『SASUKE』総合演出・乾雅人 海外に行った際に感じる違和感を語る

『SASUKE』総合演出・乾雅人 海外に行った際に感じる違和感を語る TOKYO FM

『SASUKE』の総合演出・堺雅人さんが2023年10月1日放送のTOKYO FM『空想メディア』の中で『SASUKE』の海外進出や『Ninja Warrior』の展開についてトーク。『SASUKE』を創った男として海外に行き、現地の制作者と話す中で感じる違和感について、高須光聖さんと話していました。

(高須光聖)今夜のゲストは演出家の乾雅人さんです。

(乾雅人)よろしくお願いします。

(高須光聖)『SASUKE』という名前がもう世の中にもうどんどんどんどん知られていくようになって。いろんな……もちろん『水曜日のダウンタウン』もやっているから、出てもらったりとかしながら。藤井、大好きやから。

(乾雅人)ありがとうございます(笑)。

(高須光聖)まあ、一緒にコラボレートさせてもらったりとかね。いろんなことをしていって、有名になっていき、力をつけていくコンテンツになるじゃないですか。それがある時、アメリカに行くじゃないですか。あれはどういう経緯でああいう風になっていったんですか?

(乾雅人)アメリカで最初はいわゆる日本の放送を細切れにして、ケーブルテレビで放送していた時期があったんですよ。で、向こうのケーブルテレビで大人気になって。当時、忍者ブームだったこともあって。

(高須光聖)おお、そういうことか。そういうものもあるねや。なるほど。

(乾雅人)それで、わかりやすく日本の忍者みたいな感じになっていったんです。で、今から12年前かな? その時、ケーブルテレビで圧倒的に人気が出たんで、「じゃあ日本人がやるんじゃなくて、アメリカ人がやるものを地上波でやろう」ってなって、NBCっていう超巨大ネットワークですよ。そこが『American Ninja Warrior』の地上波放送を決めたってのが12年前ぐらいだったんですけど。

(高須光聖)それはTBSに権利を買に来るわけじゃないですか。

(乾雅人)そうですね。フォーマットを。

(高須光聖)で、もちろんフォーマット売りして。TBSのフォーマットを買って『American Ninja Warrior』として向こうでやるわけですけども。その時って、乾さんはどういう契約なんですか?

(乾雅人)僕は基本的には契約とか、しないんですよ。

(高須光聖)うん?

(乾雅人)たとえば僕が作ったアトラクション、どれを使うかっていうのは現地のテレビ局が決めるっていうことなので。そこに対しての、たとえばコンサルティングの仕事とかで行ったりとかはしますけど。基本的にはなにか、契約することはないんです。

(高須光聖)じゃあ「©」も持たない?

(乾雅人)持たないですね。TBSさんが持ってるんで。

(高須光聖)そこですよ……。いや、いいんですよ。美しいんです。それはもう、僕は良き昭和の演出家……「いよっ! 乾!」って僕は言いたい。「乾雅人っ! よっ、男前!」って言いたいんですけども。でも、それって本来ならば、おかしいじゃないですか?

(乾雅人)まあ、そうですね。

(高須光聖)本来ならば。それで乾さんが……いや、もちろんね、東大出の(ADが考案した)そり立つ壁はそうかもしれんけど。やっぱりトータル、乾雅人が作ってきたものっていうのがだいぶ、ノウハウがそこに入っていて。もっと言うと、コンサルティングという形で向こうに行って。「こう撮った方がいいですよ」とか「これぐらいのサイズがいいですよ」とか「ここは危ないですよ」ってことをまず教えて……めっちゃ聞いてくるじゃないですか。

(乾雅人)そうですね。

(高須光聖)「これ、どうやっている?」って全部、聞いてくるじゃないですか。で、それも全部教えて、作りました。それがアメリカでやりました。それで、どうなったんですか?

(乾雅人)まず、アメリカの番組って必ず誰か、チャンピオンとか、優勝とか、「この人が勝ちです」っていう。そういうのが必ずあるじゃないですか。

(高須光聖)なるほど。「達成できない」っていうことがない。

(乾雅人)そうです。で、『SASUKE』の場合は、「今回はクリア、ゼロ」とか、よくやるじゃないですか。「そんなもん、受け入れられないよ」って言われていて。「えっ、今回は残念でしたで終わるんですか?」って。

(高須光聖)「それ、おかしいでしょう?」って。

(乾雅人)ということだったんですよ。ただ、実際にそれを始めたらこれまで、そういう番組がなかったんで、「これ、めっちゃ新しいやん!」っていうことで。

(高須光聖)ああ、「ゴールがないっていうのも、新しい」と。

クリアできないまま終わることが新鮮だった

(乾雅人)「全滅か、誰か1人がゴールとか、そういうのは新しいね」ってなったらしいんですよ。それでもう、爆発的に人気になったんです。今、だってカルチャーになってますよ。

(高須光聖)今、『Ninja Warrior』としてアメリカを中心に……どれだけの国でやっているんですか?

