松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で1974年のソウルチャートを振り返り。この年にヒットした曲を聞きながら、解説をしていきました。
(松尾潔)続いては、こちらのコーナーです。いまでも聞きたいナンバーワン。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。ですが、リスナーのみなさんの中には『そもそもR&Bって何だろう?』という方も少なくないようです。そこでこのコーナーでは、アメリカのR&Bチャートのナンバーワンヒットを年度別にピックアップ。歴史的名曲の数々を聞きながら、僕がわかりやすくご説明します。
第9回目となる今回は、1974年のR&Bナンバーワンヒットをご紹介しましょう。前回が91年でしたからね。サウンドの方はグッと懐かしめになります。と、同時にまあ、いまっていう時を考えますと、ちょうど40年前ってことですね。あれはもう2月くらい前になるんでしたっけね?都内で出会ったメロウなタクシードライバーの話をしたかと思いますね。その方が、74年の曲。『Papa Don’t Take No Mess』。ジェイムズ・ブラウン(James Brown)の『Papa Don’t Take No Mess』をリクエストしてくださったのですが。
JBがまだまだ大活躍
まさにそんなJBが、まだまだ大活躍していた頃の曲ですね。同じ74年に『Papa Don’t Take No Mess』以外にも、『My Thang』。こちらをチャートのナンバーワンに送り込んでいます。
あ、だから『Payback』もこの年だな。
1974年。どんな年か?と言いますと、さっきこの番組のスタッフが調べてくれたんですけど。わかりやすいところで言うと、アスリート。松井秀喜さんが74年生まれだそうですね。まあ、彼とチームメイトだったニューヨーク・ヤンキースのデレク・ジーター。引退するということで再注目されています。デレク・ジーターも74年。そして、映画の世界ですとレオナルド・ディカプリオがそうなんですね。そしてね、女優さん。これがね、ちょっとしたもんですよ。日本からは後藤久美子さん。イギリスからはケイト・モスさん。ケイト・モス、女優っていうか、まあモデル業が有名ですよね。キレイどころを言っています。
ビクトリア・ベッカムも同じイギリスですけど、彼女も74年生まれなんですね。スペインからはペネロペ・クルス。アメリカというかハリウッドからはヒラリー・スワンクですとか、エイミー・アダムス。最近僕のお気に入りの女優ですけどもね。エイミー・アダムスなんかもそうだな。なるほど。いま、名前を挙げた人たちっていうのがまさに今年、40代になるんですね。まあ、日本風に言えば、不惑でございます。ですが、音楽は生まれて40年たって、惑うことも迷うこともないのですよね。より価値を高めるというものの方が多いように思われます。
この年、ソウルチャート、いまで言うところのR&Bチャート。当時ソウルチャートでナンバーワンに輝いたのは31曲ございます。前の年からの居残り。『Living for the City』。スティービー・ワンダー(Stevie Wonder)に始まり、そしてスティービー・ワンダーの『Boogie On Reggae Woman』に終わったという、そんな74年ですね。
そこにはもう、アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)とか、グラディス・ナイト(Gladys Knight)、アル・グリーン(Al Green)。もうこういった、なんて言うんでしょう?歴史上の偉人みたいな人たちもいます。
もちろん、さっき話したジェイムズ・ブラウンもそうですが。そういった人たちと、これからどうやって大人になっていくかな?って迷っていた頃のジャクソン5(The Jackson 5)『Dancing Machine』とかね。
あとは、もしかしたらいま、日本でDJをやっている人にはこういう曲がいちばん有名かもしれないな。ウィリアム・デボーン(William DeVaughn)
の『Be Thankful for What You Got』。
あと、スウィートソウル好きにはブルーマジック(Blue Magic)の『Sideshow』なんかありますね。
スピナーズ(The Spinners)の『Mighty Love』もこの年の1位ですね。
まあ、こうやって曲を言われるよりもアルバムの方がわかりやすいという方もたくさんいらっしゃると思います。74年っていうのはね、前の年の後半に出ましたマーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)の『Let’s get it on』っていうのがまだ、存在感を失っていない時に始まったんですよ。74年っていうのはね。
で、たとえばアース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth,Wind & Fire)も『Open Our Eyes』っていうアルバムを出したりもするんですが。
