町山智浩 映画『HOW TO BLOW UP』を語る

町山智浩 映画『HOW TO BLOW UP』を語る こねくと

町山智浩さんが2024年6月11日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『HOW TO BLOW UP』について話していました。

(石山蓮華)そして町山さん、今日は?

(町山智浩)はい。今日は結構、やばい映画なんですが。『HOW TO BLOW UP』というタイトルの映画です。

(曲が流れる)

(町山智浩)はい。もう音楽からして、いきなりサスペンスフルなのが流れていますけども。

(でか美ちゃん)不穏な空気になってきますね。

(町山智浩)ねえ。『HOW TO BLOW UP』……「BLOW UP」は「爆破する」っていう意味ですね。なのでこれ、「爆破の仕方」っていうタイトルなんですよ。これね、原題はもっと長くて『How to Blow Up a Pipeline』っていうタイトルなんですね。パイプラインというのは、石油パイプラインのことなんですよ。これね、原作はもう日本で既に翻訳が出てるんですが。これね、タイトルがすごくて。『パイプライン爆破法』っていうタイトルで本が出ています。

(石山蓮華)へー!

(町山智浩)で、副題が『燃える地球でいかに闘うか』っていうんですが。これ、どういう話か?っていうと、CO2(二酸化炭素)で地球が温暖化して、どんどんどんどん毎年、地球の気温が上がってるでしょう? で、これは石油化学工業のせいで地球温暖化ガスがどんどん増えていくから。もう、それを大至急、止めなきゃならないんだけれども全然政府ももちろん、大企業も全然規制が進んでいない。ならば、どうしたらいいのか? 石油パイプラインを爆破してしまえ!っていう本なんですよ。

(石山蓮華)ほー!

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(でか美ちゃん)かなり過激な結論に達しちゃったというか。

(町山智浩)そうなんです。これ、書いてる人は大学教授なんですよ。スウェーデンのルンド大学教授のアンドレアス・マルムさんっていう人が書いていて。どうしてパイプラインを爆破しなければいけないのかという理論書なんですね、この本は。で、どうしてか?っていうとまず、いくら待っても政府はやらない。なぜならば、政治家たちがみんな、石油企業とかからお金をもらってるし。経済全体でかなり石油企業っていうのは非常に大きいですから、それを止めようする人はいない。で、それを止めるためにはどうしたらいいか?ってことで、それに反対する政治家に投票するっていうことをやってきたんだけれども、それでもあまり進まない。だったらパイプラインを爆破する……怪我人が出ないような形で爆発する。もう、それしか方法はないよって言うんですよ。

世界中で進むエコテロリズム

(町山智浩)これ、すごいのはエコテロリズムというのは実は世界中ですごく今、進んでいまして。よく日本で報道されるのは美術館に行って、有名な絵を汚したりして自分たちの主張をするっていう。あれは僕はトンチキだと思ってるんですけど。「そんなことをするよりも、もっと直接的にパイプライン爆破しろ」って言ってるんですよ。どうしてか?っていうと、そのパイプラインを爆破したら、やっぱりそれは犯罪なわけですよ。だから逮捕されるだろうと。それでも、それを繰り返すことによって、そのコストがあまりにもでかくなってしまって。石油産業として使うよりも、そうじゃない方に行った方がいいんじゃないか? そういう方向に少しずつ、移っていくんじゃないか?っていう本なんですよ。

これはすごい過激な本で、これが出た時に大問題になりました。日本でももう本当にこれは大論争を呼ぶ本として発売されたんですけども。それを映画化するっていうのは一体、どういうことなのか? それは、具体的に石油パイプラインを爆破するグループを追っていくドキュメンタリータッチのサスペンス映画になっているんですね。で、監督はどうしてそういう映画を撮ろうとしたかというと、銀行強盗物とかって、あるじゃないですか。

(石山蓮華)はいはい。

(町山智浩)たとえば『オーシャンズ11』シリーズっていうのがあって。それは11人のいろんなプロフェッショナル……金庫破りのプロとか、コンピューターのプロとか、そういう人たちがいっぱい集まって。それぞれの技能を生かして、カジノの金庫を襲うとか、いろんな金庫を襲う映画があるわけですよ。そのジャンルって、やること自体は犯罪なんだけれども、その犯罪自体の道徳性について論議はしないですよね?

