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町山智浩 レバノン映画『判決、ふたつの希望』を語る

町山智浩 レバノン映画『判決、ふたつの希望』を語る たまむすび
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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でレバノン映画『判決、ふたつの希望(原題:ジ・インサルト)』を紹介していました。
※映画紹介時にはまだ邦題が決定していないため、『ジ・インサルト』という原題に基づいて紹介されていました。

(町山智浩)それで今日の映画はそれ(アメリカのエルサレムへの大使館移転)と絡んでいるようで、絡んでいないような、絡んでいる話なんですが。『ジ・インサルト(The Insult)』というレバノン映画を今日、ご紹介します。

町山智浩 アメリカ大使館エルサレム移転を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でドナルド・トランプ大統領によるイスラエルのアメリカ大使館のエルサレム移転について話していました。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これは監督はレバノン系の人でジアド・ドゥエイリという人なんですが。僕と同い年ぐらいですね。1963年生まれなんですよ。で、この人はレバノンで生まれているんですけど、その後に子供の頃にアメリカに難民という形で移住するんですね。どうしてか?っていうと、1975年ぐらいからレバノンってずっと内戦になっちゃっているんですよ。

(山里亮太)ああー。

(町山智浩)で、いられないからアメリカに来て。このドゥエイリ監督はその後にクウェンティン・タランティーノの映画の撮影助手をずーっとやっていたんですよ。この人はすごいですよ。『パルプ・フィクション』とか『レザボア・ドッグス』とか『ジャッキー・ブラウン』とかのタランティーノ映画の撮影助手をずっとやっていた人なんですね。

(赤江珠緒)へー! うんうん。

(町山智浩)で、大人になったんでそれを終えた後にレバノンも安定したんでレバノンに帰って映画を作り続けているんですよ。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、子供の頃、1970年代にレバノンが内戦になった時に映画少年たちが8ミリでそれを記録する映画であるとか、そういうのをずっと撮っていて。で、今回『ジ・インサルト』というのは現代におけるレバノンが内戦が終わってからだいぶたつんだけども、内戦の中で育った人たちは大人になってどうなっているのか?っていう話なんですね。で、アカデミー賞の外国映画賞候補になっていたんですけども。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)『ジ・インサルト』っていうのは「Insult」っていうのが「侮辱」っていうことなんですよ。「ひどいことを言う」っていうことなんですけども。で、これは現代のレバノン・ベイルートが舞台なんですけども。主人公が2人いて、1人がトニーさんという人。この人はキリスト教徒なんですね。

(赤江珠緒)はい。

レバノン内戦の原因

(町山智浩)で、レバノンがなぜ内戦状態になるか?っていうことを説明しなきゃいけないんですけども。レバノンって人口のだいたい40%ちょっとがキリスト教徒なんですね。カトリックでマロン派っていうらしいんですけども。で、55、6%ぐらいがイスラム教徒なんですよ。で、40%がキリスト教徒で55%ぐらいがイスラム教徒だと、イスラム教徒が多数派なような気がするじゃないですか。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)でも、このイスラム教徒の半分がシーア派で半分がスンニ派なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。

(町山智浩)で、スンニ派とシーア派って仲が悪いからイスラム教徒が圧倒的多数にはならなくて。もっとも多数派は40%ちょっとのキリスト教徒になるんですよ。で、政治はキリスト教徒が握っている形になるんですよ。スンニ派とシーア派はケンカしているから。それで、シーア派っていうのはイランなんかがそうですよね。それでヒズボラっていう組織があるというのはみなさんご存知だと思うんですけど。これがだから反イスラエル組織で、それはシーア派の人たちなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、日本ではヒズボラは「テロリスト」とか表現されていますけども、ヒズボラはちゃんとそのレバノンの議会に議席を持っている政党なんですよね。イスラム教シーア派の政党です。で、そこでさらに問題なのは、レバノンにはパレスチナ難民が45万人も住んでいるんですよ。どうしてか?っていうと、レバノンはイスラエルの隣なんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。場所的に。

