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町山智浩『ドリームプラン』を語る

町山智浩『ドリームプラン』を語る たまむすび
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町山智浩さんが2022年2月8日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ドリームプラン』を紹介していました。

(町山智浩)ということで、『さがす』の次は今日、話す予定だった『ドリームプラン』という映画を紹介します。これはプロテニスプレイヤーのビーナス・ウィリアムズとセリーナ・ウィリアムズっていう姉妹がいますよね。その2人を育てた父親のリチャードさんをウィル・スミスが演じていて、アカデミー賞確実と言われてる映画なんですよ。

(山里亮太)確実?

(町山智浩)僕、テニスはあまり詳しくないんですが。このビーナス&セリーナ・ウィリアムズっていう人たちはすごいですよね?

(赤江珠緒)もうずっと君臨してましたよ。女子テニス界で。

(町山智浩)ねえ。すごくって。この人たち、グランドスラムっていうのがあって。全豪、全米、全仏、あとウィンブルドンの4つをまとめて優勝するっていうのを何度もやっていて。それプラス、オリンピック優勝のゴールデンスラムっていうのもあって。

(赤江珠緒)そうそう。なんかお子さんを産んでからも優勝したりとかね。最も稼いだ、その女性アスリート1位みたいになってたり。

(町山智浩)そう。で、そのゴールデンスラムにさらに乗っけて、年間ツアー最終戦でも優勝をするというスーパースラムも達成しているというね。まあ、記録的に信じられないようなスーパースターのテニスプレイヤーが一体、どうやって育てられたのか?っていう映画なんですね。この『ドリームプラン』という映画は。

(赤江珠緒)興味深い。

(町山智浩)でね、これテニスに全然興味ない人もめちゃくちゃ面白いっていうか、ちょっとどうかしてる内容の映画なんで。まず、どういう風にどうかしているのかっていうと、このお父さんのリチャードさんっていうのは貧しい黒人男性なんですけども。テレビを見ていて、あるプロテニスプレーヤーが4日間で賞金を4万ドル(約400万円)稼いだっていうのを見て、びっくりするんですね。普通の人の年収ぐらいを4日で稼いだというわけですよ。で、「これから子供を作ってその子たちをテニスプレイヤーにしよう!」って決めるんですよ。まだ子供はその段階ではいないの。

で、いきなりノートを出して。生まれた子がスーパーテニスプレイヤー、世界一のテニスプレイヤーになるまでの計画表を書くんですよ。このおっさんが。80ページぐらいの計画書を書くんです。でね、まず生まれた子たち、その姉妹のビーナスとセリーナに教えるんですけど……この人、テニスをやったことがないの。

(赤江珠緒)それがびっくりだったの! あのウィリアムズ姉妹のお父さん、テニスをやってないんだって。

(町山智浩)元々、テニスって白人の金持ちのスポーツなんですよ。で、彼が言うには「南部の黒人だからKKKから逃げる人のに忙しくってテニスなんかやったことがなかったよ」とか言っているんですけども。本当に見様見真似でこの子たちにテニスを教えるんですけど。でね、その教え方もなかなかめちゃくちゃで。朝から晩までずっとテニスをやらせるんですよ。まあ、学校は行かせるんですけど。で、あまりにもテニスばっかりやらせてるんで、近所の人が「児童虐待だ」って警察に通報して逮捕されたりしてるんですよ。

(山里亮太)へー! それぐらい?

(町山智浩)それぐらい。で、また彼自身は夜警をしていて。奥さんは看護師をしてて。で、昼間の間はテニスをお父さんが教えて、夜になるとお母さんが勉強を教えて、お父さんは夜警として働くっていうギリギリの生活をしてて。で、ちっちゃいちっちゃい部屋に奥さんの連れ子3人とこのビーナスとセリーナ2人、5人の子供を詰め込んで、貧しく暮らしてるんですけども。で、そのテニスの練習をどこでするか?っていう話になるんですね。この人たちね、コンプトンっていうところに住んでるんですよ。

(山里亮太)コンプトン?

