町山智浩『キングコング: 髑髏島の巨神』を語る

町山智浩『キングコング: 髑髏島の巨神』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『キングコング:髑髏島の巨神』を紹介していました。

(町山智浩)で、もう1本あるんだ、告知が(笑)。今週末、3月25日(土)ですけども、今日ご紹介する『キングコング: 髑髏島の巨神』が公開になります。で、銀座にある丸の内ピカデリーという映画館で爆音上映というものを行います。

(山里亮太)爆音上映?

(町山智浩)爆音上映っていうのはね、ずっと樋口泰人さんっていう映画評論家の人が各地でやっているイベントなんですけども。普通だったら許されないような限界まで音を上げて。割れる寸前まで音を出して。要するに、爆音とか音楽のベース音とかを体で感じるぐらいの音にして、映画を体で楽しもうっていうイベントなんですね。これが3月25日。『キングコング: 髑髏島の巨神』の初日の17時25分からの回で丸の内ピカデリー3でやりますが、僕が解説を最初にします。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)っていうのはこの映画で僕、また字幕監修をやらせていただいておりますので。その縁で解説をしますんで、今週末の土曜日、よろしくお願いします。

(赤江珠緒)これ、爆音で見たらすごそうですね。

(町山智浩)僕、こういう映画を見る時いちばん前の方で見るんですよ。そうすると、怪獣が本当に上に乗っかかってくる感じがして大好きなんですけど。怪獣映画とか、あと『スター・ウォーズ』とかで宇宙船のでっかいのが来る映画はいちばん前で見ることにしているんですよ。すると、巨大な宇宙船が上からのしかかってくる感じがしていいんですけどね。はい。普通の会話シーンでは地獄になりますけど。

(赤江珠緒)そうなんですか(笑)。

(町山智浩)ということで、よろしくお願いします。今週末の土曜日です。それでですね、今日は『キングコング:髑髏島の巨神』を紹介したいんですが、まず1曲聞いていただきましょう。クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの『ジャングルを越えて』。

『ジャングルを越えて』

(町山智浩)はい。これはですね、『ジャングルを越えて(Run Through The Jungle)』っていう、「ジャングルを抜けて逃げろ!」っていう歌なんですよ。だからキングコングに襲われてジャングルを逃げろっていう歌ですね(笑)。

(赤江珠緒)そのまんまですね。はい。

(町山智浩)これはですね、ベトナム戦争の時に作られた歌なんですよ。ベトナムのジャングルで戦っている兵士の気持ちで歌っているんですね。命からがらジャングルを逃げるっていう歌なんですよ。で、今回の『キングコング:髑髏島の巨神』はベトナム戦争が背景です。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)1973年にベトナム戦争が終わったところで映画が始まります。終わる寸前で。で、ベトナムで戦っているヘリコプター騎兵部隊が髑髏島という怪獣がいる島に探検隊として行くという話です。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)ピンと来ないですか、これ? そうか。うーん……これ、僕らの世代からしたら、夢の映画ですよ。

(赤江珠緒)夢?

(町山智浩)うーん、ピンと来ないかな。ベトナム戦争時代のアメリカ軍が怪獣を戦うって、夢ですよ。それ。

(赤江珠緒)ああ、そうか。そういうもんか。アメリカ軍と。

(町山智浩)あのね、昔『ゲゲゲの鬼太郎』の子泣きじじいとか砂かけばばあはベトナムに行って、ベトナムの米軍と戦ったんですけど。

(山里亮太)そんな回、あったんだ。

(町山智浩)そういうのって夢だったんですよ。『サイボーグ009』もベトナムに行って戦っているんですよ。ベトナム戦争を。ベトナム戦争にスーパーヒーローとか怪獣が絡んでくるっていうのは夢なんですよ。僕らはベトナム戦争の時に小学生でしたから。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですね。

(町山智浩)テレビを見ると、ものすごい猛爆撃をやっているわけですよ。ベトナムで空爆を。それと、『ウルトラセブン』とかを同時に見ていた世代なんですよ。僕らは。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)鬼太郎とかサイボーグ009とかを見ながらベトナム戦争のニュースを見ていたんで、それが頭の中でごっちゃになっている世代なんですよ。僕らは。

(赤江珠緒)そっかー!

