町山智浩さんが2023年9月11日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『ロスト・キング 500年越しの運命』について話していました。
(町山智浩)いや、今日紹介する映画もちょっと似てるんですけど。イ・チャンドンの『オアシス』は脳性麻痺の人というのを見ると、普通の人は……脳性麻痺のことを知らない人は「知能とか精神に問題がある」と思い込んじゃうんですよね。
(でか美ちゃん)そうですね。本当はただ、体が不自由なだけなのに。ちょっと見た感じの印象で決めつけちゃうというか。
(町山智浩)決めつけちゃうんですよ。でも、実は体が単に不自由なだけなんですよ。そういうことがあって、非常に偏見で見られるんですけども。今回の話もね、そういう話なんですけども。これは『ロスト・キング』というイギリス映画です。これ、『500年越しの運命』というタイトルがついていて。日本では9月22日からTOHOシネマズなどで公開なんですが。これはリチャード三世というイギリスの王様についてのお話なんですよ。
で、リチャード三世というのはシェイクスピアの劇になってるんですけども。ものすごく悪い王様とされてるんですね。王になるために、王位継承権を持つライバルをたちを次々と陰謀で殺していって。で、自分が殺したライバルの奥さんも口説いて、自分のものにしたり。あと、甥っ子がいたんですけれども。その甥っ子の方が王位継承権で上にいたので。その甥っ子は少年2人だったんですけども。王子様2人。それを殺したりね。そういうことをして権力を握ろうとする男として、シェイクスピアはそのリチャード三世を描いてるんですけれども。
その一番冒頭で、お客さんに向かって挨拶をするんですよね。リチャード三世が。お芝居ですから。それで「私は見ての通り、体が不自由だ」って言うんですよ。で、その芝居の中では体をねじ曲げるんですね。リチャード三世が。で、「私はこんなに不自由だから、女性から愛されない。だから私はもう世の中を憎んで、悪党になってやる!」っていうところから始まるんですよ。
(でか美ちゃん)ああ、その悪役として描かれているその彼にも、事情があるというか。
(町山智浩)というか、要するに身体の障害と心の悪逆さを結びつけちゃってるんですよ。これは。
(でか美ちゃん)ああ、そういうことか。そういうイメージを植え付けるきっかけの作品だったんですね?
(町山智浩)はい。このシェイクスピアのドラマは名作とされるんですけれども。それに対して、異を唱える人々がいるんですよ。「そうじゃないだろう? それは差別だし、偏見だし。いくらシェイクスピアといえ、許されないぞ!」って思ってる人たちもいっぱいいるんですね。で、そういう女性が歴史の真実のリチャード三世を突き止めるっていう話なんですよ。
(でか美ちゃん)ほう。なるほど! 「一般的にはこう言われてるけれども……」って。
(町山智浩)そうそう。「こういう風に言われているけれども、そんなものは作り話でしょう? 歴史的な真実においてのリチャード三世は違うんだ」という風に信念を持ってる普通のOLの中年の女性が、あらゆる歴史学者が見つけられなかったリチャード三世の真実を突き止めたっていう実話の映画化です。
(アンジェリーナ1/3)うわっ、実話っていうのがすごい!
実話の映画化
(町山智浩)これはですね、2018年のアカデミー賞主演主演女優賞を『シェイプ・オブ・ウォーター』で受賞したサリー・ホーキンスさんという人が主役のフィリッパさんという人を演じるんですが。フィリッパさんはスコットランドのマーケティング会社で働いている女性で。これ、2020年ぐらいの話なんですけども。その時、既に50歳ぐらいなんですよ。それで、病気になっちゃうんですね。これね、慢性疲労症候群という病気なんですけども。これね、はっきりした原因はわかってないんですけど。どうも、ウイルス性の病気にかかった後、その体中が疲れてもう何もできなくなっちゃうという後遺症が残ることなんですね。
(でか美ちゃん)なんか、いろんな症状がめっちゃ出ちゃうやつですよね?
