菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』の第10次韓流最高会議の中で、2015年、ディアンジェロ『Black Messiah』とケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』によって決定的に変化したブラックミュージックのトレンドについて、最近のKヒップホップを聞きつつ、語っていました。
(菊地成孔)と、まあそんなヴィヴィアンさんですけども。ここ最近のおすすめというか。ハイライトでいいですし、ハイライトじゃなくても構いません。
(ヴィヴィアン)おすすめというか、ハックルベリーP(Huckleberry P)の曲をかけたいなと思って。彼、ソロでも曲をやっているんですけど、ピノダイン(Pinodyne)っていう2人組をやっていて。1MC、1プロデューサーっていう形態をとっているんですけど。MCがハックルベリーPで、あと、プロデューサーのソウルフィッシュ(Soulfish)っていう2人でやっているんですね。そのピノダインっていう人たちの曲をかけたいなと思って。
(菊地成孔)はい。
(ヴィヴィアン)で、彼らは結構ファンクロックな音楽をやる人たちなんですよ。で、そういうところが結構面白いのと、あと、ハックルベリーPってフリースタイルのナンバーワンラッパーっていう風に言われてるんですけど。彼のそういうスタイルとかも感じつつ、聞ける曲かなと。
(菊地成孔)(笑)。韓さん、『フリースタイルって何?』っていう顔をしてましたけど。
(韓東賢)いやいや、一応・・・わかります。
(菊地成孔)本当ですか?(笑)。わかりますか?ええと、トラック・・・
(ヴィヴィアン)2曲目ですね。じゃあピノダインの『ガリバー旅行記 Pt. 1』という曲、お聞きください。
Pinodyne – 걸리버여행기 Pt 1 (feat. Evo)
(菊地成孔)はい。これはもう、すごいパーティー・・・
(ヴィヴィアン)そうですね。
(韓東賢)楽しい。
(ヴィヴィアン)もうぜんぜんヒップホップっていうか、完全ロックっていうか、ファンクロック。
(韓東賢)酔っ払って、からみたい。
(ヴィヴィアン)からみたいです。でも、生楽器の音がすごいよくって。
(菊地成孔)あの、日本人も手仕事っていうか・・・日本と韓国はどっちも手仕事っていうか、楽器の練習がすごいんで、ミュージシャンのスキルがね、ヤバいんですよね。アジアの中では。あのね、これはね、お二人がどの程度反応していただけるか微妙なところなんですけど。今年は、アメリカのオーバーグラウンダーのブラックミュージックにとってはレボリューションっていうか。完全にトレンドがセットされた年なんですよ。
(韓東賢)うん。
(菊地成孔)それはね、ディアンジェロ(D’Angelo)っていう人と、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)。で、ディアンジェロの新譜とケンドリック・ラマーの新譜がもう上半期に出てしまって。これが今年のナンバーワンっていうのを越えた、先行き10年間を決定するアルバムって言われていて。
(ヴィヴィアン)うん。
(菊地成孔)で、ケンドリック・ラマーっていう人はラッパーなんですけど。その人はロバート・グラスパー(Robert Glasper)なんかをアルバムに入れて。ジャズのトラックで、いままでと全く違ったフロウをものすごい勢いで打ち出してきて。オールドスタイルっていうか21世紀スタイル。ジェイ・Zスタイルっていうか。いままで、誰もが『ああ、あれね』ってすぐわかるオーバーグラウンドのヒップホップの形から生演奏。で、ジャズの複雑な響きに戻したんですね。
(ヴィヴィアン)うんうん。
