町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』についてトーク。映画内でかかる曲の意味などについて解説していました。
(町山智浩)本日、紹介する映画はこれです。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』です。音楽どうぞ!
(町山智浩)はい。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』っていうこの映画はマーベルコミックスのシリーズですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)ただね、『スパイダーマン』とか『アイアンマン』よりも全然知られていないマイナーな漫画だったんですよ。それを映画にしたら大ヒットしてしまったというのがこの第一作目なんですけど。その続編ですね。はい。『リミックス』っていうのがついているんで、なんか一作目の再編集版みたいに聞こえるんですけど、これは日本の映画会社がつけたタイトルなんで。本当のタイトルは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.2』っていうんですよ。
(山里亮太)ああ、そうだったんだ。なんでリミックスなんだろう?って思っていたら。
(町山智浩)そう。だから勘違いする人がいるんでね。これ、よくないなという気もするんですけど。まあ、続編です。で、これ、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』っていうのは「銀河系の守護者・銀河系を護る者たち」っていうすごいタイトルなんですけども。実は、ずっこけ5人組の話なんです(笑)。
(山里亮太)そうですね(笑)。
(町山智浩)これ、ご覧になりました?
(山里亮太)はい。見ました。見ました。
(海保知里)1は私も見ました。いや、面白かった!
町山智浩『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を語る
(町山智浩)コメディーですね。はい。まあ、タイトルが大げさなんですけど、銀河系の中でいちばんダメなやつらと思われている5人組が、なんと宇宙を救ってしまうという話で。で、主人公は地球人なんですけど、ピーターっていう人で。これ、子供の頃に宇宙人、宇宙海賊に誘拐されて、宇宙海賊の息子として育てられて、まあ宇宙の流れ者をやっているのがこの主人公のピーターですね。
で、ヒロインにあたるのはガモーラっていう宇宙の女忍者ですね。これは宇宙のものすごく悪いサノスっていう男に、これもまたさらわれた形で子供の頃から女暗殺者として育てられてっていうですね、なんか日本映画みたいな話なんですけど。
(山里亮太)うん。
(町山智浩)で、正義に寝返ったのがこのガモーラっていう緑色の女殺し屋ですね。で、5人いるうちの3人目がドラックスっていうんですけど。この人はドラックス・ザ・デストロイヤーっていう名前で筋肉モリモリのプロレスラーのバティスタさんが演じていますね。筋肉はめちゃくちゃあって、力は強いんだけど、比喩的表現がわからない男っていう珍しいキャラクターで(笑)。
(山里亮太)はいはい(笑)。
(町山智浩)だから「朝飯前だぜ」とか言うと、「いまは夕方なのに……」とか言っちゃうやつなんですよ。意味がわかってないという。で、主人公5人なんで、全部紹介すると、あとアライグマのロケットくんっていうのがいまして。
(海保知里)ああー。いいんだよね、キャラクターが(笑)。
(町山智浩)そう。かわいいアライグマなんですけど、口がめちゃくちゃ悪くて凶暴っていう設定ですね。で、もうマシンガンとか撃ちまくったりですね、放送禁止用語ギリギリのしゃべり方をしてる男なんですけども。それで、これ日本では吹き替えが……。
(山里亮太)そう。極楽とんぼの加藤浩次さん。
(町山智浩)ですよね。これね、元の版だとブラッドリー・クーパーっていう超イケメン俳優がやっているんですよ。声を。アライグマの。全然顔が出てこないんでもったいないって言われてますけどね(笑)。
(山里亮太)贅沢な使い方を。
(町山智浩)これね、監督がジェームズ・ガンっていう人なんですけど。この人ね、すごく若い頃苦労した人なんですよ。で、苦労した頃に手伝ってくれた人たちをすごく大事にするんで、ブラッドリー・クーパーみたいな大スターがなんでこんな映画でアライグマの声なんかやっているんだ?って言われているんですけども、彼が売れない頃にジェームズ・ガンの映画に出ているんですよ。
(山里亮太)へー! その時の。義理堅い。
(町山智浩)そうなんですよ。すごくこのジェームズ・ガンっていう人はね、ものすごく昔の仲間を大切にする人なんですね。この人、最初映画を撮り始めた時にトロマっていうニューヨークの……『悪魔の毒々モンスター』っていう映画、あったじゃないですか。
(海保知里)あったあった。ちょっとマイナーですけど。
(町山智浩)昔々。関根(勤)さんとかが出ている。あのね、ものすごくひどい映画会社で、とにかく金をケチッてケチッてケチりまくる映画会社なんですけども。そこで修行をしたんですよ。この監督。だから、すごくお金で厳しかったんで苦労をしているんですよ。で、兄弟も5人かなんかいて、お父さんは弁護士だったんだけど5、6人いるとさすがに大学とかのお金も……アメリカ、大学がめちゃめちゃ高いから、出してもらえなくなっちゃって。すごく苦学した人なんで、若い頃の仲間がね、いっぱいいまも映画に出続けているんですけどね。大切にするんでね。
(山里亮太)ふーん!