(町山智浩)で、イスラエルがユダヤ系の人たちがどんどんそこに入ってきて、もともとそこに住んでいたパレスチナの人たちを追いやっていって住めなくしていったわけですけども。だから、パレスチナの人たちはしょうがないから国境を超えて隣のレバノンに逃げ出したわけですね。だから、45万人も住んでいるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、この映画『ジ・インサルト』の主人公はトニーさんっていう多数派のキリスト教徒なんですけども。で、もう1人の主人公はヤセル(Yasser)さんっていうパレスチナ難民なんですね。で、この2人のケンカの話なんですよ。最初は普通にマンションがあって。そのマンションにトニーさんが奥さんと一緒に住んでいるんですね。トニーさんは自動車の修理工で奥さんは妊娠をしていて。で、ベランダに植木とかを置いてあるので、水やりをするんですけども。その排水口のパイプが壊れていて水がそのまま通行人の上にかかっちゃうんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、そこを歩いていたのがそのパレスチナ難民のヤセルさんなんですよ。それで水がかかったんで「バカヤロー!」みたいなことを言うわけですね。明らかにベランダから水が落っこちてくるから。で、この「バカヤロー!」がその「インサルト」っていうタイトルの侮辱になるわけですよ。で、そこから互いにケンカになっていくわけですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)で、まずヤセルさんはパレスチナ難民のための寺院をそこに建設しようとしていて、工事をしている労働者なんですね。で、その工事をしている人たちが「ケンカをするのもあれだから、俺たちがそのベランダの排水パイプを直してあげようじゃないか」って言って、勝手にそのトニーさんのベランダの排水管を直しちゃうんですね。すると、トニーさんは「勝手にこんな施しは受けん!」とかって言って、その排水パイプをガンガンに自分で壊して。さらに水をじゃんじゃんいっぱい流しちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!? ちょっとトニーさんが悪いんじゃないですか? まず、トニーさんが謝ったらいいんじゃないですか?

(町山智浩)そう思うんですよ。で、そう思うんだけども、パレスチナの難民の人たちはレバノンにいさせてもらっているような状態なわけなんで。で、「お前が謝れよ」みたいなことになっていくわけですよ。で、両方とも互いに「謝れよ」みたいなことになって、結局ヤセルさんが自動車修理工場に謝りに行くことになるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、行ったらちょうどトニーさんがキリスト教の政党の演説を見ているんですよ。ところが、そのキリスト教の政党の政治家の演説が徹底的に差別的で。「パレスチナ難民は叩き出せ!」とかって言っているわけですよ。で、それを見てカッカしてきて。トニーさんが「お前らなんかイスラエルのシャロン首相が皆殺しにしてりゃよかったんだよ!」って言っちゃうんですよ。ヤセルさんに対して。

(山里亮太)過激なことを……。

(町山智浩)で、シャロンっていう人はイスラエルの右派の政治家・軍人でレバノンに攻め込んだ人なんですね。パレスチナ難民を追いかけて。国境を超えて。で、それを聞いてヤセルさんが思わずカッとして殴っちゃって。で、結構いいパンチだったので結構なケガになって。そしたら、そっちでモメているうちに今度はトニーさんの奥さんが流産しちゃうんですね。

(赤江珠緒)あらら……。

(町山智浩)モメているから。そしたら、そのお子さんがものすごい未熟児で大変な状況になっちゃうんですよ。で、「この子にもしものことがあったらヤセルのせいなんだ!」みたいな話になって裁判になっていくんですが、この裁判の弁護士でトニーさんの方についた側とヤセルさんの方についた側が実は親子で。政治的に右左に分かれていて、娘の方がお父さんがあまりにも右翼的だからって反発している左翼人権弁護士なんですね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、ヤセルさんの難民の側について、もっと事を大きくしていくわけですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからまさに「水かけ論」で。最初は水がかかったっていうところから(笑)。

