渡辺志保 ケンドリック・ラマー『GNX』を語る

渡辺志保 ケンドリック・ラマー『GNX』を語る INSIDE OUT

渡辺志保さんが2024年11月25日放送のblock.fm『INSIDE OUT』の中でケンドリック・ラマーが突如リリースした最新アルバム『GNX』について話していました。

※この記事は許可をいただいた上で書き起こしております。

(渡辺志保)今日はなぜ、わざわざこんな風に出戻ってきたのかと言いますと、大事件です。ケンドリック・ラマーさんが新しいアルバムをリリースしましたということで、ちょっとそれについてどうしても『INSIDE OUT』でも話しておきたいという感じでして。この『INSIDE OUT』でも今年、2024年は割と細かくしつこく、ケンドリック・ラマーとドレイクのビーフというところを追ってまいりました。で、間違いなくそこに繋がるストーリーとしてのこのケンドリックのニューアルバムということで、私からこのニューアルバム『GNX』についてお話ししたいなという風に思います。

このケンドリック・ラマーのニューアルバム『GNX』はアメリカ時間では11月22日、金曜日の午後にリリースされたということですね。日本時間だと2日付が変わって23日、土曜日の深夜1時、2時ぐらいかなっていう感じがするんですけれども。リアルタイムで「うおー!」みたいな。まあ、発見したというか、リアルタイムでその情報を見つけてアルバムをいち早く聞いたという方も少なくないのではないかという風にも思います。私も金曜日の深夜2時前ぐらいまで起きていて。で、最初にそのプレビューの動画がSNSでポストされて。「ああ、ケンドリック・ラマー、いよいよ新作を出すんだ。新曲を出すんだ。しかもこういうプレビュー付きで出すんだ」みたいな感じで感極まったんですが、さすがに眠くて。「明日の朝、起きたら聞こう」みたいな感じで寝ちゃったんですよね。

で、起きたら……私はてっきり新曲を1曲、ミュージックビデオ付きで出すのかなという風に思いながら床についたんですけど。朝、起きたらアルバムという形でサプライズリリースされていて、それにめちゃめちゃびっくりしました。「まさかこのタイミングで」という。2024年もそろそろ終わるぞ、暮れるぞというタイミングで新しいアルバムを出したということにめちゃめちゃびっくりしました。で、この番組でも以前にケンドリックが『Not Like Us』をリリースした辺りの時にお話ししたかもしれないんですけど。

トップ・ドッグ・エンターテイメント(TDE)という元々、ずっとケンドリックが所属していたレーベルを彼は離れているんですよね。で、pgLangという新しいレーベルというか、クリエイティブチームを彼は作っていて、そこからのリリースということで。で、前作のアルバム、2022年に発表した『Mr. Morale & the Big Steppers』は、ま、それは、えっと、TDEからのリリースだったんだけども。今回の『GNX』から、初めてそのTDEを離れてpgLangからリリースしたアルバムということになるそうです。

で、この『GNX』というタイトルなんですけども、車に詳しい方だとすぐにピンとくるかもしれないんですけど、私は本当に恥ずかしながら車に関する知識がほぼゼロでございまして。最初は「GNXって何の略なんだろう? Xは数字の10を表すのかな? じゃあ、GNって何なんだろう?」みたいな、とんちんかんなこと考えながらアルバムを聞いていたんですけれども。この『GNX』というのは車の車種を表すアルファベットということでした。ビュイック・グランドナショナル1987年式がここで表されている『GNX』という車で。私の本当ににわかの知識というかセンス、感覚なんですけど。ざっと日本のウェブサイトを調べたところ「最強のグランドナショナル」という風に評されておりまして。まあ、そういう車ということなんですね。

GNX=ビュイック・グランドナショナル1987年式

(渡辺志保)で、ケンドリック・ラマーが生まれ育ったLAではこのビュイックっていうのがスタンダードな車種のひとつなのかなという風にも思うんですけれども。で、ケンドリックは個人的にもこのGNXとは深い繋がりがあるそうで。ケンドリック・ラマーが生まれた時にケンドリックのお父さんがママを病院に向かいに行きますよね。ベビーちゃんが生まれてね。で、そのママを迎えに行って、生まれたばっかりのケンドリック・ラマーを乗せて走っていた車がこのGNXなんですって。で、その時、ケンドリック・ラマーが病院からお家に帰るまでに乗っていたGNXで、お父さんがそこでビッグ・ダディ・ケインを流していたということを2012年のメディア「COMPLEX」でのインタビューでケンドリック・ラマー自身が語っていらっしゃいました。

