橋野桂 これから作りたい作品を語る

鳥嶋和彦と平信一 エンタメの生み出す価値を語る TOKYO M.A.A.D SPIN

ペルソナシリーズのクリエイター、アトラスの橋野桂さんが2023年8月28日放送のJ-WAVE『ゆう坊とマシリトのKosoKoso放送局』の中で「これから、どんなものを作っていきたいと思ってるのか?」という質問に回答していました。

(Naz Chris)堀井さん橋野さんがこれから、どんなものを作っていきたいと思ってるのかなって、ちょっと純粋に聞いてみたい。ゲームもなんでも含めて。

(橋野桂)今、皆さんの話を聞いていて。さっきコロナでライブとか、そういったものが減っちゃって……とか。今、ゲームを作りながら音の起源、音楽の起源みたいなのを調べたことがあって。基本的に、たとえば原始時代とか太鼓とかを叩くわけですよ、ガンガン。それは、怖いから。襲われると怖いから。みんなで集まって火を焚いて、太鼓をドンドンやって。まあ、一緒のトランス状態になるわけです。みんなでトランス状態でそれを共有すると、恐怖が減るわけですよね。

だからなんかさっき、戦争の話とか。人を攻撃することに対して、文学がそれを救ったみたいな話がありましたけど。なんかどこかでその、なんていうか、自分を脅かすもの。びびって脅かして相手を攻撃しちゃうわけじゃないですか。そういったものが、なんかエンタメ……音楽だったら音楽。ライブだったらライブ。ゲームはもっと複雑だけども。そういったもので人の怯えみたいなものが緩和して。それをなんかたくさんのユーザーとかで一緒に共有すると、同じエンタメでも、たとえば中国と日本で同じエンタメやってるから喧嘩しないようにしようっていう話があるんだったら、そういう風に広がっていくのはエンタメのひとつの力なんだろうなってさっき、思ったんですよね。

で、どんなものを作っていきたいか。ちょっと大げさな話になるけど、やっぱり人が不安に思ったりとか、怯えながら……絶対に生きてかなきゃいけないんで。それが少しは紛れて。それでなんかパワーになるような。人を攻撃するよりも、ちょっと優しくしてやろうかっていう風なパワーになるような世界観のものを作れたらなという風に、皆さんの話を聞いていてちょっと思いました。

不安が紛れてパワーになるようなものを作りたい

(鳥嶋和彦)来年、発売予定のゲームもそういう方向なんですね?

(橋野桂)そ、そうです!(笑)。

(一同)アハハハハハハハハッ!

(鳥嶋和彦)そうだといいなと思いながら(笑)。

(Naz Chris)若い人が、たとえば選挙に行かないとか、政治に無関心とか、あるじゃないですか。なんかちょっと、世間で起きてることに無関心で。自分たちの人生を生きたいという、ある種ポジティブともネガティブとも言えるような。そういうことに関してって、結構アンテナを立ててる方なんですか?

(鳥嶋和彦)僕が思うのは、疑似体験とか、ちっちゃな体験が足りないんだと思う。小さい時から学校レベルでいいから、ちょっとみんなで発言したり、選ばれてどうこうっていう、そのことの積み重ねがあれば、ある種自分がなにか動くこと。それがなにかに繋がるっていうことの具体的な達成感とか、見てきた経験則があれば、大人になってもうちょっとアプローチが具体的にできることがあると思うんだよね。それが、小さい時から積み重ねられてないのにいきなり大人になって「あなたは権利があります」って言われても……結構、その体験と言われてることへの落差があって、どうしていいかわかんない部分があるんじゃないかな?って。

(Naz Chris)私は成功体験が圧倒的に足りないと思うんですよね。Z世代とかX世代、α世代って、最初から……たとえば社会が不況だし、みたいなこともあって。たとえばコロナ禍とか、学校にも行けなくてみたいな。結構、そういうところが関係してるよなとは思うんですよね。希望よりは諦めっていう部分が前に押し出されてるっていうところがあるんだよなと思うんですよね。

(鳥嶋和彦)ただね、言葉を返すようだけども。全部恵まれていることが本当に恵まれているとは思わないんだよね。

(Naz Chris)そうですね。それはそう思います。

(鳥嶋和彦)それは物事は相対的な捉え方とか、本人の資質の問題もあったりしてね。

(堀井雄二)ネットが普及したから、いろんなものがわかるわけじゃん? わかって認識ができて、人と比べるのがすごくたやすくなったから。それは「親ガチャ」という言葉が生まれたりとかするんだよね。

(Naz Chris)まさに。「上司ガチャ」とか。

(堀井雄二)そうそう。どうかな?っていう部分があって。

情報が多すぎる問題

(平信一)なんか、情報が多すぎることがひとつ、問題だとは思っていて。僕、ライトノベルの作家さんに取材をしたことがあったんですけど。「なんでライトノベルなんですか?」と聞いた時に、「当時はライトノベルっていうのが『俺でもできそうだ』と思った。漫画はもう無理だし、ゲームを難しい。アニメもいっぱい人が関わっている。文学賞なんてものも当然、自分にはできるとは思わなかった」って言っていて。