(町山智浩)あとね、5人目を忘れていた。5人目はですね、木なんですよ。
(海保知里)そうですね。
(町山智浩)木人間ですね。樹木ですね。グルートという名前なんですけど。この木人間、植物人間はですね、体から芽が出たりしているんですけど。言葉がですね、「俺はグルート」しかしゃべれないんですよ。「俺はグルート」って、それで「楽しいな」とか「頭きたぞ」っていうのも全部「俺はグルート」で表現するんですけど。これは、日本だと遠藤憲一さんが声をやっているんですよね?
(山里亮太)はい。
(町山智浩)元の言語版、アメリカ版だとヴィン・ディーゼルっていう『ワイルド・スピード』シリーズに出ている筋肉モリモリの……。
(海保知里)ヴィン・ディーゼルがやっているんですか!
(町山智浩)そう。声をやっているんですよ。だから、たぶん強面の遠藤憲一さんが声に選ばれたんだと思うんですね。でも、今回は前回、このグルートがいったん死んでしまって。ただ植物だから芽からまた育てられている途中なんですよ。だからベイビー・グルートっていう赤ちゃんで今回出てくるんですね。すごいかわいいんですよ。
(山里亮太)前回の最後のところでね。めっちゃかわいかった。
(町山智浩)そうそうそう。あれが育って、やっと赤ちゃんになって歩いているんですけども。その赤ちゃんの「僕、グルート」っていう声も遠藤憲一さんが声を当てられるそうですね。
(山里亮太)どう出すんだろう、エンケンさん。
(町山智浩)ねえ。「グルート!」って言っているんだと思うんですけど。すごくかわいいんですよ、これが。で、この5人がまあ、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのメンバーで宇宙を救うためにケンカしたりしているっていう話なんですけども。で、この映画は音楽がいま、後ろでずっとかかっているじゃないですか。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)これね、1970年代のアメリカのヒット曲なんですよ。これがその銀河を駆け巡る宇宙SFというかスペースオペラの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の音楽にずーっと使われているんですね。一作目でも。で、それはこのピーターっていう主人公が子供の頃にお母さんから聞かされてきた音楽なんですよ。で、これはお母さんが作った、自分が好きな曲ばっかり集めたカセットテープがあって。そのカセットテープと70年代のお弁当箱みたいな日本のウォークマンですね。それをお母さんの形見として宇宙を駆け巡る間もずっと持っていて。お母さんが好きだった70年代の大ヒット曲が次々とこの映画の中でもかかるという設定になっているんですよ。
(山里亮太)うんうんうん。
(町山智浩)これはね、監督のジェームズ・ガン自身がね、好きだった音楽なんですよ。子供の頃に。この人は1970年生まれなんで。で、この人はミズーリっていうアメリカのど田舎で育った人なんですけども。その頃にミズーリでヒットしていた、ラジオでかかっていた音楽っていうのを彼がまとめてこの映画に使っているんで。これでまた、アメリカでは70年代のポップスがブームになったりして。音楽的にすごくいいんですよ。で、歌詞がね、すごくドラマと絡んでいて。そこでかかる曲が実は、主人公は黙っているんだけど、主人公の心を表現しているとか、そういう使い方をしてます。この『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』っていうのは。
(山里亮太)うん。
(町山智浩)でもね、これ、歌詞は字幕で出ないんじゃない? 日本では。
(山里亮太)出てないです。
