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町山智浩『13人の命』を語る

町山智浩『13人の命』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年8月9日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でアマゾンプライムで配信中のタイの鍾乳洞に子供たちが取り残された事件を描いた映画『13人の命』を紹介していました。

(町山智浩)今日はですね、アマゾンプライムで8月5日から、すでに配信されている映画を紹介します。これ、ちょっとすごかったんでね。これ、日本語タイトルが『13人の命』というタイトルなんですね。普通、このタイトルでこの映画を見ようとは思わないけどね。これじゃあ、何の映画なのかさっぱりわかんないですけど。これは、覚えてますか? 2018年にタイの山奥の方にあった鍾乳洞に男の子たちが12人とコーチ1人が閉じ込められちゃった事件っていうのがありまして。

(赤江珠緒)覚えてます。少年サッカーチームの子たちだったのかな?

(町山智浩)そうなんですよ。で、11歳から16歳ぐらいまでの少年たちですね。それで、本当に20日近く閉じ込められて。世界中の人が助けに行った事件なんですけども。ニュースで報じられたんですが、この映画で見ると全然知らなかったことが結構わかるんですよ。それが『13人の命』で、13人がいたからなんですけれども。これ、結構ハリウッド超大作です。ものすごい洞窟のセットで。スターも揃っていて。ヴィゴ・モーテンセンとコリン・ファレルというハリウッドスターが出演してて。監督は『バックドラフト』とか『アポロ13』とかのスケールのデカい災害物の映画を撮ってきたロン・ハワード監督ですね。

(赤江珠緒)ああ、『バックドラフト』もね、そうだ。

(町山智浩)あれは火事の映画で。『アポロ13』はアポロ13号が宇宙で事故を起こして帰れなくなっちゃうという。まあ、似たような話ですけど。今回も。あれももう本当に1回しかチャンスがなくてね。ロケットで噴射をかけるのがね。で、ギリギリに帰ってきたという実際の実話を映画化したものですけれども。今回も非常にギリギリの内容ですね。これね。で、これ、2018年の6月23日。いわゆる梅雨どきに近い、雨季に近いところで非常に危険なんですけれども。

ミャンマーとかの国境に近いタイの山奥の鍾乳洞にサッカーチームの男の子たちがサッカーの試合が終わった後、ちょっと遊びに入ったんですね。しょっちゅう行ってたところらしいんですけども。そしたら、急に雨季よりちょっと早めにものすごい豪雨が来て。それでその鍾乳洞の中が水没しちゃったんですね。で、その後に1週間ぐらい、雨が止まないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そんなに続いたんだ。

(町山智浩)すごい続いたんですよ。で、鍾乳洞って行くとわかるんですけど、上から水がずっと滴っているんですよね。これ、山の下にあるんですけども。要するに石灰石でできてるところなんで、石灰って水で溶けるじゃないですか。だから穴だらけなんですよ。で、山に降ったものすごい大量の雨水が全部、その鍾乳洞の中に流れ込んでいって。で、しかもこの男の子たちね、鍾乳洞の中を4キロぐらい先まで行っちゃってたんですよ。

(赤江珠緒)奥まで行っていたんですよね。

(町山智浩)すごい奥まで行っていて。で、行く途中はすごく狭いんですけど。そこはもう水没しただけじゃなくて、崩落もしてて。本当に出られなくなっちゃって。それでまず最初にタイの海軍の海難救助隊があるんですね。ネイビーシールズがあるんですけれども。そこが出動して、その鍾乳洞の中に入って通るんですけど、中は完全にその当時、ものすごい水量なんで水没してるだけじゃなくて、川になって流れ込んでるんですよ。

(赤江珠緒)ああ、水の流れもあるってことですか?

(町山智浩)水の流れがあって、激流になっているらしくて。で、内側から外の入り口に向かって流れ出してるんで、それに逆らって泳がなきゃならないんで全然進めなくて。で、要するに4キロから5キロあるわけですけれども、スキューバダイビングのタンクって1個がだいたい60分ぐらいしか持たないんですよ。で、それを2個、つけてみんな潜ったんですけども。4キロあるわけですから、向こうまで行けるわけないんですよ。行ったら帰ってこれないですよね?

だからもう、途中でみんな諦めて。とにかく雨水を減らさなきゃならない。山に降ってくる雨水を別のところに出さなきゃならないっていうことで、救助隊の人たちが川を作っていくんですね。それで、近くにあった谷とかを全部水没させるという。何億リットルかなんかの水を横に流して。で、その鍾乳洞の中に水が入らないようにしたんですけど、その周辺の水田地帯は全部、それで全滅しちゃったらしいんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そんなに? えっ、その鍾乳洞の中にある水を排水するとかいう作業は?

