町山智浩『フジヤマコットントン』を語る

町山智浩『フジヤマコットントン』を語る こねくと

町山智浩さんが2024年2月6日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『フジヤマコットントン』を紹介していました。

(町山智浩)で、もう1本はね、『フジヤマコットントン』というドキュメンタリー映画です。日本の。これも今週の10日(土)からポレポレ東中野などで公開なんですが。これね、監督の 青柳拓監督という、僕が前にいろんなところで紹介した『東京自転車節』というドキュメンタリー映画の監督・撮影・主演だった人ですね。これはコロナで大変な時にですね、彼は自転車でUber Eatsの配達員をやって。で、彼は全然お金がなかったんですよ。だからUberで儲かるんじゃないか?っていう風にその当時、言われていて。Uber Eatsでね。それで「本当に儲かるのか、実験しよう」っていうドキュメンタリーコメディだったんですよ。

『東京自転車節』青柳拓監督作品

(町山智浩)これはね、はっきり言って全然儲からないんですけど。本当にね、なんというか生活のためにやってるんですけど。そのうちに、せっかく人々の食べ物を運んで繋いでいくんだから、何とかコミュニケーションを取れないだろうか?っていうことで、彼は頑張るんですが。今って、ドア置きになってしまっているんですね。みんな。

でか美:置き配。特にコロナ禍ではそうでしたね。対面しないようにっていうんで。

(町山智浩)だから彼は結局、誰とも繋がれなくて。お金が儲からない上に、それがつらくて。孤独で非常につらい思いをするというドキュメンタリーがその『東京自転車節』だったんですが。その青柳監督が今回、撮ったのはですね、彼のお母さんがずっと働いてた障害者施設のドキュメンタリーなんですよ。で、障害者の人たちがそこで働きながら暮らしてるのを1年間、追ったものなんですね。で、どうして1年か?っていうと、その施設では……あ、タイトルの「フジヤマ」っていうのは富士山の近くにあるところだからなんですけど。「コットントン」っていうのはね、そこで綿花の種を蒔いて。綿花を種から育てて、糸を紡いで織物を作っていくということをやってるんですよ。その障害者の人たちが。それが1年かかるので、それを追っているんですけども。

で、この青柳監督はすごく幼い頃から、そのお母さんの職場ってことで障害者の人たちをずっと接してきた人なんですね。で、子供の頃からだから障害者の人を彼は障害者としては見なくなってるんですよ。で、この映画はいろんな、ダウン症の人とか、いろんな形の知的障害の人とかが出てくるんですが。その人たちが障害者であるとか、どんな障害を持ってるってことは全然、どうでもいい映画になってます。それよりも1人1人の人間がどういう人なのか?っていうことを描いていく映画になってるんですね。で、これは障害を持った人だったり、あとたとえばさっき、『非常に残念なオトコ』という作品で白人の女性っていうだけで付き合おうとする日系三世のベンくんの話をしたんですけども。「白人」っていうのもそれは人種。属性だから。その人じゃないですよね。それで実際に付き合うと、その属性っていうのは消えちゃうんですよ。その人個人になるから。その人個人になるまで接しなければ、やっぱり人はわからない。

だから「白人」とか「韓国人」とかね、そういう形でその属性でしか捉えないっていうのはその実態を見ていないっていうことなんですよ。わかっていないんですよ。だからそれが、ひどいことんなっていくんですね。で、青柳監督がこの『フジヤマコットントン』を撮ろうとした理由っていうのは、相模原で障害者施設の虐殺事件がありましたよね? 2016年に。その施設で働いていた男性がですね、障害者の人たちを「国に負担がかかる」とかいう理由で大虐殺したわけですけれども。その中で出てくるのは、「障害を持った人たちには価値がないんだ」っていう、そんな考え方があったわけですけれども。「じゃあ、その価値って何?」っていうことなんですよ。

「価値がない人」は生きてはいけないのか?

(町山智浩)「えっ、人って価値があったり、なかったりするの? 価値がないとされた人は、生きちゃいけないの?」っていう、根本的な問題なんですよね。で、この『フジヤマコットントン』で出てくる障害者の人たちを見ていれば、価値がない人なんて1人もいないんですよ。そんな人はたぶん、いないんですよ。おそらく。だから、そういったことに対して「ちょっとわかってないんじゃないの?」ということがわかるんですね。

で、これでなぜ綿花を育ててるか?っていうと、みんな綿のパンツとか、履いているでしょう? 綿のシャツとか、着ているでしょう? でも、綿ってどうやって作られるか、知らないでしょう? 知らないで着ているんですよ。

(石山蓮華)なんかね、もう製品の状態でやっぱり手にすることが多いですよね。

(町山智浩)そう。種から花が出て、その花を取って、そこから種を分離して。綿繰りっていうのをするんですけど。そういう作業とか、みんな全然知らないでしょう?

(石山蓮華)そうですね。

(町山智浩)それと同じだと思うんですよ。障害者の人たちを知らないっていうのは。で、「◯◯人が」とか……それこそ「クルド人が」とか言う人もいるけども。「あなた、クルド人と話したこと、あるの?」っていうことですよ。全て「知らない」ことから起こるんですよ。全て同じなんだということは非常によくわかってくる映画がこの『フジヤマコットントン』なんで。本当に優しいけれども、何も起こらない。何も起こらないけど優しい映画なんで。この青柳監督の優しさが非常ににじみ出た映画なんで、ぜひぜひ見ていただきたいなと思います。

(石山蓮華)はい。ありがとうございました。今日は明日からデジタル配信がスタートする『非常に残念なオトコ』。そして今週10日(土)から公開になる『フジヤマコットントン』の2作品をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

『フジヤマコットントン』予告

<書き起こしおわり>

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