石山蓮華とでか美ちゃん『オッペンハイマー』を語る

町山智浩『オッペンハイマー』を語る こねくと

石山蓮華さんとでか美ちゃんさんが2024年4月2日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『オッペンハイマー』について、町山智浩さんと話していました。

(石山蓮華)先週は「原爆の父」と呼ばれた物理学者ロバート・オッペンハイマーについて描いた映画『オッペンハイマー』をご紹介いただきました。でか美ちゃんも石山も見てまいりまして。

(町山智浩)3時間、大変でしたね。

(石山蓮華)いや、でも私、石山はちょっとお昼寝から起きてすぐの眠いタイミングで見に行ったんですよ。

(でか美ちゃん)危ないタイミングだな(笑)。

(石山蓮華)なんか、『オッペンハイマー』を見るのには一番、適したコンディションではない時に見に行ったんですが……見始めたら本当にしっかり覚醒して。3時間があっという間に感じました。

(町山智浩)ああ、そうですか。

(でか美ちゃん)私、でか美もですね、「町山さんの解説を聞いておいて本当に良かった」というのが鑑賞後の一番の感想で。

(町山智浩)ああ、どのへんですか?

(でか美ちゃん)これは何も知らずに見ていたら、そのモノクロになった演出とか、バーッと原子が動いて見えるような演出とかの意味をあんまりわからずに、半分も理解できてなかったかもと思いつつ。なんか、人間模様みたいな部分とか、オッペンハイマーがどう苦悩して……すごい私があの作品から感じたのは、その戦争というものが始まっちゃうと、みんながその空気に呑まれていくっていう、その恐ろしさみたいな。結構、そういう部分はわかりやすく描かれてたのかなと思って。なんで、「うわあ、クリストファー・ノーランか。3時間か」って思わずに見に行ってもらえたらなとは思ったんですが。ちょっと理解とかが、なんだろうな? ハードルが高いと思う方は、ぜひその先週の、3月末分の町山さんの回を聞いてから見に行ったら、かなり理解できるかなと思いました。

何回も見てやっと全体がわかる複雑な映画

(町山智浩)僕も何回も見て、全体がだんだんわかってくるというぐらいの複雑な映画なんですけどね。やっぱり僕はすごくオッペンハイマーという人について、その人間としては知らなかったので。「原爆を作った人って、どんな人だろう?」って普通、思いますよね。でも、この映画で描かれるオッペンハイマーっていうのは常に精神が不安定で。おどおどしていて。奥さんと前の彼女の間でフラフラ、どっちつかずで。で、友達の科学者たちの奥さんとも関係を結んでしまって。デタラメで。しかも、自分の弟に婚約者を紹介されても無視したりね。で、家を建てたらキッチンを作り忘れたりね。

(石山蓮華)いや、あのシーンはびっくりしましたね。

(町山智浩)どんだけダメな人間なんだ?って思いましたよ(笑)。で、さっき「戦争に流されていく」っていう話が出たんですけれども。だからってこの人、オッペンハイマーってなんか軍服を着ちゃうんですね。

(でか美ちゃん)あれも結構、びっくりしましたよね。仲間にね、ちゃんと咎めてくれる人とかがいたりしてね。

(町山智浩)そうなんですよ。他の科学者が「お前、軍人でもないのに何をいい気になって軍服を着ているんだ? バカか!」って言われるんですけど。そういう、なんていうか非常にダメな……子供大人みたいな人なんですね。で、奥さんにいつも叱られてるしね。それで子育てが面倒くさくなっちゃって、近所の人に「この子、あげるよ」っていう風にオッペンハイマーは言うんですよね。

(でか美ちゃん)とんでもないけど、本当にその科学とかが最優先の人って、こうなっちゃうんだっていう。「じゃあ、作るなよ」とは思いましたけど。

(町山智浩)ねえ。そう思いますよね。あのシーン。びっくりしますよね。あれも、実話なんですよ。人としてかなり壊れてる人で。そういう人が原爆を作ってしまうというね。で、やっぱりそれで死んでいく人のことまで想像ができてないんですね。最初の段階では。だって近所の人の気持ちとか、自分の弟の奥さんの気持ちもわからない人ですから。それは、その海の向こうの爆弾を落とされる人の気持ちなんて、わかるわけないわけですよ。でも、逆にこの人はある一種の超能力者として……これ、映画としては変なんですけどね。その、原子の核分裂とかまで見えてしまう超能力を持っているので。その広島で死んでいく人たちを見ちゃうんですよね。で、そこから悩み始めるんですけど。まあ、なんというか、人間だからみんな、やっぱりダメなところは、あるじゃないですか。でも、そんなダメな人が原爆を作っちゃダメだよね?

(石山蓮華)そうですね。なんか、オッペンハイマーが私、最初にイメージしていたよりも自分に近いところがあるというか。こういうダメさって、多かれ少なかれ、いろんな人がいろんなところで持ってるよなっていう。その権力に近づくと、自分もそちらに染まってしまう部分があったりとか。その、人の権威を自分のもののように感じて振舞ってしまうところって、多かれ少なかれ誰でもあると思うので。やっぱりなんか、そういうことが……その平凡さが戦争を生むのかなっていうのをすごく感じました。

(でか美ちゃん)結構、その「広島と長崎のことを描いてないのがどうなんだ?」みたいな意見もあったじゃないですか。実際にそのシーンは、もちろん描かれてないんですけど。描かれてたとしても、ちょっとショッキングすぎるかなとは私は思ったんですが。でも、ちゃんと描かれていましたよね。その、直接的な表現じゃなくて。ものすごいね、やっぱり日本人だしって言ったらあれだけど。どんどん刻一刻と、もう止められないものとして進んでいく様っていう。なんかそっちの、原爆を落としてしまうまでの描きかたの方が結構なんか、重たい気持ちにはなりましたね。

(石山蓮華)かなりその、演出としても重みを持って描いているんだなと私は感じました。

(でか美ちゃん)完全に反戦映画だと、私は思いました。

(町山智浩)あの原爆を投下したことに喜んでいる、その原爆開発チームの人々がオッペンハイマーの心の中で原爆の炎に焼かれるんですよね。で、その中のもうドロドロに焼けただれた女性って、クリストファー・ノーラン監督の娘さんなんですよ。そういうところにクリストファー・ノーランの覚悟みたいなものが描かれてると思います。ということで『オッペンハイマー』、3時間の長丁場ですが。見ておくべき映画だと思います。はい。

『オッペンハイマー』予告

<書き起こしおわり>

町山智浩『オッペンハイマー』を語る
町山智浩さんが2024年3月25日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『オッペンハイマー』について話していました。
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