(石山蓮華)そうですね。

(町山智浩)それは果たしてそういうことは可能なのか?っていう、知的ゲームとして描いていくんですよ。だからその見てる人は泥棒は悪いと思うけれども、「果たしてそんなことができるの? 一体どうやってやるの?」っていう興味でその作品を見てるじゃないですか。この映画でも、その方式をとったそうです。全くど素人の人たちが石油パイプラインをいかにして誰にも、どこにも怪我人を出さないで爆発することができるか?っていうのを緻密に描いていくという映画になってるんですよ。

で、登場人物が8人いて。8人のグループが石油パイプラインを爆破しようとするんですが。リーダーは女性なんですね。で、ロサンゼルスの南にあるロングビーチ出身の女性で。これね、そこに実際に石油コンビナートがあるんですよ。『ブレードランナー』っていう映画、ご覧になってます?

(石山蓮華)見ました。

(町山智浩)あれ、冒頭で空を飛んでいくんですけど。ロサンゼルスに近づいてくところで炎が吹き上がるんですよ。ブワーッと。あれ、石油コンビナートで、実在していて。今も動いて、稼動してるんですよ。で、そこで生まれ育ったソチトルっていう女性が主人公なんですけども。彼女の両親はがんで早く亡くなってるんですね。で、彼女の親友も白血病になってるんですよ。これはね、その石油コンビナートから排出されるベンゼン。それが発がん性物質なんで、次々と発病してるんですね。で、これも事実なんですよ。その地域の人たちはずっと訴訟してます。「規制してほしい」っていうことと、賠償を求めて。で、このメンバーが集まっていくんですが、ネットで集めるわけですね。「爆破したいんだ」っていうことで、少しずつその同志を集めていくんですけども。そのうちの1人はアメリカのノースダコタ州というところ出身の先住民の人なんですよ。

この人が実際に農薬のアンモニアから爆薬を精製していくんですけども。この先住民の人が住んでいるところっていうのは2006年に実は石油が出まして。ノースダコタってね、急激に石油ブームになるんですよ。で、結構アメリカ中から労働者が集まってきて、突然人口が爆発的に増えて。ところが、その先住民の人たちはずっとその土地に住んでるにも関わらず、一銭もお金が入らなかったんです。これはね、そのダコタに住んでいる先住民の人たちは自分の土地にしてないんですね。

(石山蓮華)先住民の考え方としてってことですか?

(町山智浩)っていうかね、居留地というところに住んでいて。そこは連邦政府のものなんですよ。そこに住んでいるんで、そこから石油が出ても彼らは一銭ももらえないんですよ。石油が出てお金がもらえる人は、その土地を持ってる人で。ナバホ族の人たちは「ナバホ国」という独立自治国をアメリカの中に持っているんで。そこから石油が出た利益を彼らは得ています。あと映画で『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』っていう映画がありましたけども。あれに出てくるオセージ族は自分の住んでるところ、土地を買ったんですよね。だから石油の権利があって。彼らはお金はちゃんと得てるんですけど。それ以外の先住民の人たちはほとんど、連邦の土地に住んでいて。石油が出ても一銭ももらえないんですよ。

(でか美ちゃん)でも、出たからってね、急にその住環境をめっちゃ変えられるって、すごい大変なことじゃないですか?

(石山蓮華)ねえ。引っ越しが来たりとか、急に人が増えたら、どうするんでしょうね。

(町山智浩)何万人もの労働者がノースダコタに入っていって、先住民の女性たちが次々と行方不明になったんです。

(でか美ちゃん)うわあ……。

(町山智浩)アメリカの西部って本当に広いんで、人が死んでも発見されないんですよ。ほとんど。で、流れ者たちが来て、そこで女の人たちをさらっても全然見つからないっていうことで、大問題になったんです。それだけじゃなくて、そのノースダコタでできた石油を、工業地帯がないんで実際に石油を使うところまでパイプラインで引いてるんですよ。で、そのパイプラインは先住民の人たちの住んでるところを通っているんですね。でね、パイプラインってただ通るだけじゃなくて、絶対に漏出するんです。漏れちゃうんですよ。だって、ものすごい距離を……日本の北海道から沖縄ぐらいまでよりも遥かに長い距離のパイプラインですから。アメリカの場合は。そうすると絶対に、少しずつ漏れるんですよ。で、漏れるとそれが染み込んで、水質を汚染しちゃうんですよ。