(町山智浩)コンプトンっていうのはN.W.A.っていうラップグループが出てきたところで。『ストレイト・アウタ・コンプトン』っていう映画にもなっているんですけども。アメリカでも最悪……だから世界でも最悪のギャング地帯、犯罪地帯、殺人地帯なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

アメリカ最悪の犯罪地帯・コンプトンで暮らす

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(町山智浩)そこの公園に、誰も使わないテニスコートがあるんで、そこでテニスを教えているんですね。で、そうすると近所のギャングがちょっかいを出しに来るわけですよ。女の子ばっかりで集まっているから。で、「うちの子にちょっかいを出さないでくれ」って言うと、ギャングにボコボコにされちゃうんですね。すると、お父さんは夜警をやってるから、拳銃を取り出してそのギャングどもを殺しに行くんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!?

(町山智浩)「ええっ!?」って思いましたよ。むちゃくちゃなんですけど。「これ、嘘だろう?」と思ったら、実話なんですね。殺してはいないんだけども、殺そうとしてるんですよ。なかなかすごくてね。このお父さん、すごくて。とにかく自分が「テニス、やれ!」とか言うと子供たちには「パパ、イエス、パパ!」っていう風に答えるように教え込んでいて。子供たちに。もう軍隊形式なんですよ。で、その子供たちに将来、テニスプレイヤーになった時のインタビューの練習をするんですけど。たとえば「ビーナスさん、あなたにとって人生の中で一番の親友はどなたですか?」ってアナウンサーのふりをして聞くと娘は「パパです!」って答えるように訓練をするんですよ(笑)。すげえと思って。

(赤江珠緒)徹底してる!

(町山智浩)徹底していて。じゃあ、なんでこんな非常にひどいギャング自体に住んでるかっていうと、元々はロングビーチっていう、ちょっと安全なところに住んでたんですよ。でも、その貧困のどん底の暴力地帯で育てることによって、子供たちがタフに育つっていう理由でそこに引っ越しているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、わざわざ?

(町山智浩)わざわざ。「何者?」っていう話なんで。もう、あらゆる点で本当にどうかしてるお父さんなんですけど。子供たちがね、ちょっとした試合で勝って「わーい!」って喜んでると「こんなもんで喜んでいるんじゃねえ!」って子供たちをそのギャング地帯のど真ん中におろしちゃうとか。あと、いいところもあって。貧しいところに暮らしてるんですけど、すごい金持ちの街とかに行ったりするんですよね。すると、豪邸が並んでいたりするですよ。そうすると「ああ、豪邸だね。この人たちはお金持ちだね」とは言わないんですよ、このお父さん。リチャードさんは。「これよりももっとデカい家をいくつも、お前たちは持つようになるからな!」って言うんですよ。

これはなかなかいい教育で。みんな、結構いい家とか見ると「ああ、すごい豪邸ね」とか言ったりするじゃないですか。そうじゃなくて、「これよりもデカい家をお前たちは持つからね」って子供に教えるんですよ。だから、すごくモチベーションと自信をこのお父さんは与えていくんですね。ただ、お金がないから……テニスのコーチって、ものすごく高いんですって。だから、お金でコーチを雇うことはできないから、コーチたちをさっき言ったそのドリームプランの計画書を見せて。「この子たちは将来、めちゃくちゃすごい選手になるから、あんたたちもそのコーチをすれば、大儲けできるよ」って言って勧誘して回るんですよ。「だから、タダでコーチをしてくれ」って言って。

(赤江珠緒)はー! 揺るぎない自信があるんですね。

(町山智浩)でも、オリンピックに出る人ってほら、フィギュアスケートとかもそうですけど。コーチってそうじゃないですか。コーチビジネスっていうのは存在するわけですよね。で、その子たちがいろんな賞金を取ったり、あとはたとえばナイキとかと契約して、契約金をもらったりすると、その何パーセントかを取れるんですよね。そういう契約なんです。だから、投資なんですよ。で、非常に有名なテニスアカデミーがフロリダにあるんですけど。寄宿制の……錦織選手なんかもそういうアカデミーに留学してたんですけど。そこにとうとうこのビーナスとセリーナは迎えられるんですよ。つまり彼女たちはもう将来、大スターになるからっていうことで。だからコーチ料をタダにするだけじゃなくて、この家族が住む家と、家族たちの生活費も出してくれるんですよ。

(山里亮太)ええっ! そうさせるほどの魅力がそのドリームプラン、ノートにはあったんですね。

(町山智浩)いや、彼女たちの能力なんだと思います。その段階で12歳ぐらいなんですよ。だから「これは絶対に行ける」と思ったんですね。ただ、そういうところに行っても、このお父さんこういう人ですから、コーチにバンバン口を出すんで、ものすごく嫌われていくんですけど。で、この映画ね、成功物語なのかと思って見たらそうじゃなくて。このお父さん、あんまりいい人として描かれていないんですよ。

