町山智浩 イタリア映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』を語る

町山智浩 イタリア映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でイタリア映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』を紹介していました。

皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ(字幕版)

(町山智浩)今週、来週にかけてすごいいいんですよ。もう見たい映画がいっぱいあるんで。いい時ですよね。

(山里亮太)そんな中で今日、町山さんがおすすめなのはかなり、なんかトリッキーな?

(町山智浩)これもね、今週末公開ですね。『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』という、日本語として非常にこなれていない『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』という映画なんですよ。今週末公開なんですが。これね、イタリアの映画で。本当だったら日本語としてこなれているんだったら「人呼んで鋼鉄ジーグ」ってなるはずなんですけども。彼らが一生懸命翻訳した日本語タイトルをそのまま使っているんでこういうタイトルになっちゃっているんですが。これ、鋼鉄ジーグと呼ばれたヒーローについての話なんですが。『鋼鉄ジーグ』っていうのは日本のアニメなんですよ。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)これ、1975年に作られた日本の東映動画のアニメなんですけども。いわゆる巨大ロボットブームの中で作られたんですね。『マジンガーZ』とか。で、ちょっと曲を聞いていただけますか? はい。

『鋼鉄ジーグ』

(町山智浩)はい。これはもう声を聞けば一発で分かりますね。水木一郎アニキの素晴らしい声ですけども。これ、『鋼鉄ジーグ』という永井豪さんの……まあ、『マジンガーZ』とかの原作のアニメなんですけども。これはですね、もう曲がいいんですよ。この主題歌が。これ、劇中でもイタリア映画の中で流れるんですね。

(山里亮太)へー!

(海保知里)ええっ、合うんですか? それが。

(町山智浩)これ、イタリアのおっさんたちは大好きらしいんですよ。で、イタリアではおっさんのロックバンドとかがカバーをしていたりするんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)ロックバンドがカバーしたり、テレビのコマーシャルで使われていたりしていて。まあこれはね、渡辺宙明さんという方が作曲をしているんですけど。『ゴレンジャー』とか『仮面ライダー』とか『マジンガーZ』とか、みんなこの人が作曲をしていて。たしかに曲がかっこいいんですよ。この、特に『鋼鉄ジーグ』とか、あと『宇宙刑事』シリーズ。

(山里亮太)ああっ!

(町山智浩)『宇宙刑事ギャバン』とか。

(山里亮太)『シャリバン』『ギャバン』。

(町山智浩)そう。この人の曲はね、ベースに特徴があって。まあ、どうでもいい話ですが(笑)。ベースラインがとにかくめちゃくちゃ面白いんで。ベースを強調して聞くといいんですが。どうでもいい話でした。はい(笑)。だからね、ものすごくイタリアではこれ、人気があって。あれですよ。アメリカとかで人気があるのは『ウルトラマン』だったりするんですけども。ああ、そうそう。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン監督は『ウルトラマン』世代なんですよ。アメリカ人で。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)アメリカでね、『ウルトラマン』は大人気だったんですよ。でも、『ウルトラセブン』で大失敗したんですよ。

(山里亮太)えっ、そうなんですか?

(町山智浩)『ウルトラセブン』を放送する時に、英語翻訳をする時にギャグをいっぱい入れちゃったんですね。勝手に向こうで。それで大失敗したんですよ(笑)。

(山里亮太)ギャグを言うシーン、あんまりないのに。

(町山智浩)ないから、勝手に吹き替えちゃったんですよ。

(山里亮太)ええっ?

(町山智浩)で、『ウルトラセブン』は失敗したんですけど『ウルトラマン』は大成功で。だから、僕ぐらいの50才ぐらいの人は『ウルトラマン』で育っているんですよ。で、イタリアの方では『鋼鉄ジーグ』だったりするんですよ。で、フランスでは『UFOロボ グレンダイザー』なんですよ。みんな違うんですよ。それぞれの国で。だから放送されたもので違うんですよ。

(山里亮太)そうか。最初の出会いがそれだから。

(町山智浩)出会いが違うから。だから、ピンク・レディーとかはアメリカでは50才ぐらいの人にとってはものすごい懐かしいものなんですよ。で、CNNで現在のピンク・レディーっていうのが出てきたら全く変わらないからアメリカの人はみんなびっくりしちゃったんですよ(笑)。「いったい日本人はどうなっているんだ!? なんかおかしいんじゃねえか?」みたいな(笑)。あ、これは置いておいてですね、『鋼鉄ジーグ』っていうのはこれはイタリアの暗黒街の話なんですよ。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)暗黒街で、カモッラっていうナポリ系のマフィアが仕切っているところで、犯罪のるつぼみたいなところで、ある男がヒーローになるんですけども。まあ、それをヒロインが「あなた、鋼鉄ジーグみたいね」って言うんですよ。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)「どんなだよ!」って思うんですけどね(笑)。鋼鉄ジーグって超合金のおもちゃだったんですよ。もともと。で、なぜ鋼鉄ジーグっていう名前なのか?っていうと、金属製のおもちゃだったんですよ。それで、磁石で手足がくっついたり離れたりするっていうおもちゃで。それを売り出そうっていうことで、タカラがこれを企画して。それで永井豪さんに話を作ってもらって……っていう流れがあるんですけども。で、砂場とかで遊ぶと砂鉄がくっついちゃって大変なんですけどね。磁石おもちゃなんで(笑)。

(山里亮太)(笑)

