町山智浩 インド映画『RRR』を語る

町山智浩 インド映画『RRR』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年6月14日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でインド映画『RRR』を紹介していました。

(町山智浩)今日、ご紹介するのはインドの大ヒット映画で『RRR』というタイトルの映画です。

(赤江珠緒)あっ、インド映画だねー!

(町山智浩)インド映画なんですよ。それでこれ、すごいのはインド国内ではもうウルトラ超ヒットなんですけど、アメリカでもめちゃくちゃヒットしてるんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか!

(町山智浩)はい。で、Netflixで配信がスタートしたんですけど、見た人たちが「これは『トップガン』をはるかに超えてるだろ!」って言っているらしいんですよ。「もうこれ、マーベルとかも超えてるだろう」って言ってるようなとんでもない映画で。僕もこんなとんでもないが映画、はじめて見てみました。

(赤江珠緒)えっ、町山さんで?

(町山智浩)そう。こんなデタラメなというか、すごいんですけど。で、この『RRR』というのはタイトル、「R」が3つなんですけども。これはね、主演の俳優さんがラーム・チャランという人で。そしてダブル主演で、もう1人はN・T・ラーマ・ラオ・ジュニアっていう人なんですよ。この人ね、なんというかみんなから愛称で「NTR」って呼ばれてる、非常にヤバい人なんですが。はい。

(山里亮太)フフフ(笑)。

(町山智浩)それで監督がですね、S・S・ラージャマウリという人で。この3人の名前の頭文字が「R」なんですね。それでスーパースター2人とスーパー監督の3人が揃って『RRR』というタイトルで。

(赤江珠緒)えっ? それを映画のタイトルにしたの?

(町山智浩)これ、映画のタイトルにしているんです。だからこれね、山ちゃんとね、山Pとね、山田隆夫さんが3人で共演する映画が『山山山』になるみたいな感じですね。

(赤江珠緒)本当だね(笑)。

(山里亮太)山Pに申し訳ない(笑)。

(町山智浩)そう。座布団を持ってくるような映画なんですけども。一応、それだとまずいってことで一応『RRR』にはもうひとつの意味があって。「Rise Roar Revolution」という、なんだろう? 「たちあがれ!叫べ! 革命だ!」っていうのの頭文字を取ったという風に説明はつきます。

(山里亮太)後付けなんだ(笑)。

(町山智浩)はい。「後付けなのか、お前は」と思いましたけど。これはね、インドがイギリスにずっと占領されてた後に、1947年に独立するんですが。その独立をするまで100年近く、イギリスに対してインド全体で抵抗戦争をし続けてたんですね。インドの人たちが。で、その中で、戦いの中で死んでいって犠牲になっていった2人の英雄がいるんですよ。その2人の英雄をこのダブル主演でやってるんですけれども。1人は、すごい名前が難しいんですが。アッルーリ・シータラーム・ラージュ(Alluri Sitarama Raju)という人なんですね。「ラージュさん」と呼びます。それともう1人はコマラム・ビーム(Komaram Bheem)という人なんですね。この人は「ビームさん」と呼びますが。

ラージュさんは1897年から1924年の間に生きてて、それから20年ぐらい後にビームさんが1900年から1940年まで行きていたんですよ。で、この2人は時代がだいぶ違うんですが、住んでいたところも違って。ラージュさんはマドラスという海の方で。このビームさんはハイデラバードという内陸地なんですが。それぞれの場所で、そのインドの人たちをどんどん繋いでいって、巨大な反乱を組織して、イギリス軍と戦ったんですね。

で、その頃のイギリスはインドを完全植民地化して、プランテーション化してたんですね。で、商品作物を……たとえばだから綿花であるとか、お茶とかね、そういったものを作らせて。それを輸出産業としていて、完全にインド人たちを自分たちの国の下の、なんというか労働者として扱っていたわけですよ。で、それによってインドの人たちは自分たちの食べる食物を作る農業とかが破壊されちゃったんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、自給自足をできない状態になって、どんどん貧困化していったんですよ。で、そういう農業の破壊、地元の産業の破壊というものに対して、怒ったこの2人が人々を、もう違った部族とか、違った思想の人、違った宗教の人たちにどんどんと声をかけていって、巨大な反乱を起こしたんですけれども。反乱を鎮めるためにこの2人はイギリス軍によって殺されました。

