金田淳子が宇多丸に語る『島耕作』流ビジネス処世術

金田淳子が宇多丸に語る『島耕作』流ビジネス処世術 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

(宇多丸)なるほど。これ、だからやっぱりずっと読み続けたくなっちゃいますね。こういう風になっているとね。さあ、といったあたりで、概要をお聞きしましたが。いよいよ本編に入ってまいりましょう。3つの『あ』ということなので。1つ目の『あ』ですね。島耕作に学ぶビジネススキル。1つ目の『あ』。『あせらない』。さあ、ということで。よかった。ホッとしました。なんだー。そっちですか?

(金田淳子)そう。いろいろありますよ。『あ』と言ってもね。『あ』で始まる言葉、いっぱいあるじゃないですか。

(宇多丸)まあ、あせらないっていうのもね、金淳さん的に読んでいくと、どういうことか、まだ油断できないんで、聞いていきましょう。どういうことでしょうか?

(金田淳子)これはですね、やっぱり島ってこんなに出世してるから、ガツガツと出世街道を爆進するために人を蹴落とそうとしたり、派閥をものすごい選んだ上で入ったりとか。そういう計画性みたいなのとか、あるんじゃないか?って思われているかもしれませんが、むしろ、流されタイプ。

(宇多丸)ああ、受動的だと。

(金田淳子)そうそう。別に出世しなきゃ!という気持ちも、実はもともとなかったんですよね。

(宇多丸)ああー、じゃあいわゆるできるサラリーマン感とはちょっと違う?

(金田淳子)そうですね。そこまで出世のために何かをあくせくしようっていうのはないと。島のよく出てくるセリフに、何か、割と本当に大変なことが起きているんですけど、一拍おいて、『これは大変なことになったぞ』ってつぶやくっていうのが割りかしよく出てくるんですけど。


↑リンク先で『これは大変なことになったぞ』画像見れます。

(宇多丸)ふんふん。

(金田淳子)全くあせっちゃあいない。この男。何か大きいことが起こっても、そういうったスタンスが大事ってことですね。で、まあそれは、あくせくしないってことにもつながっていくと。

(宇多丸)はいはいはい。

(金田淳子)で、まあ仕事であんまり、実はしているんだろうけど、仕事の局面があんまり描かれないんで。そこまで、何をどう努力してるか?っていうのはわからないんですね。

(宇多丸)本当はその仕事の中身では卓越した何かね、努力なり、スキルなり持っているのかもしれないけど。そこは、あんまり描かれない?

(金田淳子)そうですね。やっぱり、ちょっとラブアフェアーとかそっちの方面がよく描かれているので。まあ、仕事の方は、若干ね、普通にしてる。自然にしてるのかな?

(宇多丸)要するにガツガツ、人よりいっぱい仕事をしてるとか、そういうイメージでもなく?

(金田淳子)そうですね。残業をものすごいしているっていう感覚もなしっていう感じで。

(宇多丸)あと、『俺ががんばっているぞ!』みたいなアピールを作中でする感じもない?

(金田淳子)ないですね。周りに対して、そういうのを強調していくっていう、なんか押し付けがましさっていうのはない。

(宇多丸)割とサラリとしていて。

(金田淳子)そうですね。どうやってそれで仕事をしているのか?って思うけれども、これはですね、島耕作特有のね、物理法則がありまして。

(宇多丸)物理法則?

島耕作特有の物理法則

(金田淳子)はい。島が寝た女や、たまたま知り合った女、あと、飲み屋の女などの知り合いがたまたま取引先の偉い人だった。

(宇多丸)まあ、物理っていうか、そういう世界の法則があるわけですね。

(金田淳子)そういう世界の法則に任せていくわけですよ。

(宇多丸)はいはい。なので、じゃああれか?島耕作さんが、むしろ会社の外でアフェアーを重ねると、それが結果的にビジネスの世界に重なっていくという?

(金田淳子)それですわ。なので、あんま仕事でガツガツしちゃいけないと。それと、1つは仕事を選ばないっていうのもありまして。あの、これをちょっと見てくださいよ。この、総特集島耕作のいちばんはじめを飾る、薔薇風呂に入る島耕作っていう素晴らしい・・・

(宇多丸)薔薇風呂の中でなんかシャンパンみたいなのを開けてますけども。

(金田淳子)はい。これで読者に対して目線をガーッ!って見せつけてくる。これ、実はモーニングの表紙を飾ったものなんですけども。なぜか、こういう面白い表紙に限って単行本には収録されないことが多くて。

(宇多丸)ああ、そうですか。

(金田淳子)私も残念にずっと思っていたんですが。この本を作った担当者が・・・

(宇多丸)よくわかっているのか、頭に持ってきていると。

(金田淳子)そうそう。頭に持ってきて、ちゃんと収録してくれた。カラーで。そういった意味でも、この総特集、買っておくべき本なんですけど。これを見てわかる通り、島さん、仕事を選ばないなっていう。

(宇多丸)仕事って(笑)。描かれているから。これ、別にそれは、劇中とは関係ないじゃないですか。

(金田淳子)いやいや、これは島さんの仕事ですよ。

(宇多丸)本当ですか。ちょっと、ねえ。この段階でどんぐらいですかね?立ち位置ね。『ちょっと専務、宣伝のためにちょっと、裸で風呂入ってもらえますかね?』『いや、俺ちょっとそういうんじゃないんだけど・・・』みたいな。

(金田淳子)いやいや、もうその場合、『これは大変なことになったぞ』と。

(宇多丸)『なったぞ』と言いながら、任せるのか。抵抗したりしない。

(金田淳子)そうそう。すでにもう薔薇が風呂に満たされていて。『あ、お願いします』ってなった時に、まあ次のコマで『これは大変なことになったぞ』って言いながら、もう脱ぎ始めてる。そういう流され方が大事。

(宇多丸)要はその、無駄になにか自分を自己主張したりとか、そういうのは組織の中だと、まあ、あんまりいいことになっていかないぞってことなんですかね??

