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町山智浩『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』を語る

町山智浩『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』を語るたまむすび
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町山智浩さんが2021年2月16日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』を紹介していました。

(町山智浩)それで今日、紹介する映画もそういう人たちの話なんですけども。すでにアマゾンプライムで配信しているんですが。ちょっとアカデミー賞候補になりそうなんでね、紹介したいです。映画のタイトルは『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』という映画です。これ、賞の最優秀主演男優賞と助演男優賞にノミネートされるだろうと言われていますね。でね、主人公は「メタル」っていうタイトル名ですが、ヘヴィメタルじゃなくて、ハードコアという種類の音楽をやってるドラマーなんですね。それで、どういう音楽をやってるか、聞いてもらった方がいいんで。流してもらえますか?

(町山智浩)まあ昼からこういうのを聞くのはキツいものがあると思いますが(笑)。これね、Juciferというバンドの曲なんですね。で、この映画のモデルはこのJuciferという夫婦のバンドがありまして。奥さんが「ギャーッ!」って叫んでいたギタリストの人で。旦那さんはドラムで。2人だけでやってるバンドなんですね。で、ものすごい大音響でやるんですけども。

元々、このJuciferというバンドのドキュメンタリー映画を作ることになっていて、それをやっている時に劇映画になっちゃったっていうのがこの『サウンド・オブ・メタル』っていう映画なんですね。で、主人公はドラマーでルーベンという名前で。ガールフレンドのルーという女の子と2ピース、2人のハードコアバンドをやっていて。デカいキャンピングカーに機材を全部ぶち込んで世界上、それで回りながら、旅をしながらライブをやっているという人たちなんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、Juciferって人たちもそうなんですよね。ただこのJuciferもそうだし、この人たちもそうなんですが、ものすごい大音響なんですよ。爆音なんですよ。でね、彼は耳が聞こえなくなっちゃうんですよ。

(山里亮太)ああ、爆音でライブをやりすぎて?

(町山智浩)そう。ルーベンさんが。これ、Juciferの方は耳が聞こえなくなっていないんですけれども。ここから先は映画向けに別の話になっているんですね。というのは、バンドをやってる人で耳が聞こえなくなっている人ってすごく多いんですよ。

(赤江珠緒)大音量すぎて、やっぱり耳にとって良くないって言うもんね。

(町山智浩)そうなんです。それで今、バンドをやっている人ってモニターで耳にイヤーピースを入れているじゃないですか。でも、あれって20年ぐらいなんですよ。

(山里亮太)ああ、そうか。昔はなかったんだ。直でやっていたんだ。

(町山智浩)昔はあれがなかったから、返ってくる音を全部聞いていたんで。80年代からバンドやってる人ってもう耳が聞こえなくなってる人が多いんですよ。

(赤江珠緒)そうですか。だって写真にありますけども、このJuciferさんも後ろ、スピーカーをすごい並べてますもんね。

(町山智浩)ものすごいサウンドシステムなんですよ(笑)。だからこれ、やっぱりみんな耳をやられちゃうんで。だからニール・ヤングとかピート・タウンゼントとかエリック・クラプトンとか。そのぐらいの70年代からやってる人たちはそのイヤーピースがない時代の人たちなので、耳が聞こえなくなっているんですよ。今はもう。日本でも、だから80年代のバンドの人たちも耳が聞こえなくなっている人、多いですよ。

(赤江珠緒)職業病的な感じですね。

(町山智浩)エレカシの宮本浩次さんが難聴になって。治療に何年もかかっていましたよね。またエレカシは音がデカいんだ!