ビッグネームで言うと、クインシー(Quincy Jones)の『Body Heat』とかね。も、そうなんですが。
まあ、なんと言っても、スティービー・ワンダーの『First Finale』ですよね。この頃は、『あれ、スティービーは何を出した年だっけ?』っていうことでだいたい、『ああ、あの頃ね』ってわかり合えるぐらいの感じですよね。
73年に『Innervisions』出して、74年に『First Finale』を出す。あ、もっと言えば73年はあれですからね。その前からの、『Talking Book』っていう。スティービー・ワンダーの。まあ、このあたり、かつてNHK FMで僕、スティービーの特集番組をやらせてもらいましたけども。超人的な活躍なので、スティービーがどうだこうだと言うよりも、その時代の化け物としてのスティービー。そして化け物の所産としてのスティービー作品というのがあるので。スティービーとそれ以外に分けてもいいんじゃないかな?というぐらい、個人的にはね、言いたいんですが。
まあ、74年っていうのは振り返ってみますと、ボーカルグループ。そしてモータウンのスター。相変わらずのJBもいる一方で、まだまだ、『あっ、こんな曲もスッと出てきたんだな』『あっ、ルーファス時代のチャカ(Chaka Khan)が存在感を示し始めてたんだな』とかね。すごい時代の転換期だったような気がしますね。
はい。じゃあ、まずは2曲ご紹介しましょう。グラディス・ナイト&ザ・ピップス(Gladys Knigth & The Pips)『The Best Thing That Ever Happened To Me』。そして、実は次にご紹介する曲。これこそ、あっ、こんな曲が1位になったりする年なんだという曲です。後に、アッシャーとモニカがカバーすることで再注目が集まりますが。ラティモア(Latimore)で『Let’s Straighten It Out』。2曲続けてどうぞ。
Gladys Knigth & The Pips『The Best Thing That Ever Happened To Me』
Latimore『Let’s Straighten It Out』
グラディス・ナイト&ザ・ピップスで『The Best Thing That Ever Happened To Me』。1974年4月6日付けのチャートから2週連続でソウルシングルチャート、ナンバーワンを獲得しています。そして、11月2日から、やはり同じく2週間連続でナンバーワンを記録しましたのが、ラティモアの『Let’s Straighten It Out』。まあ、ラティモアという人はブルージーですね。まあその、この曲っていうのは背景に人種差別ですとか公民権といったものに対してのラティモアのメッセージが込められていると、そういう解釈をする向きもありますけども。まあ、そういったこと抜きに、90年代に入って、半ばを過ぎてですね、モニカとアッシャーという、当時10代の男女がデュエットしたことでグッと寿命が伸びた、そんな1曲でもあります。
1974年というのはね、さっきも話しましたけど、サウンドの転換期だなということを思うわけです。なんか毎回言っているような気もしないでもないですが(笑)。けどやっぱりスティービーが、その頃アルバム1枚出すたびに、ブラックミュージック史だけではなく、ポップミュージックの歴史も塗り替えていたような時代ですから。ファースト・フィナーレ期ですよ。ですから、その前の・・・違うんですよね。トーキング・ブックとか、まあそれぞれに良さがありますけども。
『ああ、ファースト・フィナーレの頃ね』みたいな。まあ、幸せな時代ですよね。1人の天才がまあ周囲に大きな影響を与えて。それがまた本人にも刺激になって返ってくるっていう。まあ、ちょっと健全な動きがまだ生きていた。そんな時代かなと思います。あと、まあその時代をニューソウルの時代の成熟期と見なす人もいますね。まあ、ニューソウルっていうのは特に日本の音楽ジャーナリズムで好んで使われた言葉なんですけども。ダニー・ハサウェイ(Donny Hathaway)とかカーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)、マーヴィン・ゲイ。
こういった人たちの音楽の作り方。作ったもの、そして、作る姿勢。そういったものを指してニューソウルっていうことが多いんですが。そのニューソウル運動の中で女性アーティストと言えばこの人でした。そして、彼女のこちらの曲。メロウな、実にメロウなこちらが74年。1年間を通してもっともヒットした曲になりました。1974年8月3日から31日まで、つまり8月丸々、5週間連続でナンバーワンを獲得しました。ロバータ・フラック(Roberta Flack)、『Feel Like Making Love』。
Roberta Flack『Feel Like Making Love』
<書き起こしおわり>
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