(町山智浩)それが実現するのが今回の『キングコング:髑髏島の巨神』なんですよ。で、この話は「髑髏島っていうところに謎の怪物がいるらしい」っていうことで、アメリカ軍がそこに突入するわけですけども。突入する部隊がヘリコプター騎兵部隊なんですね。ええと、ベトナム戦争のヘリコプター騎兵部隊っていうのは『地獄の黙示録』のいちばん……。

(赤江珠緒)そうですね。それはわかる。

(町山智浩)いちばん燃えるシーンなんですよ。ベトコンの村をアメリカ軍のヘリコプター騎兵部隊が襲撃するっていうシーンがありまして。そこはまあ、ひどいわけですよね。ひどいんですけど、すごいんですよ。『ワルキューレの騎行』をかけながらね。

(赤江珠緒)『地獄の黙示録』といえばそのシーンですね。

(町山智浩)はい。『地獄の黙示録』という映画がありまして。これは1979年に公開になったんですけど、これは日本がお金を出した映画で日本でも大ヒットしたわけですけども。だから、『地獄の黙示録』と『キングコング』の合体なんですよ。今回。

(赤江珠緒)これを合わせちゃうんだ。現実と非現実が、もう。

『地獄の黙示録』と『キングコング』の合体

(町山智浩)そうなんですよ。最近、現実と虚構を合わせるっていうのを『シン・ゴジラ』でもやっていましたけど。まあ、こういう発想が出てきてるんですが。これ、監督がそれを思いついたんで、この監督はその前に自主映画を1本撮っただけでいきなり今回、もうハリウッド史上最大規模の大作を任されている監督なんですね。だからこの人ね、ジョーダン・ボート=ロバーツという人で、ただのオタクなんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)キングコングの新しいシリーズを作るということで、その監督を探している時に、ベトナム戦争と合体させるというアイデアを出したおかげで、実績はほとんどないのにいきなり一発でこれですよ。

(赤江珠緒)すごい。大抜擢ですね。イチかバチかみたいなの、ないですか?

(町山智浩)大抜擢なんですよ。イチかバチかなんですよ。それでもう1個、別の映画でもそうで。『スター・ウォーズ』のこの間の『ローグ・ワン』っていう映画がそうなんですね。あれはこの間のハリウッド版『ゴジラ』を撮ったギャレス・エドワーズ監督が『スター・ウォーズ』と『地獄の黙示録』を合体させるというアイデアを出したんで、監督に採用されたんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)2つとも、ほとんどアイデアが同じなんですけど、世代的な問題だと思います。はい。で、今回のキングコングシリーズは、なんとこれから続く怪獣ユニバース……怪獣ユニバースっていうのはマーベルユニバースとかと同じで、ひとつの怪獣の世界観を作ろうとしているんですね。アメリカの映画会社が……っていうか、中国に買わちゃいましたけども。レジェンダリーっていう会社が。スーパーヒーロー物がずっと続いているじゃないですか。マーベル・コミックで。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)『アイアンマン』とか『キャプテン・アメリカ』とか。あれを怪獣でシリーズ化しようっていう企画を立てまして。で、とりあえず三部作を作ることになりました。

(山里亮太)あ、この『キングコング』で三部作?

(町山智浩)そう。これが一作目なんですよ。で、2020年までにあと2本作られるんですけども、それの一作目で。今回、髑髏島っていうところでキングコングがそこに大量に住んでいる怪獣たちと勝ち抜きケンカ合戦をします。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)要するにまあ、トーナメント方式なんですよ。で、二作目はゴジラリーグなんですよ。

(赤江珠緒)ゴジラリーグ? ゴジラも出てくるの?

(町山智浩)ゴジラリーグなんですよ。二作目はゴジラとモスラとラドンとキングギドラがトーナメントを行います。で、こっちのキングコングリーグとゴジラリーグで優勝した方が2020年の三作目で対決します。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)もう誰が勝つのかはわかってますけどね。

(赤江珠緒)わかってます?

(町山智浩)どう考えてもわかるでしょう。これは。だってゴジラリーグでラドンが勝っちゃったら、三作目はキングコング対ラドンになっちゃうんですよ?