(山里亮太)それがかっこいいんですよね。

(町山智浩)そう。でもやっぱり耳をやられちゃうんですよ。で、それだけじゃなくて、僕の世代はちょうどウォークマン世代なんですよね。それとドルビーサラウンドっていうものになってからの世代で。映画の音って昔はあんなに大きくなかったんですよ。映画の音が大きくなったのは70年代の半ばぐらいの『地獄の黙示録』あたりからなんですよ。そこから大音量の立体音響に映画がなっていったんですよ。

(赤江珠緒)町山さん、以前解説していただいたこと、ありましたね。

(町山智浩)そうそうそう。それで僕は映画を見ていて。とにかく僕は一番前の一番音がデカいところで、爆音で体が振動するのが好きだったんですよ。で、それをずっとやり続けていて。それから僕は映画を1日に1本とか2本とか見るじゃないですか。その見た後にはウォークマンでうるさい音楽、ハードコアとかを聞いていたんで。今、ほとんど耳が難聴なんですよ。

(赤江珠緒)そうか……。

(町山智浩)それで僕が普通にテレビで聞こえるように音量を上げちゃうと、子供とかに「うるさい!」って言われちゃうんですよ。聞こえなくなっちゃっていて。もう40年ぐらい、それをやってるからそうなっちゃっていて。僕の世代ってかなり聞こえなくなっている人も多いと思うんですよね。だから、この映画で出てくるのはミュージシャンの話ですけど、ミュージシャンだけの問題じゃないんですが。

でね、やっぱりでも彼の場合には音楽が全てなんでね。ルーベンくんには。それで元々彼、ヤク中だったのに音楽と出会って。それでまた愛する彼女のルーちゃんと出会ったことで立ち直って。それで音楽に全てを捧げて生きていたんで。耳が聞こえなくなって、もう荒れ狂うんですよ。

(赤江珠緒)それはそうでしょうね。

(山里亮太)全てがなくなって。

(町山智浩)そう。「全てを失ってしまう!」って暴れるんで、その彼女のルーちゃんがルーベンくんを耳が後天的に聞こえなくなった人のためのリハビリ施設に入れてくれるんですね。で、そのリハビリ施設で治療が始まるんですが、この映画はアカデミー主演男優賞と助演男優賞候補って言われているのは、まずこのルーベンを演じる俳優さんが素晴らしいんですね。このリズ・アーメッドっていう人なんですが。

リズ・アーメッド主演

(町山智浩)この人ね、イギリス人ですけどパキスタン系のイギリス人で。この人は『ローグ・ワン』という『スター・ウォーズ』シリーズですごくへなちょこのパイロットなんだけど最後に勇気を奮って泣かせる役をやったことで有名なんですが。で、この映画ではドラムを7ヶ月間練習して叩けるようになって。しかも、映画の中では途中から耳にノイズキャンセラーを入れて、完全に耳が聞こえない状態で演じてるんですって。

(山里亮太)なるほど!

(町山智浩)本当に難聴になってしまったというような状況で。それで、素晴らしい演技をしておりまして。さらにそのリハビリ施設の先生がまた素晴らしいんですよ。ポール・レイシーという俳優さんが演じてるんですけども。この人はね、お父さんとお母さんが完全に耳が聞こえない人だったんですよ。

(赤江珠緒)ああ、実際にこのポール・レイシーさんの?

(町山智浩)そうなんです。だから、聴覚障害者の家庭で育ったんで、子供の頃から手話ができるんですね。で、唇も読めるらしくて。こういう人たちのことをね、「コーダ(Coda)」って呼ぶんです。この、耳は聞こえない人の親に育てられた子どもたちはその聞こえる人と聞こえない人の間に立って仕事をするんですよ。その、通訳みたいな感じで。実際にコーダであるポール・レイシーという人がその役を演じてるんですね。だからリアルなんですね。で、彼がルーベンに「ここの施設は耳が聞こえるようにする施設じゃないよ。聞こえなくなっても生きていけるようにする施設なんですよ」っていう風にいうんですね。そこで彼は耳が聞こえない子供たちにドラムを教えたりするんですね。ルーベンくんは。ドラムはね、耳が聞こえなくても叩けるんですよ。まあ、リズム感があればの話ですけども。

