町山智浩『別れる決心』を語る

町山智浩『別れる決心』を語る たまむすび

町山智浩さんが2023年1月17日放送のTBSラジオ『たまむすび』で韓国映画『別れる決心』を紹介していました。

(赤江珠緒)そうですか。それが『パーフェクト・ドライバー』。

(町山智浩)まさにパーフェクトな感じなんですけど。で、もう1本の方は、逆になんだかわけがわからない映画です。職人技とは全く逆の方向です。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)非常に奇妙な奇妙な映画で、『別れる決心』という映画なんですけれども。これはですね、パク・チャヌクという韓国のニューウェーブの巨匠で。ポン・ジュノと並んで韓国映画を世界的なものにした監督ですね。『オールド・ボーイ』とかですね、復讐三部作とか。アメリカでも映画を撮ってますし。あと僕、『たまむすび』で『お嬢さん』っていう映画を紹介しました。

(赤江珠緒)ああ、見ましたよ!

(町山智浩)エロい映画ですね。

(赤江珠緒)何回、どんでん返しがあるんだ? みたいな。

(山里亮太)最後に「うおっ!」って言っちゃうやつ。

(町山智浩)そうそうそう。あれは日本が韓国を支配していた頃の日本人のお嬢さんと韓国人のお手伝いさんのラブストーリーなんですけど。話がどんどん転がっていって、日本まで最後、来ますし。何がなんだかわからないっていう、すごい展開で。しかも結構スカッと終わるっていう映画で。

(赤江珠緒)面白かった!

(町山智浩)ねえ。面白かったんですよ。エロかったしね。

(赤江珠緒)あれ、映画館に妊婦の時に見に行きました(笑)。

(町山智浩)あれはちょっと胎教によくない映画ですけどね(笑)。

(山里亮太)すごい言葉もいっぱい出てくるし(笑)。

(町山智浩)そうですね。日本だと放送禁止の言葉がいっぱい出てきますよね。韓国の人にとっては何でもない外国語だからね、平気で言っていますけども(笑)。で、そんな非常に変な映画ばっかり撮っているパク・チャヌク監督がですね、今回は刑事物なんですけれども。刑事物なのか、ラブストーリーなのか、ちょっとわからない。どこに話が転がっていくのか、全然わからない映画なんですね。この『別れる決心』は。まあ、タイトルを見ると完全にラブストーリーなんですけどね。『別れる決心』ってね。

非常にメロドラマな感じなんですけど。これね、主人公の刑事がいきなり射撃訓練するところから始まるんですけども。これが、佐々木蔵之介さんによく似た俳優さんですね。この刑事さんはね。ものすごく、射撃の的に正確に当ててるんですよ。もう、ど真ん中しか当たってないんですね。で、非常に慎重で、完璧な刑事だってことがわかるんですよ。

それでいつも服にはですね、ポケットが12個ぐらいついてるんですよ。改造して。で、ありとあらゆるものがそこから出てくるという、ドラえもんみたいな人なんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、準備も万端で。

(町山智浩)よくスッとティッシュ出してくれる人って、いるじゃないですか。サッとハンカチを出す人って、いるじゃないですか。この人はサッといろんなものを出すんですよ。リップクリームとか、ニベアとか、いろんなものを次々と出すドラえもん刑事なんですけど。とにかく用意周到で、超完璧な刑事なんですね。ところがある事件と出会うんですよ。それは山に登ってたロッククライミングを愛好する金持ちの男が転落死して。ただ、その奥さんがですね、非常に若い美しい中国人なんですね。

で、これを演じるのはタン・ウェイさんという人で。この人はアン・リー監督の、これはアメリカでも非常に当たった『ラスト、コーション』っていう映画で世界的に評価された人で。『ラスト、コーション』っていうのは、やっぱり日本が上海を支配していた時に、中国人だけれども日本側に寝返って、中国側の抗日ゲリラ、反日ゲリラを狩り立てている悪いやつがいたんですね。で、その彼の情報を引き出すために彼女が餌として彼に近づいて。セックスをしながら情報を引き出すっていうスパイ物だったんですよ。『ラスト、コーション』っていうのは。