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)渋いな。

(町山智浩)渋すぎるでしょう。それは。だから勝つのはわかるんですけど。まあ、要するに昔の子供の夢みたいな。ねえ。ジャイアント馬場対アントニオ猪木みたいなもんですよ。

(赤江珠緒)そういうことですね。

(山里亮太)超スーパースターだ。

(町山智浩)そう。全日本と新日本でチャンピオンが戦うっていう夢みたいなもんですよ。誰が勝つかはわかっているわけですけど。その時点のリーグでね。という、子供の夢爆発映画なんですよ。今回。

(赤江珠緒)へー。

(山里亮太)しかも監督がね、オタクな監督ってなると、結構いろんなこだわりがすごくありそうですもんね。

(町山智浩)そう。ものすごいこだわりがあって。たとえば東宝が1962年に『キングコング対ゴジラ』っていう映画を撮っていますよね? それのオマージュも今回、入っているんですよ。

(赤江珠緒)ほー! いろいろ乗せてきますね。

(町山智浩)キングコング対ゴジラに出てくる、ある寿司ネタがありましてですね。寿司ネタとキングコングが戦うんですけど。そっちの東宝版ではね。それがちゃんと今回も出てくるんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)だから怪獣マニアは見ると、「ああ、またこれだ! またこれだ!」っていう感じなんですよ。

(赤江珠緒)はー。

(山里亮太)ポスターの写真がありますけど、左下の方にいるやつかな?

(町山智浩)ポスターを見るとだいだいわかるんですけど。全部書いてありますから。隠してないですからね。今回ね。

(赤江珠緒)そうですね。ポスターが全部乗せになっています(笑)。

(町山智浩)全部乗せになっていますから。おまかせみたいな寿司屋でしょう? 「もう食べてないやつ、ないの?」って聞くと、「もうないんですよ。お客さん、全部食べましたよ」って言われるような。「じゃあもう1周しようか」みたいな世界ですけど。

(赤江珠緒)じゃあね、これ、予告を見ている限りでは、脱出する人間が一生懸命逃げようとしているのかな? と思ったんですけど。怪獣とキングコングも戦ったりするんですか?

(町山智浩)今回、ずーっとその髑髏島にいる大量の怪獣と次々にキングコングが戦っていくという感じなんですよね。ただ、人間の方にも凶悪な人がいてですね。『地獄の黙示録』に出てくるヘリコプター部隊のリーダーっていうのはキルゴア中佐という男なんですよ。で、とにかくナパーム弾が大好きな男なんですけども。それに匹敵する凶悪なアメリカ軍人が出てきます。キングコングを倒そうとして。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)それを演じるのは、あの『パルプ・フィクション』のサミュエル・L・ジャクソンなんですよ。サミュエル・L・ジャクソンはすごいですよ。『スター・ウォーズ』もやっているし、あらゆる映画に出ていますけど。マーベルの方もやっていますからね。隊長ですからね。こっちも隊長なんですけども、サミュエル・L・ジャクソンがやっているマーベルの隊長はいい隊長なんですが。こっちはキングコングを倒そうとする隊長なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、ヘリコプターでキングコングに立ち向かっていくんですけども。僕、今回ね、字幕監修というのをしたんですが、はっきり言ってなにもしていません。今回、字幕翻訳をされた方はアンゼたかしっていう方で、完璧でした。だから僕ね、4つぐらいしか修正をしてなくて、なにもしていないんですけども。前、『テッド』でいっぱいギャグを日本人にわかるように変えたら、ゴチャゴチャゴチャゴチャ、ガタガタガタガタおっしゃる方々が非常に多かりけりなので……(笑)。

(赤江珠緒)ありましたね。そんなことが。はい。

(町山智浩)今回はもう、なにもしていないんですが。まあ、1ヶ所だけ、どうしてもここだけは英語そのままにしてほしいっていうところを、英語のままにしてもらったのがあるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

サミュエル・L・ジャクソンの決めゼリフ

(町山智浩)それはサミュエル・L・ジャクソンさんの決めゼリフっていうか、この人のトレードマークがあるんですよ。この人はとにかく「マザーファッカー」が名セリフなんですよ。「マザーファッカー」っていうのは「自分のお袋さんもヤッちゃうようなとんでもないやつ」っていう悪口なんですが。この人はいままで出た映画30本で、合計180回以上「マザーファッカー」って言っている人なんですよ。

(赤江珠緒)そんなにこのセリフを言いますか!?

