吉田豪 百田尚樹を語る

吉田豪 百田尚樹を語る たまむすび

(吉田豪)で、その百田さんの考えとして、放送作家の時から、『同じことはやりたくない』っていうのが根本にあるらしいんですよ。で、そういうのは『これ、前にやったやん』ってことで極端にモチベーションが下がる。失敗してもいいから何か新しいことに挑戦するのがモットーで。だから作家になった時も同じ作品は書かないようにする。50才でデビューだから自己方法をしていたら時間がもったいない。でもこれ、『作家の生き方としてはいちばんダメだ』って言うんですよ。

(玉袋筋太郎)うんうん。

(吉田豪)要するに、読者は何か売れたら同じような作品を求めるし。出版社ももちろん求める。で、売れる。書店も喜ぶ。全員が得をするんですよ。

(玉袋筋太郎)幸せになりますよ。

(吉田豪)『でも、嫌なんですよ、それ』っていう(笑)。そのせいで、最初はぜんぜん売れなかったっていうね。書店の友達に『なんで僕の本、売れへんのかな?』ってぼやいたら、『当たり前。ブレすぎだもん』っていう(笑)。

(玉袋筋太郎)(笑)

(吉田豪)でも、『そうやってファンの望むものを書くのはたしかにプロの仕事だけど、しゃあない。僕の性分やし・・・』ってことで、ファンの期待を裏切り続けてきたと。

(玉袋筋太郎)だけどさ、聞いてると、普通放送作家の人っつーのはさ、会議とかでさ、話、どっか衝突したらそこを調停する人とかさ、そういう人がいるじゃん。タイプとして。この人は、そういうタイプじゃなかったんだろうね。

(吉田豪)ぜんぜん違ったみたいですね。

(玉袋筋太郎)うん。敵、多かっただろうね。

(吉田豪)売れる放送作家ってね、そういうちゃんと空気読める人な気がするんですよ。

(玉袋筋太郎)そう。空気読める人、多いと思うよ。

(吉田豪)ぜんぜん逆だったみたいですよ。

(玉袋筋太郎)かぁー!でも、素人時代があったわけだよね。『ラブアタック!』に出てたっつーんだからね。素人。

『ラブアタック!』の名物素人

(吉田豪)そうです。放送作家の原点が、視聴者参加の恋愛バラエティー番組『ラブアタック!』。朝日放送制作。むさ苦しい男たちがかぐや姫にアタックして1人が選ばれるか?選ばれないか?っていう番組で。その中に、だんだんいかに視聴者を笑わせるか?に命をかける『みじめアタッカー』と呼ばれる人たちが出てきて。百田さんはそのみじめアタッカーで。いわゆる名物素人だった。

(玉袋筋太郎)名物素人なんだね!

(吉田豪)情けないことをやって失敗する役。それは本当に、『実は計算だった』と本人は言ってるんですよ。

(玉袋筋太郎)計算?

(吉田豪)たとえば最初に出た20才の時は、めちゃくちゃ気弱で上がり症なキャラを設定して、スタジオでひっくり返って鼻血を出す。鼻血っていうのも実は偽流血で。でも、周りの人は誰も気づかないで。ほら、テレビで血ってアウトじゃないですか(笑)。でも、そういうのが評判で、また呼ばれて・・・みたいになって。

(小林悠)それ、自分で考えたんですか?

(吉田豪)考えたらしいんですよ。で、その結果ファンレターが何通も来て。で、女子大の学園祭にも呼ばれまくって。百田尚樹モテ時代が訪れるっていう(笑)。

(玉袋筋太郎)(笑)

