ハライチ岩井『オオカミの家』を語る

ハライチ岩井『オオカミの家』を語る ハライチのターン

ハライチ岩井さんが2023年9月21日配信のTBSラジオ『ハライチのターン!』Podcastの中でチリのアニメ映画『オオカミの家』について話していました。

(岩井勇気)なんか、全然違うアニメなんだけど。『オオカミの家』っていうアニメをね、ちょっと前に見ましてね。なんかチリの監督が作ったアニメなんだけども。

(澤部佑)映画?

(岩井勇気)映画ですね。それ、すごい良かったから伊集院光さんに……俺、自分からアニメを勧めることってあんまりないんだけど。別にみんながアニメを見たわけじゃないし。言われたら教えるっていうか。「なんかアニメ、いいのないですか?」って言われたら、その人に合うのを言うっていう感じで。でも、これはすごい面白くて。「伊集院さんならわかってくれるだろう」って思って教えたのね。

(澤部佑)自ら。でも伊集院さんは岩井に聞きに来てくれたりしてたわけでしょう?

(岩井勇気)でも自分から教えたってことはないんだけど。で、それをやって。今週の『ぽかぽか』の時に「見たよ」って伊集院さんに言われて。見てくれたんだけど。それが、すごかったんだよな。

(澤部佑)うん。何が?

自分から伊集院光さんにおすすめする

(岩井勇気)なんか、もうアニメーションが。チリのアニメなんだけども、ストップモーションアニメみたいな感じなんだけど。なんか建物の壁に絵画みたいなのを書くんだよ。で、それを消しては書いて、消しては書いてってやって。で、その絵を動かしていくんだけど。それはもう、油絵みたいな感じなわけ。で、その1個のコマの絵、あるだろう? あれを、だから絵画みたいに書くわけ。で、それを写真に撮るでしょう? その次に、ちょっとずらしたやつを書くの。で、前のやつは消すんだよ。とんでもない作業じゃない?

(澤部佑)とんでもないね。

(岩井勇気)で、そういうのがあったと思えば、テープみたいな、ビニールみたいなので作った人形を動かしていって、形を変えていってっていうのがあって。なんか、それが70分ぐらい続くわけ。「いや、これは気が遠くなるな」って。

(澤部佑)どんだけかかっているんだろう、それ?

(岩井勇気)で、これはそのチリのこの監督2人で作ってるんだよ。2人だけでやっているの。それを。

(澤部佑)全部を? ええっ?

(岩井勇気)これ、3年かかったって。

(澤部佑)うわっ、よくやったな。

(岩井勇気)とんでもない……ちょっとホラーっぽい感じなんだけど。

(澤部佑)それ、途中で「うわーっ!」ってなっちゃいそうだよ。

(岩井勇気)これはね、すごかったんですよね。

(澤部佑)あんまりでも、そんなでしょう? 単館みたいな感じでしょう?

(岩井勇気)今、渋谷と立川でしかやってないね。東京だと。これがまた、内容もすごくて。もう見てるだけじゃ、内容が全くわかんないわけ。何をやっているのか……とにかく、女性が主人公なんだけど。『オオカミの家』っていう、オオカミって呼ばれてるその女の人を支配してるような男の人がいるんだけど。その人から逃れて、ある家にたどり着くわけ。で、その中にはブタが2匹いるんだけど。で、その女の人はブタと一緒に暮らすんだけども。で、そのブタに愛情をかけると、人間になって。それで3人の人間で……息子と娘みたいな感じにそのブタがなって。それで一緒に暮らすみたいな。なんか、よくわかんないんだけど。

(澤部佑)まあ、たしかによくわからないね。

(岩井勇気)でも、アニメーションがすごくて70分、見れるわけなんだけど。これが何を表してるのか?っていうと……チリって、なんつったらいいんだろうな? 今、ちょっと見てるんだけど。ピノチェト軍事政権下のチリで、コロニア・ディグニダっていうコミュニティだか、村みたいなのがあったんです。で、それを長としてやってた人が、なんかナチス・ドイツで孤児院をやっていた人で。

その人がチリに流れてきて、そのコロニア・ディグニダっていう村みたいなのを作っていて。で、なんで流れてきたか?っていうと、その孤児院少年・少女に性的虐待をしてたのね。それでチリに流れてきて、また村をつくるわけ。それもまた、宗教みたいな感じで、また同じように独裁をしていたわけ。で、そのチリの政治家というか、チリを支配してた人とも繋がっていて、それが黙認されたみたいな。

(澤部佑)そんなことが実際にチリであったと。

(岩井勇気)で、そのコロニア・ディグニダで支配をしていた長(パウル・シェーファー)から逃れた人を、その主人公の女の人に見立てて。で、その女の人が逃れてきたのが、そのブタのいる小屋みたいな。

(澤部佑)逃げてきて……みたいな。

(岩井勇気)で、その主人公の女の人はブタに愛情をかけていくわけですよ。で、人間みたいな感じにブタがなるんだけど。でも、自分もまたそのブタに対して支配をするようなことをしちゃうわけ。

(澤部佑)うわー……。

(岩井勇気)で、そのブタに最終的に食われそうになっちゃうんだよ。その女の人は。しっぺ返しみたいなのを食らいそうになって。その時にすがったのが、そのオオカミなわけですよ。それぐらい……もう、支配されたことしかないから、自分もそれしかできないっていう。それぐらい、おかしな世界だになってましたっていうことで。

(澤部佑)その時のチリは。

(岩井勇気)まあ、簡単に言うとそういうことで。で、それをオオカミ目線みたいな感じで。だから言ったら、加害者目線で言われてるのがこのアニメなんだけど。

(澤部佑)すごいメッセージだね。

(岩井勇気)でも、そんなこと考えずに、ただアニメーションだけを見に行っても面白かったっていう。

(澤部佑)それは岩井も後々、見終わって調べて?