(乾雅人)自国開催は今、26カ国かな? フォーマットセールスで……。

(高須光聖)すごっ! ちょっと待ってくださいよ? いや、それは乾さん……どうですか? いや、こんなことを言うのもなんですけど……人が良すぎませんか?

(乾雅人)フフフ(笑)。あのね、高須さん。時々ね、リスペクトを持って「乾、来たらいいじゃない?」って言って呼んでくださるところもあるんです。で、素晴らしいセットを作ったっていうので。

(高須光聖)「実は最初に作ったのは、この男です! マサト・イヌイ!」って。

(乾雅人)そんなアナウンスはないんですよ(笑)。そんな華々しいアナウンスはないんですけど……。「この人、オリジナルを作った人やで」って言って紹介していただいて。で、日本よりも全然お金をかけてセットを作ってあるから、派手なわけですよ。「すごいですね。こんなんできたら、嬉しいですよね」って言うて、ニヤニヤしているだけですよ。ほんまに。

(高須光聖)ええっ? いや、別に全然、僕もそんなのの比ではないですけど。今まで、自分の番組を作っていて。作家なんで、いろんな企画も考えるじゃないですか。「こんな企画、俺が考えたのにな」とかって、こっそり思っているじゃないですか。あんまりそれは声高には言わないけれども。で、そんな気持ちがある中、「この番組もここで、これで息を吹き返したしな」とか「あの時、俺、頑張ったな」とかっていう、自分の中でのちょっとした勲章があるじゃないですか。

で、海外に行った時に……昔、20代の時に「お前、いくつ番組やってんねん?」って向こうの人に言われて。「僕、10何本やってるんです。ゴールデン番組を」って言ったら、「じゃあお前、別荘いくつ持っているんだ?」って言われて。「別荘なんか、ございません」「じゃあお前、どういうところに住んでるんだ?」「いや、普通のあのマンションですよ。お金も安いし」って。それで「ええーっ?」って驚かれるじゃないですか。

(乾雅人)驚かれる。そこ、一番驚かれるね。

(高須光聖)ねえ。本当に驚かれるでしょう? 「お前、そんなにやっていて、そんなもんなの? またまたまたまた!」って。ちょっと笑いながらもう1回、戻して。「で、正直、ほんまか?」ってもう1回、聞かれるぐらい。

(乾雅人)今年、カンヌに行ったんですよ。フランスの『Ninja Warrior』の収録場所って、カンヌなんですよ。

(高須光聖)うわっ、かっこいい! いいな!

(乾雅人)で、もうカンヌの超豪華クルーザーが見える場所でセットを作ってるんですよ。で、僕らは普段、原っぱでやってるじゃないですか。

(高須光聖)冬場、雪が降っている寒いところで。雨降ってもGOせな、しゃあない。撮らな、しゃあないっていうところで撮っているのにね。

(乾雅人)それがキラキラの、大金持ちがいる目の前でやってるのを見て。「やっぱり海外に出ていった、僕らが送り出したものって、こんなキラキラになるんやな」と思って。で、そこの向こうのプロデューサーさんとかが「どうよ?」みたいな話になって。「いや、すごいですね」ってなるじゃないですか。で、オリジナルを作った僕……「ミスター・バイブル」っていう肩書きなんですよ。「ミスター・バイブルの家はどうなんだ?」みたいになって。「僕、マンションなんです」って言ったら「ジョークを言うなよ!」みたいになって。もう、本当にそう。本当に。「クルーザーは?」「ないですよ、そんなの。手漕ぎボートですよ」みたいな。

(高須光聖)手漕ぎボートですらないし。

(乾雅人)ないない。切ないね。

「ミスター・バイブル、家は? クルーザーは?」

(高須光聖)それって、やっぱり日本の悪しきところ……これ、変えていかないと。この意識、僕らも「そんなことを言うと、嫌らしい」っていう。日本人ってね、なんか自分の作ったものとか、自分が考えついたものに対して「お金をくれ」って言うと「なんかあいつ、金にうるさいな。汚いな」とか……「金に汚い」って言われるじゃないですか。

(乾雅人)言われる。

(高須光聖)それを言われるのが、一番嫌やから。嫌でしょう?