で、この車でいろいろとお父さんがビッグ・ダディ・ケインだったり、ラキムだったりとか、いろんなクラシックなヒップホップ楽曲をいつも聞かせていて。「お前もこんなすげえラッパーになるんだぞ」みたいなことをおっしゃっていたそうなんです。なので、この車っていうのは非常にケンドリック・ラマーとゆかりが深い車ということらしいんですよね。で、「Harper’s Bazaar」っていう雑誌・メディアでちょっと前にSZAとのインタビューが掲載されて話題になりましたけれども。その時に写っていた車もこのGNXで。ちょっと前にケンドリック・ラマーがどうやらこのビュイックを購入したらしいということも解説記事にも載っておりまして。まあ、そんなこんなでより、自分の生まれ育った環境であるとか、自分の個人的なルーツ。あとはLAそのものを反映したタイトルなのかなという風にも思いました。

で、ざっと聞いて……このアルバムを聞いてまだ2日、3日ぐらいしか経ってないので、ちょっと至らぬところもあると思いますし、説明不足なところもあるし。もしかしたらちょっと「そこ、違うんじゃねえの?」みたいなところもあるかと思うんですけれども。まあ「ああ、そんな感じなんだ」っていう雰囲気で、以下私が話すことを聞いてほしいなという風にも思います。で、私もざっと聞いてなんですけれども、個人的にはやっぱりサウンドがめちゃめちゃ好みでした。めっちゃウェッサイの風というか、味が含まれたサウンドだなという風に思って。で、たとえばさっきもちょっと名前を出しましたけれども。このアルバムのひとつ前のアルバム、2022年の『Mr. Morale & the Big Steppers』であるとか、さらにその前のアルバム。2017年に発表された『DAMN.』とか、もちろんすっごいアルバムだし、いろんな賞を受賞しているアルバムなんだけど。

やっぱりこう、重厚すぎて軽いノリでは聞けないっていうか。やはり、その後ろに連なる文脈がたくさん重なり合っているし。もちろんケンドリック・ラマーの語り口も非常にシリアスだったりとか、自分の胸の内を吐露する……まあ、その吐露するみたいなところはこのアルバムでももちろん同じなんだけど。やっぱり、なんかそこの……当時、私もケンドリックのアルバムを評する時に「ケンドリックの1人芝居を聞いているみたいだ」というようなことを話した気がするんですけれども。すごい舞台っぽいというかね、でかい装置がケンドリックの後ろにあって。

その前でケンドリックがラップしているというような雰囲気を私は感じ取っていたんですよね。で、サウンド的にも別に西とか東とか、関係ないわけはないけれども。そういった地域的なところを超越した場所にあるようなサウンドだなという風にも思っていたのですが、今回のアルバムに関してはですね、繰り返すけどめっちゃウェッサイな感じで、やっぱりいい意味でノリで聞けるというか、踊れるというか。褒め言葉だけどサウンドがちょっとナスティというか、やや下品な、ラチェットな味もあって。そこは私はめちゃめちゃ好みだなという風にも思いました。

で、このアルバムのメインのプロデューサーはもちろんTDE時代から付き合いのあるサウンウェイブが手がけていて。そして驚くべきことはテイラー・スウィフトの諸作とか、あとはサブリナ・カーペンターなんかの楽曲を手がけている、言うたらポップミュージックの名プロデューサー、ジャック・アントノフが参加しているということなんですね。で、ジャックさんはこのアルバム、12曲収録されてるんだけど12曲中11曲でプロデューサーとしてクレジットされているということで、間違いなくこの『GNX』のサウンド面を支えるプロデューサーなんですよね。

