朝井リョウ DJ松永とスイス滞在中の西加奈子に会いに行って感じたことを語る

朝井リョウ DJ松永とスイス滞在中の西加奈子に会いに行って感じたことを語る NHKラジオ第一

朝井リョウさんが2024年7月14日放送のNHKラジオ第一『マイあさ!』の中でスイスに半年間、滞在中の友人、西加奈子さんのところにDJ松永さんと行って10日間、過ごした際の模様を紹介。現地の書店の模様や街を歩いていて感じたことなどを話していました。

(朝井リョウ)朝井リョウです。本日はスイス旅行について、ちょっとお話をしたいなと思っております。6月の前半にですね、10日間ぐらい、友人(DJ松永)とスイスの方に行ってまいりました。で、ただの旅行の話をするわけではなくて、一応ちょっと本に関連したというか。出版の世界に関連したお話と繋げられればと思っております。

何でスイス旅行にこのタイミングで行ったのかというと、同業者の作家の友人(西加奈子)がですね、今年の1月から長期でスイスの方に滞在をしておりまして。それは半年ごとに世界中の作家から1人、スイス側から招待される形で半年間ほど、滞在するっていうプロジェクトがあるようなんですね。

「アーティストレジデンス」と呼ばれるものだと私は認識してるんですけれども。そこでその執筆や創作に集中できる形で世界中から1人の作家が選ばれて、スイスに半年間滞在するというシステムがあるようなんですよね。その時点で、日本の出版業界ではなかなか聞いたことがないシステムなので。そういうことがあるっていう時点で結構、私は驚きました。

で、その友人の滞在期間中に一度、スイスに遊びに行きたいなと思っておりまして。で、ちょっと冬は寒すぎるかなと思いましたので、6月ぐらいだったら過ごしやすいかなということで、行ってまいりました。基本的にチューリッヒという都市部に滞在していたんですけれども。一番初めはツェルマットと呼ばれる、チューリッヒから片道4時間ぐらい電車に乗っていく山岳部ですね。そっちの方に行って、みんなでハイキングをしたりですとか。

あと、ちょうど私が滞在している時には、チューリッヒから片道1時間ぐらいのバーゼルという都市で街を挙げてのアート展みたいなものが行われてまして。それもみんなで見に行きました。やっぱりその中で書店にもいくつか入ってみたりとかして。たとえば日本人の作家だったら、どういうものが置かれてるのかなとか。いろいろちょっと見て回ってきたっていうところもあります。

やっぱりどこにでもあの村上春樹さんの本は置いてありました。しかもやっぱりかなり目立つところに……日本人の作家のコーナーみたいなところではなくって、その書店の全体として目立つところに置いてあることがすごく多くて、かなり感激しながらいろんな書店を回りました。で、日本とは違うところでびっくりしたのが、目立つところにその村上春樹さんのお名前とお写真が掲載されたものが売っていたので。「ああ、これも本なのかな?」と思ったら、CD音源が売られてたんですね。

日本の書店だったらベストセラーとかが置いてあるような場所に、村上春樹さんが名前を冠したCD音源が売られていて。「なんだろうな?」と思って手に取ってみたら、朗読の音源でしたね。それはご本人の朗読ではおそらくないと思うんですけれども。とにかく村上春樹作品の朗読音源がすごい書店の目立つところにボンッて置いてあって。そういうことも日本の書店ではなかなか巡り合うことがないので、かなり驚きました。

「IKIGAI(生きがい)」ブーム

(朝井リョウ)あとは「IKIGAI(生きがい)」っていう言葉、この日本語が結構世界で今、ブームっぽくなっているらしくって。私が見つけたものだと、茂木健一郎さんが書かれている『生きがい』っていうタイトルの本が割と主要な本を集めたようなゾーンに置かれていたりですとか。あとはレンタルなんもしない人の本が英訳されたものがあったり。そういう主要な本が集められたような棚に置かれていたりですとか。なんていうんですかね? 私がいろいろ予想していた「この人の方があるのかな?」とか……もちろん、そういう人の本もありました。

