あ、そうそう。TY-KOHとかがね。そうなんですよ。だからそういうことがあるかもしれないと。なのでキッド・カプリもなぜか参加していると。で、キッド・カプリももうね、このアルバムに参加した経緯とか参加してどうだったか?っていうことはもうすでにインタビューで語っておりますのでぜひぜひみなさん探して見ていただきたいんですが。

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まあちょっと、ここでだんだん今回の『DAMN.』の本編の方に入っていきたいんですけども。まずちょっとイントロダクション的に紹介したいのがまず1曲目『BLOOD.』っていう曲で始まるんですね。で、「Blood」っていうのは「血」っていう意味だし、アメリカの特に西海岸における「Blood」っていうのはギャング抗争のクリップス対ブラッズっていうのがありますけど、そのギャングのブラッズ(Bloods)も想起させる単語であると思うんですが……。

ちょっとね、この曲は変わっていて。ケンドリック・ラマーがひとり語りをするんですよ。で、結構テンション的には「昔、昔のことじゃった……」みたいな感じでストーリーを始めていくんだけど。どんなストーリーかというと、ある日、僕が道を歩いていたら盲目の女性を見つけたんです。その女性はなにかを落として困っているように見えたから、こう僕は尋ねました。「お姉さん、よければお手伝いしますよ。なにか困っているんじゃないですか? なにか落としたんじゃないですか?」っていう風に聞いたら、その女の人がこう応えました。「そうね。あなたはなにか落とし物をしたわ。あなたの命を落としたのよ。(You’ve lost… your life.)」っつってガンショット(銃声)が「パーン!」って鳴る。それがこのアルバムの始まり方なんですよ。

なので、そのガンショットが撃たれるっていうことは、おそらくその盲目の女性がケンドリックのことを撃ったのかもしれないし、もしかしたらだけど、ケンドリックが何者かに向けて発砲したのかもしれないし。それはわからないんですけども、そういうストーリーが始まる。なので、ケンドリックは良かれと思って困っている目の見えない人を助けようとしたのに……で、「落とし物をしましたか?」って聞いたのに、逆に狐につままれるっていうか。「落とし物をしたのは、あなた。しかも、あなたの命を落としたんですよ」っていう、それが告げられてアルバムが始まるんですね。ちょっとここで『BLOOD.』を最初にちょっと簡単に聞いてください。『BLOOD.』。ケンドリック・ラマー。

Kendrick Lamar『BLOOD.』

はい。いま聞いていただいているのはケンドリック・ラマー『DAMN.』の1曲目、『BLOOD.』ですね。いま、ケンドリックがしゃべっていますけど、ここで「ある日、僕は盲目の女性に出会ったんです」っていうことをナレートしています。で、この曲、もうすぐ銃声がパーンって響くんだけど、その後にある音声を入れて終わらせているんですよ。で、それは何の音声がこの後に入っているか?っていうと、FOXチャンネルっていうアメリカのドラマやニュースを放映しているチャンネルがありますけど。これってFOXニュースで実際に流れた音声なんですよ。で、何について言っているか?っていうと2015年にBETアワードの授賞式でケンドリック・ラマーが『Alright』っていう曲。前作のアルバムからのシングル『Alright』をパフォーマンスしたんだけど。

その時に、グラフィティーでグチャグチャになったパトカーの上にケンドリックが立って。結構扇動的な、アジテートな感じのパフォーマンスをしたんですよ。

で、それをFOXニュースのキャスターが……この歌詞ってさ、「and we hate po-po(警察は俺たちを憎んでいる)」「Wanna kill us dead in the street fo sho’(警察は俺たちに道で死ねばいいと思っているんだ)」っていう。で、(ニュースで)「こんな歌詞をラップするなんて信じられません」みたいなことをキャスターが言っていて。で、その後に女の人が「Please…」みたいな。「本当にやめてください。私、こんなの全然好きじゃない!」みたいな。そこの部分をご丁寧にアルバムの1曲目に入れているんですね。

