宇多丸 筒美京平を追悼する

宇多丸 筒美京平を追悼する アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2020年10月12日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で亡くなった筒美京平さんを追悼。宇多丸さんが選曲した筒美京平さん楽曲を2曲、紹介しながら筒美京平さんについて話していました。

(宇多丸)ということで熊崎くんも忙しい週末というか。だんだんだんだんね、実況の方も忙しくなってきて。私どもRHYMESTERも徐々に徐々にいろんなことが忙しくなって、今日もいろいろ仕込みの打ち合わせなんかもやってきた。そんな中、我々「音楽業界」という同じくくりで言うのは本当に文字通りおこがましいというか。我々のようなどチンピラ音楽とは全く違う、ちょっと後ほど言いますけど。

非常にその「ポップ」という言葉の意味が本当に重く感じられるというか。巨人でございます。作曲家の筒美京平さん。皆さんもいろいろ報道なんかで御存じかと思いますが、お亡くなりになったという。10月7日にお亡くなりになっていることが分かったという。80歳、お若かったですね。

誤嚥性肺炎により亡くなられていたと。とにかく筒美京平さん。私が今さら説明するまでもないですが、本当に1970年代からこっちまで、本当に結構最近までまあすごい曲の数々をいっぱい生み出してきて。というあたりで、先ほども『Session』で南部広美さんの選曲で近藤真彦さんの『情熱☆熱風☽せれなーで』。こちらをかけていたということなんですけども。

(宇多丸)リスナーの方からも本当にたくさんメールいただいておりまして。どれにしようかな? ラジオネーム「モルト」さん。「筒美京平先生の訃報に接し、改めて周りにある筒美サウンドの多さを感じます。歌謡曲からアニメソングまで、当然のように存在してる筒美サウンド。今どき、80歳という年齢はまだまだイケてる歳ですよね。日本の音楽界に残した功績は大きなものでした。これからも聞き続けます」。ねえ。「聞き続けます」ということだし、もう息づいちゃってるものというか。

で、まさにそういうところこそ、筒美京平先生が目指された部分。これね、実は早めに言っておきますけども。来週の月曜日。NONA REEVESの西寺郷太さんによるモータウン特集の後編を予定してましたけど、郷太くんは筒美京平先生と直接、お仕事をされているんですよね。『LOVE TOGETHER』。そして『DJ! DJ! ~とどかぬ想い~』という、この2000年の曲ですけども。筒美さん、プロデュースという形で一緒に楽曲を制作していて。


(宇多丸)そこで非常にいろんなことを学ばれたということはいろんなところで……表の放送でも言ってますし、僕も直接いろんな話を聞いていて。郷太くんがなにしろ筒美京平先生のことを語るというのが一番いいであろうということで。来週は急遽、予定を変更しまして、モータウン特集の後編……これはいつでもできるといえばできるということで、西寺郷太くんによる筒美京平先生特集を来週、お送りすることになりました。

なので詳しくはそちらを聞いてください。でもとにかく、先ほど僕が言おうとしたのはその「ポップ」っていうね。「ポップミュージック」って言いますけど、つまり「ポップ」っていうのは言ってみれば公共財っていうのかな? 公共財としてのポップっていうか。みんなのものだと。そのアーティストエゴとか、「俺のことを知って」とか、「俺のこの気持ちが……」とかじゃなくて、みんなの生活の中に入る、みんなに愛されるためにあるもの。それがポップで。

で、それがやっぱりポップミュージック、ポップのか何よりも貴い部分であるというか。で、そこにこそ徹せられるというか。逆に言えば、そこに徹していないないことに対しての非常に厳しい姿勢みたいなものがおありになったという。郷太くんなんかも直接お話を聞いて。すごくそれはね、僕からも「ああっ!」って思うんだけどね。だからある意味、ラッパー風情とはある意味逆なんだけども。ラッパーは「おう、俺が!」とかね。「俺は50万円借金してるぜ!」みたいな(笑)。フフフ、ごめん。なんでこれが急に出てきたか?っていうと、今日の文豪の言い訳特集と混ざっちゃったっていう(笑)。