で、石油が混じった水を飲むと、がんになるんですよね。だから彼らはずっと、その石油パイプラインの建築に反対してやってるんですけど。トランプ大統領になった時にまず最初に彼がサインしたのは、その石油パイプラインの建造の着工だったんですね。で、バイデンさんになってそれを止めるかと思ったんですけど、まだ止まらない状態で、大問題になってるんですけど。だから先住民の彼はそのパイプライン爆破に参加するんですよ。そうすると、最初の人は直接、両親をがんで殺されたわけですけれども。で、先住民の彼も自分の土地を石油売買に侵されてるんですね。で、もう1人、参加する人がいて。その人はカウボーイなんですよ。本当のカウボーイ。さっき『東京カウボーイ』の話をしましたけども。カウボーイのねおじさんが出てくるんですね。で、いつも星条旗の服を着ていてね。完全にいわゆる白人の右翼ですよ。で、全くパイプライン爆破に参加しそうにない、それこそトランプを支援してそうな感じの人なんですけど。

彼は、自分がその放牧をしていた牧場の土地をパイプラインを引くんで、立ち退かされちゃってるんですよ。でね、これねアメリカにある法律で……日本にもあると思うんですが。要するに、政府はそういった形で国家的事業としてパイプライン敷設を行うわけで。その場合には、私有地から立ち退かせることができるんですよ。土地所有法という法律がありまして、それを適用されて彼は土地を奪われちゃったんですね。今、日本でもものすごい勢いで北海道とか九州にメガソーラーが建造されてるんですけど。要するに、CO2を減らすために太陽光発電のソーラー施設を作ってるのに、それは森を切り開いて作ってるんですよ。

(でか美ちゃん)そこを切り崩しちゃったら、追々大丈夫なのかとか、いろいろ……土砂崩れとかも、すごい言われてますよね。

(町山智浩)そうなんです。本末転倒で。環境のためにメガソーラーを作るのに、環境破壊をしてるんですけど。どういう利権なんだと思うんですけど。そういうことがアメリカでも起こってるわけですね。だからすごくね、そのカウボーイの彼は爆破チームのことを左翼的なグループだと思ってるから、ちょっと嫌なんですけども。でも、彼は自分の土地を取られたから、その爆破活動に参加するんですよ。だから右も左もない感じなんですね。メンバーは。

で、とにかく彼らは最初から「これで逮捕されても仕方がない。やるしかないんだ」ということで……これ、一種の復讐ですよね。その活動に参加していくという話で。アメリカ映画っていうのはこれを作っちゃうっていうのがすごいなと思いましたね。しかも、その1人1人が今のアメリカを代表するような……その右も左もね、両方で。

現代のアメリカを象徴するようなメンバーたち

(町山智浩)それでもう1人、シカゴ大学の学生が出てくるんですけども。彼は黒人なんですが。彼は大学が石油化学産業に投資したり、そういった会社から寄付をもらってることに反対していた運動家なんですよ。これも今、アメリカですごく問題になっているアメリカ中の一流大学の学生たちがイスラエルのパレスチナ・ガザに対する攻撃に反対するっていう運動をずっとしてるじゃないですか。あれ、具体的にどういう運動をしてるか?っていうと、自分たちの通っている大学がイスラエルを支援しているファンドっていうのがあるんですね。だから株式ファンドみたいなもの。そういったものから寄付をもらったり、そこに投資したりするのを止めようとしてるんですよ。

町山智浩 アメリカの大学生がイスラエルのガザ侵攻に抗議する理由を語る
町山智浩さんが2024年5月14日放送のTBSラジオ『こねくと』の中でアメリカ各地の大学内で学生たちがイスラエルのパレスチナ・ガザ侵攻に抗議してデモやキャンプ活動を行っていることについてトーク。日本ではあまり理解されていない、学生たちが抗議活動を行う理由について、話していました。

(町山智浩)で、アメリカはやっぱり株式関係、金融関係っていうのはユダヤ系の人が多くて。そういうファンドがいっぱいあるんですね。で、イスラエルに対して圧倒的な支援をしていて。たとえばハーバード大学なんていうのは本当にパレスチナの戦争に対する反対運動をしていたら、そのファンドの人たちが「ハーバード大学に寄付しない」って言って。「学生たちを取り締まらないんだったら、私はたちはハーバード大学への寄付をやめる」という風に圧力をかけることによって、そのガザ攻撃に対する反対運動をした学生を取り締まらなかった学長をクビにするという。要するに出資者たちがイスラエル側なんでね。という事態が起こっていて。それと戦う学生も、そこに参加するんですよ。

