渡辺志保さんがbayfm『MUSIC GARAGE:ROOM 101』の中で亡くなったニプシー・ハッスルを追悼。彼のアルバム『Victory Lap』を紹介しながら、彼の功績やビジネスマンとしての活動について紹介していました。
(渡辺志保)これからの時間は私が気になったアルバム作品を毎週1枚、取り上げてお届けしているんですけれども。主に……まあ新譜品を2週続けて取り上げたんですけれども、ある出来事がありまして。昨年リリースされたこの作品をやっぱり何度となく私も繰り返し聞いてしまいましたので、是非皆さんともシェアしたいなと思います。ニプシー・ハッスルの『Victory Lap』というアルバムです。
なぜこのアルバムを繰り返し聞いてしまったかと言いますと先日、3月31日。ニプシー・ハッスル自身の地元でもあります、自分が経営してるお店の前で銃撃にあってしまって。なんと33歳という若さでその命を終えてしまった。日本時間でいうと4月12日に彼を弔うお別れ的なセレモニーもありまして。場所があのステイプルズ・センターっていう、NBAロサンゼルス・レイカーズの本拠地でもありますし、毎年グラミー賞なんかが行われる大ホールで、彼のお別れのセレモニーがありました。
そこにはスティーヴィー・ワンダーとかスヌープ・ドッグとかも参加していて。で、ニプシー・ハッスルのパートナーでもありましたローレン・ロンドンももちろん参加して、すごく印象的なスピーチを残しておりました。「もうあなたのことは地球を飛び越えるぐらい愛してる。また会える日までこのマラソンは続いていくんだ」っていうことをね、彼との間に生まれた息子を抱えながら、そういったスピーチもしておりましたね。
というわけで、この『Victory Lap』というアルバムなんですけれども。発売されたのは2018年の2月になります。で、当時ビルボードの総合アルバムチャートでは最高位が2位。そしてヒップホップ・R&Bチャートでは1位をマークしまして、今年のグラミー賞では栄えあるベストラップアルバムにもノミネートされた作品です。で、このアルバムなんですけれども、ニプシー・ハッスルにとっては初めての、ファーストアルバムだったんですよね。
それまでにも自分で無料でミックステープを配布したりとか、あとは1枚、高値をつけてすごく限定的なファンに向けて自分のCDを売っていたりとか。いろんなチャレンジングなことをしていたんですよ。2010年にはすでにラッパーとして活動していたニプシー・ハッスルなんですけれども、なぜデビューアルバムを出すまでにこんなに時間がかかっていたかというと、彼は自分のビジネスを展開しながら自分の条件に合うレコードレーベルっていうのをずっと探していたんですね。で、自分の「All Money In」っていうレーベルと、ワーナー傘下のアトランティックというレーベル、そこでメジャーディールを結んでこの『Victory Lap』を発表したということになります。
が、これはですね、ニプシー・ハッスルの死を受けていろいろTwitterでも拡散されていたり記事にもなっていたことなんですけれども。「みんな、ニプシー・ハッスルの曲をストリーミングでいいからどんどん聞いてくれ。なぜなら、ニプシー・ハッスルは自分の楽曲の原盤権を自ら保有しているから、みんなが聞けば聞くほどその収益は遺族の元にそのまま送られることになる」という風に言われてまして。
なんかこれも……まあ自分の死後を予想してこういうディールを結んだわけではもちろんないとは思うんですけれども。かつ、その原盤を持っていたと言っても何パーセント、彼が自分の楽曲の原盤を持っていたか分からないんだけれども。でも、そこも彼がやはりビジネスマンだったなと思うところですね。普通、メジャーレーベルに全て自分の原盤とかを渡してしまうアーティストが多いと思うんですけれども、ニプシー・ハッスルはやっぱりそこを自分でがっちり掴んでお金を稼いでいくというね、そういう姿勢のラッパーでもありました。
結果ですね、彼の死後にアルバム『Victory Lap』は発売から1年以上経ってはいたんですが、なんとそのニプシー・ハッスルの不慮の事故の翌週にはビルボードチャート2位まで上昇したんですよね。前回、このコーナーでは映画の『The Hate U Give』という作品にも触れましたけれども。
そこでもちょっと話しましたけど、やっぱりヒップホップアーティストとかブラックコミュニティーという世界では、自分の地元への愛情とか、そこで育ったことに対する責任感みたいなものがすごく強いんですよね。地元のために募金団体を設立したり、あとは年末のホリデーシーズンには子供たちに贈り物を届けたり。あとは奨学金を寄付したりという、そういったラッパーがすごく多いんですよ。で、ニプシー・ハッスルはロサンゼルスのクレンショーというエリアに生まれたラッパーなんですけども。