(町山智浩)あんまり出ないんですよね。だから、なんでこの曲がかかっているのか? とか、この曲で実際はどういう気持ちになったらいいか?っていうことが結構ね、わからないことが多いんですよ。だからね、それを今回説明したいんですが。ちょっと『Brandy』っていう曲をかけてもらえますか? はい。
Looking Glass『Brandy (You’re a Fine Girl)』
(町山智浩)はい。これはね、今回の続編の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』でね、主人公ピーターのお父さんとお母さんが出会った頃に好きだった歌として出てくるんですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)で、ところがここでこの歌がすごく重要なんですけど。この歌ね、歌詞が港町の酒場で働いている女の子ブランディーについていの歌なんですよ。で、これはその船乗りが行ったり来たりしている酒場で、その船乗りの1人にこのブランディーちゃんが惚れたんだけども、その男は去っていった。その男は去っていく時になんて言ったか?っていうと、「俺の人生、俺の恋人、俺の彼女は海なんだよ」って言って去っていったんですね。
(山里亮太)うんうん。
(町山智浩)だから要するに、女じゃないんだと。「陸地にいる君とは付き合えないよ。俺は海が好きだから」って言って出て行っちゃった非常に身勝手な船乗りのことを歌っているんです。で、なぜこれがかかるか?っていうのがすごく重要で。これ、ピーターのお母さんとエッチしたお父さんっていうのは宇宙から来た男だったからなんですよ。
(山里亮太)ほー!
(町山智浩)宇宙からやって来た男が地球人の女性を70年代に妊娠させて。その子供が銀河系を救うヒーローになっているっていう話なんですね。この映画は。で、この種を残していった親父はどこに行ったんだ?っていうのが今回の続編の話なんですよ。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)で、彼は出てくるんですよ。今回。その主人公のピーターのお父さんっていうのはカート・ラッセルさんという俳優さんが演じるんですね。
(海保知里)ああ、そうなんですか(笑)。
(町山智浩)カート・ラッセルってこれ、知っているかな? 昔、結構ヒーローで、『ニューヨーク1997』という1981年の映画ではスネーク・プリスキンっていうすごいかっこいいアウトローヒーローを演じた俳優なんですけども。まあいま、おじいちゃんなんですが。
(海保知里)結構なお歳ですよね。
(町山智浩)もう70近いです。ただね、今回CGでお母さんと出会った頃の若い姿でも登場しますよ。
(山里亮太)CGで。
(町山智浩)で、彼、カート・ラッセルがおじいさんになって、ピーターのところに来て、「私がお前の本当のお父さんだよ」って言うんですね。で、このお父さんっていうのはいったい何か?っていうと、これはもう名前からネタが割れているんですけど。この人の名前はエゴ・生きている惑星(Ego The Living Planet)っていう名前なんですよ。
(海保知里)へー。
(町山智浩)生きている惑星エゴっていうんですよ。この人の正体はひとつの惑星自体が巨大な脳みそになっている……生きている惑星だったんですよ。それがカート・ラッセルとしてなぜか出てくるんですよ。今回。
(海保知里)ちょっとわからないです。うん。
(町山智浩)わからないんですけど、要するにまあ、巨大な脳みそがあると思ってください。月と同じぐらいの大きさ。月よりちょっと小さいぐらいの。で、それが巨大な脳みそっていうことは、ものすごい、コンピューターとしたら何でもできるわけですね。神のような力を持っている惑星なんですよ、それは。それが、人間の形に自分を凝縮して作り出して、地球に送り出したのがカート・ラッセルだったっていう形なんですよ。
(山里亮太)おおっ!
