町山智浩『バーバリアン』を語る

町山智浩『バーバリアン』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年11月1日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でDisney+で配信中の大ヒットホラー映画『バーバリアン』を紹介していました。

(町山智浩)アメリカは完全にもうホラー映画、ハロウィンに集中して公開します。もうホラー映画。映画館は今でも、ホラー映画をやってますよ。たぶん深夜でも。

(赤江珠緒)ああ、それは面白いかも。

(町山智浩)あと、自分の家でホラー映画を見たりっていうね、そういう伝統あるんですが。それでね、今回紹介する映画はやっぱりホラー映画で。アメリカで、ハロウィンなんでシーズンで公開されたんで。そこで大ヒットしてるやつがあるんで、その話をします。2本、紹介しますが、1本は『バーバリアン』っていう映画で。もう1本はですね、『MEN 同じ顔の男たち』というタイトルの映画なんですけども。

『バーバリアン』はね、ちょうど日本でもハロウィンをめがけたんだと思うんですけど。Disney+で配信が始まってます。26日からかな? 配信が始まったんですが。これ、アメリカで今年一番ヒットしたホラー映画ですね。でね、制作費が4億円ぐらいなんですよ。ところが、アメリカの劇場収入だけでその10倍以上を稼いだっていうね。

(赤江珠緒)すごいですね!

アメリカだけで制作費の10倍以上を稼ぐ大ヒットホラー

(町山智浩)だいたい、制作費の3倍でヒットなんですよ。だから10倍ってのはもう大大大ヒット、メガヒットですね。で、これ『バーバリアン』ってのはね、「野蛮人」という意味のタイトルなんですが。これ、デトロイトという街が舞台なんですよ。前も何回か、お話したことあるんですけども。デトロイトって今、ほとんどゴーストタウンなっちゃっているんですよ。

町山智浩 ホラー映画『ドント・ブリーズ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、アメリカで記録的な大ヒットとなったホラー映画『ドント・ブリーズ』を紹介していました。 (町山智浩)はい。ということで今日の本題なんですが、今日はアメリカでこの夏に大大大ヒットした映画と、韓国で...

(赤江珠緒)ねえ。おっしゃってましたね。車の街っていうイメージがありましたけどね。

(町山智浩)はい。自動車産業はすごくピークだった頃は180万人、住んでたところがですね、現在は60万人ぐらいになっちゃって。だから3分の1に減ったんですね。180万人も住んでいた大都市だったのに、スカスカになっちゃったんですよ。スカスカになっちゃったから、まずお金がないわけですね。税金がね。だから市のお金がないから、警察官とか消防士がものすごく少なくなっちゃっていて。で、警察を呼んでも1時間以上経たないと来ないっていうような状態で。あともうひとつはお金がないから、街灯がついてないんですよ。真っ暗闇です。

(赤江珠緒)そうなると、治安が悪くなりますね。

(町山智浩)アメリカで一番治安、悪いです。で、家がですね、昔に建った家がたくさん残ってるんですけど、廃墟になってますね。ほとんど。だから3分の2が廃墟になっているわけですよね。実際は。3分の1に人口が減ってるんで。で、かなりもう焼けちゃってるのもあって。火事になっても、誰も住んでないし、誰も通報しないから、消防車が来ないんで。完全に全焼するまで放置です。

(赤江珠緒)空き家問題ですね。本当に。

(町山智浩)そう。大変な問題で。空き家問題になってるんですけど。で、そこにデトロイトの現状を全然知らないテスという大学を出たあたりの女性がですね、就職の面接に来るんですよ。で、デトロイトは今、中心部だけはすごく産業が復活してるんですね。ただ、そういう状況を知らないと、そこに一番安い宿泊をしようとして、Airbnbっていう民泊の斡旋サイトを使って。普通の人が家を貸してるところを借りると安いんでね。日本だとブッキングドットコムとかあると思うんですけど。で、そこで予約したところに行ってみたら、街から離れた廃墟ばっかりのところだったんですね。まあ、知らないし、安いからそこを取っちゃったんですけども。

行ってみたらその家以外はみんな、もうボロボロなんですよ。で、真っ暗で。飛行機が遅れて夜遅く着いちゃって。「どうしよう? でも中入っちゃえば安全だろう」って思って、家の中に入ろうとすると、鍵ボックスにあるはずの鍵がないんですよ。で、「どういうことだ?」って業者の方に聞くと、「いや、あるはずですけど。おかしいですよ」ってなって。そんなことを言ってると、その家の奥の方に明かりがついていて。誰かがいるんですよ。で、「あれ? どういうことだろう?」と思うんですけど。そうすると、向こうの方がドアを開けて。男の人が出てきて「なにをしてるの?」って聞いてくるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、「えっ? 私、民泊で今日、ここに泊まることになってたんだけど……」って言ったら「えっ? 僕もそうなんだ。ほら、見てごらん」って、彼は別の斡旋サイトの方で予約してて。要するに、ダブルブッキングなんですよ。で、「どうしよう?」と思うんですけど。男の人と2人でそこで一夜を過ごすのはちょっと怖いっていうことで。「私は他のところに行きます。ホテルかなにかを取ります」ってことでホテルを探すんですけど、その時に街の方でコンベンションをやってて。ホテルがいっぱいになってて、入れないんですよ。