だからみんな、バラバラなんですけども。すごくアメリカのね、「ああ、こういう人、いるいる」っていうね、いろんな人のパターンが出てくるんすよ。あともう1人ね、完全にヒッピーで全く電気とか水を使わないで生きてる夫婦がいて。それも参加するんですね。で、この人たちっていうのもひとつのムーブメントとして、あって。ゴミをあさって暮らしてる人たちなんですよ。それは貧しいからホームレスをやってるんじゃなくて、電気とかガスになるべく頼らないで生きたいという、思想としてやってる夫婦が出てきますね。あのね、アメリカに来るとね、ホームレスの人がいるんですけども。貧しいからやってるとは限らないんですよ。思想的な立場としてやってる人もいるので。そのへんはね、ちょっと違うんですけど。で、この人たちがまず、その爆弾を作っていくのがね、ものすごいハラハラするんですよ。ド素人だから。

(石山蓮華)うわっ、見ていてちょっともう……そわそわしますね。

(でか美ちゃん)作っている最中にね、自分たちも結構危ないですよね。素人がやるのはね。

(町山智浩)そうそう。ものすごく怖いんですよ。だからね、この手のものはいっぱいあるわけですけど。それこそ『オーシャンズ11』みたいなものもね。大抵はね、プロフェッショナルが集まってやるんですよ。素人じゃないので。

(石山蓮華)そうですよね。華麗な手さばきで、どんどん仕上がっていくっていう感じですよね。

(町山智浩)そうそうそうそうそう。それとは全く逆なんで、別のハラハラが起きるという。そこの面白さですね。この映画は。で、今週ね公開される全然関係ないがあるんですけども。黒沢清監督の昔、撮った『蛇の道』という映画のリメイクをフランスでやってね。柴咲コウさんが主人公になって。元の映画の方は哀川翔さんだったんですけれども。これはね、幼児誘拐事件があって。その誘拐事件に対する復讐をする話なんですよ。それで娘を殺された人と一緒に柴咲コウさんが犯人たちを追いかけていくっていう話なんですけども。これも、実は後ろに大企業がいることがわかってくるんですね。で、結局どっちの映画もそうなんですけど。復讐っていうのを個人がやらなければならない状態というのは、それは司法は機能していないからですよね。

ちゃんと犯人を捕まえてくれないから。悪い事してる人たちを止めてくれないから。だから、やらざるを得ないということがあって。特に今、アメリカで起こってることはそのパイプラインの問題も本当にあるし。今、言ったいくつかの問題っていうのは現実に起こってる問題なんで。それを放置してるともう本当に……たしかにこういうのはテロですけれども。でも、それしか手段がなくなる人がいるんだよっていう。だから、こんなことになる前に実際に政府や司法がちゃんと動いて、環境庁が動いてってやらないと……っていうことなんですよね。それがなされてないから。

(石山蓮華)どんどんどんどん市民が包囲されて、囲まれちゃって。もうにっちもさっちもいかないから、アナキズム的なところに走るしかなくなっちゃう。

合衆国憲法が保証する「市民の不服従」

(町山智浩)なくなっちゃうってことなんですよ。ただね、アメリカの場合にはね、「市民の不服従」という言葉があって。元々、憲法でも認められていて。「アメリカ政府がおかしかったら国民は戦っていい」ってことを憲法で認めてる国なんですね。これが日本だと「この映画はとんでもない!」って話になるんですけども、アメリカでは決して「とんでもない!」ってことにならないんですよね。それは市民の権利なんだ。なぜかといえば、アメリカという国が政府に対する反乱で建国された国だから。市民たちが反乱を起こしたんですね。イギリス政府に対して。それで建国してるから、市民の反乱とかを否定すると、アメリカっていう国自体を否定しなきゃなんなくなっちゃうんですよ。だから決して、完全には否定できないんですよ。アメリカって。

(でか美ちゃん)もう成り立ちから、国民性があるというか。

(町山智浩)元々、だってアメリカはイギリスの税金が高すぎるってことで反乱を起こしたんで。「税金が高いと、国をひっくり返すぞ!」っていう国なんですよ。日本は「税金が高い……頑張って働こう」っていう国だから全然違う。

(でか美ちゃん)私たちもね、この後に見ると思うんですけど。なんか、日本人が見たらどういう受け入れ方をする作品なのかなっていうのは、気になりますね。

(町山智浩)だから国民性の違いが非常によくわかる映画でしたね。ということで、『HOW TO BLOW UP』。今週公開ですね。

(石山蓮華)はい。町山さんありがとうございました。

映画『HOW TO BLOW UP』予告編

<書き起こしおわり>

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