彼は一際、その責任感が強かったんですね。先ほどもレーベルの話をしましたけれども、同時に彼はビジネスマンとしての才能も非常に高く持ち合わせていた人物でもありまして。自分の地元の土地や区画を買い取って、そこで自分でお店を開いて、自分でビジネスを起こして。稼ぐだけではなくて、地元の人々の雇用の機会も増やしていったんですね。ちなみにこういう動きをですねスラング的に「Buy Back the Block」っていう風にも言っ ていまして。
自分の育ったBlock……土地であるでブロックを買い戻すっていう、そういうスラング的な表現も今は生まれておりますね。たとえばフロリダのリック・ロスも地元でファーストフードのフランチャイズを展開していたりとか。あと、ラッパーの間でいろいろと土地に投資するようなこともいまは広まっている動きでもありますね。そのリック・ロスも実際に『Buy Back the Block』っていう曲を出していて。そこにはこのニプシー・ハッスルもフィーチャリングアーティストとして参加してますし、ヒューストンのスリム・サグ、ニューヨークのファット・ジョー、そしてオークランドのE-40たちが参加して、いかに自分の地元でビジネスを起こして地元に貢献しているかっていうことをラップしております。
そういった動きがね、いま広まっているところです。というわけでニプシー・ハッスルの楽曲からはそういう彼の哲学的な部分。あとはビジネスマンとしての才覚。あとは人生を生き抜く知恵のようなものがまさに詰まっていたという感じです。というわけで、ここで『Victory Lap』から1曲、お聞きください。『Last Time That I Checc’d feat. YG』。
Nipsey Hussle feat. YG『Last Time That I Checc’d』
(渡辺志保)いまお届けしたのはニプシー・ハッスルが昨年リリースしたアルバム『Victory Lap』から『Last Time That I Checc’d feat. YG』でした。YGもですね、先ほどにお話ししましたお別れ会で「ニプシーはまるで”ブラザー・フロム・アナザー・カラー”だ」っていう風に言っていまして。これは「Brother from another mother」っていう「異母兄弟のように仲が良かった」という表現があるんですけれども。そこを「違うお母さんから生まれたブラザー」ではなくて、「違う色から生まれたブラザー」という風に言ってましたね。
この時に言う「色」っていうのはギャングの抗争のことを表しておりまして。YGは赤組(ブラッズ)、ニプシー・ハッスルは青組(クリップス)なんですけども。そういった対立の環境をも飛び越えた、それぐらい仲の良かった関係だったという風にも言ってました。で、今回ニプシー・ハッスルは自分が愛して自分が尽力したストリートによって殺されてしまったという事実がありまして。さっきも話したように、自分が「Buy back the block」して、買い戻して経営していたアパレル店マラソン・ストアというお店があるんですけれども。その自分が経営していたお店の前でファンを装ったというような感じの男性によって射殺されてしまったというところです。
私がこのニュースを聞いてちょっと思い出してしまったのはXXX・テンタシオンという若いラッパーも昨年、同じく銃に倒れて命を落としてしまったんですけれども。彼もまた自分が生まれ育ったサウスフロリダの土地をもっとよくしようと思って、自分のお母さんと一緒にいろんなチャリティーのイベントを開いたりであるとか、そういうことを計画している最中に撃たれてしまったというところです。さっき言ったこととちょっと矛盾はしてしまうんですけれども、自分の地元に尽力するラッパーはたくさんいるんですけれども。
それと同時に成功すると、自分の地元を離れるラッパーや成功者の人もすごく多いんですね。やっぱり急にお金を持って成功してしまうと、その分トラブル、問題が増えますから。あえて自分の地元を離れる人もたくさんいるんですけど、逆にニプシー・ハッスルもXXX・テンタシオンも成功した自分の立場をよく利用しようとして、あえて地元に残っていたんですよね。でもそれが仇となって結果、こうしてね早く、若くして命を落とすことになってしまいましたので、非常になんか悔しいといいますか。なんか本当に難しい状況だなという風に感じております。
ここでもう1曲、『Victory Lap』からお届けしたいと思うんですけれども。次お届けする曲は同じく西海岸出身のケンドリック・ラマーを迎えた『Dedication』という曲です。「Dedication」という単語は「献身」とか「自分を捧げること」っていう意味になるんですけれども。本当にストリートとヒップホップのシーンに身を捧げたニプシー・ハッスルという意味ですよね。リリックも最初の方に「この曲はリアルな男たちのセレブレーション(お祝い)だ」というリリックもあるんですけれども。ちょっと私としては、彼のレガシーを祝す意味合いでこの楽曲をオンエアしたいと思います。それでは聞いてください。ニプシー・ハッスルで『Dedication feat. Kendrick Lamar』。
Nipsey Hussle『Dedication feat. Kendrick Lamar』
<書き起こしおわり>