渡辺志保 ケンドリック・ラマーのスーパーボウルハーフタイムショーを語る

オードリー若林 ケンドリック・ラマーのスーパーボウルハーフタイムショーが生で見れる喜びを語る MUSIC GARAGE:ROOM 101

渡辺志保さんが2025年2月14日放送のbayfm『MUSIC GARAGE:ROOM 101』の中でケンドリック・ラマーのスーパーボウルハーフタイムショーについて話していました。

(渡辺志保)ではここで最近の気になるニュースをお届けしたいと思います。冒頭にも少しお話しましたが先日、第59回スーパーボウルが行われまして。そこでのハーフタイムショーをケンドリック・ラマーが飾ったということで、ご覧になられましたでしょうか? 私はもうマジで手に汗握りながら、家のソファーの上でクッションを抱きしめながらですね、ちょいちょいメモとか取りながら見ましたという感じ。で、ケンドリック・ラマーが出るというだけで本当に皆さん、たくさんの期待をしていたんじゃないかという風にも思います。

でですね、全てが素晴らしかったし、全てが語りがいのあるステージだったなという風に思います。全部で11曲をパフォーマンスいたしました。で、最初にケンドリック・ラマー、どんな風に登場するんだろう?っていう風に思っていて。途中、ハーフタイムに入って解説の方たちがお話をされている。その後ろでセットチェンジというか、ステージが組み立てられているわけなんですけれども。それをめっちゃ目を凝らして私は見ておりまして。

で、明らかに車だろうなみたいなものが上に乗っかっていて、シートがかけられていたんですよね。そのシートが取り払われた時、ケンドリック・ラマーの車のGNXがそこには鎮座しておりまして。「うわっ、めっちゃ車、持ってきてるやん!」みたいな、そんな感じでね。セットを作るところまでもうすごくドキドキして見てたんですけれども。それでいざショーが始まると、一番最初に出てきたのは俳優のサミュエル・L・ジャクソンなんですよね。

で、そのサミュエル・L・ジャクソンがアンクル・サム、サムおじさんとしてフィールドに登場しました。アンクル・サムっていうのはこれは結構、歴史の教科書で習った方もいらっしゃると思うんですけれども。アメリカを象徴する存在としてなんというか、カリカチュアというか、戯画化されたアメリカとして、いろんなところに登場するキャラクターでもあるんだよね。

でもアンクル・サムっていうのは基本的に白人なんですよ。なんだけど今回、そのサミュエル・L・ジャクソン……「サミュエル」という名前だからもちろんそのまま「サム」。サムおじさんなんだけど。そのサミュエル・L・ジャクソンがアンクル・サムに扮するということでその黒いアメリカ、ブラックアメリカということをここで非常に強調しているのかなという風にも感じました。

サミュエル・L・ジャクソンがアンクル・サムとして登場

(渡辺志保)で、サミュエル・L・ジャクソンがちょっと皮肉交じりにケンドリック・ラマーのショーを紹介するわけなんですけれども。なんかこのやり方、以前にも見たことあるなって思ったんだけど、2018年にケンドリック・ラマーがグラミー賞でパフォーマンスをした時。その時もグラミー賞の一番最初のパフォーマーとしてケンドリック・ラマーがステージに立っていたんですけど。その時はコメディアンのデイヴ・シャペルがまず最初に出てきてシニカルな、皮肉の効いたスピーチを披露してからケンドリック・ラマーが登場したんですよね。

その時のステージの様子、パフォーマンスの様子は既にYouTubeからは削除されていてちょっと詳細な部分までまだたしかめられていないんですけれども。その時の構図とちょっと似てるなという風に思いながら拝見しておりました。で、このアンクル・サムはその後も何度かステージ上に現れて。ガイド役というか、ツッコミ役みたいな感じでサムが出てくるわけなんですけれども。

たとえばですね、最初に『GNX』っていう曲……というか、これがまたトリッキーで。『GNX』というアルバムがリリースされる直前にトレーラーの動画が発表されたんですよね。そこでかけていた楽曲を1曲目に持ってくるという。しかもこの『GNX』のトレーラーで使われている曲はアルバムには入っていない曲なんですよ。なのでそこからして、言うたらお客さんにはあまり優しくない演出なんですけどその曲でケンドリック・ラマーのパフォーマンスが始まる。