(吉田豪)で、奥さんがまた、かぐや姫なんですよ。その。

(小林悠)あ、番組の中の?アタックされる。

(吉田豪)そう。みじめアタッカーがかぐや姫を落としたっていうね。

(玉袋筋太郎)すごいじゃないですか!これ。大金星。

(小林悠)成功したんですか?番組内で。

(吉田豪)番組外なんですよ。番組外で飲み会をやるようになって落としたっていう(笑)。

(玉袋筋太郎)(笑)。上手い、上手い。

(吉田豪)で、そういうのをやっているうちに、『放送作家としてやらないか?』って呼ばれるにようなるっていうね。

(玉袋筋太郎)そうか。『面白いからお前、ちょっと来いよ』みたいな感じなんだね。

(吉田豪)そうです。そうです。

(玉袋筋太郎)入り口はそういうこともあるかもしれないね。

(吉田豪)そしてその4の、『クビの歴史』っていうことにつながるんですね。

(玉袋筋太郎)そう。『ケンカしなかったら仕事って増えるんだな』って。当たり前なんだけどね。これね。

(吉田豪)そうです。当たり前です。放送作家って仕事も知らないで始めて。なんとなく、週に1、2回、企画会議に呼ばれて。そこで2、3時間しゃべったらお笑いで。だんだん、『これは仕事なのか?』っていうね、葛藤を覚えて。『アホみたいなことを言っただけの気がするのに、これは何なんだろう?』と。しかも、番組の企画会議では20代の若造だった百田さんが40代のプロデューサーやディレクターに『それ、ぜんぜんおもろないわ』とか『そんなんぜんぜんダメ』とか、ダメ出ししまくり・・・

(玉袋筋太郎)(笑)。トンパチですな、こりゃあ!

(吉田豪)で、そのうちに『口は悪いけど、言っていることは面白い』って最初評価されていたのが、だんだん『あんなやつと一緒に仕事したくない』ってどんどん片っ端からクビになるようになり・・・(笑)。

(玉袋筋太郎)おおー!

(吉田豪)20代の放送作家の歴史はクビだらけ。クビの歴史。

(玉袋筋太郎)そうだろうな。これ。

(吉田豪)で、気づいたら30になって。結婚して子供もできて。『これは真剣に働かなきゃいけない』と思って。で、『いつかはちゃんとした職業に就かなければ』と思っていたら、なぜか放送作家が正業になってしまって。そのうちに、ケンカも減ってきたと。そして、『ケンカしないと仕事って増えるんだな』と思った。

(玉袋筋太郎)そん時、気づいてるんだったらね、Twitterとか騒動の時とか、ケンカしなけりゃよかったのに。

(小林悠)そうですね!

(吉田豪)(笑)。まだ、気づききってない(笑)。

(玉袋・小林)(笑)

(玉袋筋太郎)気づききってないな(笑)。まあまあ、性分なですよね、これね。で、その5の、この『権力なんて興味ない。ずばり、大人になりきれないおっちゃんなんです』の筋。

(吉田豪)そうですね。作家になって売れて。そしてだんだん権力寄りになっていったような印象があって。よく、こういう風に言われると。

(玉袋筋太郎)これがあるから、随分叩かれる部分、あったもんね。

(吉田豪)そうなんですね。『権力が好き』ってよく言われるらしいんですよ。で、『「権力に擦り寄って」って言われるのは本当に腹が立つ』と言っていて。まあ、要するに本人曰く、百田さんと安倍首相が知り合った時も安倍さんは野党だったし。民主党が全盛期の時で、百田さんは当時、Twitterで民主党の悪口ばっかり言ってたら、雑誌『WiLL』の編集者から『ページ数あたえるんで、好きなこと書いてください』って言われて。そこで、『私がいちばん期待しているのは安倍さんだ』とエールを送ったら、それがきっかけで2人が対談し、交流が始まり。『百田さんの言葉にすごい励まされた』と安倍さんが言ってきて・・・みたいな感じで。

(玉袋筋太郎)おおー!

(吉田豪)そういう、だから当時としては勝ち目のなかった総裁選の前で。だから、そっちを味方していたような側だったのに、立場が変わっちゃったわけですよね。

(玉袋筋太郎)なるほどね。

(吉田豪)要するに。自民党政権になり・・・

(玉袋筋太郎)そうだよ。この頃ってあれじゃねえの?たかじんさんもさ、安倍総理と親交があったんだよね。この頃。一緒に旅行に行ったりして。

(小林悠)ええーっ!?