という話が史実なんですけども……このS・S・ラージャマウリっていう監督はですね、この人は『バーフバリ』という映画を撮った人なんですよ。で、この『バーフバリ』という映画は全世界でカルト的な人気になった作品だったんですけれども。インドに存在しないある王様をスーパーヒーローとして描いて。この人がめちゃくちゃに強くて、他の王国をガンガンやっつけるという話なんですね。

(山里亮太)ああ、いい。わかりやすい。

『バーフバリ』のS・S・ラージャマウリ監督

(町山智浩)で、存在しない王様の伝説を勝手に作っちゃった人なんですよ。だからこの人がインドの歴史をちゃんと映画化するわけがないんですね。で、この2人、生きていた時代も違うし、住んでいた場所も違うけど。この2人が友達で合体したらめちゃくちゃ面白いなっていうことで、2人が親友で力を合わせる話にしちゃったんですよ。このラージュさんとビームさんが。で、もうひとつはこの2人はすごく頭が良くて。地元のいろんな利害関係があるようなグループをまとめ上げていった、組織化をした人で。武器が全然ない状態から反乱を起こすわけですから。

まずは弓矢で警察署を襲って、警察署から銃を奪って……とか、そういう形で武器を集めていったりとか。すごい作戦がうまくて、非常に素晴らしい知略に長けた2人だったんですが、それだと映画なんないなって思ったらしくて。もちろん、そういう風にリアルに描いた映画もいっぱい作られてるんですけども。この2人をとりあえず、筋肉モリモリのスーパーマンにしたんですね。

(赤江珠緒)ええっ? スーパーマンに?

(町山智浩)そう。このS・S・ラージャマウリさん、スーパーマンにしたんですよ。で、この一番冒頭の方でラージュさんという人がなぜかイギリス軍の総督府の下で働くインド人の警察官の役をやってるんですよ。で、なぜ警察に入ってるかというと、警察の内部から反乱を起こす準備をするんですけども。その時にイギリス総督府に対してものすごい反乱が起こるんですね。で、ラージュさんは「この反乱を鎮めろ!」って言われて。もう数万人が、ものすごいエキストラが迫ってくるんですよ。そうすると、「わかりました」っつってラージュさん、数万人を全部、ガチンコでやっつけて撃退しちゃうんですよ。

(赤江珠緒)いやいやいや……(笑)。もう超人になっている(笑)。

(町山智浩)ねえ。もうその段階でおかしいだろ、この映画?ってことになっているんですね。もう1人のビームさんはなにをしてるかっていうと、森の中で何かをやってるんですけど。この人は自分の妹をイギリスの総督に誘拐されて、それを取り戻したいと思ってるんですね。それなのに、森の中でなにかをしてるんですけど。なにをしてるのかと思ったら、トラとか熊と戦ってるんですよ。

(赤江珠緒)うん?

(町山智浩)で、トラとか熊を仲間にしてるんですよ。やっつけて。お前は金太郎か?って思いましたけども(笑)。しかも、素手でですよ? 素手で。で、「とんでもないビームっていうやつが妹を取り返そうとしてるんだ」っていうことを総督に言われて、ラージュさんは「ビームを探せ」っていう風に言われるんですよ。警察官として内部に潜入してるからね。

(赤江珠緒)そうか。じゃあ、立場としては敵同士だ。

(町山智浩)立場としては敵同士なんですけども。それで街の中に入っていったら、たまたまそこに石油を満載した貨物列車が突っ込んでくるんですね。で、それが大爆発を起こして、子供たちを死なせそうになるんですよ。そうすると、たまたまそこにいたラージュさんとビームさんが素手でその機関車の脱線・爆発を食い止めるんですよ。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ!

(山里亮太)ええっ、どうやって?