(町山智浩)それも同時にやってるんですよ。同時にやって、雨が中に流れ込まないようにもしているんですけど、とにかく1週間、雨が降り続いてる状態なんで。それでも追いつかないと。で、中には食料はないわけですよね。で、普通、よく一般に言われてるのは水だけで人間が生きられるのは1週間とかね、そのぐらいと言われてるのに、1週間ぐらい経っちゃうわけですよ。で、もう親御さんとかね、ご両親とかは「せめて遺体だけでも回収してくれ」っていう話になるんですね。

(赤江珠緒)ああ、そうね……。

(町山智浩)それでも、中に入れない。それともうひとつの問題は、鍾乳洞のトンネルって、その鍾乳石っていうのはつららみたいな岩がずっと中にたくさんあって。それの合間をぬいながら、潜っていかなきゃなんないんですけども。幅がね、60センチぐらいしかないところが何ヶ所もあって。タンクを両脇にぶら下げていくんですけど。タンクを付けたままだと通れないんで、何ヶ所かタンクなしで、素潜りで通るんですって。

(赤江珠緒)ええっ! 怖い、怖い……。

(町山智浩)ものすごいですよ。それで泳いだり、ジャブジャブ足でバタバタして泳ぐっていう感じじゃなくて。中を手の力で這っていく感じなんですよ。狭いから。で、これはもう全然ダメだっていうことで、そこで登場するのがそういう洞窟専門のダイバーの人がイギリスから呼ばれて。それを演じるのが『グリーンブック』非常に素晴らしい演技を見せたヴィゴ・モーテンセンさんと、『マイアミ・バイス』の劇場版とかに出たコリン・ファレルの2人なんですね。で、洞窟の専門のダイバーなんで彼らがボランティアで来るんですけれども。それで、ある程度水が引いた段階で9日目かなんかにとうとう彼らが出動することになるんですね。で、片道で6時間、かかったって言うんですよ。

(赤江珠緒)そのプロたちでも?

(町山智浩)そう。で、片道6時間かかってやっと一番奥の少年たちがいるところにたどり着いて、少年たちを発見して。「生きてるぞ!」ということになるんですけども。これがまた、当時は「みんな、死んいでる」と思ってたんでね。で、とにかく体力を使わないように中で瞑想をしたりしてたみたいですね。

(赤江珠緒)ああ、それはニュースで言ってましたね。やっぱりコーチが、結構みんなの心理的なところをケアしたって。

(町山智浩)そうなんですね。やっぱり仏教国だっていう感じですよね。で、とにかくパニックを起こすともう大変なことになっちゃうから、みんなで落ち着いて、淡々とそこで耐え抜いてたみたいなんですよ。

(赤江珠緒)いや、でも9日間もよく……。

(町山智浩)まあ、体力とかもうめちゃくちゃ減っていて。それで体も動かせないから筋力もない状態になっていたらしいんですけども。で、とにかく見つけた。それを写真に撮って、この2人が洞窟の外に出て報告するとみんな、「助かった!」って言ってんですけど……この2人は「もうダメだ」っていう気持ちになるんですよ。

(山里亮太)ええっ?

(町山智浩)「どうやって出すんだ?」っていうことですよね。

(赤江珠緒)だって片道6時間とか……。

(山里亮太)そうか。プロが6時間かけて行って。

(赤江珠緒)東京・大阪を新幹線で往復してるみたいな、それぐらいの時間ですもんね。

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子供たちを出すのは非常に困難

(町山智浩)そう。で、この段階だとかなり水没してるところがあって。1時間ぐらい、水没しているところを通らなきゃいけないんですよ。で、ネイビーシールズ、タイのプロの海難救助隊がそこにチャレンジするんですけど、要するにタンクが片道1時間しか持たない。2本持っていって、1時間ずつぐらいなんですね。だから、酸素が足りなくなって1人、死亡してるんですよ。超プロでも、タンクつけていて、行けないんですよ。じゃあ、子供をそこからどうやって出すんですか?

これは出せない。しかも、水が……この映画の中だと水は結構澄んでいるんですけども。実際は、ほとんど味噌汁みたいな感じで、全く視界ゼロ。で、光なし。真っ暗。で、もう鍾乳石がいっぱいあって、60センチぐらいしか幅がないんですね。で、超プロのタイ海軍のダイバーですら行けないところを、どうやって子供たちをそこを通すのか?