(菊地成孔)戻したっていうか、変えたんですね。でね、ディアンジェロっていう人は変わった人で。変わった人っていうか、まあ長いキャリアの中でアルバムをまだ2枚しか出してない(笑)。
(ヴィヴィアン)そうなんです。2枚目(笑)。
(菊地成孔)2枚目が出たんですよね。でね、それはね、完全にブラックロック化してて。全曲生演奏。で、しかも、だいたいブラックミュージックっていうと鍵盤が入ってこう、夜っぽい・・・ああいうんじゃなくて、もうギター中心のブラックロック化して。ヘビーロック化して、あとはコーラスがいっぱいいるっていう、いわゆるジェイムズ・ブラウン(James Brown)ともまた違う、なんて言うのかな?一種のアフリカまで射程に入れたブラックロックに戻っていくっていう。
(ヴィヴィアン)うんうんうん。
(菊地成孔)いままで、ずーっとR&B、ヒップホップが避けてきた流れをこじ開けたんですよね。で、もうすでにミゲル(Miguel)とかね、たくさんの優秀なアーティストがそれに続いてるんですよ。
(ヴィヴィアン)ふーん。
(菊地成孔)だから、それにどのぐらいKヒップホップが追従していくか?ですよね。いまのはまあ、偶然にもね、楽しい。結構、日本で言うと在日ファンクみたいな。JBリスペクタブルな感じのトラックでしたけどね。でもまだ打ち込みで訥々とラップしていくっていうのも残っていくでしょうからね。
(ヴィヴィアン)そうですね。
(菊地成孔)もう1曲ぐらい、ありますか?なんか、これだ!っていうの。
(ヴィヴィアン)これだ!っていうのですか?じゃあ、せっかくなんでいま、ケンドリック・ラマーのお話とかも出てきたんですけども。ちょっとケンドリック・ラマーとかグラスパースタイルとは違うんですけど、クルーシャル・スター(Crucial Star)っていうラッパーがいて。彼はかなりジャズの影響を受けていて。音楽にものすごいジャズの要素を取り込んでいるんですよ。もう、結構どジャズで。ジャジーとかじゃなくて。どジャズなんですよ。
(菊地成孔)うん。ジャズの上でラップするっていう感じですよね。
(ヴィヴィアン)そうそうそう。もう、本当に。
(菊地成孔)ジャジーヒップホップっていうのはネタがジャズなんだけど。
(ヴィヴィアン)そうなんですよ。もう本当に、ジャズにラップっていう。なんかそういうところがちょっと、ケンドリック・ラマーと、ジャズのスタイルは違うんだけど、なんかやっていることはかぶるなという風に思っていて。で、そのクルーシャル・スターっていう人の、去年『Midnight』っていうアルバムを出したのがすごくおすすめで。結構全曲ジャズっぽいんですけど。
(菊地成孔)はい。
(ヴィヴィアン)で、その中から1曲。4曲目なんですけど。クルーシャル・スターの『Paris』という曲、お聞きください。
Crucial Star (크루셜스타)『Paris』
(菊地成孔)まあ、あれですよね。要するに、ブラックミュージックっていうのはもう、夜用だったらジャズなんだと。で、パーティー用だったらブラックロックなんだっていう風な分化が。いままで、中間層でとどまっていたんだけど。夜もソウル、あげるのもソウルっていう。まあ、ソウルって都市じゃなくて、ソウル・ミュージック。
(ヴィヴィアン)ソウル・ミュージック。
(菊地成孔)だったのが、もう夜ならジャズまで行くっしょ?っていう方向ですよね。あの、本当にね、音楽界は株式と同じで、トレンドもある。で、流れていくから。僕も、ソロ・アルバム、なにを隠そう作っているところなんですけど。どのぐらいジャズに振るか?とかね。それが本当、大変ですね。
(ヴィヴィアン)うんうんうん。
(菊地成孔)まあ、柄から言ってブラックロックで盛り上がるっていうタイプじゃないんで、夜的になっていくしかないんだけど。あと、考えているのはフランス語ですよね。
(ヴィヴィアン)ああー。