(町山智浩)「マザーファッカー! マザーファッカー! マザーファッカー!」って僕、いま言っていますが、これ、アメリカだったらとてもラジオで放送できない言葉ですよ。はい(笑)。日本は自由ですね、マザーファッカー! 

(山里亮太)果たして自由で本当にいま、いいのかな?(笑)。

(町山智浩)いや、いいと思うんですけど。この人がこれを言うと、もうアメリカでは「待ってました!」っていう感じなんですよ。「よっ! サミュエル屋!」みたいな感じなんですよ。

(赤江珠緒)そうなの? そんな伝統芸みたいになっているの?

(町山智浩)伝統芸なんですよ。この人が「マザーファッカー」って言わないと、もう映画を見た気がしないんですよ。この人の映画は。で、この『キングコング』の中でシチュエーション的に絶対に言うだろうと思わせておいて……でも、これは言えないんですよ。アメリカではこの言葉を言った途端にR指定になっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)そうすると、18才未満は見れないんですよ。だから、言っちゃいけないんですけどこの人が言わないと、この人を出している意味がないんですよ。サミュエル・L・ジャクソンが「マザーファッカー」って言わないと、もう意味がないんですよ。だから何度も言おうとするのを、映画会社が止めさせようとするという戦いが映画の中で延々と行われますから。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)さあ、果たしてこのサミュエル・L・ジャクソンは「マザーファッカー」を言うことができるのかどうか?っていうのがこの『キングコング:髑髏島の巨神』の見せ場ですね。はい。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)という映画なんですが、ただね、この映画はいままでの『キングコング』と徹底的に違うところがあってですね。いままでの『キングコング』っていうのは黒人のことを実は描いているという問題があったんですよ。

(赤江・山里)ふーん!

(町山智浩)ジャングルでは王様だったけれども、鎖でアメリカに連れてこられて。で、白人の美女に惚れて死んでしまう、滅んでしまうっていう話だったんですね。いままでの『キングコング』っていうのはずっと。ただ、今回はそれは無しですから。「非常に差別的な話だ」って言われていたんですよ。『キングコング』っていうのは、だから。「キングコングっていうのは黒人のメタファーなんだ」って言われていたんですけど、今回はもうそれは無しですから。だからもうすごくスカッと爽やかなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、もうとにかく70年代ロックの名曲がどんどん流れてくるんで。もう爆音でぜひご覧になっていただきたいということで。ちょっといま、ベラ・リンの『また会いましょう』をかけてもらえますか?

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これは第二次大戦中に英国軍の人たちを非常に元気づけたベラ・リンっていう、現在100才でまだ現役の歌手がいるんですけども。この人のこの歌はですね、スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』っていう1964年の映画でいちばん最後に使われるんですが。これまで、使われているんですよ。今回の『キングコング:髑髏島の巨神』には。だから、どこまで監督はオタクなんだ?って思いました。

(赤江珠緒)はー。しっとりしたいい曲がね。

(町山智浩)いい曲なんですけど、これは非常に不吉な意味とかいろんな意味があって、非常に深い歌です。で、この映画『キングコング:髑髏島の巨神』はとにかく絶対に幕が閉まるまで席を立たないでください。

(山里亮太)あっ! それ、ありがたい。それを知っておくの、ありがたいんですよ。

(町山智浩)はい。これは絶対に完全に終わるまで、席を立たないでください。

(赤江珠緒)なるほど。わかりました。

(町山智浩)ということで、どうしてかは言えませんが。まあ、とにかくもう怪獣で育った人たちはもうお子さんを連れて。本当に『キングコング』をみんな、見に行ってください。ということで、『キングコング:髑髏島の巨神』でした。よろしくお願いします。

(赤江珠緒)はい。今日は今週末にいよいよ公開されるという映画『キングコング:髑髏島の巨神』についてお話いただきました。町山さんの夢がいっぱい詰まっているという映画でございました。

(山里亮太)童心に返っていましたもん。

(赤江珠緒)ということですね。来週は町山さん、帰国中ということで。スタジオに生で来ていただきます。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)お邪魔します。よろしくお願いします。

(山里亮太)ありがとうございました!

<書き起こしおわり>

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