(町山智浩)で、すごいですよね。永井豪先生って『マジンガーZ』とか『デビルマン』とかですごい世界中で人気だから。かならず世界に行って永井豪さんに会うとアメリカやヨーロッパの人は「もう大金持ちなんでしょ? すごい豪邸に住んでいるんでしょ?」って言うんですけど、全然住んでないんですよ。全部東映に取られましたからね。はい。

(山里・海保)(笑)

(町山智浩)そういうものです。まあ、それはいいんですが(笑)。あのね、この『鋼鉄ジーグ』っていうのはそういう『キック・アス』みたいな話なんですけど。ただちょっとね、違うのは悪役が面白いんですよ。これね、ジンガロっていう名前のものすごいイケメンの殺人鬼が出てくるんですけど。まあ人を意味もなく殺しまくるすごい悪いやつで。こいつと戦うことになるんですが。こいつがね、カラオケマニアで、元歌謡曲の歌手になりたかったという、よくわからない殺し屋でね。ちょっと曲をかけてもらえますか? アンナ・オクサの『青春』。

アンナ・オクサ『青春』

(町山智浩)これ、イタリアの1980年ぐらいの大ヒット曲で、アンナ・オクサっていう人が歌った『青春』っていう歌なんですよ。日本でもシングルがちゃんと出ているんですけど。イタリアっていうのはね、イタリアンポップスのすごい歴史があって。サンレモ音楽祭っていうのがずっと行われているんですね。で、昔は日本でもサンレモ音楽祭は同時に楽しまれていて。テレビで放送していたり、サンレモ音楽祭で優勝すると日本でも大ヒット。サンレモ音楽祭でヒットすると、それをカバーで日本の歌手が歌うという時代があったんですよ。ジリオラ・チンクエッティっていう人がすごく人気だったりとか。知らないと思いますけども。

(山里亮太)知らないです。

(町山智浩)そういう、日本とイタリアの歌謡曲がリンクしていた時代が昔はあったんですよ。過去に。で、このジンガロっていう殺人鬼はサンレモ音楽祭に出てきたイタリアの歌手を歌いながら、次々にものすごい殺戮を繰り返していくという(笑)。いまだかつてない、珍しい歌手志望の殺人鬼なんで。すごく面白かったです(笑)。

(山里亮太)キャラクター濃いっすね!

(町山智浩)そう。それと鋼鉄ジーグが戦うという、なにを言ってんのかよくわからないというね(笑)。いや、昔ね、いろんなところで音楽祭があったんですよ。歌謡祭が。昔、TBSも東京音楽祭っていうのをやっていて。世界の歌謡曲をそこでまた競わせて……っていう流れがあったんですけどもね。そういうブームもなくなってしまいましたが。だから、サンレモ音楽祭とか僕の世代はみんな知っているんで。まあ、結構この映画にそれを期待している人はいないと思いますが(笑)。『鋼鉄ジーグ』を見ていただくといいなと思います(笑)。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)いろんなものが合体しているんですよ。いまの世の中は、もう。永井豪の漫画とサンレモ音楽祭が合体するなんて、どんな時代だ?って思いますよ(笑)。

(山里亮太)でも、見事に合体できているんですね。

(町山智浩)合体できているんですよ。やっぱり合体ロボなんでっていうね、オチをつけていますけども(笑)。

(海保知里)(笑)

(町山智浩)ただ僕ね、ヒーローものっていうのはすごく大事だなと思っていて。ヒーローものが好きな人たちって結構50代の人とかでも多かったりするんですけど。やっぱり、そういうのをずっと好きだったりするとバカみたいじゃないですか。

(海保知里)そうです?

(山里亮太)うーん、まあ、大人になってもっていうのは……。

(町山智浩)でもね、やっぱりある程度好きなヒーローとかいた方がいいと思うんですよ。なんかやっぱり困っている人とかがいたり、男気を見せなきゃいけない時ってあるじゃないですか。会社ですごい上司がひどいいじめをしている時とか。そういう時にやっぱりどうしても引いちゃう時ってあるじゃないですか。「上司が俺の同僚にひどいいじめをしている」って。立ち上がらなきゃいけない時に、やっぱり自分の身を守りたくて立ち上がれない時とか。でも、やっぱり昔ヒーローに憧れていたっていうことを忘れちゃっているんだと思うんですよ。金の方を取ったりとか、生活とか、守りに入ったり保身をしたり嘘をついたりした時。やっぱり常に、ヒーローを持っているとそこで、なんかやっぱり違うことができるんじゃないかなと。

(山里亮太)いや、俺、この前名古屋でそれと全く同じシチュエーションがあったんすよ、町山さん!

(町山智浩)ああ、そうなんですか。

(山里亮太)むちゃくちゃいじめられている子を見て俺、逃げちゃった……。

(町山智浩)ああ、そうなんだ……。

(山里亮太)サンバルカンに申し訳ない!

(町山智浩)サンバルカンに申し訳ないね!

(山里亮太)俺は逃げちゃった。サンバルカンに申し訳ない!

(町山智浩)そうそう。いつもカレーを食べる時はサンバルカンのことを思い出した方がいいね!

(山里亮太)そうしよう。

(町山智浩)なにを言っているかわからないと思いますが。

(山里亮太)イエローがね、カレー好きなんです。

(海保知里)今日はイタリア映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』。5月20日公開ということで、お話いただきました。町山さん、今日はありがとうございました。

(町山智浩)はい。本当にすいませんでした(笑)。

<書き起こしおわり>

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