(赤江珠緒)はいはいはい。

(町山智浩)だから、そういうのを教えたりして。その施設ですごく働いて。「ここが君の居場所なんだ。君のこれからの人生はこれで築いていけるんだよ」っていう風にその先生から言われるんですけど。ただね、彼はまだ聞こえるようになるという望みを捨てないんですよ。ルーベンは。

(赤江珠緒)まあ、そうですね。

(町山智浩)というのは、手術して人工内耳というもの入れれば聞こえるようになるというのをネットで調べちゃうんですね。それはね、電気的なマイクロホンみたいなものを頭蓋骨の内側の耳の一番奥のところに直接入れちゃうんですよ。それで聞こえるようにするっていうのを人工内耳っていうんですけども。これ、1000万とかすごい莫大な金額の手術費がかかるんですけど。「お金を貯めてそれを払えば自分は耳が聞こえるようになるんだ」とルーベンは思っているんですね。「そうすれば彼女、ルーも戻ってくる」と思って、その聞こえる状態に戻るっていうことが捨てられないんですよ。

(赤江珠緒)それはまあ、取り戻したいと思うでしょうね。

(町山智浩)ところがですね、この人工内耳ってのはそんなにうまくいかないんですよ。実際は。というのはね、人間の耳って実際に聞こえているものが聞こえているわけじゃないんですよね。耳には自然にノイズキャンセラーとイコライザーが入ってるんですよ。

(赤江珠緒)ああー、うんうん。

(町山智浩)で、すごく甲高い音とかをカットしてるし、あと関係のないノイズはカットしてるんですよ。自動的に。で、それがない状態で、実際に本当に周りで聞こえる音を耳に入れちゃうと、ものすごいノイズと金属音も聞こえないんですよ。この映画のタイトルの『サウンド・オブ・メタル(金属の音)』っていうのは、その人工内耳で聞くことのことを言ってるんですよ。

(山里亮太)なるほど。音楽のジャンルのメタルじゃないんだ。

(町山智浩)すごいシャリシャリした音なんです。それとね、関係のない音とかもいっぱい入ってきちゃうの。で、何も聞こえない。だから人間ってすごいなと思いますよ。

(赤江珠緒)うんうん。そうですね。

(町山智浩)それを自然にやっているんですよ。だから、人工内耳をつけて初めて聞こえるようになった人もね、結局つけなくなっちゃうことが多いらしいんですよ。そういう話なんですけども。この映画はね、耳についての映画ではあるんですけども。あとミュージシャンについての映画でもあるんですけど。耳についてだけの映画じゃないんですよ。というのは、このルーベンとっての「音を取り戻したい」っていうのは「若さを取り戻すこと」なんですよ。

つまり、恋人のルーを取り戻すことなんですよね。で、ルーは彼にとって青春の象徴なんですよ。でもね、この先生はこう言うんですよ。「君が嘆いているのは、まるで老人が嘆いているようだ」っていう。これ、どういうことかというと、誰でもいつか、聴覚は失っていくものなんですよ。僕がそうだし。

(赤江珠緒)人間、当然衰えますもんね。

(町山智浩)どうしても、衰えていくんですよ。あと、だんだんと目も見えなくなっていくんですよ。老眼でね。僕も今、すごい老眼で。今、すごく苦労しているのは本を読むのがすごいつらいんですよ。今、ネットだからある程度読めるですよ。字をでっかくしちゃって。でもね、文庫本はもう読めないんですよ。かなりつらいですよ。で、絵を描いたりするのも相当つらいんですよ。

(赤江珠緒)ああ、つらいですか?