(熊崎風斗)ああ、そこから入ったんですね(笑)。

(宇多丸)うん。ちょっと混ざっちゃったけども(笑)。「俺は50万、借金してるぜ!」みたいなことを。「私、宇多丸。50万円借金してるぜ!」みたいな感じっていうのが俺たちのやっていることだけど。もっともっと公共の……でも、僕らRHYMESTERもそのヒップホップっていうのはたしかに個人的な、自分のミクロの話をするものだけど。そこにある種の普遍、ポップを込めたいっていう。その、ある意味ラッパーとしては矛盾する方向性みたいなのはRHYMESTERとしてはすごく、僕らはすごく志向をしていて。

だから悩んでたりとかすることがあるんだけれども。まあ、もちろん並べて言うのももうおこがましい話でございまして。といったあたりで、もう本当にね、じゃあ筒美京平さんの追悼というか。その感じで曲を選びましょうっていう時、もうとにかく100人100色というか。1000人1000色というか。

(熊崎風斗)時代も問わずに……調べたらもう、どの時代にもみんなが知っているような名曲があって。

(宇多丸)そうなんですよ。だからもうみんな、腕まくりしちゃう。「じゃあ、筒美先生ならこれだ!」「いや、これだろう?」「あれだろう?」って。皆さん、それぞれにおありだと思うんですが。この場では、来週おそらく郷太くんがね。僕と郷太くん、重なる部分があるので。たとえば少年隊の『ABC』。これはね、2人認定の世界で一番いい曲っていう。何曲か、2人で認定した曲があるんですよ。DJをやっていて。マイクで俺が「おい、これ世界で一番いい曲かけんぞ、コノヤロー!」とか言って。そしたら郷太くんが「そうそうそう! 世界で一番いい曲!」って。

(熊崎風斗)一致したんですね(笑)。

(宇多丸)何個かあるんですけど。『ABC』とかあるんだけども。まずは2曲、かけようかなと思います。私チョイスでございます。これも私、これからかける曲は私、DJでもすごくかけていた曲です。というか実際に21世紀になる瞬間にクラブで私、これをかけていたという曲なんですけども。お聞きいただくのは1986年。作曲は筒美京平さん。作詞は松本隆さん。

そして編曲は船山基紀さん。もうゴールデントライアングルですね。水谷麻里さんっていうアイドルの方が歌っていらっしゃって。後に時東ぁみさんがつんくプロデュースでカバーなんかしていて。だからつんくさんがこれを選曲しているということで、やっぱりつんくさんはそういうところ、わかってるね!っていうところだったりもする。では、お聞きいただこうと思います。水谷麻里さんで『21世紀まで愛して』。

水谷麻里『21世紀まで愛して』

(宇多丸)はい。水谷麻里さんの1986年。筒美京平さんの作曲曲です。『21世紀まで愛して』をお聞きいただいております。そうなんですよ。これをね、21世紀に変わる瞬間。2001年に変わる時の夜中のヒップホップのクラブでかけて。もちろんヒップホップのクラブでいきなりかけてますから。お客はものすごいみんな戸惑ってるんですけど。DJ TAICHI MASTERというね、私と『あ・い・ど・る』という曲を後に作るTAICHI MASTERが「うおーっ!」って。そんなこともありましたね。それも20年前のことですけどね。

(宇多丸)もう1曲、どうしても行かせてくれということで。筒美京平先生、なにがすごいって、御年80歳。今のあれとしてはまだまだお若いって言いますけど。筒美さんの場合、そのお若さの意味っていうのは要するに、もう全然2000年代とか2010年代とかになってもまだまだ活動されていて。全然最近もバリバリにいい仕事されてるっていうところなんですよ。

