町山智浩さんが2020年11月10日放送のTBSラジオ『たまむすび』に出演。アメリカ大統領選挙で当選が確実視されるようになったバイデン氏の大統領就任後の仕事や、敗れたトランプ氏の今後について話していました。
Let me be clear: I campaigned as a proud Democrat, but I will govern as an American president. pic.twitter.com/Mv5hHI2Rb3
— Joe Biden (@JoeBiden) November 5, 2020
(赤江珠緒)ひとまず、お疲れ様でした。大統領選の取材であちこち行かれて。
(町山智浩)はい。なかなか集計がね、すごく時間がかかったんで眠れなかったですよ。夜中じゅう起きていて。
(赤江珠緒)でしょうね!
(山里亮太)いつ、どんな形の答えが出るかわからない状態で。
(町山智浩)そうなんですよ。だからもうダラダラと起きていて。もうほとんど寝なかったですけど。
(赤江珠緒)でも、町山さんが先週仰ったようにペンシルベニア。本当にここが結構キーになりましたね。
(町山智浩)はい。ペンシルベニアで決まりましたね! 本当にね、外さなくてよかったです(笑)。
(山里亮太)いやー、仰った通りでしたけども。
(町山智浩)それはね、世論調査が事前にかなり出ていて。今回、事前投票とか郵便投票の人がすごく多かったんですね。コロナのせいで。投票日当日に人が殺到すると感染しやすくなるから。だから、かなり前の世論調査が正確だったんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そうですか。
(町山智浩)だからそれを見て、それぞれの州を埋めていったんですよ。「こっちの州はこっちが勝つな。こっちの州はこっちが負けだな」みたいな。それで最後に残った、どちらに転ぶかわかんない州で、選挙人数っていうポイント数が20点という非常に大きい場所だったのがペンシルベニアだったんですよ。だからペンシルベニアが最終決戦地になるなと思って行ったら、当たりました。
(赤江珠緒)そうですか! だからもう今、アメリカでは一応、放送なんかも次期大統領はバイデンさんという風にしているんですか? 放送とかもしていますか?
(町山智浩)しています。全てのメディアは「elected」っていうんですけども。「選出された大統領」っていう意味ですが。それはバイデンさんだという形で報道をしています。
(赤江珠緒)じゃあ、もう「バイデン氏勝利」ということにはなっているんですね。
(町山智浩)なっています。ただ、アメリカ政府自体が正式にはまだ認めてないんですよ。これはですね、もうちょっとして12月8日に各州が最終的な勝者を決定するというタイミングが来るので。その時に正式に決定するんですけどね。
(赤江珠緒)ああ、そうなんですね。12月に。
(町山智浩)ただ普通は「勝ち目がない」と思った方の候補が「負けました」って言うことで大統領選は終わるんですよ。
(赤江珠緒)この敗北宣言っていうのはかならず、今までの大統領選では皆さん、されてるんですか?
(町山智浩)そうです。それで終わりっていうのが通常だったんですけど。トランプ大統領は選挙前から「私が負けたら、その選挙は不正だから負けを認めない」と言っていたんで。だから事前に言っていた通りの状況になっています。
(赤江珠緒)そうですね。
(町山智浩)それで裁判とかをしようとしてるんですけど。もうすでに裁判をいくつも起こしてるんですが、各州の裁判所の方で蹴られている状態ですね。
(赤江珠緒)じゃあ、トランプさんの主張というのはそんなに通っていないんですね?
(町山智浩)全然通っていないです。片っ端から却下されている状態です。ただね、これはもう不可能に近いなと思っているのは、まず彼は「不正があった」ということを言ってるわけですね。でも、さっき言ったペンシルベニアではバイデンさんの方が4万票、得票数が多いんですよ。「4万票の不正」っていうのはちょっと無理だろうっていう。アメリカの投票は日本と違って先に投票人登録をしてから投票するんですね。で、その登録した情報と投票用紙が一致しないと票がカウントされないので、投票用紙だけを偽造したとしても意味がないんですよ。
(赤江珠緒)ほー! うんうん。
(町山智浩)それでは集計されないんですよ。で、その投票した人の自分の投票がカウントされたかどうかが確認できるようなシステムになってますので、まず入り込めない。あと、集計所には民主党と共和党の両方の人があらかじめいるんですよ。どこの集計所にも。で、その集計しているところを監視するんですよ。そういう状況で、またその集計所は密閉されていて、関係のない人が入れないようになっているんですね。そこに4万票という票を持ち込むことは不可能に近いんですね。
4万票ってトラックとかに乗せるぐらいの量ですよね? それだけ大量の票を入れ替えることはできないし、またその登録者そのものをねつ造することができない。だから、ほとんど不可能なんです。これは無理だなっていう。で、トランプ大統領が「票の数え直しをしろ」と言ってるんですけど、数え直しをしても、その3万票とか4万票とかの差はまあ、変わらないでしょうね。
(赤江珠緒)そうですねちょっと覆る数字じゃないですもんね。じゃあ、トランプの支持者ももうだいぶ熱が収まってきているとみていいんですか?