(吉田豪)そうです。そうです。風呂に入ってね。

(玉袋筋太郎)風呂、入ってんの。で、たかじんさんにもやっぱり励まされたっていう話もあったみたいだよね。

(吉田豪)で、その時、僕も思ったんですよ。結局だからね、当時の民主党とか当時の権力ですよね。権力に対して噛み付いていた時は光る人なんだろうけど、安倍さんが首相になっちゃって、そのバランスが崩れちゃったんだろうなと思ったんですよ。

(玉袋筋太郎)本当、そうだな。

(吉田豪)プラス、NHKの経営委員になったりとか。そういう、権力寄りの仕事が増えちゃったことによるっていうね。

(玉袋筋太郎)そう。だからやっぱりちょっとね、レフティーな人にね、そう言われちゃうわけですよ。

(吉田豪)(笑)。でも、怒ってましたよ。『月に2回、東京に出てきてNHKから2千万もらっている』って記事が出て、『なんで2千万ももらえんねん!?』って。NHKがそんなに出すわけねえだろ?っていう(笑)。

(玉袋筋太郎)本当にヒールになっちゃったんだよね。うん。それでまた、口が立つしね。

(吉田豪)で、その時に僕、聞いたんですよ。『アンチが増えだしたきっかけって・・・そんなに昔、アンチが多かった印象なかったんですよ』って言ったら、『そうなんですよ。やっぱり「殉愛」の騒動が大きかったかな』ということで。

(玉袋筋太郎)ああ、『殉愛』ね。

『殉愛』騒動

(吉田豪)たしかに『殉愛』以前はそこまで叩かれていなかったと思うんですよね。で、という流れで実は『殉愛』の話ってほぼデリケートで。裁判案件になっているから、テレビに出た時も、『「殉愛」の話以外だったらなんでも話します』っていう人なんですよ。だから、こういうような流れだったら聞けるなと思って、僕、そうやって踏み込んだんですよ。

(玉袋筋太郎)上手い!(笑)。

(小林悠)自然と。たかじんさんの話ですよね。

(吉田豪)そうです。そうです。いろいろね、訴訟トラブルになっているんで。だからね、『あれ、ちょっと面倒くさいことに関わったなみたいな思い、あります?』って聞いたら、『いや、それはもうしゃあないですからね』みたいな感じで。あんまり後悔しないタイプだからっていう。だからサバサバした感じで、いい感じだったんですよ。

(玉袋筋太郎)うん。

(吉田豪)ところがですよ、その後で、別のパートで『殉愛』の話をしていたんで。それは結構込み入った話だったんで。それは削らなきゃいけないなと思っていたら、あとで、『ちょっと百田さんが気にしていたんで「殉愛」の話は削ってくれ』って言われて。『あ、ぜんぜん。もう最初から載せるつもりもないんで、問題ない』っていう感じで削ったと。このやり取りだけ残していたんですよ。

(玉袋筋太郎)うん。

(吉田豪)そしたら、『「殉愛」では嘘は書いていない。これはいずれ裁判で全部明らかになります』って余計なことを付け加えてきたんですよ(笑)。

(玉袋・小林)(爆笑)

(吉田豪)『百田さんが「言わんでいいことを言う」って、これだ!』と思って(笑)。

(玉袋筋太郎)これなの!そういう性分なんだよ。

(小林悠)こっちが削っているのに(笑)。

(吉田豪)そこだよ!わかってるでしょ!?っていう(笑)。書かなきゃいいのに、それ!っていう(笑)。

(玉袋筋太郎)まんまと、それはでも、うん。はまったというかね。

(吉田豪)で、ちなみに『殉愛』の話が始まった時に、僕、現場にいた編集の人に言われたんですけど。『吉田さんは本当に怖いですよ』って言われて。要するに、そういう話が始まった時に僕、一切うなずきもしないし。『ええ』とかのリアクションもしないんですよ。ひたすら『無』でこう・・・してて(笑)。

(玉袋筋太郎)(笑)

(吉田豪)『さあ、どうしようかな?』みたいな(笑)。

(玉袋筋太郎)(笑)。いやー、『殉愛』も読んだな。俺も。読んだよ。

(吉田豪)『殉愛』も面白いし、『「殉愛」の真実』も面白いし。

(玉袋筋太郎)『殉愛』ビジネスだよ。あれ。

(吉田豪)『2冊並べて読むと、最高』って僕、公言してるんですよ。

(小林悠)どっちから先に読んだらいいですか?