その時に、このFOXニュースに出ていたジェラルド・リベラっていうおっさんのコメンテーターがいるんですけども、こんなことを言っていて。「ケンドリック・ラマーが発しようとしているメッセージは全くの逆効果。ここ数年のヒップホップって若いアフリカン・アメリカンに与えるダメージっていうのは巷で騒がれている人種問題よりも深刻だ。我々は目を覚ましてこの現状を理解しなきゃいけない」っていう……ケンドリックがめっちゃがんばってさ、めっちゃ希望(Hope)っていうのをみんなに伝えようとして作った『Alright』。そしてそのパフォーマンス。めちゃめちゃ主張あふれるパフォーマンスをガラッとひっくり返して。もう、「お前ら若者は全然わかってねえ!」みたいな感じでFOXニュースのコメンテーターに言われてしまったと。

でもって、このFOXのネタっていうのはケンドリック、ビヨンセの『Freedom』にゲスト参加したバースで言っているんですけど。もっと言うと、FOXっていうのは右寄りなメディアとして広く認知されているんですね。なので、オバマ前大統領のことをめちゃめちゃバッシングしたりとか。ちょうどいまだとトランプがニューヨークタイムスのことを批難して、CNNのことも批難するけど、FOXのことはめっちゃ上げているみたいな。なので、ホワイトアメリカの象徴みたいな感じでも受け取れるかなという風に私は思ったんですよ。で、もともとナズとかジェイ・ZとかもFOX批判っていうのはしていて、そういうラッパーっていうのは少なくないんですけど。なのでここでも、ケンドリックはホワイトアメリカに対するアンチみたいな、そういう反抗心みたいなものを示したいのかなと思っていて。

で、その最初に出てくる目の見えない女性っていうのも、言い換えればリーダーを失って迷走しているアメリカそのものを、その目の見えない女性にたとえているのかもしれないなという風に思っていて。で、さっきも言いましたけど、良かれと思って弱者を助けようとしたケンドリックは逆に、「お前が死ぬんだよ!(バーン!)」っつってね、撃たれるっていう、そういう結構ショッキングなイントロダクションでこのアルバムの本編が始まっていくわけなんです。

で、私今回のアルバムはいくつかテーマがあるなと思っていて。そのテーマを追いながらこのアルバムを解説していきたいんですけども。まずテーマ1。「Wickedness or Weakness」。「Wickedness」っていうのは「悪さ・邪悪さ」とか。そういう不正な、正しくないマインドのことを言うんですね。で、「Weakness」は「弱点」ですね。で、さっきちょっと聞いてもらった1曲目の『BLOOD.』の最初のコーラスにもこの「Wickedness or Weakness」っていうのは歌われているんですよ。でもって、さっきの『BLOOD.』の中にフィーチャーされているガンショット。「パーン!」って鳴る後にも、「Is it wickedness?(これって悪い心なのかな?)」みたいなことを聞かれる。そういうシーンがあるんですけども。

で、このアルバムっていうのは「Wicked」。ちょっと悪いケンドリックと、あとは「Weak」。弱いケンドリックの二面性を、あくまでもケンドリックの主観でラップする内容なんじゃないかなっていうのが私の見解でして。たとえば、シングルで最初に発表された『HUMBLE.』ってありますけども。『HUMBLE.』はWickedなケンドリックなんですよ。もう、他のラッパーをキルしまくって俺が本当にベスト・ラッパー・アライブだ!っていうようなWickedなケンドリック。なんだけど、アルバムを聞くにつれて、『FEEL.』とか『PRIDE.』っていう曲が入っているんですけど、そこはWeak。弱いケンドリックなんじゃないかなという風に思っていて、それを本当に複雑な主張も織り交ぜながらラップしていると。なのでこの「Wickedness or Weakness」っていう、二面性をいろんな角度で論じるっていうのは『DAMN.』のひとつのテーマになっているんじゃないかな? という風に思っています。

で、その『HUMBLE.』と同じぐらいイケイケな、Wickednessなケンドリックがよく現れているのが2曲目の『DNA.』っていう曲なんですけども。これ、今日もコーチェラで一発目にパフォームしていましたけども。これ、「俺は神の子、勝者。それは全て俺のDNAに組み込まれているレベルで俺は生まれながらにして勝ち組なんだ。それに引き換え、お前のダサさ。それもお前のDNAに組み込まれているぐらい、お前はどうしようもなくダサいんだ」っていうことを歌っていたりとか。「I’d rather die than to listen to you」で「you」は他のラッパーなんだけども。「お前の曲を聞くぐらいなら死んだ方がマシだ」なんていうようなことも言っていて。『HUMBLE.』とかその前に出た『The Heart Part.4』なんかもそうですけど。あれもね、「ビッグ・ショーンやドレイクに向けたディスか?」って言われていましたけども。この『DNA.』でもめちゃめちゃ他のラッパーをキルする、勢いのいいカンフー・ケニーことケンドリックが聞けますので、ちょっとここでこの『DNA.』を聞いていただきたいと思います。

