星野源さんが2023年8月22日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中で怪談作家の梨さんから番組に届いた怪談を『マツケンサンバ2』に乗せて朗読していました。
(星野源)それでは、ラストにいきたいと思います。ラジオネーム「梨」。
(BGM『マツケンサンバ2』が流れる)
(星野源)「今回の『マツケンサンバ2』をかけながら怪談を聞くという企画を見ていて思い出した出来事があったので、この場を借りて送らせていただきます。5年ほど前、私の知人が何名かの友人とともに付き合いで、関東のどこかにある怖いスポットへ行くことになったんですが、その方は基本的に怖いものにめっぽう弱い方でした。そのため、行き先もろくに聞かず、往路の車の中で途中から1人だけ大音量で好きなアイドルの音楽を聞いて目をつむっていたのだそうです。『自分はどこにも行かないから、帰る時になったら起こしてくれ』と言い添えて。
出発した時間が既に深夜だったため、その方は少し眠ってしまいました。そして、おそらくは少し時間が経って、次に気がついた時もまだアイドルの音楽はプレイリストで流れ続けていたんですが、何となく車の振動などは感じなくなっていました。『帰り道の信号待ちでもしているのかな?』とその方が少し目を開けると、車は見たことない山道の中腹に停車していて、車の電気がついた中で、運転席と助手席と自分の隣にいる全ての友人が無表情でこちらを見ていたそうです。
慌ててイヤホンを外して『何?』と聞いたのですが、彼らは何も言わず進行方向へ向き直り、エンジンをかけ、車を発進させました。車は1時間ほどで見知った町の交差点につき、そこで解散となったそうです。友人たちが具体的にどんな場所へ行き、何をしていたのかは、その方もいまだに知らないとおっしゃっていました。怖いことをかき消すために楽しい曲を聞いたとしても、案外それが思わぬ結果に繋がることも、あるのかもしれませんね」。(『マツケンサンバ2』に合わせて)オレッ!
アハハハハハハハハッ! 梨さん、ありがとうございました。これは……俺は今、感動しています。梨さんの梨さん節を今、こうやって読めるっていうのも非常に嬉しいですし、全身に浴びれるのがちょっと嬉しいですね。いかがでしたか?(笑)。作家の寺ちゃんは今、もうAKレーシングの椅子でずっと丸まってましたね(笑)。怖いですねー。
情景がありありと想像できる文章
(星野源)なんかやっぱり、文章がすごいありありと想像できるよね。ずっと音楽を聞いてて、寝ちゃって、目を開けて。でも車が動いてる感じがないから目を開けてみたら全員がこっちを見てるという。ふぅー……ありがとうございます。梨さん。じゃあ、梨さん。ねぶり棒をどうぞ。すごい! 本当にすごい。で、梨さん、ごめんなさい。住所が書いてなかったのでねぶり棒が送れないので。もしよかったら、書いていただいてもいいですし、出版社の方とかでもね、大丈夫なので。ぜひまたメールいただければと思います。よろしくお願いします。
いや、そんなわけでちょっとね、すごい企画でしたね。本当、送ってくださった皆さん、ありがとうございました。なんていうか、最初はやっぱり怖いお話って自分は好きなんだけれども。それでもやっぱりね、聞いてる人はね、ちょっと「嫌だよ」って人もいるから。そういう人がいた時に、ちょっと楽しい気持ちになれるかもしれないと思って『マツケンサンバ2』をね、かけてみたんですけれども。そしたらね、思いのほか本当に怖くなくなるみたいなことがあって、今回スペシャルやってみましたけれども。
なんかさ、途中から、その『マツケンサンバ』と怖い話が同じ方向を向き始めて(笑)。そうなの! それまでは互いに違う方向で通り過ぎるような。もしくは完全に違う方向を向いてるみたいな感じだったんですけど。途中から同じ方向を向いて、手を繋ぎ始めるっていう……(笑)。いや、だからなんか、そういうことがあるんですね。だからやっぱり、怖いことっていうのはもちろん人間にとっても根源的なね、感情だったり。もうDNAに刻み込まれてますからね。そういうのをこういう風に楽しめるっていうのも人間のすごく面白いところだなって改めて思いますし。
改めて、本当に楽しい……僕、大好きな曲なんですけども。その大好きな曲と一緒にかけて、さらにそれを楽しめるっていうリスナーのみんなもやっぱりすごい素晴らしいなと改めて思いましたし。こういう場所にメールを送ってくださる皆さん、ありがとうございました。そしてね、梨さんも本当にありがとうございました。梨さんの著書とか、ぜひ買ってください。『かわいそ笑』は本当に超名作ですし。新しい『6』という本もね、本当に素晴らしいので。あと、ネットにたくさん梨さんの著作とかがあるんで。ぜひ楽しんでいただければと思っております。それでは、そんな感じでありがとうございました。特別企画、怪談と『マツケンサンバ2』でした。
(中略)
(星野源)メールです。大阪の24歳の方。「せっかくマツケンサンバで全部打ち消せると思ったのに……それも全て、梨さんの手のひらの上だったなって。梨さん、恐るべしです」。そうですね。本当に……梨さんの文章って読んでいる自分とか、あとそれにまつわる人とかを、なんていうか、傍観者でいさせてもらえないんですよ。たとえば「昔の話だしな」とか、自分は関係なくて。だからそこで怖がってる人があんまり出てこないんですよ。
傍観者でいさせてもらえない
(星野源)なんていうか、自分も全部巻き込まれるっていうような怪談が多いので。今回も本当にそうですよね。そういうところの徹底ぶりみたいなところとか。あと、ちょっとこんなことを言うのもあれなんですけど。書き分けの徹底ぶりみたいなところに、本当に矜持みたいなものを感じて、僕は非常に大好きな文章を書く方だなと思います。そうなんです。全て手のひらの上ということで(笑)。
いま大急ぎで住所を書いています
— 梨.psd (@pear0001sub) August 22, 2023
<書き起こしおわり>