森下孝三 ロボットアニメの「動き」の演出を語る

鳥嶋和彦『ドラゴンボールZ』・タイトルに「Z」がついたきっかけを語る TOKYO M.A.A.D SPIN

東映アニメーション会長の森下孝三さんが2023年9月25日放送のJ-WAVE『ゆう坊&マシリトのKosoKoso放送局』で『マジンガーZ』や『トランスフォーマー』などのロボットアニメで「動き」を出すための演出法について、話していました。

(鳥嶋和彦)一方、その森下さんの演出助手をやられて以降の話をお聞きしたいんですけど。僕、お願いに行ったあの『聖闘士星矢』の監督なるまでって、森田さんの監督・演出人生っていうのはどんな感じだったんですか?

(森下孝三)いや、もうチンピラでしたよ。

(一同)アハハハハハハハハッ!

(森下孝三)一番言うことを聞かない……要は演出助手は8本ぐらいしかやっていなくて。助監督は。

(鳥嶋和彦)あれですよね? いきなり東映アニメに入って。

(森下孝三)そうそう。で、最初は実写の方だと思って行って。アニメーションっていうか、そういうのは知らなかった。で、映画が好きだったから実写の方に行ったら「東映の方じゃないから。漫画の方じゃないの?」って言われて。当時、東映アニメーションは「漫画」って言われていたの。それで「取ってますよ」っていうんで行ったら「今、演出しか取ってないけど?」「えっ、アニメーションに演出なんてあるの?」って思って。

(野沢雅子)そうですよね。やっぱり「東映」って言ったら映画だからね。

(森下孝三)映画が絶好調の頃だから。それで行って、演出助手を1年半ぐらいやっていたら、会社がロックアウトになっちゃったんですよ。労働争議で。

(鳥嶋和彦)あの有名な。

(森下孝三)それで労働争議になっちゃったから、演出助手が廃止になっちゃったの。

(鳥嶋和彦)えっ、そこで?

(森下孝三)「これ、いらねえだろ」って。僕が演出助手に入った時って、実写と同じでサードまであったの。サード、セカンド、チーフって演出がいたの。そんな贅沢なことをしていたら、会社は潰れるよね。それでね、サードから入ったんだけど「演出助手はもういらない」って話になって。で、僕は長編で『にんぎょ姫』っていう……年に1回か2回、長編をやるじゃない? あれの演出助手に残って。残ったのはいいんだけども、結局会社が労働争議になっちゃって、もっと合理化していっちゃって。すると今度は演出をやるしかなくなっちゃった。だからすごく早かったですよ。20代の半ばぐらい、25ぐらいじゃないかな? 一番最初にやったのは。それが『タイガーマスク』で。

(鳥嶋和彦)ああ、『タイガーマスク』が最初の演出?

(森下孝三)チーフディレクターで。僕ね、だからその後、チーフディレクターしかやってないのよ。

(鳥嶋和彦)『タイガーマスク』以降。野沢さんが主役しかやってないのと同じなんだ(笑)。

(森下孝三)そうそう。これを見るとさ、僕がローテーション演出になったのって『グレンダイザー』とか『ゲッターロボ』とか、何本しかない。それでもうチーフディレクターになって。それからすぐに『トランスフォーマー』とかみんなでロボット物を作り出しちゃったから。アクションなんていうのの仕事が全部来ちゃって。

(鳥嶋和彦)全部、森下さんのところに来て。

(森下孝三)そう。バンダイさんのやつが全部来ちゃった。

ロボット物の仕事がたくさん来る

(鳥嶋和彦)ということは、森下さんの演出はやっぱり定評があったっていうか。アクションはやっぱりおもちゃメーカーからすると「これ!」って感じが……さっき、野沢さんが原作者の人たちから「これ!」って言われたのと同じように、森下さんの演出にもやっぱり定評があったんだね。

(森下孝三)僕がタカラの『トランスフォーマー』をやったでしょう? ムービーもやって、TVシリーズも250本作って。そしたらね、バンダイさんがね、ミニロボットだっけな? そういうのを作って。「なんで『トランスフォーマー』みたいにできないんだ?」っていう。あっちのオリジナルのね。元々は。今、映画で有名になっちゃったけど。バンダイさんがそれをちょっと真似して、合体型のやつ、変身型のやつを作って。それでね、そこからですよ。バンダイさんが来て。「どうして森さんしかできないの?」っていう話になって。それでロボット物が立て続けに3本ぐらい来たの。

(鳥嶋和彦)それでご自分では、どうでした? どのへんが他と、見せ方が違うとか?