(町山智浩)だからこの主人公のピーターのお父さんは神のようなものなんですよ。で、そこでかかる音楽がこのジョージ・ハリスンの『My Sweet Lord』なんですけども。
George Harrison『My Sweet Lord』
(町山智浩)この『My Sweet Lord』っていうのはビートルズのジョージ・ハリスンがヒンズー教に入りまして。「Lord」っていうのは「主・神様」っていう意味なんですね。「私のやさしい神様、あなたに会いたいんです」っていう歌なんですよ。だから、これは主人公のピーターがお父さんに会いたかった、お父さんは神様だったっていう話なんですよ。で、これが流れるっていうね。で、そのお父さんの惑星に行くんですけども。すごいところなんですけども。この話、だからすごく人情物みたいな感じなんですよ。
(山里亮太)うんうんうん。
(町山智浩)で、そこで彼はお父さんが神様だったっていうことですごく悩むんですけど、それによってまあ、このギャラクシーチームがバラバラになっていってしまうんえすね。で、そこでまた、かかる曲が今回いちばんの大事な曲としてかかるんですが。歌詞がわからないと、なんでこれがしつこくかかっているのかわからないっていう曲があるんですけども。ちょっと聞いてほしいんですが。フリートウッド・マックの『The Chain』、お願いします。
Fleetwood Mac『The Chain』
(町山智浩)これがね、重要なところで何度も今回の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』でかかるんですけど。これは僕が中学生の頃にすごく大ヒットしたアルバムがありまして。フリートウッド・マックの『噂』っていうアルバムの歌なんですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)これ、フリートウッド・マックっていうのは男3人、女2人の男女混成バンドなんですよ。でね、ところがこの男女混成バンドがいわゆる大学のサークル状態で、中はセックスでグチャグチャなんですよ。
(山里亮太)(笑)。全部が全部、そういうサークルじゃないですけど(笑)。
(町山智浩)そう。それで、スティーヴィー・ニックスという女性ボーカルの人がいて、この人はその時の旦那……結婚はしていなかったですけど、ギタリストが旦那だったのに、リーダーのドラマーとエッチしちゃったりとかですね。夫婦がこの中にいて、キーボードとベースの人が夫婦なんですけども、キーボードのクリスティン・マクヴィーっていう人はバンドのローディーとエッチをしちゃったりとかですね。
(山里亮太)めちゃくちゃなんだ(笑)。
(町山智浩)で、グチャグチャになっちゃうんですよ。このバンドは。で、この『噂(Rumours)』っていう歌のレコーディングの時には、それぞれの人たちがそれぞれ自分が作った歌をレコーディングに持ち込んだんですけど、それがみんな、互いのメンバー、別れた元カレに対しての愚痴ばっかりなんですよ。
(山里亮太)(笑)
(町山智浩)で、互いに歌っているんですよ。他の男のところに行っちゃったスティーヴィー・ニックスは、その前の男であるリンジー・バッキンガムっていうギタリストに対する、「あんたのところから出て行ったのはこういう意味なのよ。こういう理由で出て行ったのよ」っていう歌を歌って。そうすると、歌われたリンジー・バッキンガムは「どこでも他の男のところに行っちまいな!」っていう歌を作ってくると。それを全員でレコーディングするという、ものすごい嫌な状態になったらしいんですよ。
(山里亮太)うわー……。
(町山智浩)で、その時に、でも全員で合作した曲がこの『The Chain』なんですけど。この歌がどういう歌か?っていうと、「もうあなた(君)のことは愛していないけど、でも僕らをつないでいる絆(鎖)は決して切れないんだ」っていう歌なんですけど。これは「俺たちはグチャグチャだけど、バンドを続けていくぞ」っていう歌なんですよ。で、この歌を全員で歌うんですよ。これが、この今回の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の一種のテーマになっています。
(山里亮太)ああー、なるほど!
(町山智浩)はい。それ以上は言えません。はい(笑)。「この俺たちをつなぐ鎖は永遠に切れないんだ!」っていう歌なんですよ。
(山里亮太)はー。
(町山智浩)という、この歌を歌っているバンドの人間関係がわからないとわからないっていう、この曲の使い方(笑)。
(山里亮太)そこも知っておいたら面白いんだ。でも。
(海保知里)ねえ。この音楽の解説、本当にありがとうございました。今日は映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』についてお話いただきました。日本は5月12日公開。そしてね、町山さん。『映画秘宝』の特集号も要チェックということですね。どうも、ありがとうございました。
(山里亮太)ありがとうございました。
<書き起こしおわり>