(熊崎風斗)いい曲を送り出しているという。

(宇多丸)そうなんですよ。「かつては……」とか、そういうことじゃないっていうところ。だからやっぱり、そのひとつには筒美先生は「とにかくずっとポップ職人として仕事をし続けるということが大事だ」ということを郷太くんに教えとして言っていたみたいで。「とにかくいっぱい作り続ける。活動を続ける。曲を作り続けることが大事なんだ」っていう。このあたり、郷太くんが来週の特集でしてくれると思いますが。それを証明するかのような曲をお送りしたいと思います。

いろいろあるんですけど。皆さん、いろんな曲をおかけになると思いますが、やはり私の番組であればこれをかけないわけにはいかないであろうということで。筒美京平さん作曲。そして作詞はまたまた松本隆さん。ちなみに松本隆さん作詞のコンビ、シングルとしてはこれが最後ということになるらしいですね。2008年の楽曲。そして編曲は本間昭光さん。ねえ。いまだに……もう本間さんの特集をしてもいいぐらいで。というところで、2008年に生まれた筒美京平、またまたクラシックを産んでしまった。中川翔子さんで『綺麗ア・ラ・モード』。

中川翔子『綺麗ア・ラ・モード』

(宇多丸)中川翔子さんで『綺麗ア・ラ・モード』をお聞きいただきました。とてもとても途中で割って入ることなどできませんでしたというね。

(熊崎風斗)聞き入っちゃいますね。フルでね。

(宇多丸)まあ、もちろんね、筒美京平先生の美しいメロディーもそうですし。松本隆さんの歌詞の、ある意味ちょっとしょこたんのいろいろな歩みなんかも重ねてみてもグッと来るような厚みのある歌詞。そして本間昭光さんのこのアレンジの美しさ、ゴージャスさ、豊かさ。このストリングスのリッチ感とか。ちょっとビートルズ調というかさ、そういう感じもあったと思うんだけど。うん。いやー、もう全ての音、全ての言葉にまさに輝きが宿っているようなね。これが2008年ですからね。

(熊崎風斗)だからもう、ずーっとですもんね。

(宇多丸)そうなんです。ここでまたこのレベルの曲を……というか、もう最高傑作ぐらいのものを出しちゃっているみたいなね。まあ、しょこたんも本当にいい曲をもらったね。これね。彼女も大事に絶対に歌い継いでいくと思いますし。

(熊崎風斗)こんな歌を歌っていたなんて知らなかったです。

(宇多丸)あと、たとえば先週お越しくださいました藤井隆さん。藤井隆さんも音楽プロデューサーとして私、純粋にもうとにかく今、トップを走っていると言っても過言ではないとは言いましたけど。藤井さんのファーストアルバム『ロミオ道行』という。このアルバム、これこそ全体がある意味、松本隆さんと筒美京平さんのコンビのオマージュアルバムというような感じで。もちろん松本隆さん、そして筒美京平さんも参加して。筒美京平さんは『究極キュート』という曲。そしてシングルカットもされた『絶望グッドバイ』。このシングルなんかもやってたりして。


まあまあまあまあ、もうね、どの角度からやったものか……っていうね。だからやっぱり「私の、私にとっての筒美さんのなにか」みたいな、そういう切り口になると思うんですが。来週はなにしろ一緒に仕事をして非常に薫陶を受けたNONA REEVESの西寺郷太さんの話。これは非常に間違いなく濃厚なものになるんじゃないかと思います。

ということで来週月曜日はNONA REEVES西寺郷太さんによるモータウン特集を急遽変更いたしましての筒美京平さん特集になります。そして筒美京平さん。改めてご冥福をお祈りいたします。名曲の数々、私どもがあえて言うまでもなく、もう生き残ってしまうというかね。それがポップってことですかね。ということで2曲、かけさせていただきました。

<書き起こしおわり>

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