(町山智浩)いや、トランプさんの支持者の人たちはトランプさんの言う通りに「これには何かの陰謀があったんだ!」と言ってまだ、いろんなところで暴れてる状態になんですけどね。ただ、すごく問題なのはトランプ大統領は今回の選挙でお金を500億円ぐらい使いまして。で、途中でそのお金がなくなっちゃったんですよ。で、支持者の人たち……ちなみに僕もトランプさんの支持団体に(情報収集のために)入っていますので。そうすると、すごい量、毎日毎日「お金をくれ! お金をくれ! お金をくれ!」っていうメールが来るんですよ。
(山里亮太)ああ、寄付を募っているんだ。
資金難のトランプ氏
トランプ選挙部から支持者への献金募集:
「最後通告
あなたは、選挙を守る活動に参加(寄付)への呼びかけをこれまで全て無視しました。あなたはエリック(次男)、ララ(次男の妻)、ドン(長男)、副大統領、そして大統領自身も無視しました。無数の愛国者が立ち上がりったのにあなたは立たないのですか?」 https://t.co/1jVWv3GK55— アメリカ政治 (@America_seiji) November 9, 2020
(町山智浩)はい。で、選挙戦の間もずっとそれをやって、やっと大統領選が終わったら今度は「不正選挙だったから裁判をやるので、裁判費をくれ」っていうことで。またお金の無心が来てるんですけど。それによると、「裁判には最低でも62億円が必要だ」って言っているんですね。でも、これまでにすでに支持者たちは寄付疲れをしていて。
もう寄付は限界に来てるんで、ここからさらなる寄付を募るのは無理だと思います。というのは、トランプさんの寄付者の53パーセントは小口の寄付者なんですよ。みんな、田舎のあんまり豊かではない人たちが一生懸命、お金をなんとか工面してトランプさんに寄付してきたお布施なので。ここでさらに62億円というのはちょっとキツいですね。トランプ大統領は大資本家からお金を集めていた部分が途中でなくなっちゃったんですよね。
(赤江珠緒)そんなに使ったんですね?
(町山智浩)500億円使ったんですよ。だからね、結構この裁判費用は集めにくいと思います。あと、やっぱりそれでもお金が足りなかったらしくて。裁判費用を求めているそのメールをよく読むと、「この寄付のうちの半分はそれまでの選挙に使ったお金の負債の返済に充てられます」っていう風に書いてあるんですよ。
献金サイトを下までスクロールしていくと、法的な開示内容とともに「50%の寄付はトランプ選挙部の債務返済にあてられます。50%は再集計にあてられます」と書いてあります。 pic.twitter.com/hl7lplsmia
— アメリカ政治 (@America_seiji) November 9, 2020
(赤江珠緒)ああ、そうなんですか。裁判用ではなくて、そっちの補填にする部分もあるという?
(町山智浩)はい。だからかなりキツい状態ですね。なので裁判は難しいかなという風に思いますね。あと、裁判をして、再集計とかをするにしてもさっき言ったみたいに12月8日が限界なので。そこまでには1ヶ月しかないんですよね。だからまあ、ちょっと無理っぽいなと。
(赤江珠緒)そうですね。話を聞くが本当にもうトランプさんには目はないんじゃないかと思えるんですけども。それでもトランプさんがまだ戦うっていうのは、どうしてなんです?