その次に『squabble up』という曲をパフォーマンスする。その後にまたサムおじさんがやってきて「No, No, No!」って言いながら入ってくる。「ダメ、ダメ、ダメ! こんなの、やかましすぎるし、ちょっと乱暴すぎるし。あと、ゲットーすぎるよ! ケンドリック、お前本当にゲームの遊び方わかってるのか? ちょっとちょっと……」みたいな感じで入ってくるんですよ。

で、その後にケンドリック・ラマーは『HUMBLE.』をパフォーマンスするんです。『HUMBLE.』って「謙虚」っていう意味の単語ですし。「お前ら、黙っとけよ」みたいなアティチュードの曲ではあるんですけど。そのサムおじさんの「ゲットーすぎるよ」っていうツッコミの後に1回、楽曲で「おとなしくなったよ」ってことをアピールする。それでその後に『DNA.』を続けてパフォーマンスしまして。『HUMBLE.』と『DNA.』は結構、みんなが好きな、キャッチーな曲でもありますから、それをパフォーマンスする。

でもその後には『euphoria』という曲をパフォーマンスするんですよね。で、この『euphoria』こそ、去年のドレイクとのビーフの間で最初にケンドリック・ラマーがケンドリック・ラマー名義でリリースしたディス曲なので。またそこからどんどん、ちょっと毛色が変わっていくんですよ。その後には『man at the garden』という曲に移るわけなんですけれども。この『man at the garden』という曲も昨年、発表された『GNX』の中の曲なんだけど。この曲も別にキャッチーでもないし、メロディアスでもないというか、ちょっと通好みの楽曲なんですよね。

で、今回のスーパーボウルの内容に関してライターの池城美奈子さんがすぐにウェブサイトに考察記事をアップしてるんですけど。その池城美奈子さんのテキストをお借りしますと「不平等を強いられてきた黒人たちがその対価が支払われるべきだ」という風に主張する曲なんですよね。で、この曲なんですけれどもスーパーボウルの直前にApple Music経由でケンドリック・ラマーは俳優のティモシー・シャラメと話すインタビュー動画を発表していて。その中でケンドリックは「この『man at the garden』は自身にとってアルバム『GNX』を形づくる重要な1曲だ」っていう風に話しているんですね。

アルバム『GNX』の重要曲『man at the garden』

(渡辺志保)で、今回のスーパーボウルでもまさにそのパフォーマンスの時系列的に一番真ん中にこの楽曲をパフォーマンスするというセットリストにしていて。それも何かしら、意図があるのかなという風にも思いました。で、その後ですね、『luther』という曲でSZAが出てくる。SZAが出てくることは前もってアナウンスされておりましたけれども。それでも出てきたら、もちろんそれは興奮だよね。その後には『All The Stars』……映画『ブラックパンサー』のために書いた曲ですけれども。2曲続けて、SZAとパフォーマンスをする。

そしてですね、その後になんとアスリートのセリーナ・ウィリアムズも出てきて。彼女がCウォーク……コンプトン、西海岸に代表されるギャングたちのダンスがあるわけですけど。そのCウォークをセリーナがやるんですよね。で、セリーナは元々ドレイクと噂のあったというか、恋人同士であったと言われている女性でもありますので、ここでその彼女がCウォークをするということはもう完全にそのドレイクと自分との関係性を断ち切ったという意味でもあるのかなと思いました。

(渡辺志保)そして『Not Like Us』を終盤にパフォーマンスしまして最後は『tv off』という曲でね、ステージを締めるわけなんですけれども。『Not Like Us』に至るまでも1回、『Not Like Us』のイントロだけを効果的に使用してお客さんを煽るっていうような見せ場もあって。なかなか焦らすなという風に見ておりました。

『Not Like Us』をやりかけてやめる

(渡辺志保)で、全体的に今回、テーマになっているのはもちろん、いくつもテーマがあると思うんですよね。白人社会に立ち向かうブラックアメリカンとしてのケンドリック・ラマーであるとか。あとはアルバムに関しても昨年の『GNX』。そしてその前の前の作品である『DAMN.』というアルバムからの楽曲がメインになってるんですよね。で、その前の作品に関しては今回は全然、パフォーマンスされておりませんでしたので、そこももちろんケンドリックなりの意図があってのことなのかなという風に思います。