(町山智浩)「ちょっと待てよ……」っていうね。で、2人はすごく仲良くなっちゃうんですよ。で、仲良くなって、ここからインド映画だから楽しい音楽と共に2人がいちゃいちゃとバイクで2ケツして遊びに行って。海岸で体を鍛えるトレーニングをお互いにするんですね。筋トレを。で、この2人、写真をご覧なればわかるようにひげクマさんの筋肉モリモリのね、ガチムチのね。この2人がニコニコしながら体を鍛え合うんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)もう胸焼けして大変でしたよ(笑)。濃すぎるだろう?っていうね。こんなに濃いBLはちょっと、ねえ。田亀源五郎さんの漫画以外では見れないものですからね。濃いんですよ。で、この2人はね、歴史上では非常にすごい偉大な反乱の指導者なんですけど。この2人、会ってもお互いが敵同士だっていうことに気がつかないんですよ。で、どんどん好きになっちゃうんですよ。で、ラージュさんはビームの指名手配書を持ってるんですね。人相書きがついてるやつ。で、「俺、今こいつを探してるんだけど、一緒に探してくれないか?」「いいよ!」っつって2人でその指名手配のポスターを持って「こいつ、知らないか?」とか言って聞いて回るんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)「それ、その隣にいる、そいつだよ!」って観客は思うんですけど。「わかんないのかな?」と思うんですけど。で、それをまた見せられた人もね、「いや、誰だろうな?」とか言っていて。「バカしかいないのか、この世界は?」っていうね。「そこにいるよ、横に!」っていうね。すごい世界になっていて。それで2人でなんかイチャイチャしているうちにですね、総督府でダンスパーティーがあるんですよ。イギリスから来た貴族の紳士淑女が集まって、園遊会をやってるわけです。気取ってワルツをやっているんですよ。で、そこにこの2人、ラージュさんとビームさんが殴り込みをかけるんですよ。

筋肉モリモリの2人が殴り込みをかけるんですよ。憎きインドを支配しているイギリスのね貴族どもにね。すると、こう言われるんですよ。「なんだ、インドの汚えのが来たな。お前らにダンスなんかできるわけねえだろ!」って白人がバカにするんですね。すると「なにを言ってるんだ、お前? 本当のダンスを見せてやるぜ!」って、2人で歌って踊るわけですよ。

(赤江珠緒)出た! インド映画の!

(町山智浩)そう。100人ぐらいのイギリスの紳士淑女と。

(赤江珠緒)へー! それは圧巻ですね!

(町山智浩)すごいんです。このダンスバトルで全員倒します!

(赤江珠緒)ダンスバトル? うん?

(町山智浩)なんの映画を見てるんだか、よくわからないんですよ。このへんから。で、その妹がね、その総督府に捕らえられてることをビームさんが知って。ここでどうするかというと、さっきからたくさん集めてきた熊やトラを連れて、総督府に殴り込みですよ!

(赤江珠緒)フハハハハハハハハッ!

(町山智浩)ものすごい数のトラや熊や蛇だのなんだの、わけのわからない猛獣がブワーッと一気に攻め込むんですよ。ものすごいことになっていますよ、これ!

(赤江珠緒)もう何でもありな状況ですね。

「こんなに面白い映画があっていいのか!」

(町山智浩)なんでもありですよ。「こんなに面白い映画があっていいのか!」と思うんですけども。これね、さすがにね、遺族とか関係者も……まだ、そんなに昔のことじゃないんですよ。1940年代とかですから。だから、言うわけですよ。「いくらなんでもデタラメだろう? いくらなんでもこれはないだろう?」と。っていうことで、一応訴えられてるそうです。「事実と関係なさすぎる」って。で、訴えられてるんですけど、その訴えは却下になったらしいんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか?

(町山智浩)はい。その理由は「誰も傷ついていないから」という。

(赤江珠緒)ああ、ちゃんとヒーローとしてね。

(町山智浩)そうなんですよ。まあ、ちょっとあんまり考えたりはしないんだけれども、筋肉だけはすごいから。

(赤江珠緒)そうですね。じゃあ、訴えたらその遺族側の人も見たら、もう脱力しちゃったっていう感じですかね? どっちかっていうと。

(町山智浩)というか、「これ、褒められてる感じがするからいいか」と思うと思うんですよ(笑)。

(山里亮太)根本はね(笑)。

(町山智浩)で、ただね、途中でラージュさんは警察官だから。ビームがそういう反乱軍ってことでね、テロリストってことで彼に鞭を打たなきゃなんなくなってるわけですよ。で、鞭を打っていても全然平気なんですよ。このビームさんは。「こんなの、屁のカッパ」みたいな顔をしているわけですよ。キン肉マンだからね。で、「このままじゃダメだ。鞭に釘がいばらのように刺さっているやつにしろ」っていう風に総督が言うんですよ。で、それで鞭を打つんですけども。ビームさんはね、「大丈夫さ。歌がある!」っつって。それで歌を歌うと、痛くないんですよ!

