星野源さんが2023年8月15日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中でリリースされたばかりの新曲『生命体』についてトーク。楽曲制作やMV、歌詞やタイトルに込めた思いなどについてリスナーからの質問メールを元に話していました。
(星野源)そんなわけで、行きましょう。私、星野源の新曲『生命体』がですね、昨日月曜日にリリースされまして。いやー、ちょっとね、驚いているというか。「ああーっ!」ってなったんですけど。すごい反響なんですよ。もちろん、ラジオに、この番組にメールめちゃめちゃ感想が来てるし。で、自分では見ないけど、スタッフの人が「#星野源_生命体」のハッシュタグとかでいろいろ見てくれて。「すごい反響です!」っていう風に言ってくれたり。YouTubeのミュージックビデオの再生数だったり、コメントだったりも「めっちゃいいです!」っていう反響がすごい届いていて、驚いてるんです。
「そうなの!?」っていう感じなんですよ。なんでかっていうと今回、アレンジが、楽器の数がちょっと少ないんですよ。なので、アレンジ的にですね、日本からリリースされる音楽の楽器数として、ものすごく少ないんですよ。だから、たとえばアレンジだったり、楽曲っていうもの自体を俺は「めっちゃくちゃ面白い!」と思って作ってるし、「フゥーッ! 最高!」って思いながら作ってるんだけど、でも今回は「もしかしたら伝わるのに時間がかかるかもな」と思ったんです。
ファンの皆さんもこの番組で僕がいろんな音楽を紹介したり、いろんなお話をいつもしてるからたぶん早い方のファンの人たちはいると思うけど。それでもちょっと時間かかったりするのかな、なんて思ってたんですよ。そしたらもう初日というか、リリースした瞬間からもうすごいビビッドな反応が来まして。非常に嬉しいです。ありがとうございます。
で、質問をたくさんいただいておりますので、読んでいきたいと思います。埼玉県の20歳の方。「質問です。今回の『生命体』はどんな箇所から出来上がったんでしょうか? どの楽器をメインに作曲したんでしょうか?」。はい。これはもういつも……最近、僕が2020年からやってる作曲のやり方なんですけど。打ち込みから作りました。なので自分1人で最初から最後まで全部、打ち込んで。いわゆるピアノのコードのボイシングから全部、最初から最後まで全部打ち込んで。ドラムも全部打ち込んで。ベースも打ち込んで。で、そこから生を演奏に変えていくという、そういうやり方で作りました。
なので、クレジットとしてはドラムスが石若駿くん。『不思議』も石若くんに叩いてもらいましたけども。『不思議』に引き続き、石若くんにやってもらって。石若くんと実はもう『POP VIRUS』のアルバム制作中、だから2018年の時に実はもう一緒にやっていて。やってはいるんですけど、その曲は出ていないんですよ(笑)。実際にレコーディングまで行かなかった曲があって。その曲は一緒にリハーサルやったりとかしてて。実は縁が深いんですよ。だから5年ぐらいなんですよね。
なので、その時はすごい、超高速ジャズみたいな、めっちゃ速い4ビートの曲を作ろうとしてたんだけど、ちょっと音源化まで至らず……っていうのもあって。石若くんはね、ジャズフィールドの方ですが。今、いろんなフィールドで活躍されてますけど。そういう石若くんのドラミングみたいなものっていうのが今回、すごく発揮できる、爆発するんではないかと思ってお願いしたりとか。そういう風にして作っていきました。こんな感じでちょっと質問をガンガン……今日はもう、みんなねぶり棒ね。はい。ねぶり棒でーす!
