金田淳子が宇多丸に語る『島耕作』流ビジネス処世術

金田淳子が宇多丸に語る『島耕作』流ビジネス処世術 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

(宇多丸)ということで、『あせらない』。まあ、わかる気もしますけどね。なんかあった時に、『ああーっ!』ってなっていたら、これダメですもん。私、学ぶべきところでございます。続きまして、島耕作に学ぶビジネススキル、2つ目の『あ』。『抗わない』。まああの、はっきり申し上げると、『あせらない』とそんなに変わらないと思うんですけど。『抗わない』。

(金田淳子)あ、そうでしたか?まあまあまあ。

(宇多丸)『抗わない』。どういうことでしょうか?これ。

(金田淳子)そうですね。まあ、自分からガツガツしないし、そして初芝っていうのはなかなか、先ほどから言っているように不思議な社風なんですね。その社風に対して、むしろそこに乗って行く。その波に乗って行くっていうのが大事ってことなんですね。

(宇多丸)おおー、長い物には巻かれていく。

(金田淳子)そう。巻かれていくスタイル。先ほどの、まあウタマロもそうですし。

(宇多丸)そうですね。枕営業が推奨されているわけですもんね。とんでもないですね。場合によっちゃあね。これ、ブラック企業ですよ、だって。

(金田淳子)まあ、完全にちょっと、刑事事件に発展するあれもあるんですけれども。別に刑事事件にならなくとも、実は初芝の社風っていうのが結構独特でして。実は創業者の男がいるんですけども。創業者が、自分の右腕であった男と愛人を共有していたっていうエピソードがバッチリとあるんですね。それがまあ、重要なことになっている。

(宇多丸)共有?

(金田淳子)共有というのは性的に共有しておりまして。

(宇多丸)両方とも関係はしていて。

(金田淳子)しかもまあ、一度に3人でアレするといったこともしょっちゅうだったという。

(宇多丸)まあ、3Pというやつですかね?

(金田淳子)それですね。そういう社風なんですよ。

(宇多丸)えっ?だから要するに創業者からして3Pしているような社風。

(金田淳子)そうです。創業者が、自分と一緒に仕事してくれる男と、仲良く女を共有するという社風です。

(宇多丸)ただこれは、あの、それこそホモソーシャル集団の中ではね・・・僕とかちょっと本当、よくわかんないところなんだけど。一緒に風俗に行って仲良くなるとか。何?その笑い声?いまの笑い、何?

(金田淳子)あっ、いやいや・・・

(宇多丸)僕とかわかんないところだけど、一緒に風俗行って・・・とか、聞くじゃないですか。そんなような類の延長線上ですかね?これね。

(金田淳子)そうですね。というわけで、島もまあ、この社風に従いまして。あとまあ、本当女の方から言い寄ってくるってこともありまして。とりあえずあの、派閥のボスっていうのがいるんですけど。その派閥のボスと、その愛人である典子ママという人を性的な意味で共有したりしております。

(宇多丸)これ、普通だったらボスの女とね、関係しちゃったりしたら、社風によっては、『君、クビだ!』ってなる・・・

(金田淳子)あの、一発左遷事案だと思うんですけども。

(宇多丸)本当ですよね。『シベリア支社に行ってもらうよ』ってことじゃないですか。

(金田淳子)そうなんですよ。『初芝シベリア支社に行ってもらおうか』ってことになりそうなのに、逆に・・・一瞬ケンカになりかけるんですけど、上手く行くっていうね。むしろ、他の局面でも、この関係はしょっちゅう他の女を介在させて、他の男と営まれて。男たちとの関係が円滑になって、仕事がスムーズっていう話がしょっちゅう出てくるんですよ。

(宇多丸)へー。はいはいはい。

(金田淳子)でも、これを見てるとですね、もうね、女の人を挟まず、男同士でやればいいのではないか?と私なんかは思うぐらいです。

(宇多丸)うんうん。つまりその、女性を中に介した、実は性的コミュニケーションなんじゃないか?と。

(金田淳子)そうそう。そうなんですよ。もう完全に、まあ創業者なんか、ベッドを3人で共にしていたわけですから。そこに実は女の人はいらないんじゃないかな?みたいな。

(宇多丸)いや、これ実際のところね、いわゆるそのアダルトビデオとかで3Pの場面とか、あるじゃないですか。もっと多くてもいいですけど。男が多くなればなるほど、むしろ男性側の接触が増えてくるっていうか。これってもう、たとえばチンとチンがくっついてんじゃん!と。で、これを嫌に感じないっていうのは結構なものですぞ!って思ったりするんですよ。

(金田淳子)ですぞ。そうそう、そうじゃないですか。

(宇多丸)だからその、ここに抵抗を感じないってことは、実は男性同士の・・・ホモソーシャルはね、ホモフォビア、ホモ嫌悪とつながりやすいとか言うけど。実は、直接いくのははばかられるから、そういう感じなんじゃねーの?って思う時はちょっとありますよ。

(金田淳子)そうなんですよね。そこに女の人を入れなきゃって思い込んでいるけども、実はそこに濃厚な男同士の交わりがあるんじゃないかな?ってことで、そういうことに気づいた人が、作中にもいる。

(宇多丸)ほう!

(金田淳子)課長のね、4巻に登場する、俺たちの樫村健三ですよ。

(宇多丸)俺たちの樫村健三?