(吉田豪)『殉愛』からですね。やっぱり。

(玉袋筋太郎)『殉愛』を見て、『おおっ、すごい!こんなできた女性がいるのか!』みたいなところから入ってって。そいでもう1冊読むと、『あれっ!?』みたいな。これも面白い。

(吉田豪)『ど、どこまでが本当なのか!?』と思いながら。プロレスファン的にはこういうの、面白いんですよ。裏読みの(笑)。

(玉袋筋太郎)こっちを出せば、こっちが・・・みたいなね。あるから。そういったものが。さあ、そして、これ、作家としてね、感じているところ。テレビ人としてももちろんね、感じるところがあると思うんですけど。『活字を読む人は絶滅危惧種。本の世界はマニアの世界だ』っていうこの筋なんだよね。

(吉田豪)まあね、その通りであるんですけど、これをはっきり言うと、どれだけ角が立つのか?っていうことですよね(笑)。

(玉袋筋太郎)そうなんだよね!よく言うじゃん。『テレビの視聴率で・・・』っていうことを百田さん、言っちゃってるわけだもんね。

放送作家としての感覚

(吉田豪)そうですね。百田さん、作家になってテレビとの差を歴然と感じたわけですよ。『たとえば、いま夜の9時台の番組で視聴率5%とかを取ったら即打ち切り。ゴールデンで3%って聞いたら悲惨な数字だけど。それでも、実質360万人ぐらいが見ている計算になる。これを本で言ったらすごい数字。村上春樹さんでも360万部は売れない。そういう世界なのに、要は本なんて果たして現代でどれほど影響のある文化なのか?鉄道オタク以下の世界かもしれない』と。

(玉袋筋太郎)怖いなー。

(吉田豪)『文楽のファンとかと変わらないんじゃないか?能とか狂言とか、そういう世界だよ、これ。いま、ゲームとかDVDとか映画とかインターネットとかスマホとか、人々の余暇の食い合いで。1日働いてご飯食べて風呂に入って、睡眠時間もいる。余暇の時間、せいぜい1、2時間のそれをいろんなメディアが食い合っている中で、活字を読む人間なんて絶滅危惧種に近いはず。そんな中で、いわゆる作家村とか文芸評論家とかがえらいふんぞり返っているように見えるから、腹が立ってしょうがなくて。どうしてお前たち、そんな偉そうにしてるんだ?』と。で、噛み付いていくわけですよ。

(玉袋筋太郎)(笑)

(吉田豪)で、基本、作家は嫌いっていう。なぜなら、みんな読者の方を向いていないからっていうことで。『小説を書く時、本当に思うのが、本当、ありがたい仕事で。一生懸命働いている人に余暇のサービスをするのがアーティストやスポーツ選手で。作家もそうだと考える。小説なんてなくてもいいものなのに。むしろ、平和だからこそできる仕事で』っていう。

(玉袋筋太郎)でも、そこまでやっぱ言うんだな。

(吉田豪)だからこそ、『売れなくなったら、読者のニーズがなくなったら即引退だ』って言ってるんですけど。でも、あれ!?って思うんですよ。さっき、ファンの期待を裏切り続けてきた話をしていて。読者の方を向いていない作家が多いって、あなたも!?っていう(笑)。

(玉袋・小林)(笑)

(玉袋筋太郎)たしかにな!

(吉田豪)向きましょうよ!っていう(笑)。

(玉袋筋太郎)『文壇バーなんて、行かねえ』って言うんでしょ?

(吉田豪)言ってました。言ってました。まあ、ケンカになるでしょうからね。

(玉袋筋太郎)ケンカ、仕掛けられるよ。仕掛けられるんだから!文壇バーなんつーのは。

(小林悠)しかもそれ、ちゃんと買っていくでしょうしね。

(吉田豪)ねえ。玉さんもケンカしてましたもんね。

(玉袋筋太郎)いやいや、それはね、しましたし。

(吉田豪)水道橋博士もしてましたよ。文壇バーでケンカ(笑)。

(玉袋筋太郎)ああー、もう怖い怖い。

(吉田豪)坪内祐三さんとしてましたよ(笑)。

(玉袋筋太郎)俺は坪内さんとはね、結構仲良く飲みますよ。ええ。

(吉田豪)おお!

(玉袋筋太郎)『楽しい人だな』って。

(吉田豪)酒飲み同士ね。

(玉袋筋太郎)でも、あの人にはつかまったんだよな。あれ、何だ?名前、ど忘れしちゃった。ええと・・・まあ、いいや。いいや。

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