(赤江珠緒)そうですよね。些細なことでしたね(笑)。

レバノンの「水かけ論」

(町山智浩)水かけ論ってレバノンにもあるんだなって思いましたけども(笑)。あれ、もともと道端で水をまいていたらかかった/かからないでケンカになるみたいな話なんですけども。本当にレバノンでもそういうことがあって。それがどんどん裁判で大きくなっていって、イスラム教徒側とキリスト教徒側の政治闘争にさえ利用されて、国家全体を揺るがす大裁判になっていくっていう話なんですよ。結構ね、裁判劇なんですけど、この2人がやっていることは子供のケンカみたいなんで、ちょっとコメディーみたいでもあるんですよ。

(山里亮太)聞いたらそうなのかな?って思いましたけども。

(町山智浩)そう。見ていると笑っちゃうんですけども。ただ、この2人がものすごく争っている向こう側に見えてくるパレスチナ難民とキリスト教徒の対立というのがだんだん、この人たちが子供の頃からずっと続いているわけですから、裁判を通して歴史が掘り返されていくっていうドラマなんですね。だからすごくよくできています。やっぱりさすがタランティーノの弟分っていうね。同い年ですけども。タランティーノとは。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これがですね、話を聞いていると複雑で複雑で。やはり人口が拮抗しているからなんですけど。まず、1976年ぐらいにレバノンで虐殺が3回あるんですよ。そうすると、どれが最初か?っていうのが虚しくなるぐらい報復、報復なんですね。で、わかっているのだとまず カランティナの虐殺っていうのがあって。これはキリスト教徒の民兵組織がパレスチナ難民とかイスラム教徒を1500人ぐらい殺して。で、その2日後にダムールの虐殺という形で今度はパレスチナ側とイスラム教徒がキリスト教徒の民間人を500人ぐらい殺して。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それに対してまた報復でテルザアタルの虐殺というのがあって。今度はキリスト教徒が難民キャンプで1500人ぐらい殺してというのをやっていて。こうなると、どっちが始めたとかあまり意味がないですよね。

(赤江珠緒)そうですね。もうお互いにね。やってやり返して、やってやり返して。

(町山智浩)そう。っていう話でね。それで1982年のレバノン内戦中の大虐殺も絡んでくるんですけども。だからこの2人のケンカはそういった虐殺の報復を意味してはいるんですが、ただこの2人、トニーさんとヤセルさんって互いにトニーとヤセルとして付き合ったことは1回もないわけですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)彼らは互いを「パレスチナ人」「キリスト教徒」としてしか見ていないんですけど、そうじゃないじゃないですか。個人個人は。

(赤江珠緒)もともとはね。

(町山智浩)もともとは。それで、彼らがやったわけじゃないわけですよ。虐殺のほとんどは彼らの子供の頃にあったことですよ。彼ら自身がやったことじゃないのに、なんで憎みあわなきゃいけないんだ?っていうことですよね。

(赤江珠緒)ああ、本当ですね。

(町山智浩)っていうことまで見えてきて。1人1人として会った時はいったいなんなのか? どうなのか?って言ったら、ただの普通の人たちですよ。だからこの監督はね、1人1人であったらどうなのか?っていうことを問いかけているんですよね。

(赤江珠緒)ああ、でも戦争とか民族間の対立って結局は突きつめていくとそういうことのような気がしますね。

(町山智浩)そう。だから「○○人だ」とか「○○教徒だ」って言っている人はじゃあその中の1人とでも面と向かって付き合ったことがあるのか?っていうことですよ。ということまで問いかけていて、しかも法廷ドラマとしてもものすごく面白い。よくできた映画がこの『ジ・インサルト』でした。

(赤江珠緒)うんうん。なるほど。

(町山智浩)日本公開は夏ぐらいかな?

(赤江珠緒)はい。そうですね。夏ごろに日本公開予定ということですね。

(町山智浩)この監督は全く国とか関係なく映画を撮っていて。この前に撮っていた映画はイスラエルにおけるパレスチナの無宗教のアラブ人がテロに巻き込まれていくという話で。まさにこういう個人と政治との関係性について描いていて。イスラエルで映画を撮ったためにレバノンで逮捕されたりして、結構すごい国家を超えた人ですね。

(赤江珠緒)いいですね。きっとこれも人類の課題かもしれませんね。今日は『ジ・インサルト』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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