Kendrick Lamar『DNA.』

はい。いま聞いていただいておりますのはケンドリック・ラマーの最新アルバム『DAMN.』から2曲目に入っています『DNA.』。これ、もうね、曲調を聞いている感じでみなさん、どんな感じかわかったと思いますけども。すごいやっぱり勢いに乗って、「もう俺は勝ちまくって勝ちまくってウィンブルドン! サーブ!」みたいな、そういうリリックもあったりとか。で、この後にね、またブリッジが入るんですけど、そこでもまた、さっき
言ったFOXニュースの男性の声なんかを入れていて。まあ、単純に言うと根に持っているっていう感じがするんですけども。でもやっぱり、それだけね、超ウルトラライトな右傾化したメディアにそういう、「ケンドリックはラップのことをわかっていない」みたいな感じのことを言われてしまったのは、本当にケンドリック・ラマーのキャリアにおいても、めっちゃ実はショックなことだったんじゃないかな? という風に思っていて。

で、このFOXニュースに関する事柄っていうのはこの後も何回かちょいちょい出てくるんですよ。で、それぐらいこの『DAMN.』のメインの柱にひとつなっているんですけども。まあひとつ、その「邪悪な心なのか、弱い心なのか?(Wickedness or Weakness)」っていうのがテーマになっているという風にいまお話したんですが、テーマ2としまして、もうひとつ、フレーズがあります。「Nobody pray for me(俺のために祈ってくれる人は誰もいない)」っていうことでして。これもね、コーチェラの今日のライブで結構後ろのスクリーンに「Nobody pray for me」っていうのを何回も何回も出していましたけども。これもですね、ひとつこの『DAMN.』の中で何度か繰り返し語られるトピックなんですよ。

で、単純に「俺のために誰も祈ってくれない」というのは孤独感も増していくというかね。孤独という状態も表すと思いますし。で、なんで誰もケンドリックのために祈ってくれる人がいないのか?っていうと、次の『ELEMENT.』っていう曲の中で明らかになっているんですけども。おばあちゃんがみんな亡くなっちゃって。父方のおばあちゃん、母方のおばあちゃん、みんな亡くなっちゃって。それで「誰も僕のことを守ってくれる人がいなくなっちゃったんだ」ってことをラップしているんですね。ケンドリックってすごいおばあちゃんっ子だったっていうのは自分でもラップをしていて。かつ、これまでにもめっちゃ自分のお母さんのこととかお父さんのことをラップしてきた彼ではあるんですが、今作はそれ以上に家族について語られるシーンがすごく多いなという風に思っていて。姪っ子のシンシアちゃんとか、またも出てくるし。

あとね、幾度となく出てくるのが従兄弟のカールくんなんですよ。彼も、リリックの中に何度か出てくるのと、あとはちょっと曲の中に冒頭、カールからの留守電のメッセージで始まる曲があるんですけども。それも、「お前、ちょっと最近おかしいんじゃないのか? イライラしすぎなんじゃないのか?」っていうのをカールが心配していて。それでケンドリックに聖書の一節を、「神様、聖書ではこんなことが書いてあるから、それを信じて。お前、ポジティブになれよ」みたいなことを言っているんですね。なのでまあ、そのカールがケンドリックの心境にポジティブな変化を与えようとするっていう役目を果たしているんですけど。なので、ここでいま『DNA.』を聞いてもらったばっかりなんですけど、この『ELEMENT.』は……『DNA.』はいけいけドンドンのね、ちょっと邪悪な部分もあるケンドリックだったんですけども、『ELEMENT.』は逆に弱い心を持ったケンドリックがラップをしていると。かつ、これも最初の方に「Nobody pray for me」っていうのがすごく印象的に使われておりますので。ぜひぜひここで聞いてみてもらいたいと思います。ケンドリック・ラマーで『ELEMENT.』。

Kendrick Lamar『ELEMENT.』

はい。いま聞いていただいておりますのはケンドリック・ラマーで『ELEMENT.』でした。このキッド・カプリのシャウトがまぶしい感じがしますけども。はい。

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