(岩井勇気)俺は全くわかってないよ。見ている時には。

(澤部佑)そしたら「ああ、こういうことだったんだ」って?

前知識なしでアニメーションだけ見ても面白かった

(岩井勇気)俺が見に行った時は、ちょうどチリの研究家みたいな人が映画が終わった後にトークイベントをやるっていう回だったの。たまたま。それで、すごい解説してくれて。わかって。「よかったら、パンフレットを買ってもらったら、結構いろんなことが書いてあるんです」って言われて、そのパンフレット買って読んで。それでわかったんだけども。

(澤部佑)なるほどね。へー! すごいね。それはだからまあ、そういう思いのもと、そういうメッセージだから、やっぱりそれだけ時間をかけて、できるんだね。

(岩井勇気)あと、この2人はもうアーティストだから。言ったら、アニメっていうよりかはアートなわけですよ。で、アーティストだから、もう時間とか決めてないんだよね。たぶん映画の尺とかも、あんまり決めてない感じで作ってるし。

(澤部佑)とりあえず作品として作って。その後で、お客さんにっていう。

(岩井勇気)で、今日は『うずらインフォTV』っていうDMM TVで次の1クールのアニメのPVをPV全部見て。それでああだこうだと、「これが面白そうだ」って言うという番組をやってるんだけど。それにいつも、藤津亮太さんっていうアニメ研究家の人が来てくれるんですね。で、その人に「『オオカミの家』、見ました?」っつったら、「あれ、面白いっすよね。どんどん人気になっていって。今、パンパンです」みたいな。

(澤部佑)へー! 注目されてるんだ。今。渋谷?

(岩井勇気)渋谷っすね。もうこんな……なんか、「アニメ好きがうるさいな」と思うかもしれないけど。みんなさ、なんかストーリーでアニメ、見ていない?

(澤部佑)そりゃ、ストーリーで見てるんじゃない?

(岩井勇気)で、絵が綺麗だったらいいみたいなの、あるでしょう?

(澤部佑)まあ、でもストーリーで、絵が綺麗だったら、そうだよ。

(岩井勇気)でもそれ、アニメじゃなくてもいいじゃん?って思っちゃうわけ。「アニメーションを見ようよ」みたいに思うわけ。「アニメーションの面白さ、もっとあるじゃん?」みたいな。

(澤部佑)違うの? 綺麗な……。

(岩井勇気)どういうアニメになってるなとか……俺は別に綺麗じゃなくていいんだよ。なんかアニメーションの表現が独特の方が好きで。でもみんなさ、みんなに受け入れられやすいようなキャラクターデザインで、綺麗な絵で、繊細に描かれていて、光の加減がキラキラしていて……みたいな。そんなのばっかりじゃない? なんか(笑)。

(澤部佑)まあ、そうね。俺もアニメ、あんまり見ないけど。でも、そういう……そうね。

(岩井勇気)で、それが「いい」と評価されるけど。アニメーションが面白いって、こういうことなのかもなって。

(澤部佑)それは全然、意見として入ってきたけど。「みんなさ……」って言った時には「うるせえな」って一瞬、思ったけどね(笑)。

(岩井勇気)フハハハハハハハハッ! 今、そういう傾向にあるなって思って。うん。なんかそれ、嫌だなってちょっと思っちゃうんだよね。

(澤部佑)そこをもっと、工夫して。オリジナリティがあった方が。

(岩井勇気)なんか、内容がぶっ飛んでいても、アニメーションがよければ、それは「面白い」っていう評価でいいんじゃないの?って。アニメなんだからねって思いながらね。

(澤部佑)アニメ研究家の岩井さんのお話でした(笑)。

(岩井勇気)アニメ研究家じゃないですよ。プロの視聴者です(笑)。

(澤部佑)ああ、あるんですか? 「プロの視聴者」というのが?

(岩井勇気)いっぱい見てる、プロの視聴者なんで。

プロのアニメ視聴者・岩井勇気

(澤部佑)プロの視聴者という謎のポジションを。ああ、なるほどね。まあ、興味ある方はそれを見に行って。

(岩井勇気)あと、『タートルズ』ですね。

(澤部佑)『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』も見て。お願いしますね。

(岩井勇気)今、すごいからね。海外のさ、CGアニメとかも。

(澤部佑)そうかそうか。

(岩井勇気)CGアニメもいろいろありますからね。

(澤部佑)どういうことですか? 「いろいろある」というのは。

(岩井勇気)CGの感じが。

(澤部佑)「綺麗、綺麗」っていうCGもあれば……。

(岩井勇気)だから、あんまりお金がかかってないっていうか。すごい滑らかじゃないんだけど。だからこそ、なんかかわいく見えたりとか。

(澤部佑)味とかがあって。

(岩井勇気)動きがぎこちないと、かわいく見えたりするじゃない? それをうまいこと使った、かわいいキャラクターのアニメとかもあるわけ。

(澤部佑)それがオリジナリティ、味になるっていう。

(岩井勇気)ということなんだよね。

(澤部佑)ということで、今日はアニメ研究家の岩井勇気さんにお越しいただきました。

(岩井勇気)またぜひ、よろしくお願いいたします。

(澤部佑)ありがとうございました(笑)。

<書き起こしおわり>

宇多丸『オオカミの家(同時上映:『骨』)』を語る!【映画評書き起こし 2023. 9.8放送】 | トピックス | TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~
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