(町山智浩)そうそう。最近、コロナでなった人もいるんですけども。要するに感染性の病気なんですね。で、その後遺症なんですが。それで仕事ができなくなっちゃうんですよ。会社からも「君はいつも疲れた感じで。もうダメだね」っていう感じで、すごく差別的に、低い評価を受けて。しかも中年というか、50歳ぐらいの女性なんで。会社の中で、居場所がなくなっていくんですね。で、家ではね、旦那が他に女を作って出てっちゃうんですよ。
(でか美ちゃん)ええっ? 病気の時ほど、支えてよ……。
(町山智浩)そうなんです。お子さん、息子さんが2人、いるんですけれども。旦那、子育ては続けてくれるんですけど、ただ家を出て行っちゃうんですね。で、このフィリッパさんはシングルマザーをしてるんですよ。で、精神的にも肉体的にもどん底にある状態で。それで『リチャード三世』っていうお芝居を見に行くんですよ。で、そこで見たらさっき言ったみたいに体の不自由なリチャード三世が悪党になるっていう話なんで、頭にきちゃうんですよね。
(でか美ちゃん)そうですよね。「そんなんじゃないよ!」っていう。
(町山智浩)そうなんですよ。彼女、フィリッパさん自身も体が具合が悪くなって。それで具合が悪くなると周りの人が怠けていると思うわけですよ。病気なのに。
(でか美ちゃん)ねえ。理解されづらい病気ですもんね。
(町山智浩)そうなんですよ。で、もう周りから差別されて、すごく良くなく見られて、彼女自身が苦しんでいるんでリチャード三世に共感していくんですね。「これはおかしいから、絶対に私は真実を突き止めよう!」って思って、歴史的な研究を始めていくんですよ。で、どうも王子を殺したとか、そういったことは実はちゃんとした証拠がないことがわかっていくんですよ。デマなんですね。
(でか美ちゃん)へー! なるほど。
(町山智浩)だから、この間も『福田村事件』の紹介で関東大震災の時に「朝鮮人たちが暴動をしている」っていうデマが流れて、朝鮮人の人たちが虐殺された話をしたんですけども。リチャード三世も背中が曲がっていたので……これ、どうやら脊椎側弯症だったみたいなんですよ。脊椎側弯症って今でもかなりいますけれども。それで、そこから逆に「彼は悪い人なんだ」ということを決めつけられていったみたいなんですね。で、彼女はいろいろデータを調べていくわけですよ。徹底的に。その中で「リチャード三世協会」という人たちと仲良くなるんですね。で、それは「リチャード三世は悪くない」と信じている素人さんの集まりなんですよ。
(でか美ちゃん)へー。有志で集まった方々という。
(町山智浩)有志で集まって。で、「どう考えても不当だ。なんとか彼の汚名を晴らすんだ」っていうことで頑張ってる人たちと一緒に協力しながら、いろいろ資料を見つけていくんですけれども。で、彼が実はそのイギリスの王家の血統の中から外されちゃっているんですね。リチャード三世は。つまり、暗殺とか陰謀によって王としての資格を取ったからっていうことで、外されていたんですよ。で、彼の復権をするためには、彼がちゃんとした王として死んで、墓に埋葬されたことを証明すればいいと。
(でか美ちゃん)なるほどなるほど。
(町山智浩)ところが、リチャード三世は伝説の中では悪党だったから、惨殺されて川に捨てられたってことになっているんですよ。
(でか美ちゃん)そうか。最後はひどい人がひどい結末を迎えたってことになってたんですね?
(町山智浩)なってるんですよ。それで、お墓もない。遺骨もないっていうことになって。「じゃあ、私は絶対に彼がちゃんと埋葬された証拠を見つけるんだ!」ということになっていくんですね。で、いろいろ調べると実は当時、イギリスでは薔薇戦争というのがあって。それは、そのイギリスの王家の二つの家系があったんですけれども。ヨーク家というのと、チューダー家という二つの家系が争う内戦状態になったんですね。で、リチャード三世はヨークだったんですよ。ところが戦争で負けて、チューダーという家系がその後、イギリスの王家を継いでいくんですね。でも、チューダーの方は実は傍系なんですね。だから乗っ取った形になっているんです。だからその後に歴史を彼らが支配していくので、自分たちを正当化するために「リチャード三世は悪者だった」という歴史の改ざんを行ったらしいっていうことがわかっていくんですよ。
(でか美ちゃん)自分たちの都合のいいようにされていたんですね。
自分たちを正当化するために歴史を改ざん
(町山智浩)まあ、権力を握った方が結局、歴史を書きかえちゃうから。で、そのへんから今度は彼女が歴史学者たちと戦っていくことになるんですよ。でも、相手にされないんですよ。
(でか美ちゃん)だって、普通の人ですもんね。
(町山智浩)そう。ただの人でしょう? で、「私たちは学者でね。何百年も歴史学をやっていて。それでわかんないことが君みたいにちょっと、歴史をかじっただけの人にわかるわけないだろ?」みたいな感じなんですよ。
(でか美ちゃん)なんなら「それは1回通った道じゃい」って思われてそうですしね(笑)。
(町山智浩)そうそう。「そんなことはもう、既に証明されてるんだよ!」とかって言われて、相手にされないんですよ。ところが彼女がそれでもくじけないのは、彼女の前にリチャード三世が現れるんですよ。
(でか美ちゃん)ええっ? どういうことだ?
(町山智浩)それで、彼女を導いていくんですよ。これね、僕は映画の嘘だと思っていたんですよ。
(でか美ちゃん)ちょっとファンタジックすぎるような……。
(町山智浩)ファンタジックすぎるんですけど、かなり本当で。彼女は多くの場合、直感的に……リチャード三世から直接、教えてもらったわけじゃないんだけども。「ここに間違いない!」っていうことで、次々に証拠を見つけていくんですよ。
(でか美ちゃん)へー! 「ピンと来たぞ!」っていう連続で?
