鳥嶋和彦と近藤裕 追い詰められた鳥山明が出す天才的ひらめきを語る

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(近藤裕)そこは全く僕らでは及ばない力だなって思うのが、僕はね、もうひとつ『ドラゴンボール』で鳥山さんに実は聞いたことが1個あって。よくチビ悟空の時にトーナメント戦をやっていくわけですよ。天下一武道会で。で、今までのどの漫画を見ても最初にABCDEぐらいまでいて。それでAと一番後ろのEが最強だとすると、1回戦目はAとBがぶつかるんですよ。そうやってぶつかっていって、徐々に弱いのが消えていって、決勝で最強同士がぶつかるんですけども。ある回のそれを見た時に、最初に最強同士がぶつかっちゃうんですよ。初戦が。それで「ええっ?」みたいになるわけですよ。

いきなり最強同士をぶつける

(近藤裕)「一番盛り上げて、みんなを引っ張っていけるであろう最強の2人が第1戦目で戦っちゃったら、それ以降はどうなるんですか?」って聞いたわけ。そしたらね、「近藤さんね、それはわかりますよ。だけど、みんなはこの2人が戦うところが見たいんですよね? じゃあ、いいじゃないですか。最初に見せちゃえば」「じゃあ、このトーナメント、その後はどうするんですか?」「いや、それはまたその時、考えればいいですよ」って。

それがもう僕らでは全く及ばない発想なんです。僕らは怖いから「いやいや、そんなこと言わないで。最初はせめてNo.2ぐらい同士をぶつけていきましょうよ」って考えちゃうんですよ。でも、よく考えてみたらNo.1同士をぶつけるっていうのはやっぱり見てる側としては一番見たいところですよね?

(鳥嶋和彦)で、読者は近藤くんが言ったように、ありえないことが起きるからものすごく驚くし、新鮮なのね。だから鳥山さんのそこは僕、やっぱり最大のポイントだと思うんだけど。「読者を驚かせたい。驚く顔が見たい」っていう。だから後先は考えていない。

(近藤裕)考えていない。後先を考えてないから、ものすごく面白いんですよね。

(武田冬門)「後先を考えてない」って言えばですね、ちょっと話は飛びますけれども。「ブウ編で最後にしましょう」っていう話をした時、いろいろやりたいことがあったわけですよ。で、それのひとつが学園探偵みたいな。

(鳥嶋和彦)学園探偵? そんなのをやりたかったの?

(武田冬門)はい。悟飯が学校で自分の素性を隠して探偵みたいなことをするっていうのをちょっとやってみたかったらしいんですよ。で、学校の中ですから当然、すごいビルがいっぱい立ち並んでいる街の中でそういうこと始めたんだけど……3週間ぐらいしたら「ビルを書くの、大変なんで街を壊します」って言い出して(笑)。

(鳥嶋和彦)天下一武道会の時の舞台と一緒じゃん(笑)。

書くのが面倒くさい→街を壊す

(武田冬門)だから「ああ、この人はそうなんだ」って。さっき近藤さんが言ったみたいにね。なんだろう? 「必要は発明の母を地で行く人だな」って僕はその時、思ったんですけど。「面倒くさい」とか「大変だ」っていうことで爆破してがれきの山にしてしまえば……あと、森も嫌なんですよ。森って葉っぱがいっぱいあって、大変じゃないですか。だから荒地なんですよ。

(近藤裕)岩場なんだよな。岩場と青空。

(武田冬門)線だけで書けるから。

(鳥嶋和彦)その通り。

(武田冬門)「ああ、この人は本当にそうなんだ。必要は発明の母のところからひねり出してきて、誰もが唸るようなものを作ってくるんだ」っていうのをね、すごいその時に思いましたよ。

(近藤裕)だからそういう意味で言うと、読者をびっくりさせるっていうところはすごいんだけど逆に言うと「どうやったら手を抜けるのか? どうやったら早く仕事が終えられるのか?」を常に考えていたよね。

(Naz Chris)でも近藤さん、それで言うとさっきのそのトランクスが登場して。やっぱり読者としては「これ、誰なんだろう?」みたいな。それででもお母さんがブルマらしい。「ええっ? えっ、なに、なに、なに!?」みたいな。もうほぼ準主役級のトランクスが出てきた時。あそこの驚きっていうのもライブだったんですか? 「こうしましょう、ああしましょう」とかっていうのは?

(近藤裕)ライブですよ。僕らの方で「これ、こういう設定にして。で、生まれた誰々をやりましょう」なんていうことはさらさらない。一切ないですよ。

(鳥嶋和彦)それも、あれだろう? フリーザを一刀両断で切って出てくるんだよな。

(近藤裕)そうそうそう。で、だからトランクスは誰と誰の子なのか?っていうのも別に僕らが後で言うような伏線を回収しましょうみたいにああだこうだと綿密に考えて、じゃなくて。

(鳥嶋和彦)思いつき?

(近藤裕)うん。鳥山さんがポンと「ブルマとベジータが結婚しちゃった」って。「ええっ!?」ですよね。

(武田冬門)悟空と結婚すると思ってましたよ。

(Naz Chris)ヤムチャじゃないんですか?

(鳥嶋和彦)でもチチがいるからね、悟空とはなかったよね。

(Naz Chris)ヤムチャが「俺の子じゃねえんだよ」ってボソッて言ったっていうシーンがあるぐらいな。

(近藤裕)だからそれも「こうした方がいいんじゃないですか?」なんて一切なくて。ネームで見て、そうなっちゃっているんですよ。「ああ、そうだったんですか……」みたいな。「ええ、まあ」みたいな(笑)。

『ドラゴンボール』の様々な展開は事前に考えて伏線が張られたものではなく、追い詰められた鳥山明先生がその都度、頭をひねって思いついたアイデアだったというお話は衝撃的ですよね。「オリジナリティはないけど、アレンジャーとして天才」という鳥嶋さんの評を聞いて「なるほど!」と思ってしまいました。音楽も漫画もアレンジで大きく変わりますからね。なかなかしびれるトークでした。

TOKYO M.A.A.D SPIN 2025年2月25日放送回

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