宇多丸 フランス・パリでのジャパニーズヒップホップ講演会を語る

宇多丸 フランス・パリでのジャパニーズヒップホップ講演会を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2024年4月10日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でフランス・パリを訪れて現地の日本ヒップホップ研究者であるロジェさんらと行ったジャパニーズヒップホップ講演会の模様について、話していました。

(宇多丸)ということで、フランスというのは非常にヒップホップが盛んな国なんですよね。移民の方も多いですし。様々な社会問題みたいなことも含めて、非常にヒップホップが盛んで。かつ、盛んになってからすごく長いし……というあれで。まあ、ヒップホップが一番盛んな国はアメリカですけど、世界2番目ぐらいと言ってもいいんじゃないかな?っていうぐらい、盛んだと思うんです。

(宇内梨沙)それは、フランス語で?

(宇多丸)もちろんフランス語でラップされているんですね。で、ラップだけじゃなくて、フランスのヒップホップカルチャーの特徴はそのヒップホップの全体の要素が盛んというか。ブレイキングもそうだし。パリでね、オリンピックの競技にB-BOYINGが入りますから。そのパリオリンピックの施設……パリオリンピックの特にエクストリームスポーツ。ブレイキングとかBMXとか、そういうようなエクストリームスポーツ用のアピール施設なのかな? スポット24っていうのがパリ日本文化会館の近くにあって。それも案内してもらったりしたんですけど。

で、ブレイキングとかヒップホップカルチャーに関するちょっとした資料というか。そんなものも置いてあったりして。そこも案内してもらったりして。で、Real Japanese Hip Hopというフランス・パリでずっとその日本のヒップホップを研究し続けている……特に、そのロジェくんっていうのはカメルーンの出身で。お父さんが日本で外交的な仕事で駐在されてる時期があって。何回も日本に来て。で、その日本にお父さんが行くたびに、お土産は日本のヒップホップのCDだったという。それで幼い頃から実は日本のヒップホップにすごく親しんでいたというのがロジェくんで。で、自分でもすごく本格的に研究を始めてずっと経っているという、そんなロジェくん。

で、ロジェくんはすごくおとなしい子なんだけども、でも日本のヒップホップについて語りだすと、止まらないみたいな感じの人なんだけど。で、そのロジェくんが実際のフランスのヒップホップシーンみたいなところにちゃんと影響力がある人と組んでいて。その人がDJソニケム(Sonikem)さんという人で。で、このソニケムさんは外交担当じゃないですけども。彼自身、アーティストでもあって。DJ、トラックメーカー、そして自分でもラップをするという方で。皆さん、ぜひサブスクで「Sonikem」で検索すると……日本人のラッパーのISH-ONEくんという方。僕も古くから知っていますけどもISH-ONEくんと一緒に曲をやっていたりしているソニケムさんという方。このこの2人に主に案内をしてもらっていて。

(宇多丸)で、パリに着いてその翌日はほぼ1日、そのロジェさんがいずれは日本のヒップホップに関する書物とかも書きたいということで。だったら、特に初期から2000年代前半ぐらいにかけてはもう僕は、ほぼ当事者として全てを見てきてるし、関わってるし。「少なくとも僕の目から見た日本のヒップホップの歴史というのは語れるから。何でも聞いてください」ってことで、もう本当に1日使って。5、6時間かけてずっとロジェさんとお話をしていて。そこで話したことをベースに、翌日の講演会みたいなことになったんです。で、すごくそれは喜んでいただいてるわけですけれども。今までは、要するにインターネットとかにも全ての情報が載ってるわけじゃないし。いろいろ謎だったり、いろいろと一生懸命調べたんだけど、穴が開いてた部分というのがたくさんあって。「その穴が今日、この数時間で全部埋まった。もう今、頭が破裂しそうだ!」みたいなことを言っていて。

「今まで穴が開いていた情報が全て埋まった!」(ロジェ)

(宇多丸)これ、すごい面白かったんですよ。たとえば、日本語ラップの技術的進化の話とかを僕がしていて。たとえば、日本人は……僕ら、RHYMESTERは比較的日本語的なはっきりした、日本語っぽい感じで発音するけども。より英語的なというのかな? 日本語的でない響きに寄せるような技術というかな? そういう美学もあったりして。これはだから、日本人特有というべきなのか、わかりませんけども。「ポップミュージックの中で日本語がモロに響くということ……意味も、あと日本語的な響きも日本語としてガン!って来るのがあんまり好まれないという傾向があるんだよ」みたいな。

(宇内梨沙)ちょっと幼稚に聞こえてしまうみたいな?

(宇多丸)まあ、端的に言えば「ダサい」とか。あと、僕らが当時、90年代によく言われたのは「RHYMESTERは意味が全部入ってきちゃうから、足が止まる」って言われたことがあるんです。まあ、それは僕、反論したいところもあるけども。でも、そういうような感想もあって。それはなんか、わかるじゃないですか。で、日本のポップスとかって、あんまり日本語をモロに響かせない感じみたいなのがあるって。

(宇内梨沙)いわゆる思春期を迎えると、ちょっと洋楽を好きになる流れと一緒なのかな、みたいな。

(宇多丸)まあ、要するに日本的な生理からいかに離れるかという。それは実際、日本のラップだってそうやって進化してきたんだから。なのでたとえば、日本語なんだけど英語っぽく発音する人もいる、みたいところをいろいろ説明してる中で。「ああ、そうか。だからか。なんで全部、日本語でラップしてるはずなのに、すごくここは英語的に聞こえるんだろうっていうのがずっと不思議だったんだけど。そういうことか!」みたいなことを言っていて。

