町山智浩 2025年ドナルド・トランプ大統領就任式を語る

町山智浩 クインシー・ジョーンズと楳図かずおを追悼する こねくと

町山智浩さんが2025年1月21日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で前日に行われたドナルド・トランプ大統領の就任式について話していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。

(町山智浩)はい。トランプの大統領就任式、これはとんでもない話でね。その就任式をやったのが連邦議会の議事堂なんですね。そこは4年前に自分が支持者というか、暴徒をけしかけて襲撃させたところですよ。そんなところで就任式を……しかも、その暴徒たちを全員を恩赦すると言っていて。もう恩赦する書類にサインしちゃったんですけども。でもその議事堂を守っていた警官が5人も亡くなってるんですよね。じゃあその人たちは何のために死んで、その人たちが死ぬことになった罪によって誰が裁かれるのか? 誰も裁かれないんですよ。あれだけの犯罪が全く罪に問われないまま、消えてしまうっていう……こんな大統領、いないですよ。

ゾッとするなんていうものじゃないですよ。アメリカって「進歩的な国」とずっと言われていたじゃないですか。明らかに、今回のそのトランプの演説と、それからもうすでに大統領令にいくつも署名をしてるんですが、後退……後ろに向かっているんですね。で、今までずっと進めてたその多様性、平等、包括性。そういったものを進めていくという連邦政府の方針を全部、撤回する。で、どういうことかっていうと要するに職場に女性が少ない分、女性を増やしたり。少数民族の人を登用したり。そういうことを連邦政府全体でやっていこうという。体の不自由な人とかを積極的に、平等になるように登用していこうという動き、それを全部やめるって言ってるんですよ。それでいいの?

こんなのがいいわけないですね。あとね、「アメリカには男と女しかいないんだ」って言い切って。要するにLGBTQと言われるような人の存在自体を否定するというですね。これ、政治が言うことではないんだよね。それはそれぞれ、個人の問題ですからね。とにかく、ものすごい後退していて、驚いちゃうんですけど。それで今回、一番はしゃいでたのがイーロン・マスクでね。あれ、ひどかったですね。就任式で浮かれてはしゃいでピョンピョン飛び跳ねて。

で、昨日のその前の日、トランプ自身が「彼がネットでいろいろやってくれたおかげでペンシルバニアで勝利できたんだ」みたいな話をしていて。実際、イーロン・マスクはまずX(Twitter)というSNSを440億円で買ったんですね。そこでも徹底的にトランプを応援して、民主党を批判するデマを流しまくって。さらに、それにプラスで277ミリオンドル、日本円で430億円の私財を投入して各地でテレビのCMをやったんですよ。選挙中ってアメリカのテレビはね、選挙CMだらけになるんですよ。CMが許されてるんで。で、CMの枠を買ってトランプを支援するというよりは、カマラ・ハリスさんに対する中傷・デマCMを流しまくって。その結果、トランプが勝ったわけですけど……これ、金で買った選挙ですよね。だからまあ、ひどいんですけど。

もっと嫌な気持ちになったのが就任式でね、Amazonの総帥のジェフ・ベゾスとマーク・ザッカーバーグ……彼はメタっていう会社をやってますけど。まあ、Facebookですね。彼らが就任式にいたんですけども。普通、そんな就任式はないんですよ。あれ、ただの金持ちですよ? 議員でもないし、何でもないのに……トランプにそれぞれがですね、100万ドルとか200万ドルとか、寄付したんですね。今回。それで就任式に呼ばれて、特別席っていう一番いいところにあの大金持ちたちが立っていたんですけど。こんなの、前代未聞ですよ。

就任式に集う大金持ちたち

(町山智浩)それでザッカーバーグがFacebookで今まで、トランプに関する情報……まあトランプ大統領が要するに「選挙はインチキだ」とか、いろんなデマを流していたんで、それをずっとファクトチェックの人たちがチェックして、消していたんですね。デマが流れると。ところが、トランプは「そのデマチェックをやめろ」ということを求めて、それでファクトチェックをやめるという形でトランプに膝を屈することになりまして。さらに100万ドル、トランプに寄付するということで、金まで取られてるんですが。カツアゲかよっていうね。すごいんですね。

で、Facebookはね、アメリカ以外ではファクトチェックを続けるそうなんで。ファクトチェックが必要だってことはわかってるんだけど、トランプに怒られたから。トランプはデマを流すから、デマを流させるようにアメリカだけではファクトチェックを行わないっていう決定をしたんですよ。こんな、バカな……。さらにジェフ・ベゾスっていう人はワシントンポストという新聞を買収して、持っているんですけど。で、新聞って漫画があるじゃないですか。風刺漫画がね。それでジェフ・ベゾスが100万ドルをトランプに捧げて、トランプにひざまずいてる漫画を漫画家の人は書いたら、それを載せなかったんですよ。