(鳥嶋和彦)ああ、手が届きそうな感じなんだ。

(平信一)そうそう。で、それは半分錯覚だったんだけど。今、振り返れば。だけど知らないからこそ「俺でもできそう」って思えることが、やっぱりその最初にその一歩を踏み出す勇気というか、きっかけになったっていう。で、今ってやっぱり堀井さんのおっしゃる通り、人とも比べやすいし。何かをやろうと思ったら、その手順みたいなのが書いてあって。なんかね、情報が多すぎるんですよ。もっと……たぶん未知で、飛び込むぐらいの状況に置かれた方が、もっと人って動きやすいんじゃないかなっていう気はしてます。

(鳥嶋和彦)違う言い方をするとね、自分を信じる力が足りないんだと思う。漫画家になる人間って、落書きとかをノートの端っこに書いて、友達に「面白いね。うまいね」って言われて。「もうちょっと先、見せて」って言われてまた書いて……っていうようなやり取りがあって。それを続けているうちにね、漫画家になってるっていうね。で、この前もここに桂正和くんに来てもらって話をした時に、「続けている人間がやっぱりプロになっていく」っていう。ということは、それってやっぱり夢中になれる自分を信じる。具体的になにかをやり続ける人間がやっぱりプロになっていくわけだから。

(Naz Chris)極論、1回インターネットを全部なくしたらいいんじゃないか?って思ってますよね(笑)。一度、全部なくしてアナログで始めるっていう(笑)。

(鳥嶋和彦)だから、数字で出てくることに客観があると思ってしまう幻想があるんだよね。数字は数字でしかないから。そこをどう読み解くか?っていうのはセンスとか個性の問題だから。だから、数字に振り回されすぎないんだよね。

(堀井雄二)あと、本当にネットのおかげで昔と違って個人がどんどん発信できるからね。

(Naz Chris)おっしゃる通りですね。

(堀井雄二)それで炎上しようと思ったらたやすく炎上するんだよね。

(Naz Chris)誰もが発信者というか。

(堀井雄二)ちょっと変わったことをすると炎上するし。

(橋野桂)ネットにアクセスをして書き込んでる人たちの言葉とかが「ネット社会」じゃないですか。それは相当偏ってるはずで。

(鳥嶋和彦)そうだね。

(橋野桂)そこに書き込まない人も大勢いるわけですよね。見てる人は大勢いるだろうけど。まず、その視座を持つのはすごい重要だなとも思うし。なんか面白い記事で、なんだっけな? 「昔よりも今の方がちょっと社会が悪くなった」みたいなことって、大昔から常に言われてることだって。中世の頃からずっとそう言われてるっていう。

(堀井雄二)「今の若いもんは」って、そうだよね。ずっと言ってるよね(笑)。

(Naz Chris)壁画にそんなことが刻まれたっていう(笑)。

(橋野桂)別に最近、起きてることじゃないという。たとえば「若い人たちの振る舞いだとか、人の振る舞いが悪くなったか?」って聞くと、「たしかにそういう印象がある」って言うけど。「じゃあ、あなたの友達はどうですか? 家族はどうですか?」っていうと、「いや、すごく立派に生きてる」って答えが返ってきたりとか。そんなのが、実際に多いんですって。だから、悪くなってるところも当然あるとは思うんだけれども。やっぱり捨てたもんじゃないというか。ちゃんとやってる人たちはちゃんとやってると思うし。ちゃんと考えてる人はちゃんと考えているんですよね。だから絶対、そこはバカにしちゃいけないっていうか。ちゃんと信じてあげる必要があるのかなとは思っていますね。

(鳥嶋和彦)逆に言うと、ネットのそういうものだけ見てると、違うものに出会わないんだよね。意外とね。そこに世界があって、いろんなものがあるように見えるけど、実はものすごい一部のものしかない。だから漫画の反響なんかで僕が思うのは、そこで一番怖いのは発言しない人。いつも発言しない名もなき人が一番怖い。黙って離れていく人たちだから。

(堀井雄二)そうそう。それはすごくあるよね。

いつも発言しない名もなき人が一番怖い

(鳥嶋和彦)ここをね、どう想像してどう掬えるか。だから、目に見える目の前の数字とか反響だけを見ていると、作品作りは間違う。だからね、面白くないものが増えるんだよね。なんてことを言うとまたこれ、古い編集者が今の漫画について繰り言を言っているみたいになるけど。

(橋野桂)いや、でも本当にそう思いますよね。ゲームを作っていて、ネットで叩かれているとちょっとへこむんですけど。そこで褒められても、それもあんまり鵜呑みにしちゃいけないなとかって思っていて。で、そういう時って、身近な人に聞くんですよ。「ちょっと実際、どうだった?」みたいな。それで「いや、よくできてたよ」って言われると、ちょっとほっとするみたいなところ、ありませんか?(笑)。

(堀井雄二)あるある。全然ある(笑)。

(鳥嶋和彦)あの、本音を言ってくれる人ね。バイアスなしで本音を。

(橋野桂)そこのバランスで結構、保ってるところがあって。

<書き起こしおわり>

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