(森下孝三)昔のアニメーションって、使い捨てじゃない? で、週に1本、あげるわけ。で、ビデオもなきゃ、何もないわけ。1回、テレビで見たら終わり。あとは島根放送とか、秋田放送とかで遅れてやるけれども。ローカルに行かないと見れないわけで。

(鳥嶋和彦)要するに、テレビの前にいる子供たちとか視聴者は「毎週◯時」っていう、それ1回しか見れない。

(野沢雅子)そうそうそう!

(森下孝三)だから、まともなアニメーション、ディズニーみたいなものは作れなかったわけ。

(鳥嶋和彦)1回しか見ないものだからね。

(森下孝三)だって、市場も日本しかないでしょう? で、向こうはワールドだから。

(鳥嶋和彦)要するに、お金をかけられない。

(森下孝三)それでどうしたか?って言うと、あれなんですよ。僕はロボット物をやっていたでしょう? 動かないアニメーションを作ったの。僕のアニメは動かないんですよ。こんな複雑な絵、動かせないよ。

(鳥嶋和彦)こんなね、八頭身とかのキャラはね。

(森下孝三)ロボットって、みんなそうだからね。リアルっぽく作るでしょう。ストーリーも。だから、すごい大変で。その時、考えたのが結局、動かないアニメーションで、それを動いているように見せるのよ。背景を引っ張ったり、カメラを動かしたりして。で、3000枚ぐらい作っちゃってさ。週に1本、使い捨てで。それが、おかしいことに今、すごい人気でしょう?

動かないアニメーションを動いているように見せる

(野沢雅子)昔はね、テレビでも本当は歩いてずっと行かなきゃいけないのにツーッて行って。そういうのがよくあったんですよ。「ああ、またやっちゃった」なんて言って(笑)。

(森下孝三)歩きだってさ、足元に持ってくると4枚でいいもんね。「1、2、3、4……」って(笑)。

(鳥嶋和彦)だからそれでいうと、僕はね、森下さんに『Z』の演出をやってもらって。その時に森下さんに言われたのは、はっきり言えば東映アニメーション、テレビシリーズでそんなにセルの枚数、かけないんですよ。で、常識から言うとセルの枚数がない中で、どうやってスピード感を持って動きを見せるのか? 普通はセルの枚数を使って作る……アニメーションをちょっと知っている僕からすれば、そういうものだと思って森下さんに聞いたら「いや、鳥嶋さん簡単ですよ。ギリギリまで動かさないで、次の一瞬パッと動かせばすごく動いて見えるでしょう?」って。「ああ、漫画のコマ割りと一緒か!」と。それを聞いた時に「ああ、なるほどね。これが演出のひとつのテクニックなんだ」って。それで納得して。で、森下さんが演出した回を見ると、今までとスピード感が違うの。

(森下孝三)溜めてあるからね。もうできるだけ動かさないでいて、動く時にパンッ!って動くから。そういうところを鳥嶋さんが見てくれたんじゃないかな? とにかくね、日本のアニメーションってロボットも『マジンガーZ』がなんで、特にヨーロッパで受けたかっていうとね、あんなロボット、普通に考えたらアニメーションで動くわけがないんですよ。今、見ると『ガンダム』とか、もっと複雑だけど。あの頃、世界は驚いたんですよ。でもよく見ると、動いてない(笑)。

(鳥嶋和彦)よく見ると動いてないんだよね(笑)。

ギリギリまで溜めてから動かす

(森下孝三)ただ、こうやっているだけで。で、このバストサイズで、5枚ですよ。こんなの。で、背景を引っ張って(笑)。

(野沢雅子)そうよね(笑)。

(鳥嶋和彦)だからそのね、テクニックってやっぱり演出なんだなっていうのがよくわかって。森下さんに言われて僕は初めて……目からウロコって滅多に落ちないけど。あれは目からウロコだったな。本当に。

(森下孝三)だから、要するによその国では作れないのは、ジャンプとかマガジンとか、いいキャラクターは出ていたんだけれども。実は、さっきも言ったようにアニメと漫画は違うじゃないですか。止めで描くものと、アニメは動かさなきゃいけないので。でも、その動かないアニメを開発したから、要はどんな複雑なキャラクターでも、やれるのよ。これでね、世界でキャラクターが広がって。

(鳥嶋和彦)そうか。四六時中、動かしているのは無理だからね。

(森下孝三)だから「アニメーション」じゃなくて「アニメ」なんですよ。日本のアニメなんですよ。

(鳥嶋和彦)ディズニーは「アニメーション」だけど、日本のは「アニメ」なのね(笑)。

(森下孝三)あれは動いているじゃない? ディズニーは動いている(笑)。だってマジンガーZなんて、動かせないよ。

<書き起こしおわり>

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