(町山智浩)絵を描くのもすごいつらいです。だから若い頃だけなんですよ。実は本を読めたり、絵を描いたりできるのは。それ以外にも、見た目が衰えてきますよね。やっぱりほっぺたが垂れ下がったりね。それで僕、もう頭の後ろの方のがハゲてきちゃっているんですよ。後頭部の方が。

(山里亮太)気にされてましたよね。町山さん、時々。

(町山智浩)僕、ものすごいくせっ毛で太い毛でゴワゴワした巻き毛だったのに、跡形もないのでびっくりしちゃってますよ。自分で。

(山里亮太)ああ、今見た感じは全然ですけどね。

(町山智浩)僕、本当にウネウネとうねるすごい巻き毛だったんですよ。それがなくなっちゃう。

(山里亮太)きれいなロマンスグレー。

(町山智浩)あとね、お酒を飲めなくなっています。僕、今。

(山里亮太)弱くなったとかだけじゃなくて、もう完全に飲めなくなったんですか?

(町山智浩)あのね、食道炎なんですよ。それはね、加齢のせいなんですよ。歳を取ったから。食道の入り口のところがゆるんでくるんですよ。そこから胃液が逆流してきて。だからお酒が飲めなくなっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)逆流性食道炎は聞きますね。

(町山智浩)それでこの間、みうらじゅんさんと久しぶりに会って。みうらじゅんさんとは37年くらいの付き合いなんですけど。この間、久しぶりにちょっとZOOMで話して。みうらさんも全然、あっちの方がダメになっちゃって。あんなにスケベだったみうらさんがまったくそういうことを考えられないって言ってましたけども(笑)。

(赤江珠緒)あのみうらさんが?(笑)。

(山里亮太)「考えられない」って聞くと、「そういうことがあるんだ」って(笑)。

(町山智浩)そういうことが起こるんですけれども。それを受け入れないで……受け入れられなくて、それを取り戻そとしてもがいて。「取り戻せない!」って嘆いてばかりいたら、その後の人生がつらいだけなんですよ。

(山里亮太)嘆くだけの人生になっちゃうんですね。

(町山智浩)嘆きだけの人生になっちゃう。だからこの先生は耳が聞こえないということだけじゃなくて、全てのことについて言っていて。「人は失っていくものなんだ。彼女もそうだし。その失っていくことを受け入れて、その先に幸せを見つけなければ人生が全部ダメになっちゃうよ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ、これはテーマとしては深いし、そしてそれを受け入れられるようになるまでの、なんというか、自分の気持ちがね……できるかな?

(町山智浩)そうなんですよ。特にこの主人公のルーベンくんはずっと激しい音楽を聞いていたわけですけども。常にアドレナリンが出ている状態だったんですね。でも、今の世の中ってみんなそうじゃないですか。僕もそうだし。いつもテレビを見たり、ネットを見たり。すごい情報量を日々浴びて、音楽を聞いて。本読んでもそうだけど、常に刺激を受けてるじゃないですか。しゃべったり、考えたり何かしてるじゃないですか。体を動かしてるじゃないですか。でも、この先生はこう言うんですよ。「何もするな」って。ルーベンにこう言うんですよ。「聞こえなくなったことで音を失ったのではなく、静けさを得たんだ」って。

(赤江珠緒)はー!

音を失ったのではなく、静けさを得た

(町山智浩)ということを言うんですよ。「この静寂の中で、じゃあ何が聞こえるか? 自分の心の声を聞け。見えなくなったら、自分の心の中を見るんだ。そのチャンスをくれたんだ。これがなければ、できなかったはずだ」っていう。そういう話でしたね。

(赤江珠緒)そうか。そういう考え方をしていかないと……これは誰しも起きることですもんね。

(山里亮太)そうそう。これから寿命が長くなったとはいえ。長くなった分、その考え方次第で。嘆くだけの人生よりかは……っていう。

(赤江珠緒)まあ、老いの方は徐々に来るからなんとなく諦めもつくけど。このルーベンくんみたいに突然だった場合はね。

(町山智浩)この物語は急に来ることによって、それを非常に強調してるんですね。だからまあ、赤江さんとか山里さんは随分先ですけども。でも、あっという間ですよ。僕の年齢になるまで。あっという間です! 僕、来年還暦です。

(赤江珠緒)『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』いうことはアマゾンプライムビデオで配信中でございます。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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