(赤江珠緒)いやいや、ちょっと待って? その理屈、よくわからない(笑)。

(町山智浩)引きちぎられているんですけども。体中、ボロボロに。でも、インド映画では歌を歌っていたり、踊ってれいば何も怖くないんですよ。で、逆にラージュさんの方が裏切り者だってことがバレて。それで独房に入れられるわけですよ。そうすると、もうすっごいちっちゃいところに入れられて。立つこともできないんですよ。膝がついちゃっているんですよ。で、そこに何日も入れられるから、足が萎えちゃうんですね。でも、それでも、その独房の中で腕だけは鍛え続けるんですよ。懸垂をして。で、上半身だけものすごい鍛えられて。でも下半身は全く動かない状態っていう形になるんですね。そこに、ビームさんが助けに来ます。それで「そうか。お前は歩けなくなったんだな。任せろ。合体しよう!」って言って、合体するんですよ。

(赤江珠緒)合体ってなによ? えっ、ちょっと待って? 合体って……(笑)。

(町山智浩)要するに上半身だけ鍛え上げたラージュさんをビームさんが肩車して。で、そこからもう2人でイギリス全軍と戦います! いつの間にか「反乱軍を指揮する」というところはどこかに行っちゃいました。

(赤江珠緒)ああ、そう? 2人で?

(町山智浩)っていうか、もうこの2人で十分なんで。この2人で戦艦ぐらい沈められるんで。とりあえずなんか、人を説得してね、組織化するとかめんどくさいし。たぶんこの2人、そういうことは苦手なんですよ。映画の中のこの2人はね。で、もう2人で徹底的に戦いますよ。そこから先。で、そこにイギリス軍はありとあらゆる近代兵器を持ってきます。もう、とんでもないことになってますからね。

(赤江珠緒)これ、インド映画ってやっぱり長いじゃないですか。時間も。この映画はやっぱり?

(町山智浩)長いですよ。この映画は3時間です。

(赤江珠緒)大作ですね。たしかに。

(町山智浩)すごいですよ。これね、この規模で3時間ですよ? だから製作費がですね、8000万ドル超えてる。

(赤江珠緒)85億円以上。

(町山智浩)ということです。製作費が。とんでもないことですよ。これ、『ドライブ・マイ・カー』は80本ぐらいできるんじゃないかな? 大変ですよ、これ。『ドライブ・マイ・カー』80本とこの映画1本、どっちがいいか?っていう世界ですね。

(赤江珠緒)うわーっ! かけてますねー!

(町山智浩)でも西島さんだったら、この映画にも出れると思う。あの体なら。

(赤江珠緒)ああ、筋肉なら(笑)。

(町山智浩)途中から西島さん、入ってきてもいいと思う。これ。「俺もやるぜ!」って。というね、とんでもない映画で。この2人は歴史の中では本当に反乱を起こしたんですけれども、殺されてしまう悲劇の英雄なんですが。この『RRR』はちゃんとハッピーエンドですよ。あの、ガンジーは出てこないです。ガンジーなしでインドが独立しちゃっているという、そんな世界ですけども(笑)。「これでいいのか?」っていうね。

(赤江珠緒)でもそれで、インド国内で大大大ヒットなんですね?

(町山智浩)大ヒットですよ、これ。だから「細かいことはいいんだよ」っていうことだと思うんですよ。インドだけに。

(赤江珠緒)ちょっと見たくなってきた。そこまで言われると。

(町山智浩)これ、ものすごい映画ですよ。日本公開は全然決まってないみたいなんですけども。これ、見ないのはもったいないですね。日本映画もいろいろやれると思いますよ。もうね、坂本龍馬が生きててね、土方歳三と手を組んで……とかね。そういう嘘をしてもいいと思います。ああ、そうだ。『ゴールデンカムイ』があるんだね。『ゴールデンカムイ』はこれと戦わなきゃいけないんだから、大変だ。ということで、『RRR』でした。

(赤江珠緒)ねえ。タイトルの付け方からしてね。

(町山智浩)非常に大雑把ですけど、もう最高の映画でした。日本公開、期待します!

『RRR』予告編

<書き起こしおわり>

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