で、「ホテルもないみたいだし、外は雨だし、寒いし……ここに泊まっていかないかね?」っていう風に彼が言うんですね。そしたら、その彼が非常に優しいんですよ。「外が寒いから今、お茶かコーヒーを淹れるけど。どっちがいい?」とかね。「ベッドルームはひとつしかないんだけれども、君はベッドに寝ていいから」とかね。でも、彼女はそれを断ろうとするんですよ。

(赤江珠緒)まあね。見ず知らずの人だから、怖いもんね。

(町山智浩)そうそう。で、「このシーツ、あなたが一晩、寝てるんでしょう?」みたいなことを言うわけ。そしたら「わかった。じゃあこのシーツ、今すぐ洗って乾燥させるから」とか彼が言うんですよ。で、出されたお茶もね、彼女は飲まないんですよ。

(赤江珠緒)かなり警戒しているね。

(町山智浩)そう。怖いからね。そうすると「じゃあ今、最初から飲み物を淹れてみせるからね。君の目の前で」ってやってみせて、すごく警戒を解こうと彼、一生懸命になるんですよ。で、彼と話しているうちになんかいい感じになっていくのかなとか思うんですけれども、逆にどんどん、「この人、だからこそ怖いんじゃないか?」って思えてくるんですよ。でね、この『バーバリアン』っていう映画は「バーバリアン(野蛮人)は一体誰なのか?」っていう映画で。次々と野蛮人候補が出てくるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、このシナリオを書いた監督はですね、これが映画1本目です。初めて。すごいんですよ。いきなりもう10倍大ヒットやっちゃったんですけどもね。この人、なんでこの映画を思いついたか?っていう話をインタビューでしていて、それが面白いんですけれども。「本があって、その本を読んでたんだ。そこから思いついたんだ」って言っているんですね。これは日本でも翻訳が出ている本なんですけれども。『暴力を知らせる直感の力』という本があるんですよ。副題が『悲劇を回避する15の知恵』という本で、アメリカ人のギャヴィン・ディー・ベッカーという危機管理の専門家が書いた本で。「こういう男は危険」という項目があるんですよ。

(町山智浩)そこに出てくる危険な項目っていうものを全部、この彼が満たしていくんですよ。こういう話なんですよ。最初の方は。で、とにかく親切すぎるのは危険だっていうのと、あと、個人的な趣味とかの話を勝手にする奴は危険だっていう。

(赤江珠緒)えっ、それも危険?

(町山智浩)いきなり、まだそんなに仲良くなってないのに。あ、この映画、監督はザック・クレッガーっていう人なんですけれども。つまり、そういうことは無理やり親密にしようとして、無理やり付き合っているような心理状態に持っていこうとしてるんだと。あと、「嫌です、ダメです」って断ってるのに、それを無視して勝手にどんどん進めちゃうとか。たとえば荷物を勝手に持っていっちゃうとかね。それも非常に危険なんだという風に言っていて。とにかく、いくつかの項目があって、それをどんどん彼が満たしていくから。彼が親切にすればするほど、そのテスは恐怖に思えてくるっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)なんかすごい日常のリアリティあるホラーですね、これね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、そういう話なのかな?って思ってると、どんどん違う方向に行くんですよ。この映画は。これね、途中からジェットコースター的な展開をしていって。なにがなんだか、もう起こってることに追いつけないという展開になってきます。この映画は。すごいですよ。

(赤江珠緒)タイトルが「野蛮人」だもんね。

(町山智浩)そう。で、場所もデトロイトで始まるんですけど、とんでもないところに行くし。現代のデトロイトで話が進んでるのかと思うと、とんでもないところに時代が飛ぶし。あっと驚く、非常にすごい映画になってます。これ。これね、監督してシナリオを書いたのザック・クレッガー自身が「自分自身をびっくりさせるために書いた」って言っていますね。そういう映画なんでね、大ヒットしてますんで。これ、ディズニーが配信した初めてのホラー映画ですね。

(赤江珠緒)Disney+で配信が日本でもスタートしてると。

(町山智浩)そうなんですよ。ディズニーの初ホラーでもう大ヒットという映画で。とにかくびっくりする展開なんで、ぜひご覧くださいとしか……もうネタバレになっちゃうから、言えないんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。それはね。

(中略)

(町山智浩)でね、『バーバリアン』の方はね、バーバリアン候補が次々と出てきますんで。話の中でね。今、言った部分は最初のそれこそ10分ぐらいなんですよ。で、後半どんどん次々とバーバリアン候補が出てきて。誰がバーバリアンかコンテストになってきますんで。

(赤江珠緒)誰が野蛮人か?っていう。

(町山智浩)で、ラスト30秒ぐらいまでわからないです。誰がトップの野蛮人か。「誰が野蛮人の一等賞でしょうか?」っていうね、そういう楽しい映画じゃないけどね。

(山里亮太)ホラーですもんね(笑)。

(町山智浩)ホラーですけども。ちょっとね、すごい映画だったんでぜひご覧ください。

(赤江珠緒)『バーバリアン』はDisney+で配信中です。

『バーバリアン』予告編

<書き起こしおわり>

町山智浩『MEN 同じ顔の男たち』を語る
町山智浩さんが2022年11月1日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で『MEN 同じ顔の男たち』を紹介していました。
タイトルとURLをコピーしました