今日は採用された方、みんなねぶり棒です。そんなわけで、どんどん質問を読んでいこう。宮城県の方。「『生命体』リリース、おめでとうございます」。ありがとうございます。「楽曲制作の面で質問です。クレジットを見ると、MVの出演されてる方とレコーディングの方が違くて。レコーディングのバンド編成にギターが入っていないのでは? と思いました。どんな狙いがあって今回のバンド編成でレコーディングしようと思ったのか、教えていただけたら嬉しいです」という。ありがとうございます。
今回はですね、まず「こういう曲を作りたい!」みたいなイメージの大元っていうか。世界陸上とアジア大会っていう、すごく大きなスポーツの祭典、大会のテーマソングなんですよ。そういうのもあって、自分はそのスポーツにまつわる曲を意外と書いていて。『Continues』っていう曲はパラリンピックのテーマソングだったり。あとは『Hello Song』っていう曲も、それは東京オリンピックが数年後に控えた時期、「東京オリンピック、頑張ろう!」みたいな、そういうCMがあったんですけど。それの曲だったりとか。
その2曲とも、自分にとってすごい思い入れのある曲になっていて。だから、なんていうんですかね? 「生半可な曲を作れないぞ。頑張るぞ!」と思っていたんです。で、その中でイメージを組み立てていく中で、一番作りたかったのはゴスペルなんです。で、ゴスペルミュージックを作りたくて。でも、なんていうか今のタイミングでなんて言えばいいんだろうな? 「どんな音楽をやったらいいかな?」と思っている時に、なんか最初の大きなイメージとしては、ゴスペルミュージックそのものをやるっていうよりかは、ゴスペルR&B、ゴスペルソウルっていうジャンルがありまして。それが初期のアイズレーブラザーズとか、そういうゴスペルのエッセンスを持った、そこ出身のR&B、そしてソウルミュージックっていうものが僕はすごく好きで。それをイメージしながら作っていきました。
でもその中で、楽曲を作っていく中でどんどんイメージがブワーッと広がっていくので。「ホーンを入れようかな」とか「この楽器を入れようかな」とか、いろいろ妄想をしながら作っていくんですけど。で、だんだん打ち込んでいく中で姿が見えていく時に、「あれ? これ、このままで行った方がかっこいいな」と思ったんですよね。で、その時に残っていたのがドラムと、ピアノと、ベース。それと手拍子だったんです。だから楽器自体はほぼ三つしか使ってなくて。途中でサックスソロが入りますけど。サックス……まあ、その時間も短いので。なのでほぼ三つプラス1みたいな感じ。あとは人の声と体の音っていう、そういう風に作ってみました。一番最初からこの楽器数でいきたいと思ってたわけではなく、曲を作っていく中で「これが一番かっこいい!」と思ってこの楽器数にしました。
さあ続いて、奈良県17歳の方。「リリース、おめでとうございます」。ありがとう! 「すぐダウンロードしてから何回も何回も聞いています」。ありがとうございます。嬉しいです。「私は源さんのファンになってから楽曲がリリースされるとすぐ、クレジットを見るようになったんですが……」。そうですね。僕、クレジットを毎回公開してるので。「楽器がとても少ない。ギターがない。ドラムが石若さん。アップライトピアノを弾いているのが源さんとmabanuaさん。コーラスとクラップにUAさんが参加されているなど、特に楽器数が少ないとは感じていなかったので、四つの楽器+声とクラップだけだということにとても驚きました。またUAさんの名前は二度見しました」。そうだよね(笑)。
「この編成の理由、UAさんが参加された経緯などあれば、お聞きしたいです」という。はい。そうですね。で、やっぱりすごく思うのは、結構メールでも「ギターがない」っていうことに驚かれてる人がいるんですけど。自分が音楽を作る時に、なんて言うんだろうな? いつも一緒にやってる人はもちろんいますけど。なんていうか、「この楽器を使わなきゃいけない」っていうのはないんですよ。なので、ギターがないっていうのは僕にとって普通のことで。でも、もちろんギターがある曲は多いんですけど、ない曲もあって。だからなんか、そういう意味で今、曲作りに関して結構自由なんですよね。
でもライブでやる時に、やっぱりバンマスとして亮ちゃん(長岡亮介)には常にいてもらいたいので。ギタリストの亮ちゃんにはいつも参加してもらってますけど。楽曲を作る時には、いつも自由な状態で作ってます。だから、今後はドラムがない曲だってあるだろうし。もちろんね、ビートがない曲だってあるかもしれないし。ギターがない曲もあるかもしれない。でも、今まではその中で「ギターが必要だな」と思っていたからギターをお願いしていたという、そういう感じですね。はい。
UAのコーラス参加