ジャック・アントノフがプロデューサーとして11曲に参加

(渡辺志保)で、ちなみにジャック・アントノフとは今年のドレイクとのビーフのいざこざの中で発表しました『6:16 in LA』という曲がありましたけども。そこにもこのジャックさん参加されていまして。ちょっと前、私がSNSで見かけた噂なので信憑性が低いかもしれないんだけど。ケンドリック・ラマーがテイラー・スウィフトとコラボレーションしている、みたいな噂が飛び交っていたのを見ていたんですよね。で、結局この『GNX』の蓋を開けてみると、テイラーこそ参加していないけれども、ジャック・アントノフが全体の90%近くに参加している様子を見ると、聞くと、あながちテイラーとのコラボっていうのもありえない話じゃないのかな、という風にも感じました。

で、あとはそのサウンド面で言いますとマスタードが……マスタード、めっちゃいい仕事してらっしゃいますね。『Not Like Us』、今年の 大ヒットシングルありますけれども。『Not Like Us』もマスタードがプロデュースしている楽曲ですし。なので、その続『Not Like Us』みたいな雰囲気もめちゃめちゃ感じました。で、あとはですね、ドディ6とかレフティ・ガンプレイとか、ウェッサイのアンダーグラウンドなラッパーたちも多く起用されてるんですよね。で、これもここ最近のケンドリック・ラマーのアルバムにはなかなか見られなかったムーブだと思っていて。なので、その磨き上げられたすごい洗練されたサウンドばかりではなくて、やはりそのギトギトしたというか、まだラフさが残っているアンダーグラウンドのラッパーがそういう味を付け足しているわけなんですよ。

なんでそこのミックス具合、融合させ具合っていうのは、今年の6月に行われた『The Pop Out』というね、ケンドリック・ラマーがでっかいフェスをやりましたけれども。そこでもなんとうか、タイラー・ザ・クリエイターも出てくれれば、ロディ・リッチも出てきて。ドム・ケネディとか、ミックステープシーンをにぎわせた敏腕ラッパーなんかも出てきて、みたいな感じで。本当にいろんなウェッサイのラッパーたち、ミュージシャンたち、ヒップホップアーティストたちが出てこられたわけですよね。なんで、そのいい意味でのLA、ウエストサイドという大きなお皿の上でいろんなアーティストが活動している様子が私は『The Pop Out』から感じられたんですけれども。その雰囲気をそのままとは言わないけれども。その雰囲気を残しながら完成させたのがこの『GNX』なのかなっていう風にも感じました。

スーパーボウルのハーフタイムショーへの言及

でですね、ケンドリック・ラマーといえばいろいろ2024年、本人がどこまでこう狙っていたかわかんないですけど。そのドレイクとの一連のビーフがあったり、あとは来年2025年のスーパーボウルのハーフタイムショーでパフォーマンスをするということも非常に取り沙汰された人物だと思います。で、そのスーパーボウルのハーフタイムショーにおいても、来年のスーパーボウルはニューオーリンズで開催されるんですけど。そこでケンドリック・ラマーがライブするっていうことにおいて、やはりというか、ヒップホップならではだなと思ったんだけど。「なんでニューオーリンズなのにケンドリックなんかい?」みたいな、そういうツッコミもめちゃめちゃ起きていたわけですよね。

「リル・ウェインじゃないんかい? ニューオーリンズのラッパーといえば、リル・ウェインちゃうんか?」みたいな感じで、めっちゃリル・ウェイン擁護みたいな意見も飛び交っていて。たとえばニューオーリンズのバードマンであるとか、ジュヴィナイルとかは「なんでなんや?」みたいなことを赤裸々にSNSでも語っていたし。ニッキー・ミナージュとかもやっぱりね、自分のレーベルの先輩ということで「リル・ウェインがふさわしいのではないか?」みたいなことをおっしゃってたんだけど。まあ、そこにケンドリックは、もちろんというか、彼のキャラクター的にもいちいちそこに反論するということは一切、これまでなかったんですよね。なんだけど結構ね、このアルバムの中でリル・ウェインの話とかスーパーボウルの話をしていて。それが私は結構、意外でした。

なので、そういう外野のたわごとみたいなものがしっかりケンドリックの耳にも届いていて、しっかりそれに対してアンサーをしているケンドリックっていうのがすごい感情的だなという風にも思ったし。なんか、いつもの彼からは見られない……その去年より前のケンドリックからは見られないムーブだなと思っていて。なのでこういう感情的な反論とかリリックっていうのも……しかも、特定のことに対して、特定のラッパーに対してのリリックっていうのも2024年のケンドリックならではなのかなという風に思いました。

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