(赤江珠緒)しかも、その子供たちも体力もね、落ちていて。

(町山智浩)そう。体力も筋力もないから、そもそも泳げないんですよ。これ、大変なことになるんですよね。でね、どんどん水を抜いていくんで、かなり水没しているところがか減っていくんですけど……それでも完全に水没してる状態のところが400メートル以上ある。400メートル、ものすごい狭いところを全くダイビングとかしたことのない子供たち。しかも、体力もなくなってる子たちを果たして、どうやって通り抜けさせるのか?っていうね。これ、ディテールが、非常に細かいところがあまり報道されなかったんですよ。どうやって通過したか?っていうことを。それはね、当時報道管制をしたらしいんですよ。

要するに、実際にやることを言うとパニックが起きるから。世間に、世界に。だから本当にやったことを隠したらしいんですけど。これね、あるオーストラリアの洞窟ダイバーでハリスさんっていう人がいて。その人のことをこの2人のダイバーが思い付くんですね。彼は趣味で洞窟ダイバーをやっているんですけれども、本職は麻酔のお医者さんなんですよ。で、麻酔をかけて子供たちを完全な昏睡状態にして。それで手足を縛って引っ張って水中を通過させるっていうことなんですよ。彼らが思いついたことは。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)これね、報道でちょっと弱められてて。「子供たちは鎮静剤を打たれて落ち着いた状態でそこを通された」とか、「ダイビングの練習をさせて通過した」とか、いろんな情報が流れたんですけども。

(赤江珠緒)ああ、なんかそれは聞いたような気がする。

(町山智浩)実際は完全な昏睡状態にして、麻酔をかけて縛って出してるんですよね。それを思いついたんですよ。そうすると、酸素消費量も減るわけですよね。だからなんとかなるだろうと。ただ、ここでその麻酔のプロのお医者さんは「それはちょっとできないよ」と言うんですよ。「まず、麻酔薬っていうので1時間以上、効くぐらいの量を打つことは非常に危険なんだ。手術とかで麻酔が非常に長くなっても、そんなのは一気に打つんじゃなくて、少しずつ打っていくものなんだ」って。

(赤江珠緒)ああ、そうですね。状況を見ながらね。

(町山智浩)そう。でも、1時間ぐらい完全に水中にいる状態で麻酔薬の追加なんて、打てないんですよ。で、「それはものすごく危険だ。もうひとつは、麻酔をやる際にはかならずバイタルのチェックをモニターするんだ」っていう。麻酔を打つ間、心電図を取って呼吸数を見て、モニターしながらやるじゃないですか。でもこれ、モニターできない状態でやるんですよ。

(赤江珠緒)そうか。しかも、子供に麻酔っていうのもね。

(町山智浩)子供にするんですよ。

(赤江珠緒)量とかも難しいだろうしね。

(山里亮太)でも、それしかないと。

(町山智浩)それしかないんですね。で、時間を食っちゃったりして麻酔が切れて、途中で子供たちが目覚めた場合には……要するに、1時間以上の麻酔を潜る前に打つんですけど。1時間以上効くほどの麻酔を一気に投与すると非常に危険なので、それが限界なんですね。で、1時間以上かかっちゃったところで、水中で彼らが目を覚ましたらパニックを起こして、もう大変なことになっちゃうっていう。で、「どうするんだ? でも、これしか方法はないんだ」っていう。どうしてかっていうと、まずひとつは洞窟内の酸素はどんどんなくなっていっているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか……。

(町山智浩)もう既に、かなり減ってるんですね。通常の酸素よりも。で、もうひとつは本格的な雨季が近づいてきちゃったんですよ。

(山里亮太)ああ、なるほど……。

(町山智浩)そうすると、その洞窟は彼らがいる場所も含めて、完全に水没するんですよ。

(赤江珠緒)うわっ、じゃあタイムリミットがいろいろと……。

迫りくるタイムリミット

(町山智浩)いっぱいあるんですよ。あと、食料とかも運んでるんですけど、とにかく狭くて、そのダイバーがタンクを背負ったまま食料を引っ張ると、食料の運ぶ量にも限界があるんですよ。それもあって、もう本当にチャンスはこの麻酔作戦しかないということになってくんですよ。で、「どうするんだ? これ、世間に対して発表するのか? でも、親はやっぱり許さないだろう。そんな非常に危険なことをするなんて……」って。

それで、13人を1人ずつ運び出すんですよ。「そのうちの何人かは、死ぬだろう」って言うんですよ。麻酔に対するショック症状とかのチェックも何もできないんですよ。彼らの中で1人として、麻酔とかそういったものに対するアレルギーのチェックを受けてないんですよ。今までに。