(町山智浩)これまでに負けを認めたことがない人だからだと思います。つまり、トランプさんの口癖っていうのはお父さんから言われたことが原因なんですけども。「負け犬(Loser)」っていう風に人のことをすぐ呼ぶ癖があって。これまでにものすごい数、言っているんですよ。数えた人がいるんですけども、何百回、何千回と言っているんですよ。「お前は負け犬だ! 負け犬だ!」って。
たとえばミット・ロムニーさんという人が昔、オバマさんと大統領選で争った時に負けたんですけど。彼のことも「負け犬だ!」って言ったりね。で、ひどいものになるとジョン・マケインさんという人がいて。その人もオバマさんに2008年の選挙で負けたんですけども。その人に対しても「負け犬だ!」と言っていて。要するに選挙で負けた人を「負け犬」呼ばわりする癖があるので、彼は負け犬にはなれないんですよ。
(赤江珠緒)はー! じゃあもう意地とプライドの問題で?
(町山智浩)あともうひとつはやっぱり今、大統領なので不逮捕特権があるんですね。起訴をされないんですよ。でも、大統領じゃなくなったらたぶん起訴されますんで。いろんな形で今、彼はいろんな疑惑があって。まあ起訴には至らなくても裁判をやらなきゃならないんですよ。
(山里亮太)でも、裁判をできるお金がない?
(町山智浩)その裁判というのもものすごい数で。セクハラとかレイプだけで20件以上、訴えられています。
(赤江珠緒)うわっ、そんなに抱えてるんですか?
(町山智浩)はい。そうなんです。
(山里亮太)じゃあ、この選挙で負けたって敗北宣言した瞬間に?
(町山智浩)来年の1月20日に大統領を辞めた途端に、ものすごい裁判が待っています。
(山里亮太)で、その裁判に負けていくとどんどん罪が明らかになっていって?
(町山智浩)明らかになっていって。脱税とかもあるんですが、裁判以上に恐ろしいって言われているのが450億円の負債です。
(赤江珠緒)なんか相当な借金があるそうですね。
(町山智浩)これも大変で。すでにその返済期限が近づいてるんですね。
(赤江珠緒)じゃあ大統領じゃなくなったら、トランプさんはかなり個人的に破滅になるということなんですか?
(町山智浩)その可能性が高いですね。だから彼自身が今、探ってるのは大統領を辞めた後も共和党の重鎮として政治に関わっていく……要する彼は上院議員とかではないですから。地位がいきなり一般人になっちゃうんですよ。だから一般人じゃないように地位を固めた段階で、大統領としては敗北を認めるんじゃないかという風に言われてますね。
(山里亮太)でも周りが今までの行動を見て、その地位を固めるのに力を貸してくれるということはあるんですか? 党内で。
共和党内の政治的地位を維持したいトランプ氏
(町山智浩)あると思います。共和党は今、党自体の中核の部分がトランプさんに完全に潰されてしまったんで、トランプ党になってしまったんですよ。だから共和党が彼を切り捨てて、本当に独自の共和党に戻るのか? それとも彼を切り捨てることによって大きく支持を失うよりかは、トランプさんを内部に取り込んで続けていくのか?っていう選択を迫られている状態です。で、トランプさんは何とか……その政治的な地位がなくなるといろいろとヤバいので。お金とか。だからそれを維持したいっていう。
(赤江珠緒)そういうことなんですね。
(町山智浩)だからそのへんで今、どうなるか?っていうところです。
(赤江珠緒)一方でバイデンさんはバイデンさんで次期大統領になってもそれはそれで大変ですね。
(町山智浩)はい。とにかくトランプさんが自分の信者たちに「周りのやつはみんな敵だ。マスメディアも信じるな。他のやつはみんな悪魔なんだ」と言い続けてきたので、アメリカはもう真っ二つに分断されちゃったんですね。で、これをひとつにしなければアメリカはやっていけなくなるので。それでバイデンさんの今回はほとんど……僕も前から言っている通り、バイデンさんというのは全く画期的な政策がない人なんですよ。
で、とにかく彼がずっと言ってたのは「アメリカをトランプ以前のアメリカに戻そうよ」ということだけで。今回の勝利演説でもその話かしてなかったですね。だから「私に投票しなかった人のためにも大統領として働きます」って言ったんですよ。「そこには民主党のアメリカとか共和党のアメリカっていうものはなくて、我々はみんなただのアメリカ人なんだ。だからそれに戻りましょうよ」って言ってましたね。
(赤江珠緒)そうでしたね。うん。
(町山智浩)だからあれはね、その前に彼の親友だったジョン・マケイン上院議員という人がいまして。彼がオバマさんに2008年の大統領選で負けた時、そういうことを言ったんですよね。「我々は政策の違いで対立していたけれども、こうやって選挙が終わったから。みんなオバマ大統領の下で一緒にアメリカは頑張っていきましょう」って言ったんですよね。それが、今までのアメリカだったんですよ。でも、そうじゃなくなっちゃって。トランプ大統領は「あいつらは悪魔で共産主義でアメリカを滅ぼそうとしている。中国にしようとしている!」とか、そういうことを言っていたんで。ものすごい憎しみを煽っていましたから。だからこれを何とか解消してからじゃないと、改革とかを始められないですよね。
(赤江珠緒)そうか。解消できそうですか?