(星野源)で、UAさんに関しては、僕はこの曲の「Ah, Ah」っていうコーラスを……そうだ。「どの箇所からできましたか?」っていうのは、そこかも。「Ah, Ah」っていうところからコードと、あとは歌がワーッとできて。そこからギャーッと広げていった感じですね。なので、やっぱりそこがすごく重要だなと思うのと同時に、ゴスペルにしたいんだけど、いわゆるそのゴスペルミュージックをやられてる方がやってしまうと、なんというか、判を押したようなゴスペルっていうような……そういうことにはしたくなかったんですよね。自分のゴスペルにしたかったんで。
そうしないと、やっぱりゴスペルって教会音楽なんで。でも、僕はクリスチャンじゃないから、そういうところの、ただの真似になってしまうのではなくて、ちゃんと自分で……それが大好きでずっと聞いてきたから、ちゃんと咀嚼して、自分の中で自分から生まれたもので「これはゴスペルにに影響を受けてるんです」っていう音楽にしたかったんですよね。だから、よそから借りてきて持ってくるっていうことにはしたくはなかった。楽曲制作の面でもそうだし、そういう、「どんな方にコーラスをやってもらいたいか?」みたいなのも含めて。
でも、いないんですよ。その、「この方にやってもらったら嬉しいな」っていう。で、僕もやってるし、亮ちゃんもね、コーラスをいつもやってもらってるんですよ。で、今回もなんですけど。なんですけど、そういう方がいなくて。「うーん……」って言っていたら、ディレクターの……僕は基本的に、たとえばメンバーがいる時とか、ミックスとか、全部僕がディレクションはしてるんですけど。レコード会社でいつもいてもらえるディレクターの人がいて。そのディレクターの磯くんっていうね、東大卒の天才なんですけど。天才なんだけど、めちゃめちゃアウトローっていう(笑)。大好きなディレクターなんですけども。その人が「UAはどうですか?」って言ってくれて。「ええっ?」ってなって。
で、UAさんの担当もされてるんですよ。昔から。なんで「えっ、頼んでいいの?」「ちょっと頼んでみますよ」って。しかも、そのお願いの仕方も、「今回、UAさんだっていう風に声がわかるような感じじゃないんですけど。いろんな人の声に混じってる状態なんですけど、大丈夫ですか?」っていうのを聞いたら「たぶんその方が気楽に楽しんでやってくれると思う。そういう方だと思う」っていう風に言ってくれて。「じゃあ、ちょっとダメ元で……」ってお願いしたら、快く引き受けてくれて。
で、やっぱりもちろんUAさんだっていうのが聞いて一発でわかるようなミックスになってなくて。それは元々の予定通りなんだけど。でも、なしとあり聞くと、もう全く違うんですよ。もう熱量が、1人入ってるだけなのに全然違くて。「やべえ!」と思って。で、僕と亮ちゃんとUAさんで3人で「Ah, Ah」ってやったんだけど、すごい楽しかったです。レコーディング。
で、ちなみにこれ、わざと字幕っていうか、音楽番組の時も、「Ah」とか入れないようにしてるんですよ。なんとなく、歌詞にそれが入らない方がいいかなと思ってたのもあるんですけど。発音のポイントとしては「あ」と「お」の間ぐらいです。「あぉあ」ぐらいです。「あぉあ」っていうのをこれから歌う人はなんとなく思ってくれれば……「Wow」にはしたくなかったんですよね。「Wow」が俺、あんまり好きじゃなくて。なんで、「あ」というよりかはちょっと「お」とか「う」が混じったみたいな。その方がね、お腹から出てる感じがするんですよ。叫んでる感じ。なので、豆知識でございました(笑)。
これは終わらないぞ? まだいっぱいあんだけど……ちょっと嬉しいですね。続いて。「『生命体』、毎日繰り返し聞いてます」。ありがとうね。「歌詞をじっくり見ていて思ったんですが『生命体』という単語、私だったら思いつきません。詞と曲両方が出来上がってから決めたタイトルなのでしょうか? タイトルが『生命体』になった経緯やきっかけがあれば教えてください」。ええと……なんとなくです(笑)。フィーリングです。で、歌詞は全部はできてないんだけど、半分ぐらいできてて「『生命体』だな」ってなったっていう感じで。なんとなくです。で、割と僕、なんとなくが多いです。で、なんとなくの方が正解なことが多いので。考えて理由付けするよりも。そんな感じです。
愛知県の方。「『生命体』、リリースおめでとうございます」。ありがとうございます。「躍動感のある曲、一度聞いたら忘れない『Ah, Ah』。聞くたびにハマっていきます。歌詞について。『命は足掻く 生きろ 行け 走れ』ととてもストレートな歌詞が印象的です。あと『”1”を超えた先』という歌詞も印象的です。1位の1か、今の自分から一歩を踏み出す1かなど、曲を聞きながらいろいろと想像しました。ぜひ源さんが込めた思いを教えてください」。
「”1”を超えた先」