(赤江珠緒)えっ、そうなの? だって結果、大成功じゃないですか。

父親はあまりいい人として描かれない

(町山智浩)結果的には大成功なんですけど、ものすごい傲慢な人なんですよ。それでこれ、元のの英語タイトルが『King Richard』、「リチャード王」っていうタイトルなんですけど。それは実際にこのリチャードさんがあまりにも傲慢だから、「王様気取りだ」って言われてたことを元にしてるんですよね。

(赤江珠緒)悪口じゃないですか(笑)。

(町山智浩)悪口なんですよ。

(山里亮太)これ、「子育ての参考に」とはいかないね(笑)。

(町山智浩)そう。いいところだけ取るしかないと思うんですね。で、そういう風に最初から世界一にするっていうことでやっていて。勉強もさせるんですけどね。「テニスばっかりしてないで、勉強しろ!」って言うんですよ。なぜかというと将来、世界的な選手になった時に、フランスとかドイツとかイタリアでもインタビューされる。その時に現地後でしゃべれるように……ということで徹底的に勉強させるんですよ。

(赤江珠緒)すごいね、それはね。役に立つもんね、たしかに。

(町山智浩)そう。だから12、3歳で4か国語、しゃべれるようになっているんですよ。このウィリアムズ姉妹は。すごいんですけど。じゃあ、なんでそこまでやるか?って言うと、そのリチャードさん曰く、「俺は実は南部でものすごい差別を受けて育ったんだ。白人にボコボコにされた時もある。その時、父親は助けてくれなかった。誰も俺をリスペクトしなかったんだ。今まで。だから俺は娘たちを世界中の人にリスペクトさせたいんだ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。それが原動力?

(町山智浩)原動力なんですけど。ただね、奥さんはちょっとぶち切れるんですよ。このリチャードに。奥さんの演技が素晴らしいですけど。アーンジャニュー・エリスっていう人がやっていまして。あまりにも自己中心的な父親なので、とうとう最後ぶち切れるところがあるんですけど。「あんたね、仕事してないんじゃないの!」って言うんですね。「あんた、その前にセメント会社をやってたけど、失敗したでしょう? クリーニングビジネスもやったけど、失敗したでしょう? 自分がうまくいかないから、娘で金を稼ごうとしてるだけでしょ?」って言うんですよ。この奥さん。で、さらに「『俺は家族を大事にする』とかとか言ってるけど、あんた、前の家族……前の奥さんとの間に5人の子供を作ったけれども、養育費も送らずにほったらかしにしてるでしょう?」って言うんですよ。

(赤江珠緒)えっ、そうなの?

(町山智浩)そうなんです。「息子が『養育費をくれ』って出てきたわよ?」って奥さんが言うんですよ。そういう人……ものすごく欠陥だらけの男としてリチャードは描かれているんですけど、そのへんもすごくて。ウィル・スミスがこういう役をやるということは……この人っていつも自信たっぷりの役ばっかりだったんで。だから非常に珍しいですね。で、この映画は彼、リチャードさんが主人公なのにもかかわらず、リチャードさん自身はこの映画を見てないらしいんですよ。なんと。これ、制作をしたのはウイリアムズ姉妹なんですね。で、リチャードさんはこのウイリアムズ姉妹が成功した後、奥さんに離婚されてるんで、縁がなくなっていて。

(赤江珠緒)ああ、そうなんだ!

(町山智浩)で、彼の許可を得ないで作られた彼の伝記映画なんです。すごい変なことになってますよ、これ。本人は見てないというね。そういう悪いことも全部描いてるんで。

(赤江珠緒)ちょっと複雑ですね。でも、このお父さんのそれがなければウィリアムズ姉妹はいなかった感じですもんね?