というのは、ワシントンポストって実は非常に伝統的な政府と戦う新聞社で。ペンタゴンペーパーズという、「ベトナム戦争は最初から負けるってわかっていたのにやったんだ」っていう政府文書を載せたり。あとこれは『大統領の陰謀』という映画にもなってるんですけど、ウォーターゲート事件。ニクソン大統領が1972年の大統領選挙の時に民主党を盗聴したということを暴いたのがワシントンポストで。それがニクソン大統領の辞任に繋がったんですけど。ところが、ジェフ・ベゾスは「もう、そういうことはしない」っていう。で、トランプにお金まであげてひざまずいてしまったのでワシントンポストは完全に新聞として終わったんですよ。

大統領を辞めさせるほど追求していた新聞社がひとつ、消えちゃったんですよ。というのは彼はAmazonを経営してるんでね。Amazonは国の認可が非常に必要なビジネスですよね。ものすごい数、物を流通させているわけですよ。ところが、トランプから圧力が加ったらAmazonっていう会社自体がやってけなくなっちゃうわけですよ。あともうひとつ、彼はロケット会社、宇宙開発の会社をやっていて。で、宇宙開発はイーロン・マスクがそれこそ何百億円もトランプに注ぎ込んでいるから、すごく優遇されるわけですよ。これからトランプに。そうすると、Amazonの方は宇宙開発で負けちゃうでしょう? だから、そういうわけにもいかないからトランプにひざまずくっていう。これ、もう金だけですよ。

で、資本主義というのはやっぱり自由競争というものがあって。それで成り立つものなんで。でも政府にどれだけお金をあげるかで企業がどのくらい利益を上げられるのか?っていうことになっちゃうと……これ、日本の今の状況ですね。自民党にどれだけ寄付するかでそれぞれの大企業がどれだけ還元されるか。税金による国家事業とかを請け負うかが決定するという形になっていて。これをやるとどうなるかっていうと、つまり資本主義の根本である自由競争がなくなるので、経済は衰退します。どんどん衰退する。反資本主義的な……むしろ、これは社会主義とか共産主義に近いことになっているんですよ。政府によって企業がコントロールされていくと。

ある意味、日本は先進国

(町山智浩)これ、もう大変な事態ですよ。そしてこれが現在、世界中に広がってるんで。日本はそれを先にやっているから、日本は先進国ですよ。その意味では。自由競争の破壊という意味では。もう本当に絶望的な気持ちになってるんですけど。本当にどうしようかと思ってますが。これがあと4年続くんで。僕はちょっと、なんとかしてアメリカの市民権を取って戦おうかと思ってますけど。本当にね。まあ、僕はどこに行っても……日本では僕、在日韓国人だったし。アメリカでは日本人という少数派なんで。どこに行っても少数派なんで、もう戦うしかないですよ。本当に。まあ、もしかしたら国外に追放されるかもしれないすけどね。

まあ、アメリカという国が人気があったのはとにかく、誰でも受け入れるという移民の国でね。そういう寛容さがあったわけですけど。それ自体がなくなっていって。うちの娘はアメリカで生まれたんでアメリカ国籍なんですけど。これ、出生地主義っていうのを取っていて、アメリカで生まれるとみんな、アメリカ人になるんですよ。ところが、トランプはそれをやめるという大統領令にも今日、署名しましたね。

で、この大統領令の実効性という話ですが、憲法違反の場合は憲法判断が必要になるんですよ。大統領令が憲法違反の場合っていうのは、よくあるんですよ。特にトランプ大統領は憲法をよく知らない人なんで。ただ、現在は最高裁がトランプに任命された人たちで支配されてるんで、まあ憲法判断が通っちゃうそうな気がしますね。はい。

アメリカという国はソフトパワーっていうのがあって。みんな、アメリカに憧れるのはアメリカが自由で進歩的だからじゃないですか。そのアメリカの魅力を自ら壊してるんで。これはすごく自分の首を絞めることになっていくだろうなと思いますね。これだと、アメリカに憧れなくなっちゃうもんね。だからどうなるかなって。ただこれ、世界的に広がってることなんで。今日、話す映画もそうなんですねどね。今日、話す映画(『おんどりの鳴く前に』)はルーマニア映画ですね。

こねくと・2025年1月21日放送回

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