(町山智浩)そうなんですよ。だからたぶん、リチャード三世が死んで。さんざん悪党にされて。映画とかでも非常に、ものすごい悪いやつに描かれているから。「誰か、なんとか俺の本当のことを証明してくれないか」ってずっと思ってたんだと思うんですよ。
(でか美ちゃん)ずっと、魂があったんでしょうね。
(町山智浩)で、このフィリッパさんの前に現れるんですよ。非常にハンサムなリチャード三世が。リチャード三世ってお芝居だとものすごいね、気持ちの悪いメイクとかにして。怪物みたいにして出てくるんですけれども。実際は、そうじゃなかったみたいなんですよ。絵が残ってるんですけど。そんなに悪くないんですよ。
(でか美ちゃん)ねえ。綺麗なお顔立ち、されてますよ。
(町山智浩)そうなんですよ。これはね、結局彼女は修道院というカトリックの教会があるんですけども。リチャード三世はそこにちゃんと埋葬されているっていう記録を見つけ出すんですよ。
(でか美ちゃん)おお、すごい!
(町山智浩)ところが、その修道院は存在しないんですよ。
(でか美ちゃん)えっ、なんで?
(町山智浩)イギリスはヘンリー八世という王様が離婚して、新しい嫁さんをもらいたかったから。でも、離婚はカトリックでは禁じられてたんで、カトリックをイギリスから追い出して。イギリスの国王もずっとカトリック教徒だったんですけれども、カトリックをやめて、英国教会という教会を新しく作って、離婚したんですね。そこから、イギリスではカトリックを全部排斥するという運動が起こっていくんですよ。で、カトリックの教会とかが全部打ち壊されたんです。徹底的に破壊されて。だから、そのリチャード三世が埋められていた教会も見つからないんですよ。
(でか美ちゃん)そうか。だからいろんな歴史の積み重ねで、リチャード三世の事実はどんどん消されてたんですね。
(町山智浩)でも、そこにまたリチャード三世が現れるんです。で、「こっちだよ」ってフィリッパさんを導いていくんですよ。
(でか美ちゃん)実話なのがすごいな。
(町山智浩)という話で。でも、その先に次々と、いろんな大学とかね、学者たちがね、途中から「彼女が実は本当にすごい発見をしそうだ」っていうことはわかると、彼女妨害して。そしてその手柄を横取りしようとするんですよ。
(アンジェリーナ1/3)そういう人、絶対出てきますもんね。
(でか美ちゃん)「最初はバカにしてたのに……」って感じですよね。
(町山智浩)そうなんですよ。学者たちが「俺たち、プロでやってるんだから。素人に手柄を上げられてたまるかよ」みたいになっていくんですね。しかも、その修道院があったと彼女がその発見した場所っていうのは、駐車場になってるんですね(笑)。現在は。
(でか美ちゃん)へー! まさかまさか、そんなところにって思いますね。
(町山智浩)そうなんですよ。で、その駐車場を壊して、発掘をしなきゃならないってなると、ものすごいお金がかかるわけですよ。でも、そんなお金ないんですよ。
(でか美ちゃん)だって、普通の人だもん。
(町山智浩)でしょう? そこでどうするか?っていうのは映画を見てのお楽しみなんですね。
(でか美・アンジー)気になるーっ!
(でか美ちゃん)ちょっとね、本番前に予告編を見たら、バーッといろんなシーンがあるので一言一句たがわずには言えないですけども。「究極の推し活がここに!」みたいな予告編だったんですよ(笑)。
(町山智浩)ああ、そうか(笑)。予告編を見ればわかるか(笑)。
「究極の推し活がここに!」
(でか美ちゃん)でも、正直予告編だけだと「どういうことだろう?」って思ってたんですけど。リチャード三世という推しと出会って……っていうことだったんですね。簡単に言うと。
(町山智浩)そうなんですね。ファンなんですよ。フィリッパさんは。まさに推し活で(笑)。
(でか美ちゃん)リチャード三世協会は、私がいつもハロプロのライブを終わった後にみんなで集まってるのと同じような、有志で集まってるみたいな、愛情が深いあれだったんですね。
(町山智浩)それがね、全世界に広がっているんでね。「実はリチャード三世は悪くない」と思ってる人は彼女たちだけじゃなくて、ものすごいいたんですよ。全世界に。
(でか美ちゃん)じゃあ、ちょっとこの9月22日公開の『ロスト・キング』、楽しみに見たいと思います。
本日の町山さん紹介映画 #こねくと
>500年にわたり行方不明だった英国王リチャード3世の遺骨発見の立役者となった女性の実話をもとに撮りあげたヒューマンドラマ。
ロスト・キング 500年越しの運命 : 作品情報 – 映画.com https://t.co/EADmAx0eh7 pic.twitter.com/ganfz0Rrro
— もりかわゆうき (@Yu_Mori) September 12, 2023
<書き起こしおわり>