(星野源)はい。「”1”を超えた先」っていう歌詞なんですけど。今回、世界陸上とアジア大会のテーマソングということで、やっぱりアスリートの方とか、あと応援されている方に向けての曲でもあるんですよ。そういうのもあって、やっぱり思うんですけど……アスリートの方ってやっぱり当たり前だけど1位を死にものぐるいで目指してるじゃないですか。だから、たとえば1個あるとしたら「1を取る」とか「1になる」っていう歌を作るっていうこともひとつ、道としてはあると思うんですけど。でもそうなると1位になれる方って本当に本当に一握りの人でしかなくて。それ以外の人たちを無にしてしまうのか?って思うと、そういう歌は作れないなと思うんです。
で、そういう人たちも含めて、なんていうか、鼓舞されるような。そういった人たちも含めた曲を作るにはどうしたらいいかな?って思った時に、全員に共通してるのは「最高の自分でいることだ」と思ったんですよ。で、一番何がいいか?っていうのは能力も心も全てが自分の一番最高の状態でその場所にいられて、プレーできること。ゲームできることっていうのが一番だろうなと思ったんですよ。なので「”1”を超える」っていう言葉にすれば、今いる1を超える1位を目指す人の歌にもなるし、「”1”を超える」という歌詞にすれば、僕にとってその1を超えるっていうのは「エゴがなくなる」っていう意味なんですよ。「1」っていうのは孤独の「孤」で、自分っていうものを考えて……「エゴ」のことですね。だから「自意識」のことですね。1というのは。
で、その自意識っていうものに日頃、人間はずっと悩まされてて。「あの人と比べて私は……」とか、「自分はこうだから」っていう思いとか、「社会がこうで、自分はこうで、その違いに悩んでいて」とか。「自分にはこういう責任があって、こうしなきゃ」とか、いろんな問題がある中で、その自意識がなくなった瞬間、それは僕がよく言う「アメーバになる瞬間」っていうことなんですけども。それは自分の能力が一番発揮できる時。自分の中が空になる時だなと思うんですよ。で、その状態を目指すこと。その状態を賛美すること。それを歌いたいなと思いました。はい。なので、そんな形で「”1”を超えた先」という思いを込めて作りました。
続いて。東京都の方。「歌詞について質問です。2番、Aメロの歌詞で『無自由』と表現されていましたが、これにはどんな理由、意味があるんでしょうか? 自由を否定する言葉は通常であれば『不自由』かと思いますが、あえて『無』という表現にした理由、意味があれば教えてください」。そうですね。僕、それこそ「自由がない」っていう状態を歌詞にしようと思ったんですよ。「無自由な運命も愛と変えるの」っていう歌詞なんですけど。「不自由」っていう言葉がなんか、全然違うなって感じたんですよ。ただそれだけなんですよね。で、「無自由」っていう言葉が一番ぴったり来て。でも、そういう言葉はないんで。「ないから、作ればいいか」と思って作ったっていう感じですね。パッと検索したけど特に出てこなくて。だからとりあえずまあ、作ってみようかなっていう(笑)。
ないから作った「無自由」という言葉
(星野源)僕は割となんか、作るんです。あと言葉遣いとか、語尾とか、作っちゃうんです。で、詞はそれが許されるんですよね。「これこれこうで、こうでした」っていうのって、説明文じゃないですか。で、説明文の詞って僕、好きじゃないんですよ。で、説明文じゃなくするためには言葉を削いで削いで削いで、間を抜いてギュッとすると、その意味みたいなものが……これはよく言うけどZIPファイルみたいにギュッと圧縮されるんですよね。そういう意味で、「はまらない言葉は作っちゃえ!」っていうのがいつもあって。なので、無自由っていう言葉がなんかすごくね、ぴったりくるんですよ。うん。僕がなんか運命っていうものに感じている感覚が。
で、その「愛と変えるの」っていうのも、「愛で変えるの」だとその「愛で変える」っていう意味だけになるんだけども。「愛と変えるの」だと「愛へと変えるの」とも読めるし、あとは愛という存在……たとえば自分以外の場所に愛というものがあって。その愛とともに変えていくんだっていうような、2つの意味になるんですよ。で、日本語ってやっぱりそこらへんの解釈がすごくアバウトにできて、面白いんですよね。ひとつ、1文字言葉を変えるだけで意味が二つになったり、受け取り方が多様になったりするんですよね。
で、無自由っていう言葉を聞いて……わかんないですけども。ある言葉なのかもしれないけど。たとえばそういう、なかった言葉っていうものを想像することで新たに人間っていうのは感覚が生まれたりするので。僕にはそれがぴったりだったという。ただ、そんなだけですね。そんなわけで、まだ全然、半分も読めてないですけども。ちょっと読んで、じっくりやっていきたいと思います。引き続きよろしくお願いします。