2024年5月18日に今野書店で行われたトミヤマユキコさんの著書『ネオ日本食』刊行記念イベント『もっと「ネオ日本食」の話をしよう!』。あの南インド料理店「エリックサウス」などを手がけ、TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』などにたびたび登場して極上の食いしん坊トークを聞かせてくれる稲田俊輔さんとトミヤマさんの食に関するトークショー。「こんなの、鉄板で面白いに決まってるでしょ!」と勘が働き、自腹でチケットを取って現地でチェックしてきました。
事前の想像を上回る面白さだったこのトークショーですが、なんと今野書店さんにお声がけいただき、オンライン配信アーカイブの販促のためにトークショーで面白かった部分を書き起こしさせていただくことに! これは書き起こし職人として腕が鳴るぜ!っていうことで、パンチライン満載のトークの中から3ヶ所ほどピックアップいたしました。まずは「マリトッツォがネオ日本食になりそこなった理由」というパートの書き起こしです。
※この書き起こし記事はイベント主催・今野書店様のご協力のもと、オンライン見逃し配信販売の宣伝を目的として公開しております。
(稲田俊輔)高度性経済成長からバブルを経て、日本人ってたぶん日本の文化に自信を持ったし。その文化の中でも、特に食文化に関しては普通に今の人たち、「食文化は日本が世界最高でしょう?」って思っていて。かつて、「日本の食べ物なんて貧乏くさいし、衛生的にも栄養的にも……だから西洋は偉いんだ」っていうような時代とはもう全然、変わってきているから。今、ネオらせることに対して、何の躊躇もなくなっていて。かつてのような迷いみたいなものがなくって。もっと素直にやってるな、みたいな感じがあるんですよ。
(トミヤマユキコ)なるほど。
(稲田俊輔)で、僕、それが象徴的に表れてるのが、数年前のマリトッツォを巡る一件なんじゃないかって思っていて。
(トミヤマユキコ)出た! マリトッツォ。覚えてますか? めっちゃ流行ったよ?
(稲田俊輔)「追憶のマリトッツォ」っていう話を今からしなきゃいけなくて。
(トミヤマユキコ)聞きたい! ねえ。流行ってたのに。めちゃめちゃ流行っていたのに。
(稲田俊輔)あれは完全に、ネオ日本食になれなかった……なりそうだったのに、なれなかった。なりそびれた人じゃないですか。あの人は。
(トミヤマユキコ)「◯◯トッツォ」みたいなの、すごいありましたもん(笑)。
(稲田俊輔)そこなんですよ! その「◯◯トッツォ」がたぶんその鍵を握っていて。で、その(バブルの)分水嶺の直前ぐらいにティラミスがあったんです。その時、ティラミスはバーッて日本中で流行って。ブームは一旦、落ち着きました。でも定番化しました、みたいな感じで。もう、これはほぼネオ日本食と言ってもいいぐらいの普及ぶりっていうか。
(トミヤマユキコ)そうですね。かなり根づきましたね。
(稲田俊輔)ただ、そのティラミスがネオ日本食と言い切れないところもあって。なぜなら、オリジナルからあんまり変化してない。だからオリジナルから変化せずに定着したから、そういう意味ではネオ日本食の定義は満たさないかもしれないけど。
(トミヤマユキコ)そう。ネオりが弱い。
日本に定着したティラミス
(稲田俊輔)「ネオりが弱い」(笑)。そうそう。まあ、どっちにしてもあれはあれはひとつの定番になって。今でもね、もう全然、第一線じゃないですか。スイーツ界の。マリトッツォはあれになれる可能性があったのになれなかった。それはまさにあの「◯◯トッツォ」なんですよ。いろいろありましたね。あんトッツォとか。あと、まぐろトッツォとかあったの、知ってます? ご飯とご飯があって、ネギトロが挟まっているっていう(笑)。
(トミヤマユキコ)いやいやいや……(笑)。だからさ、その「食べ物で遊ぶな」っていう。親から言われたやつ(笑)。
(稲田俊輔)だからマリトッツォ、最初にバーッと流行ったでしょう。そこまではよかった。ものすごい爆発的じゃなかったですか。最初は。どこも品切れになっていたりとかね。でも、その2ヶ月後にはもう大喜利が始まっていたわけですよ。マリトッツォ大喜利みたいなのが。なんか挟んで「トッツォ」をつけたら……みたいな。「はい、早かった!」みたいな感じで。
(トミヤマユキコ)そう。わかります。
(稲田俊輔)で、たぶんこれは別に僕が分析するまでもなく、あの◯◯トッツォの大喜利こそがマリトッツォを滅ぼしたっていうのはたぶん、日本中みんなが知ってるんだけど。その時にじゃあなぜ、ティラミスの時はそれが起こらなかったのか? 大喜利が起こらなかったのか?って考えたら、ティラミスの時代まではまだ、日本人は食に対して劣等感を持っていて。「イタリアっていう素晴らしい食文化のものを我々は学び、取り入れていかなきゃいけない」みたいなのがあったわけですよ。だから当時のその、イタメシブームですよね。要するに、ティラミスって、イタメシブームのたぶん最後に引っかかってるんだけど。そのイタメシブームを通過した、こことかに至るあれですけども。
で、なんせその時はそのティラミスというものは日本にはない、素晴らしい外国の文化であって、我々はそこに学ばなきゃいけない。それに対して偽物、まがい物と言われないものを出さなければいけないみたいな気持ちがとても強かったと思うんですよ。その時にね、僕も全然子供なんであんまり覚えちゃないんですけど。当時、ロッテかなんかで「ティラミスチョコレート」っていうのが……。
(トミヤマユキコ)あった! 覚えている!