で、もうひとつテーマになっているのは「ゲーム」っていうこと。さっき紹介したサムおじさんのセリフの中にも「ゲームの遊び方、わかってるのかよ?」っていう一言があったわけなんですけれども。今、YouTubeでパフォーマンスが全部見ることができるので、それを見ていただきたいんですけど。最初に視覚的に現れるのは「◯、△、✕、□」の形に光るライトを使ったステージなんですよね。で、その◯とか✕が真っ暗闇の中に浮かび上がるっていう演出なんですけど。最初、これなんだろうと思っていて。◯と✕が目立っていたから◯✕ゲームかな、みたいな思ってたんですけど。その後のですね、いろんな方の考察によるとこのステージっていうのはプレイステーションのコントローラーではないか、という風に考察されていて。

なので「これからケンドリック・ラマーのゲームが始まるよ」みたいな、そうした意図があるんじゃないかという風に考察されておりました。一番、最後もですね、「GAME OVER」っていう風に読むことができる客席のライトがそういう風に配置されているんですけれども。最後も「GAME OVER」という一言で終わるんですよね。なので最初、そのコントローラーを模した演出でゲームが始まって、最後は「GAME OVER」というライトで締められるっていうストーリーになっているんだけど。

もちろんスポーツの試合もゲームという風に言いますので、そこはNFLのアメリカンフットボールの試合そのものとかけているのかなという風にも思いますし。あとはそのゲームというのもただのお遊びというわけではなくて、ケンドリックが操っているゲームなのか、あとはそのアメリカは今、本当に分断がどんどんどんどん加速しているような状態ですけども。そのアメリカ社会をゲームにたとえたものなのか。いろいろその解釈の仕方はあるかなという風に思うのですが。そうしたテーマも内包しているようなステージでした。

プレイステーションを模したステージ

(渡辺志保)本当に私もまだまだ噛み砕ききれていない部分もたくさんありますし。日々、日々いろんな方の記事とかポッドキャストを聞きながら「なるほど、なるほど」とメモを取りながら言っているような状態ですので。また新たな事実がこれから分かってくるかなとも思うんですけれども。アメリカで一番大きな舞台、アメリカで一番お金がかけられているスポーツとエンターテイメントの舞台で否が応でも……アメリカの大統領もそこにいるわけだし。アメリカ国民が全員、注目する舞台でやるにはさっきのサムおじさんの言葉じゃないけどやっぱり「Too loud(やかましすぎる)」っていう。主張としてやかましすぎるっていうことはあったと思います。

でもそれがやっぱりケンドリック・ラマーのアーティスト性ということですので。私はケンドリック・ラマー大好きだから「よくやった!」っていう風にも思いますし。今は私も賛否両論の賛のところしか見ていないわけですけど、そのバックラッシュっていうかね、否の部分ももしかしたらアメリカ国内で今、非常に論争されているのかもしれない。ちょっと憶測で言うことではないかもしれないですけれども。まあどのように広く受け止められたパフォーマンスであるのかということもちょっと見ていきたいなという風に感じましたね。

というわけでちょっとしゃべってもしゃべってもしゃべり足りないという感じなので私もどこかテキストで……自分のニュースレターとかで書きたいなという風に思っておりますので、よりもっとたくさん勉強してから書こうと思います。というわけでしゃべり過ぎましたがここで1曲をお届けしましょう。ケンドリック・ラマーで『tv off』。

Kendrick Lamar『tv off』

ケンドリック・ラマーのスーパーボウルハーフタイムショー、すごかったですねー。渡辺志保さんをもってしても「しゃべってもしゃべっても語り足りない」という状態になってしまうほどいろいろなコンテキストが織り込まれているパフォーマンスでしたね。DJ YANATAKEさんや宇多丸さん、そしてトークの中で渡辺志保さんが触れていた池城美奈子さんのハーフタイムショーについてのトークや文章、置いておきますので興味がある方はぜひチェックしてみてください!

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MUSIC GARAGE:ROOM 101 2025年2月14日放送回

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