で、彼女は10年以上前にそれに出て、全裸でものすごいセックスシーンを演じて世界的に注目された女優さんなんですけれども。で、そのタン・ウェイさんが容疑者として、「旦那を殺したんじゃないか?」ということで、取り調べを受けるわけですよ。で、その旦那の死体の爪には彼女の皮膚があったんですよ。そうすると、「つかみ合いをして殺したんじゃないか?」っていう風に疑いますよね。そうすると彼女は「いや、それはここを引っかかれたんです」って言って。取調室でスカートをまくって、その上の方の、太ももの方のひっかき傷を見せるんですよ。すると刑事さん、ドキドキですよ。ドキドキで、もうどんどん彼女を好きになっていっちゃうんですけどね。

(赤江珠緒)ええっ?

容疑者をどんどん好きになってしまう刑事

(町山智浩)「なんか女優さんみたいだな」って言っていて。「女優だよ!」って思いましたけどもね。それで、もう好きになっちゃって、取り調べの時にはですね、最高級のお寿司を注文したりするんですよ。もう見るからにうまそうな、1万円ぐらいの超高級寿司をね、取り調べて……普通取り調べって、カツ丼でしょう? ねえ。いきなり、だからすごいお寿司を出すんでね。他の刑事とか、「あんな寿司、取り調べにねえだろ!」とか怒り狂ったりしてるんですけど(笑)。そういうね、えこひいきしちゃうんですよ。容疑者に対して、この刑事さんが。あれだけ優秀だったのに、もうメロメロになっていって。

それでどんどんどんどん彼女を調べていくんですけど。で、やっぱり怪しいから張り込みをしてですね、見張るわけですよ。双眼鏡で彼女のマンションの部屋を窓からね。それで見ているうちに、そのマンションに自分も入ってるという自分の姿を想像しちゃうんですよ。で、彼女がタバコを吸ってると、そのタバコの下にすっと灰皿を出す自分とかを妄想するんですよ。刑事なんだけども。

(赤江珠緒)なるほど(笑)。

(町山智浩)「お前、大丈夫か?」っていう話になっていって。ちょっとおかしいんですよ。コメディみたいなんですよ。そのへんが。で、あとものすごくですね、さっき言ったみたいにタン・ウェイさんはものすごいヌードシーンで出てきた人なのに、今回はもう一切、そういう直接的なシーンがまるでなくて。この2人もほとんどですね、指先が触れ合う程度しか触れ合わないんですよ。ちょっとキスぐらいはするんですけど、ほとんど触らないです。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから、逆にその2人の抑えた感じが、ものすごく……ちょっと指が触れ合っただけで、2人ともドキッとしたりする感じがすごいリアルでエロチックなんですよ。逆にね。で、彼女のその手に貼ってあった絆創膏を取り替えてあげるんですね。この刑事、絆創膏もいつも持ち歩いてるんですよ。ドラえもんなんで。佐々木蔵之介さんに似てますけど、ドラえもんなんですよ。それで、絆創膏を貼るでしょう? すると彼女は1人になった時に、ふとその絆創膏に口づけをするんですよ。わかる?

(赤江珠緒)あれ? 彼女の方も気持ちが……思いを寄せているの?

(町山智浩)見ている方も、そのシーンでわかるわけですよ。それって、ない? 誰か好きな人に払ってもらった絆創膏に思わず口づけするみたいな感覚って。もう、ないか?(笑)。

(山里亮太)いや、過去の青春時代を思い出して……。

(赤江珠緒)そうね。過去を思い出しても、なかったわ。ごめん(笑)。

(町山智浩)今、ものすごく思い出そうとしていたけども、時間がかかり過ぎてます。過去が遠くなっちゃってるから(笑)。ただ、この彼女の気持ちっていうのは、そういう形でしか示されないんですよね。で、このじわじわした感覚、これがね、今までパク・チャヌクっていう監督は『お嬢さん』でもそうですけど。ものすごく直接的なエロチシズムとかセックスシーンとかを出したり。あと復讐三部作とか、強烈なバイオレンスだったんですね。もう本当に血みどろのシーンとかを見せてた人で。それなのに今回は徹底的に抑えることで、逆に一番セクシーな映画になっているという。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これはね、うまいんだなと思いますよね。

(赤江珠緒)でも、被疑者と刑事っていうことですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、調べれば調べるほど、どんどん怪しくなってくるんですよ。彼女が。どう考えてもおかしいぞと。しかも彼女は中国から韓国に来てるんですけれども。中国でどうも殺人を犯したらしいと。それで密かに韓国に密入国してきた。で、殺された旦那っていうのは、実はその移民局の役人で。彼女を好きになったんで、韓国に移民させたんだけれども……っていう関係がわかってくるんですよ。で、この彼女は体に入れ墨をしているんですが、それはこの殺された男のイニシャルなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、この男は自分の持ってるもの全てに自分のイニシャルを刻み込んでいたんです。怖いでしょう?