娘2人の自立を描く

(町山智浩)いなかったんですよ。ただ、この映画のポイントはその「父親が頑張りました」っていうことではなくて、この娘2人が父親からどのように自立していくかという物語なんですよ。でね、そのコーチがタダで彼女たちのことをコーチをするかどうか判断をするために、そのコーチがこう聞いたんですよ。「父親に言われたからとか、そういうことじゃなくて君自身が将来、何をしたいんだ? 君自身の夢は何なんだ?」って聞くんですね。そうするとビーナスは「ウインブルドンで誰よりも多く勝つことです」って答えるんですよ。で、コーチは「この子は行ける!」と思って……要するに、彼女は「勝ちたいです」ではなくて「勝ちます」って言うんですよね。

で、ビーナスのことをコーチすることを決めるんですね。それで今度、妹のセリーナに向かって「君は?」って聞くんですね。「君の夢は?」って聞くんですよ。そうすると、彼女はちらっとお父さんを見ちゃうんです。そしたらコーチは彼女を教えることをやめるんです。つまり、自分の意志でやってない。お父さんに言われたからやってるんだ。お父さんのことを気にしてるから。それで、セリーナのことはコーチしないんですよ。で、セリーナはそれが悔しくてめちゃくちゃ頑張って、「お姉さんを越えてやる!」っていう風に頑張って。それで実際に越えるちゃうんですよね。

(赤江珠緒)そうですよね。結果、セリーナの方が稼いだ額でも上回ってきますもんね。

(町山智浩)そう。勝った数でもお姉さんを越えるんですけども。つまり、自分自身のモチベーションじゃなかったものを自分の闘志に変えていく話なんですよ。この2人が。父から自立して……っていう話なんですけど。まあとにかく金額とかを聞いてると気が遠くなるような話でね。これ、ビーナス・ウィリアムズがプロデビューをしたのは14歳なんですよ。

(赤江珠緒)14歳か……。

(町山智浩)それで、40万ドルの賞金を取って。しかも、リーボックとの契約を取るんですけど、リーボックの契約が1200万ドル。12億円。14歳でですよ?

(赤江珠緒)14歳で。

(町山智浩)これは、すごいんですよ。という話でね、これね、変なお父さんではあるんですけども、ひとつ間違ってないのはとにかく「お前らはナンバーワンだ! うちの娘はナンバーワンだ! 誰にも負けないよ!」って言い続けたことなんですね。「絶対に勝つ!」と。それが彼女たちの中に自信を作って、それこそ父親からも自立していく自信を育てたってことは間違ってないですよ。で、この映画の中でこのウイリアムズ姉妹たちがみんなで楽しく歌う歌があって。それが今、流れていると思うんですが。ホイットニー・ヒューストンの『Greatest Love Of All』という歌なんですね。

(町山智浩)これも前に何回か『たまむすび』でかけたんですけども。これ、元々はモハメド・アリの映画のために作られた歌なんですよ。モハメド・アリが「The Greatest」って言われていたから、それを歌にしたもので。これは「この世で一番グレートな愛とは何か? それは自分を愛することなんだ」っていう歌詞なんですよ。で、アフリカ系の人たちはさっき言ったみたいに、自分を愛することがなかなかできなくて。それは前から差別されてるから。「自分が最高だ」とか「自分は勝つ」っていう気持ちになかなかなれずに育てられたから。だからモハメド・アリは自分のことを「Greatest」って言い続けたんですよね。で、これは「まず自分を愛することが全ての始まりだ。自分を愛せないと、人も愛せないよ。そこから始めよう」っていう歌なんですよ。

(赤江珠緒)そうね。

(山里亮太)なるほどな。

(赤江珠緒)この姉妹にそれだけを植え付けたんですね。このパパはね。

(町山智浩)このお父さん、いろいろ間違っているお父さんなんですけど。そこの部分だけは正しい教育だったんですね。

(赤江珠緒)ウィリアムズ姉妹は今、パパとの関係はどうなんだろう? 気になりますけど。ダメなのかな?

(町山智浩)なんかなんかよくわからない関係みたいですけど。疎遠みたいですけど。ということで、「この映画のビデオも送ったけど、見てるかどうかわからない」っていう風にコメントしていました(笑)。

(赤江珠緒)ああ、そう?(笑)。

(町山智浩)そういうところはおかしいんですけど。そういうことでね、非常に素晴らしい歌だったんですけども。『ドリームプラン』は2月23日から日本公開ですね。

(赤江珠緒)また本当、映画みたいって言うけど、本当の話ですからね。とんでもない話ですね。『ドリームプラン』は2月23日から公開。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

『ドリームプラン』予告編

<書き起こしおわり>

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