(菊地成孔)これも『Paris』ですけど。だから、Jazz Dommunistersが先物買いした『夜はジャズで、パリで・・・っていうのがひょっとしたら来るかも』っていうのが、着実にアメリカでも来つつあるので。これはたぶん、国関係なく、そうなっていく。あれなんですよ。このトラック、僕も大好きなんですけど。でもまあ、雛型出ちゃってますよね。うん。これとケンドリック・ラマーで。
(ヴィヴィアン)そうですね。うん。
(菊地成孔)あとジャズっつっても、もうスイングジャズとかフリージャズかと、そういうラップの乗りそうにないのばっかりになってきちゃっているんで。そこらへんはね、難しいですけど。
(ヴィヴィアン)あと、もう1曲、ちょっといいですか?あの、またジャズの流れなんですけど。高槻ジャズストリートとかにもいつも出ているクマパーク(KUMAPARK)ってご存知ですよね?そのクマパークがテナーサックスで参加している曲があるんですけど。
(菊地成孔)はい。
(ヴィヴィアン)ビンジノ(Beenzino)って、1回曲をかけたことがありますけど。ビンジノがラップをしていて。で、曲を作ったのがピージェイ(Peejay)っていうプロデューサーで。ピージェイはザイオンT(Zion.T)の『Red Light』っていうアルバム、4曲ぐらい作っている人なんですけど。まあ、かなり優秀なプロデューサーで。結構アーバンな感じの得意な人なんですけど。そのピージェイとビンジノと、そのクマパークのサックスが楽しめるっていう、かなりかっこいい曲があるんで。ちょっと、サラッと。じゃあピージェイ、ビンジノで『I Get Lifted』。
PEEJAY『I Get Lifted X Beenzino』
(菊地成孔)はい。まあクマパーク、こう、適度な入り方をしてね(笑)。
(ヴィヴィアン)適度な。はい(笑)。
(菊地成孔)適度な。これでもね、本当にね、サックスもね。私、サックス奏者だからわかるんですけど。どのぐらい入れるか?っていうね。あの、私のソロのライブにいらしてくださったこともあったじゃないですか。そうすると、もう吹き始めると、ジャズの時間になっちゃうっていうか。もうずーっとワーッ!って吹いていて。ラップにどのぐらい絡んだらいいのか?っていう頃合いがね。
(ヴィヴィアン)うん。
(菊地成孔)下手するとただのフュージョンの上にラップが乗っているだけになっちゃってもな・・・っていうね。これはもう上手くいってますけどね。すごく。
(韓東賢)これ、すごい好きです。私。
(ヴィヴィアン)いいですよね。
(菊地成孔)まあこれはちゃんと年寄りもキャッチアップできる・・・(笑)。
(ヴィヴィアン)(笑)
(韓東賢)なんか、懐かしいとか言ったら失礼なんですかね?
(菊地成孔)いやいや、90年代感ありますよ。
(韓東賢)ですよね?
(菊地成孔)いまね、まずね、あのね、いちばん大きなキャメラから見ると、全体は90年代に行ってるの。
(ヴィヴィアン)ああ、そうですよね。
(菊地成孔)それはね、全てなの。全てが。あらゆるものが。
(韓東賢)アイドルとかでも、わかりますもん。
(菊地成孔)あらゆるものがいま、90’sに向かっているんだけど、それはなんて言うかね、もう地盤みたいな。地殻みたいな向き方で。その中で、90年代に向かっているっていう前提の中で、さっき言ったようにブラックロック化とか、ジャズ化が進んでいるんだけど。そこでどうしようか?っていうのがあらゆるクリエイターが考えているところじゃないですかね。
(ヴィヴィアン)うん。
(韓東賢)これ、すごいその、若かりし頃感がすごいありました(笑)。
(菊地成孔)そうなんですよ。で、僕らが全然わかんない、韓さんが実はいちばんお得意な、インディーロックの世界(笑)。
(韓東賢)相対的にですけどね。あくまでも。
<書き起こしおわり>