俺たちの樫村健三

(金田淳子)樫村健三といえば、島耕作の中でも、ほぼ一番人気と言っていいキャラだと思うんですけども。

(宇多丸)どんなキャラクターなんですか?

(金田淳子)樫村はですね、早稲田からずーっと島と同期で。同期でナンバーワンで出世していく優秀な男なんですよ。この樫村ちゃんがですね、途中までは気づいてなかったんですけど、たぶん30すぎたぐらいになって、『俺はゲイで、島が好きだ』って気づいちゃうんですよ。

(宇多丸)ああー、まあまあまあ、ない話じゃないでしょうね。

(金田淳子)それで、告白をしたんですが、またそこで島のすごい薄い反応がありまして。

(宇多丸)(笑)。全体に淡々としてるわけですね。ちょっとね。

(金田淳子)島は、すごいいつも薄い反応をしてるんで。

(宇多丸)まあ、俺は違うかな、みたいな?

(金田淳子)そうそう。『俺はそういう趣味はない』とか言って。ちょっと、鈍器で殴りたいぐらいの、その時、気持ちになりましたけど。

(宇多丸)文字通りの。あ、金淳さん的には、樫村の気持ちになってこう、『必死で告白してるのに、お前!』と。そして、『私の好みの展開になるかもしれないのに!』と。

(金田淳子)そうなんですよ。泣きながら告白されているんですよ。なのに、すごい冷めた展開で。

(宇多丸)『これは大変なことになったぞ』と。

(金田淳子)『大変なことになった』すらもなかったんですよ。

(宇多丸)(笑)。『俺は違う』ぐらいの?

(金田淳子)そうそう。『俺は違う』ぐらいで済まされて。でも樫村はものすごい献身的で。その後もずっと親友のままでいて、島はその後、ちょっとピンチになった時にも、メインになって働いて、島を復帰させたっていうのも樫村なんですよ。しかも、この樫村。実は課長12巻でですね、初芝フィリピンの社長になっていたんですが、反政府組織に襲われ、銃撃を受け、重症を負ってしまい・・・まあなんか、このへんで島耕作っていう作品、そういうことが起きるのか!?っていうね。

(宇多丸)そうですね。知らない人は、『なんじゃ、そりゃ!?銃撃!?』っていうね。

(金田淳子)私が作った話のように思うかもしれませんが、本当にあった話で。まあ、そこで島も一緒で。島は軽傷だったんですよ。で、まあ『愛しているか?俺のことを』って言ったら、まあ最後、死んじゃうからね。死んじゃうから、島が『愛してるぞ。樫村、お前のことを愛している』って言ったら、手が震えて、パタッて死ぬっていう。屈指の名シーンですよ。

(宇多丸)うわー!これ、お話を聞いているだけで泣けれる。今回のね、これにも入ってますもんね。総特集 弘兼憲史。これにも入っている。

(金田淳子)そうなんです。これは、いろんな人がいちばんの名シーンと選んだシーンを収録するってことで。

(宇多丸)読者としては、だからやっぱり樫村の気持ちをね。『お前、ずっと、薄いリアクションで受け流しやがって!』って。でも、樫村はずっと想っている。要するに読者のモヤモヤを一気にここで・・・

(金田淳子)そう。解消してくれたっていう意味で。割と弘兼先生の漫画ってそういうのをはぐらかし気味のところが。アンチクライマックスっていうか。そこがリアルなところではあるんですけど。この樫村のことに関してだけは、本当、ちょうど読者の感情とストーリーがぴったりいったところだからこそ、みんな名シーンだと思っているところはたしかにあるんですよね。

(宇多丸)しかもその、今際の際にちょっとこう、優しい嘘をついてあげるっていうのがね。

(金田淳子)そうなんですよ!それが、まあいいシーンで。ここだけは、ちょっと島に対して、仕事したなっていうちょっと、ウタマロポイントがつきましたよ。私の中で。

(宇多丸)うん。あの、感動的な場面だったのに。いまのあれはいらなかったと思うんですけど。なるほどね。樫村のそういうのがあったりするわけだ。

(金田淳子)そうそうそう。まあ、社風に気づきすぎたが故に、樫村がかわいそうな感じに・・・

(宇多丸)ああ、ちょっと社風の一歩先を行っちゃったね。

(金田淳子)そうなんですよ。ちょっと未来に行っちゃったかな?っていう。

(宇多丸)『これ、女いらなくないっすかね?』みたいなね。

(金田淳子)そうそう。気づいたし、島に対する想いにも、すごい率直に、自分自身に向き合っていった結果がこれだよっていう。ちょっとずっと活躍してほしかったなっていう。もうひとつ、別の世界線のね、島耕作も見たかったなーっていうね。

(宇多丸)なるほどね。そういう気持ちを解消するために、たぶん同人誌とかがあったりするんでしょうね。

(金田淳子)あ、そうですねー。そういうの、読みたいですね。読みたいなー!

(宇多丸)(笑)。ちょっと金淳さんの目が怖く・・・キラッと怖くなった瞬間をぜひね、みなさんにお伝えできればと思うんですが。さあ、ということで、最後の項目、行きますか?『あ』。あっ、最後の項目ね、僕に読ませないように。ずっとこの台本が空白になっていたんで。

(金田淳子)これ、フレッシュな気持ちでね。

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