(稲田俊輔)あれが実は、本当に日本全国津々浦々にティラミスブームを浸透させた原動力だった、みたいな話で。そういうものも含めて「いかに本物を作るか」みたいなことで躍起になっていて。その時の当時の話で僕、めちゃめちゃ面白いと思ってるのが、あれは原料マスカルポーネチーズなんですよね。でも、あまりにも急激に日本でブームが来たから、マスカルポーネチーズ自体がなくなっちゃったんですよ。で、なくなってしまって。せっかくブーム来たのに、作れない!ってなった時に何が起こったか?っていうと、日本のとある油脂メーカーが、クリームチーズとか、植物性油脂とかなんですかね? そういうものを様々に工夫して、マスカルポーネの代替品みたいな。マスカルポーネじゃないけどマスカルポーネと同じように作れて、本格的な本物のティラミスが作れますよっていうものをものすごい短期間で開発して。その商品に「マスカルボーネ」っていう名前をつけたっていう(笑)。
(トミヤマユキコ)おいっ!(笑)。
(稲田俊輔)そんなの、今じゃ絶対に許されないじゃないですか。たぶん。今、この時代だと。それで絶対、炎上するじゃないですか。
(トミヤマユキコ)「ポ」が「ボ」はマズいよ。怒られる(笑)。
(稲田俊輔)今だったらたぶんあれ、あっという間に炎上して。そこのメーカーが「申し訳ございませんでした」って謝罪して、そのままシュルシュルシュルッてブームがしぼんだかもしれないですけど。でも、そこまでしてね、代替品を作ってでも正しいティラミスを作ろうっていう風に当時はしていたから、今まで残ってるんじゃないかなって。一方、マリトッツォはどうですか? そういう意味で言うと。
(トミヤマユキコ)いや、やっぱり大喜利に至るのが早すぎたのはあったし。今の話を聞いていると「いじる」っていう文化があるじゃないですか。食べ物に限らずですけど。誰もが……お笑いのプロとかじゃなくても、いじるっていう文化があるじゃないですか。SNSとかでもそうですよね。なんか面白いコラージュの画像を作ったりとか、みんな大喜利っぽいことをやったりとか。1億総いじり時代なんで。だからいろんなお店の料理人がいじっちゃった感じですよね。もう「本場の味を参照する」とか、あんまり考えてないし。
(稲田俊輔)そこはもう、どうでもよくなってるんですよね。
(トミヤマユキコ)で、ティラミスは味を一応、守ろうと思うわけじゃないですか。マスカルボーネを作るぐらいだから、その味を変えないでおきたいっていうのがあるけども。トッツォの大喜利はさ、もう「ご飯とまぐろ」とかになってるわけで。その元の味を無視してるのもまずかったんじゃないかな?って。
(稲田俊輔)そうですよね。言われてみたら、まぐろなんて要素として何も残ってない……「トッツォ」しか残ってないっていう(笑)。
大喜利で元の味が無視されていったマリトッツォ
(トミヤマユキコ)やっぱりね、「ふかふかのパンみたいなものに生クリームみたいなものを……」みたいな、この基準から外れていくのが早すぎるとブームは一気に下火に。あと、そのいじり始めて大喜利になると「それ、寒くない?」っていうさ、寒い感じが来ちゃうでしょう? 「寒いな」って思う人たちが出てきちゃうと、もう美味しい・美味しくないじゃなくなっちゃうから。もうそのものが寒いかどうか、みたいなコンセプトの話になっちゃうのもブームが日常に定着していかない大きな……。
(稲田俊輔)そうなると、あれですよね。元々のその正統派のマリトッツォすら、その風評被害というか。
(トミヤマユキコ)そうですよ。「あの寒いやつ」みたいな。
(稲田俊輔)「あの寒いやつの大元のやつね」みたいな。僕もなんか当時、前は僕はどこで買っていたのかな? イータリーとかで一番初期に買って。たしかオレンジピールとかが入っていて、ものすごい美味しかった記憶があるんですよね。でもブームが来て、お店の前を通っても売り切れてて買えなくなった。でも、なんかその大喜利の時代が来るじゃないですか。大喜利の時代を経て、また残ってるというか。「売れ残ってる」みたいな状態になって。「ああ、ある! 買おうかな」って思うんですけど。買おうか、どうしようかなって思いながら前を横切りって。それで自分の頭ん中でね、「これに何をはさんで何トッツォにしたらウケるかな?」みたいな。自分で大喜利の答えを考えてしまって。で、なんかあんまりいいのを思いつかないままに、気がついたら店の前を通り過ぎてるんで、買い損ねるみたいな。たぶんね、当時ね、日本全国のマリトッツォかそういう感じで、みんなが買い損ねちゃって。面白いこと考えちゃうから。それで自分で考えて「寒い!」とか思うから、買わなかったんじゃないかと思うんですけどね。
(トミヤマユキコ)いじりやすかったんだろうね。語呂もいいしね。「◯◯トッツォ」ってしやすいから。
(稲田俊輔)しやすかった。
※このトークの続きはオンライン見逃し配信(1650円)をご購入の上、ご覧ください!
『もっと「ネオ日本食」の話をしよう!』オンライン見逃し配信購入ページ
<書き起こしおわり>