中村文則さんとか、村田沙耶香さんとか、世界で読まれている方々の本も置かれていたんですけれども。全然、私が正直予想していなかったような日本の本も翻訳版が目立つところに置いてあったりとかして。やっぱり生きがいっていうのはすごい、たぶん日本的な概念として今、広まっているようですし。レンタルなんもしない人っていうのも、今の日本の現状をすごく反映した本としてきっと読まれているんだろうなという風に感じました。

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(朝井リョウ)その話の関連で言うと、日本でいる時にいろんな小説家の人と話していると「『東京』っていう言葉がタイトルに付いているとその本が異様に翻訳された」っていう話を聞いたりしたことがあったので。もちろん本の内容とか面白さみたいなものもとっても重要だと思うんですけれども、なにか今の日本であったりとか、今の東京らしさみたいなものが詰まった本みたいなものも、もしかしたらすごく興味・関心が現地の方からしたら高いのかなという風に感じました。

街全体でもなかなか違いをいろいろ感じることがありまして。びっくりしたのはすごく、とにかく広告がなかったんですよね。スイスにいる10日間は街を歩いてても広告が何もないし、CMを見たりすることもなかったので。消費活動を促されるような情報みたいなものが本当に街の中になくて、びっくりしました。

街に広告が全くない

(朝井リョウ)そしてカフェがすごいたくさんの数あったんですけれども、テラス席みたいなところもすごく広く、いろんなお店が確保してたんですが。そこで、たとえばパソコンを広げて仕事をしていたりとか、そういう人を見ることも本当に少なかったなという風に感じました。それでいて、日曜日にはコンビニのようなお店もしっかり休むんですよね。スーパーとかデパートも、日曜日は完全に休んでいることが多くて。

それでいて物価が高くって、賃金も日本と比べてすごく高い。たとえばスーパーのレジをやっている方の月給が日本でいう80万円ぐらいあるみたいなお話を伺ったので。日曜日、すごいちゃんと休むし。消費活動を過剰に促してくるような情報もないけれども、高い経済レベルみたいなものが維持されているのって、どういうバランスなんだろう?って思って。滞在してる時はすごく不思議だったんですよね。

で、ホテルから徒歩で行けるところにデパートが二つ、あったので。それもみんなでいろいろ巡ったんですけれども。本当に高いんですよね。こちらからすると。普通のスーパーで売ってるようなお寿司のパックが5000円みたいな世界で。でも、なんか成り立ってるんだなって思って。こんなに広告とかがない世界なのに、不思議だなと思いながら帰国したんですけれども。

帰国して調べてみたら、その二つのデパートのうちのひとつは経営が立ち行かなくなって、今年の年末で潰れることが決まっていて。もうひとつの方は、オーストラリアの富豪がそのデパートを買い取っていたようなんですが、どうやらその富豪が破産してしまったから、近々潰れるかもしれないみたいな情報を日本に帰ってから知りまして。なんか私は所詮、旅行客として10日間、上澄みの綺麗な部分しか見てなかったんだなっていうこともすごく帰国して実感しました。

旅行客として上澄みの綺麗な部分しか見ていなかった?

(朝井リョウ)そういう感じで本当に久しぶりの海外の旅行だったので、すごく単純にその楽しみもありましたし。いろんな書店を見て回って、「日本と全然違うな」って思うところも新鮮でしたし。街を見て、何かいろいろわかったような気になったけれども、日本に帰っていろいろ調べてみたら、自分が見ていたのがすごい上澄みの綺麗な部分だけだったんだな、みたいなこともありながら。

本当に個人的にはすごくいろんな刺激になった旅だったので。本当、たまにはこういう感じでゆっくり時間を取って全然文化の違うところに行ってみるっていうのはやっぱりいいことだなっていう風に思いましたね。あまり私は得意ではないんですけれども。旅行自体。で、今回の旅行が何か直接、私の創作に影響することがあるか?ってのは現時点ではわからないんですけれども。ものすごく今回は本当にいい思い出になったので、皆さんにもちょっとお話をおすそ分けできたらなと思ってお話をいたしました。ということで、本日は、先日行ったスイスの旅行についてのお話を聞いていただきました。小説家の朝井リョウでした。

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<書き起こしおわり>

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