(赤江珠緒)怖い、怖い……。

(町山智浩)怖い話になってくるんですよ。だから、彼女は旦那を殺す動機があるわけですよ。で、どんどん彼女は怪しくなれば怪しくなるほど、刑事はどんどん彼女が好きになっちゃう。「それ、ダメだろ?」っていうね(笑)。

(赤江珠緒)これは困ったもんだな。

真面目な人がどんどんダメになっていく

(町山智浩)そういうね、だから見ていると「うわっ、どんどんダメになってく。大丈夫か?」っていう映画なんですけど。それでいて、この真面目な人がそういうことでどんどん失敗していくのって、やっぱり笑っちゃうところあるんですよね。俺みたいなのが失敗すると、「まあ当たり前だな」ってなるんですけども。「またやってんのか」と思いますけど(笑)。こういう真面目なね、佐々木蔵之介さんがね、ドラえもんの。それがどんどんどんどんヤバいところに足を踏み入れてくおかしさみたいなね。「ああ、ダメダメダメ!」っていうおかしさがね、おかしいんですよ、これ。というね、これは不思議なミステリーで。

(赤江珠緒)そうですね。だから捜査する以上、その彼女のことは注目しなきゃいけないんですもんね。仕事柄ね。

(町山智浩)そうなんです。だからこれね、すごく面白いのはね、この中でセリフで出てくるんですけど。「『あなたのことを知りたい』っていうことで調べていって、『知りたい、知りたい』と思う気持ちは、やっぱり恋なんだ。逆にそれがなくなったら、愛は終わるんだ」みたいな話が出てくるんですよ。人を愛するというのは、そのよくわからない人のことを「どんな人なんだろう?」って知りたいっていう気持ち。それが恋愛なんだっていう話が出てくるんです。実はこの刑事、奥さんもいるんですよ。

(赤江珠緒)あらら!

(町山智浩)これね、刑事と犯人というものを通してですね、「恋愛とは何か?」みたいなことを結構語ってる映画になってますね。

(赤江珠緒)どういう結末になるのか……これ、また気になる映画ですね。

(町山智浩)これまたとんでもない結末なんですよ。この刑事はね、とにかく迷宮入り事件とか未解決事件が大好きなんですよ。で、未解決事件の現場写真とか、部屋の壁中に貼っているんですよ。すると、この彼女がですね、「あなたは私よりも未解決事件の方が好きなの?」みたいになってくるんですよ。で、未解決事件を……要するに、未解決のままだから彼がそれにとりつかれている。ならば、解決しちゃえばいいっていうことで、解決したりするんですよ。

(赤江・山里)ええーっ!?

(町山智浩)すごいでしょう?(笑)。未解決事件に、嫉妬してるの。「あなた、これに夢中だから解決しちゃうわ」って、解決しちゃうんですよ。どんな話なんだ?っていうね。「これ、もう解決したから。この写真、貼らないでいいでしょう?」って、バリバリ剥がして焼き捨てたりするんですよ。他の女の写真に嫉妬してるみたいなシーンなんですよ。「なんだ、この映画?」っていうね、非常に面白い映画ですね。

(赤江珠緒)それが『別れる決心』。

(町山智浩)タイトルから内容が全然わかんないですね。原題通りなんですが(笑)。

(赤江珠緒)そうなんですね。『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』は1月20日日本公開です。そして『別れる決心』は2月17日に日本公開となります。町山さん、今日もありがとうございました!

(町山智浩)どうもでした!

<書き起こしおわり>

町山智浩『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』を語る
町山智浩さんが2023年1月17日放送のTBSラジオ『たまむすび』で韓国映画『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』を紹介していました。
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