(町山智浩)だから僕はね、バイデンさんを民主党が選んだ時、「なんて弱い候補なんだろう」って思っていたんですよ。演説も本当に下手だし、熱狂がまるでないし。それでトランプ大統領が彼のことを「最弱の大統領候補」って言っているんですけども。「あんな最弱の候補に俺が負けたら、恥ずかしいからアメリカを出ていってやる」とまで言ったんですけど。ただ、それがよかったのかなっていう気がするんですよ。トランプ大統領はバイデンさんをなんとかしてものすごく悪いやつに仕立て上げようとしていて。「過激な左翼だ」とか言っていたんですけど。バイデンさんはその挑発に乗らなくて。ずっとただの普通のおじいさんみたいな感じでやってたんですよね。
(赤江珠緒)うんうんうん。
(町山智浩)だからそれがすごくよかったのかなと思ったんですね。だから元々バイデンさんってそういう人なんですよ。
(赤江珠緒)たしかに常識人って感じですね。
(町山智浩)というかね、「Centrist」っていう風に英語では言うんですけども。これは「Center」から来ている言葉なんですが。バイデンさんは民主党の中では最も共和党寄りの人なんですよ。だから妥協的なんですよ。それでトランプさんがバイデンさんのことを「47年間も政治家をやっていて、何も改革とか画期的なことをしてねえな」って言ったんですよ。それはね、バイデンさんの仕事が民主党と共和党が協議して法律とかを議会で決めるわけですよね。その時に妥協をすることが仕事だったんですよ。
よく「廊下を渡る」って言われてるんですけど、民主党と共和党がガチガチになって「あいつらには絶対に譲らないぞ!」って言ってる時に、民主党のバイデンさんは共和党の方に行くんです。で、「こういう風にしたら、これを通してくれる?」っていう話をして。
(赤江珠緒)調整役ですね。
(町山智浩)そう。「共和党の方はこう言ってるから、こういう風にすれば話が通りそうだよ」っていう。その間に立って両者を調整する仕事の人だったんですよ。マケインさんもそうだったんです。マケインさんは共和党の中で最も民主党寄りだったんです。で、この2人は実は親友なんですよ。バイデンさんが若い政治家だった頃、マケインさんは海軍の士官で。バイデンさんが世界中の海軍の基地を回るっていうツアーをやった時に、マケインさんが案内でついていったんですよ。
で、それから家族ぐるみで付き合うようになって、マケインさんが上院議員になった後もずっと親友なんですね。だから2人は仲がいいんですが、その背景には要するに「絶対に妥協しない!」っていう人たちがいっぱいいるわけですよ。左派とか。で、それに対してこの2人が調整をしていくっていう形だったんですね。手に手を取り合って、右と左に分かれている者たちの間のアメリカを目指していた2人なんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)でも、それが「国」ですよね。「どっちかの言う通りにする」って、そうじゃないんですよね。歩み寄って妥協点を見出していって、そこに進んでいくしかないんですよね。それをずっと40年間やってた人なんですよ。バイデンさんっていうのは。
(赤江珠緒)じゃあすごい基本の基本みたいなところに戻ったっていう感じですか? アメリカは。
(町山智浩)戻そうとしているんですよね。だからたとえばその民主党の中でも左派と言われてる人たちは健康保険を完全に日本みたいに国有化したいとか、あとはグリーンニューディールっていうんですけども。石油とか全部、禁止してしまって。完全なエコエネルギーだけにしようとか、非常に過激な改革がいっぱい出てるんですよ。
(赤江珠緒)なるほど。
(町山智浩)警察を全部解体してもう1回、再編し直すとかね。それに対してバイデンさんは賛成をしていないんですよ。完全に。全然。それをいきなりやったら、それでまた分断を呼んでしまうから。だから彼はトランプ大統領のせいでこんなに真っ二つに分かれてしまったアメリカをもう1回、ひとつにしようという仕事だけをするために今回、大統領になったんですよ。だから改革案は特に何もないんですよ。
(赤江珠緒)なるほど。
分断されたアメリカをひとつに戻す
(町山智浩)だから僕、ペンシルベニアっていうところに行ってすごく、その山奥を回っていったんですね。1日に何時間も車に乗って。そこで驚いたのは、ペンシルベニアの山奥ってトランプ支持者ばっかりなんですよ。それでモネッセンという街に行ったんです。そこは製鉄の街だけど、もうほとんど製鉄が滅びちゃったんで、ゴーストタウンになってるんですよ。ところがそこにトランプ大統領が来たっていうんですよ。「えっ?」って思うんですよ。
それは「街がもうどうしようもなくなっちゃって、誰も助けてくれないから助けてください」って手紙を市長さんが連邦の議員とか大統領とかに対して片っ端から送っていったんですね。そしたらその時、大統領候補として出てたトランプさんのところにも手紙を送ったら、彼は来たんです。誰も来ないのに、トランプだけが来た。で、その街の人たちはもうトランプさんをずっと信奉してるんですよ。
(赤江珠緒)そうか!