だからもう、何もわからない。「もう、何人かは死ぬことを覚悟してやろう。その時に、我々は徹底的に責められるだろう。タイ政府の方も、これは誰かが責任を取ることになるけど、でもやるしかない」っていう風になるんですね。だからこれ、かなりものすごい限界状況でやってたんですよね。

(赤江珠緒)決断を迫られますね、これ。

(町山智浩)ものすごいことなんですよ。ただ、やっぱり世間的にはそれを世界に広めないように、いろんな形で誤情報を流したりしてたみたいですね。で、後から少しずつ、わかってったみたいですけど。ドキュメンタリーもその後、作られたりしたんでね。で、最初はみんな、鎮静剤を打って。それである程度、子供たちが自分で泳いだっていう風に報道されてたんですけど、全然状況違っていたんですね。これはすごいなというね。

(赤江珠緒)でも子供たちも順番に、1人ずつ行っているけど、待っている側は待っている側で不安でしょうしね。

(町山智浩)この子たちがものすごく偉いんですよ。もう全く文句も言わないし、逆らわないし、パニックを起こさないし、騒がないんでね。すごいなっていう。だからこのコーチの指導力が非常に高かったんだろうと言われてますね。で、コーチはそこに連れていっちゃっていたから、ものすごい責任を感じて。彼も本当に限界まで追い詰められるんですけど、それでも誰もパニックを起こさないんでね。やっぱりすごいな、仏教の力っていう風にいろいろと思いましたけども。

これ、だって普通はパニック映画とかを見ると……「パニック映画」っていうタイトルがついてるから、パニックを起こす人はいるじゃないですか。でも、パニック映画じゃないんでね。誰もパニックを起こさないから。それはすごいなと思いましたね。周りはパニックを起こしてますよ。洞窟の外ではね。大変なことになってますけれども。しかも、1人1人出していくから、1日では終わらないんですよ。で、さっきも言ったんですけど、洞窟の奥まで入れる人は本物の洞窟ダイバーしかいないんで、数人しかいないんですよ。その数人が行って、全員を出すんですよ。その数人で。

2人でその男の子を、1人が引っ張って、1人が押してっていう。それを13回、繰り返すんですよ。で、要するに片道で4時間とか5時間とか、かかるんですよ。で、その完全に水没していないところは気絶してる状態の子を2人で抱えて移動していくんですけど。ただ2人でホイホイって担げるわけじゃなくて、その間もずっと鍾乳石とかがいっぱいいる状態なんですよ。歩くところも大変なんですよ。で、片道で4キロ移動ですよ。で、行く時にもまた4キロ、移動してますからね。「こんなすごいことをしてたんだ!」っていうね。

(赤江珠緒)よく助かりましたね。その子供たちね。

(山里亮太)ねえ。聞けば聞くほど……。

(町山智浩)奇跡ですよね。これ、すごいなって。で、これ2時間半もある映画なんですけれども。この次々に来る危機だけで数がすごく多いから。で、ものすごくテンポがいいんですよ。どんどん、「はい、危機。次の危機。その次の危機……」ってなっていくんで。異様にテンポが早くてね、結構とんでもない映画になってますね。で、この洞窟は今は完全に封鎖されてるみたいですね。やっぱり危険すぎるっていうことでね。でも、これでなんでこうなったかっていうと、それまでは問題ないところだったらしいんですよ。

(赤江珠緒)うん。遊びに行ったりしてたっていうね。

(町山智浩)そうなんですよ。やっぱり異常気象なんですね。降水量がどんどん増えてるんですよ。世界中で。日本もそうでしょう? 大雨があったじゃないですか。

(赤江珠緒)アメリカ・カリフォルニアの山火事とか、またとんでもなく……。

(町山智浩)山火事がある一方で、ケンタッキーでは今、ものすごい豪雨で。40人ぐらい亡くなってるんですよね。谷間に水が流れ込んできて、逃げ場がなくて。みんな、もう一瞬で水没して亡くなっているんですけども。これ、洞窟に行ったことを責める人もいるけれども、でもそれまで何ともなかったところなんでね。本当に降水量が非常に増えてて。世界中でこういうことが次々と起こってくるんだろうなと思いますね。

(赤江珠緒)そうですね。世界規模でね、異常気象ですもんね。

世界規模の異常気象

(町山智浩)そうなんですよ。今、韓国ですごいですね。ソウルの方で。『パラサイト』と同じような洪水が起こってるみたいですけど。もう全世界がこれなんでね。ということでこの『13人の命』はちょっとすさまじい映画だったんで。アマゾンプライムで配信中ですけど、ぜひご覧いただきたいと思います。

<書き起こしおわり>

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