(金田淳子)そうそうそう。まあ、そういうことでしょうね。あの、激しく『自分が!自分が!』みたいにはいかないと。そして、実はさらにアフェアーの点でも重要なのは、ラブアフェアーでは、島はこんなにも女性と寝ているから、ものすごいナンパとかしてるんじゃないか?って思われガチじゃないですか。

(宇多丸)たしかに。そうしないとね、ならないんじゃないですか?アフェアーに。

(金田淳子)違うんですよ。島の場合、作中ではほぼ1回も自分からは言い寄っておりません。

(宇多丸)へー!

(金田淳子)つまり、女性から言い寄ってくるのです。

(宇多丸)それは・・・結構な話ですけど。参考にならねーよ、それ。

(金田淳子)いやいや、だからもう、女性に対してもあせらない。

(宇多丸)ただね、これ、でもたしかに、いま『参考にならない』って言いましたけど。やっぱり齢とってきたりして、若い時にこう、がっついている時ほど、あんまりダメで。で、『もう俺、ダメだわ。枯れたわ』みたいになってからの方が、むしろいい感じ。これ、あるかもしんないですね。

(金田淳子)宇多丸さんもそう思いますか!?

(宇多丸)ええ、ええ。

(金田淳子)人生として。

(宇多丸)いや、でも実際、実感としてそういうの、あるかもしれない。

(金田淳子)ですよね?やっぱり、そのガツガツぶりが仕事も女も逃していくわけですよ。

(宇多丸)仕事もたしかに、なんか若い時は『俺、ぜんぜん勝ち上がってくんで!』みたいに言ってると、『ああ、そうですか』っていう感じだけど。もっと粛々とやっている人の方が、結果的に伸びたりみたいなの、あるかもしんないですね。

(金田淳子)ほら!宇多丸さん、説得され気味じゃないですか。

(宇多丸)まあ、『受け』ってやつです。

(金田淳子)『受け』。もう、さすが『総受けの宇多丸』と呼ばれるだけのことはある・・・

(宇多丸)専門用語はほどほどにお願いしますよ。

(金田淳子)すごい。

(宇多丸)なるほど。でも、わかる気もします。それ、ちょっとね。がっつかない方がいいは。ちなみにこんなにいろんなね、島さんね、要は複数の女性と関係を持っているでしょ?『このーっ!キーッ!刺してやる!』みたいなことになったりしないんですか?

(金田淳子)それがね、意外とならないんですが。それは次のポイントでも言いたいんですが。まあ、その前にあの、女性があまりにも言い寄ってくるので、それが仕事につながることも大いにあるんですが。まあ、ピンチになったっていう時もよくあって。それはあの、刺されたりは全くしないのが不思議なところではあるんですが。まあその、女性が言い寄ってくるから仕事をしっかりした事案っていうのが結構あって。

(宇多丸)ほうほう。

(金田淳子)あの、島耕作って特殊な世界なんで、大型小売店の社長夫人たちを接待する旅行っていうのがありまして。地獄絵図なんですけども、若手男性社員たちが生贄として捧げられるんですね。

(宇多丸)あらあらあら。枕営業。まさに。

(金田淳子)そう。それですわ。島も、アメリカで課長の時に、いきなりふくよかな社長夫人に部屋に呼び出されて、裸になられて、『Come on,Japanese boy』ってなって。もう、普通はそこで『あっ・・・』とかって逃げると思うんですけども。『警察!警察!』っていう感じなんですけども。あの、社風がね、やっぱそういった感じなんで、もう島も粛々と服を脱ぐと。

(宇多丸)『これは大変なことになったぞ』と。

(金田淳子)『これは大変なことになったぞ』と思いながら、服は脱ぐ。で、脱いだところで、その股間のイチモツを見たアメリカの婦人が、思わず発した一言が、『Oh!ウタマロ!』なんですね。そういった活躍ぶりがちょっと見逃せない・・・

(宇多丸)しかも、その下のコマとか、ちょっと描写しづらい・・・『カポッ』とかいって、もうアウトな感じがあるんですけど。

(金田淳子)まあ、『カポッ』ってなってますね。

(宇多丸)ああ、そう。これはさ、その島さんのお持ち物はね、それはよろしいということもあるでしょうし。ちょっとこれは参考にはならない・・・

(金田淳子)いやいやいや、まあでも、こうやって仕事をしっかりしている局面も、実はそのアフェアー面ではあるというね。

(宇多丸)なるほど。なるほど。アフェアーなんだけど、それが仕事につながっていくような。それは初芝というこの会社のね、社風もあるという。下半身攻撃が。

(金田淳子)そうですね。まあ、社風っていうので次の『あ』と、つなげますか。

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