(宇内梨沙)ああ、なるほど。その日本人の感性のところまではもちろん、わからないから。

ラップの中に英語的な発音が出てくる理由

(宇多丸)そうそう。で、日本人は日本語を使って、もちろん日本を愛して、日本語を愛してやっているけども。でも、特に歌の中でそれが聞こえてくると嫌だっていう感性がどこかにある。それは、日本人の特に西洋音楽というか。西洋をベースにしたポップカルチャーの中に自分たちがいると、なんか気恥ずかしいっていうコンプレックスみたいな。それはやっぱり、その西洋文化が入ってくる順番の問題もあって。そんなことを言ったら、やっぱり向こうはすごく不思議そうな感じで。

「ああ、そうなんだ」みたいな。でね、やっぱり日本のヒップホップがすごく大好きで、それを研究している2人でもあるから。いろんな国のヒップホップっていうものはもちろん聞くんだけど。当然、日本のヒップホップの中には英語でラップしていて、アメリカのヒップホップに顔負けというような感じの人たちもいっぱいいて。「それはそれでいいんだけど。でも、やっぱり僕たちが面白いと思うのは、その国なりにちゃんとその国の解釈をしてあって。その国の言葉の響きがあってっていうのが面白いと思うから。そうか。そうなんだ」みたいな話とかをしていて。

ただ、そういう視点自体も自分たちのやってきたこと。ある意味、僕らがRHYMESTERを始めていろんなことやってきたことを、本当に……その結成35年やってきたことを、日本でさえ理解してくれる人いないところから始めたのに、パリでこんなに理解してくださる人がいるのかっていうことと同時に、向こうから見たこっちの視線っていうので改めて自分たちのことを知るっていうか。そういうところもあったりして。僕にとってもすごく学びな……自分で説明しながら、その反応を聞いてると「ああ、そうか、そうか。そうだよね」っていう風に自分たちの本質みたいなのが見えてくるような経験でもあって。まず、それがすごく面白かった。

それで講演もさせていただいて。ちなみに私がね、この勢いで……これ、昨日も話しましたけど。私がまず、その通訳の方に同時に通訳してもらうっていうのを普段、そんなにしていないから。これは、申し訳ない。慣れてなくて、この勢いでブワーッて話しちゃうから、ちょっとセンテンスが長くて。さぞかし大変だったろうなと思うし。「もうちょっと切ってあげた方がいいんじゃないか」っていう意見もYouTubeの方であったらしいんだけども。後には僕、それも学んで。森田芳光上映会の頃にはどんどんどんどん上手くなって。センテンスも短いし、その切りどころとか、表現の仕方とかもどんどん上手くなって。最後の『(ハル)』の解説はめっちゃうまくいったと思うんだけども。

まあ、それはいいんだけど。ちなみにそのヒップホップ講演会で皆さんが絶賛していた通訳さんはチボ・サエさんという方で。チボ・サエさん、たぶんこのタイミングで日本に来てるんじゃないかな? 「入れ違いで日本に行きます」みたいなことを言ってたんで。日本のヒップホップシーンのことも前から、すごくよくご存知で。僕と共通の知人も結構いるような感じのチボ・サエさん。完璧な方でした。で、その後にね、主に森田芳光上映会の時に訳していただいたのはスロコンブ・ミヤコさんという方で。この方もすごかった! もう、訳を聞いた人がみんな、フランスの方も含めて「あなた、すごいね!」みたいな。その両方がわかる人に言わせると僕の口調とかの、スピード感まで再現してるっていう風におっしゃっていて。とにかく、チボ・サエさんとスロコンブ・ミヤコさん、お二人には通訳として非常にお世話になりましたという感じなんだけど。

で、その講演会は7:3ぐらいの割合で、7がフランスの方。そして3がフランス在住の日本の方みたいなバランスで。だから僕が何か言ったら、いち早くワッと笑うような人もいたりとかっていう雰囲気だったんだけど。実際、この公演の映像というのはYouTubeで皆さん、見れますので。リアルジャパニーズヒップホップで検索してもらってもいいし。たぶんアルファベットで「Conférence Utamaru」とかって検索していただくと出ますんで。ぜひ皆さん、見ていただきたいと思います。日本の方が見ても、非常に興味深い内容じゃないかと思うんで。

Conférence “Utamaru (RHYMESTER), une icône du rap japonais”

(宇多丸)途中、後半からはその質疑応答みたいな感じになっていて。会場の日本の方からもね、質問をいただいて。ちっちゃい子……あれ、いくつぐらいだろう? 5歳ぐらいの男の子がいて、その子が質問してくれて。「ライバルはいますか?」みたいな。で、それが終わった後、会場の外で……すぐに会場は閉めなきゃいけなかったんで、どんどんどんどん移動しながらだったんだけど。移動しながら、廊下からロビーとかに至るまで残ってくれたお客さん。その時は本当、フランスの方が多かったけど。移動しながらいろいろ、さらに質問を受けたり、サインしたり、写真撮ったりしていて。その間、ずっとその5歳ぐらいの男の子が僕の足元に付いてきて。ずっとずっと質問してきて。だからずっと「そうだね」って話をしていて。「特に頑張った曲はどれですか?」「うーん。そうだな。やっぱり『Once Again』は頑張ったんだよね」とか、いろんな質問があって面白かったです。

後ね、「共演した方で一番印象的なのはどなたですか?」「忌野清志郎さんっていう人がいて」って。で、そのお父さんみたいな人が「おお、清志郎! 清志郎だってよ!」なんて言っていて。それはいいんだけども。その、現地のラップしているような子が本当に並んで、こうやって待っていて。「僕、ラップをしているんです。アドバイス、ないですか?」みたいな。「日本のヘッズかよ」みたいな感じで。「やっぱり人に言われようと、自分らしくあるしかないんだからね。自信を持ってやるってことですかね」とかって言ってたんですけども。

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