宇多丸 フランス・パリでのジャパニーズヒップホップ講演会を語る

宇多丸 フランス・パリでのジャパニーズヒップホップ講演会を語る アフター6ジャンクション

(宇多丸)でね、その講演会があって。楽しく終わったんですけども。で、そのロジェさんとソニケムさんに連れられて翌日、彼らが「ぜひに」ということの案内してくださったのが、一言で言うと公のヒップホップセンター。名前はねとね、「ラプラス(La Place)」っていうところ。日本でいうと新宿駅みたいな巨大なターミナル駅の中の、駅ビルとくっついた、もう本当に中心地のビルの商業施設の中の何階かの一角を全部、そのラプラスで使っていて。で、それはどういう場所か?っていうと、若者がまず安価で使えるレコーディングスタジオとかが何個も並んでいたり。

(宇内梨沙)すごい!

(宇多丸)あとは、実際にのぞいたらそのスタジオの中でDJの……たぶん、バトルDJなのかな? バトルDJの練習してる女性。かっこいい、すごい女性のDJがこうやって練習していて。そんな風に練習で使うこともできるし。あとは、ブレイキングとか、ヒップホップのダンス用のスタジオがあったりとか。もっと言えば、ヨーロッパはすごくグラフィティアート大国なんですね。シャルル・ド・ゴール空港から来る途中の高速の道の両側に見事なクオリティのグラフィティが……まあ、イリーガルなものとか。でも、リーガルなものもあるんです。公で「ここに書いていいよ」っていうところもあって。ビル一面にちゃんと、見事なそういうエアロゾルアートが描いてあるところもあったりするんだけども。そういうエアロゾルアート。スプレーで書くようなアートができるスタジオがガン!ってあったりとか。

あとは、東京でいうとクラブクアトロぐらいのサイズのライブがガッツリできる会場があったりとか。あとは、その異なるジャンルのアーティスト同士が交流できるサロンとか食堂みたいのがあったりとか。とにかく、お金がない若者もここに来て本格的なレコーディング技術だとか、その練習もできるし、リハーサルもできるし、ライブもできるし。もっと言えば、そのソニケムさんとかは本当に兄貴分として、このヒップホップというカルチャーでどのようにビジネスをして、食べていくかみたいなこともちゃんと教えていくみたいな。そういう総合公共施設があって。

(宇内梨沙)すごいですね! ヒップホップに特化した?

総合公共ヒップホップ施設・La Place

(宇多丸)そうです。だから、世界広しといっても……世界中にヒップホップカルチャーはあるし、ラップアーティストもいるけども。「これほど、総合的にヒップポップカルチャーというものを公がサポートもして扱った上で、ポジティブに使っているような例は、なかなかないんじゃないか?」って言ったら、「いや、本当にそう思う。これはすごくフランス特有のものだと思う」って言っていて。でも、それは要するにフランスって文化に対して公のサポートをするのが当然の土壌っていうのがあって。あと、その文化っていうのは誰もが等しくアクセスできるようにすべきものっていう意識もすごく強いんですね。これはヒップホップに限らず、いろんなアートも。

美術館がタダで見れるようになっていたりとか、それらも含めて。映画もそうなんですけど。映画の話は、明日しますね。なので、いろいろ日本がまんまをトレースするのは難しいかもしんないけど。学ぶべき部分というか。アメリカがもちろん、中心的な文化だけど。アメリカはやっぱり、あまりにもビジネスとして巨大すぎて。そういうような側面ってのはあんまり重要視されてるとは言えないんですよ。今は。たとえば、そのブレイキングってアメリカでは盛んとは言えないんです。というところで、むしろ日本とそのフランスのヒップポップカルチャーでこういうところも共鳴しうる部分があるし。その公の政府とか、そういうのの文化に対する距離感というのは全然、もう180度違うぐらい違うんだけど。

(宇内梨沙)やっぱりカルチャーとしてフランスは受け止める寛容度が高いというか。

(宇多丸)と同時に、そうしようという意志を持って、そのお兄さん分のソニケムさんとかがすごい頑張ってやってる感じもあって。すごく良かったです。で、またそのスタジオとか案内してもらって、ソニケムさんのビートを聞かせてもらって。いろいろ今後の計画とか。「日本でも、こういうセンターを作れないか今、頑張ってるんだよ」みたいなことを言っていたりしていて。「いいね!」っつって。もちろん、僕も協力もするし。あとは、そのロジェさんが『THE BEST OF JAPANESE HIP HOP』っていうね90年代半ばに出た、当時の我々の世代のヒップホップのコンピレーションアルバムがあって。そこに、いろんなアーティストがジャケット写真に載っているんだけども。「どれが誰だか、教えてくれないか?」って。やっぱり、それだけだとわかんないからっていうんで。「ああ、そうだよね。これだとわかんないよね。ええとね、これがCRAZY-Aで……」「ああ、この人がCRAZY-Aか!」みたいな。そういうのもあってね。

『THE BEST OF JAPANESE HIP HOP』

(宇多丸)ということで、今日はパリのヒップホップ編。時間は短くなりましたけども。皆さんからもメールをいっぱいいただいてますので、放課後ポッドキャストなどでご紹介していきたいと思いますので。見ていただいた方、ありがとうございます。そしてYouTubeでもこれからも見れますんで、ぜひぜひ。私が今まで35年間、RHYMESTERとしてやってきたことをパリで全肯定していただくという体験でもあると同時に、やっぱり自分たちがまだ見てなかった角度で……だから、まだやれることが。要するに、ここにこれだけのファンがいるんじゃんっていうのがあったから。まだやれること、全然あるなって。「あれ? ここ、全然手つかずだった!」みたなのを今年、55になりますけども。やりがいを見つけてしまったという。あとは、友達がめっちゃ増えましたというフランス旅行の話でございました。

(宇内梨沙)とても充実したお話でした。

(宇多丸)すいません(笑)。

<書き起こしおわり>

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