(町山智浩)それをアメリカ中でトランプさんはやったんです。だから「ウルトラどぶ板ツアー」と言われても……まあ、俺が付けたんですが。
(赤江珠緒)だからあれだけの票を集めたわけですもんね。
(町山智浩)そう。そういったアメリカの田舎に住んでる白人のブルーカラーの人たちは昔の石油とか石炭の産業をやっているんで、もう忘れられてるんですよ。元々は民主党支持の人たちが多かったんですね。労働組合だから。でも民主党はそのへんはすごく弱くなっちゃったんで、結構ほったらかしにしてたんですよ。
で、どっちの党にも行けないから、そういう人がいっぱい住んでるところはいわゆる「浮動州・スイングステート」になるんですね。で、彼らは「民主党はインテリと非白人のための党だし、共和党は金持ちの党で、誰も俺たちのことを振り向いてくれない」って言いながらフラフラと揺れ動いていたんですが、そこにトランプが来たんです。で、こう言ったんですよ。「あなたたちのことをもう、『忘れられた人々』にはしないよ」って言ったんですよ。
(赤江珠緒)それはグッと来ますね。
(町山智浩)だからトランプさんはそのへんのいわゆるラストベルトと言われる州を全部掴んだんですよ。ものすごい数、田舎を回って。それを今度はバイデンさんがやらなきゃならないんだと思うんですよ。ただ、トランプさんはもう滅びゆく産業をもう1回、再興させるという無理なやり方をしたんですね。でも、これからは彼らを未来に連れて行かなきゃなんないんだと思います。見捨てるんじゃなくて。
だからそういう仕事がすごくたくさんあるので、バイデンさんの仕事は大変なんですが。まあ彼自身が「大統領は4年でやめる」って言っているんですよ。つまり、「トランプでバラバラになってしまったアメリカを元に戻す」ということだけが彼の仕事なので。みんなが「アメリカ人」に戻る時なので。それが終わったら彼の役目は終わりなんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そうですか。
(町山智浩)そこから先は新しいアメリカに進むんですよ。で、そのためにカマラ・ハリスさんがいるんですよ。
(赤江珠緒)ああ、やっぱりカマラさんが。
(町山智浩)というね、カマラ・ハリスさんのカタパルトとしての役目なんですね。バイデンさんの役目は。そのへんが僕もね、最初はちょっと分からなかったんですよ。「バイデンさん、候補者として弱いな」と思ってて。演説も下手で……でも、あの朴訥さみたいなのが逆にそのインテリに対する反感を持ってる人たちを取り込める、その人たちが共感を持てる人になるんじゃないかなという気もしますね。
(赤江珠緒)ああ、そうですか。この時期ならではの当選なのかもしれないですね。
(町山智浩)そう思います。トランプさんみたいな強烈な人がいたからこそ、バイデンさみたいな、そこらのおじいちゃんみたいな人がアメリカを癒す時に来てるんだなと思いますね。互いを傷つけ合っていたんでね。そう思いました。
(赤江珠緒)そうですか。はい。ということでね、町山さんに今のアメリカの現地レポートをしてもらいました。ありがとうございます、町山さん。
(町山智浩)はい。どうもでした。
<書き起こしおわり>