(乾雅人)嫌ですね。

(高須光聖)だから乾さんも心の中では「ちょっとは俺にも……」って。そんなの、人間やから絶対あるじゃないですか。

(乾雅人)ありますよ。それは、あります。

(高須光聖)でも、それは言っちゃダメみたいなところ、あるけど。もう僕はね、言うてええんちゃうかな?って思うんですよ。

(乾雅人)そうですか。

(高須光聖)だって、おかしくない?

(乾雅人)このラジオ、そういう話をするんですか?(笑)。

(高須光聖)いや、そんなことじゃないです。そんな、あんまりそこまで言わないですけど。ただ乾さんの場合を考えたら、「そうなんか」と思って。これが時代が1個、違ったら……今ならば、そんな契約はしてないやろなとは思うんですよね。

(乾雅人)どうやろうか?

(高須光聖)いや、たぶん新しい感覚としては……だって、おかしいですもん。

(乾雅人)そもそもさ、『SASUKE』。僕、企画書出してないんですよ。だってさ、たぶん高須さんはわかると思うけど。「100人の素人がアトラクションをやって、全滅するか、誰が行くか、わからん番組で。泣いたり笑ったり、すごいんです」っていう企画書、絶対通らへんでしょう? 「どういうもんやねん?」って。

(高須光聖)「だから、こういうもんです」「いや、わからんわからん」ってなって。まず、保険がないですもんね。

(乾雅人)司会もいてなくて。まあ古舘さんが実況してはったけど。古舘伊知郎さんが1人で実況するだけで……。

(高須光聖)ほぼ、出てくるのは素人のアップやしね。素人が走ったりとか、汗かいたりとか。

(乾雅人)それで5時間やるって……「そんなん、アホか?」ってなるでしょう。だからそもそも、その企画書で……「はいはい。僕のものなんです!」っていうことから始まってないから。

(高須光聖)あと、日本のテレビでそうなんですよ。自分が書いたとしても、みんなの知恵が入るから。もちろん作家も僕だけじゃないから。いろんな人が「じゃあ、タイトルをこうしよう」とか「ここはこういうテロップを出した方がいい」とか。みんなのアイディアが出るじゃないですか。「こういうアトラクションを足した方がいい」とか。もし、あれを作家が考えるとするならば。だからなので、僕が考えたとしてもやっぱり誰かのアイディアは入ってくるから、1人じゃないんですよね。でも、少なからずじゃあチームとして称賛されるようなね。クルーとして。なんかこう、してほしいな。そろそろ。

まあ、僕らはもうね、何十年もやっていかないんですけど。今後、テレビをやる人とか、今後コンテンツと作る人にはちゃんと、分け与えてほしいなとは思うんですよね。そんなテレビばっかりって、よくないですよ。そんなことしてるから、テレビはダメになってるんだと思いますよ。だって夢がないですもん。「テレビで一発当てれば、こんなことになるんだ」っていう。

(乾雅人)それは思う。

(高須光聖)もしも乾さんに莫大なお金が入ったら、「『SASUKE』を一発作って、それが海外で当たったらこんなことになるんだ!」っていうのがあったら、たぶん「テレビでやってみたい」と思う人は増えると思いますよ。

(乾雅人)それはね、ちょっと思うんです。前例を……そういうのをケースとしてちゃんと見せてあげないと。じゃないと「羨ましいな」とか「そうなりたいな」とは思わないから。

(高須光聖)だから乾さんがなるべきなんですよ。僕はイメージ悪くなりたくないんで。僕は嫌ですけど。乾さんがやるべきなんですよ(笑)。

(乾雅人)僕が?(笑)。

夢がないと「テレビでやりたい」という人は増えない

(高須光聖)でも本当に演出家、「テレビで演出したい」っていう人が減ってくると思うんですよ。ただそこで、いやいや。実は『SASUKE』をやっていて。真摯にずっと向き合って、ずっと何十本も『SASUKE』のコンテンツを作り続けて。そのノウハウが実は海外で認められて、こういう風になっていく。そこのライセンスも何パーか、ちゃんと乾さんに入って。それはもう、そのキャパが増えるとその分が入るようになっていく。本来ならば、そうあるべきだし。もっと言うと、何カ国か増えて、その金額も増えたらパーセンテージも上がるっていう。そのぐらい、言えるはずなんすよ。でも僕らの世代、言えないんですよね。

(乾雅人)言えないですね。「感じ悪く思われたら嫌やな」ってなるでしょう?

(高須光聖)そこなんですよ。感じ悪くなりたくないんですよ(笑)。

(乾雅人)フハハハハハハハハッ! ねえ、これ(笑)。

(高須光聖)そこなんですよ。でもね、おかしいと思います。

(乾雅人)そうですね。

<書き起こしおわり>

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