鳥嶋和彦と桂正和『電影少女』ができるまでを語る

鳥嶋和彦と桂正和『電影少女』ができるまでを語る TOKYO M.A.A.D SPIN

鳥嶋和彦さんと桂正和さんが2023年7月31日放送のJ-WAVE『TOKYO M.A.A.D SPIN』の中で『電影少女』ができるまでの道のりを話していました。

(Naz Chris)じゃあ、それこそ桂先生がその『ウイングマン』とかを書いていて。その後に「ラブコメというか恋愛物を書いたら?」っていうアドバイスは鳥嶋さんからですよね。

(鳥嶋和彦)っていうかね、僕の手を離れて、他の担当になってしばらくしたんだけど。見ていてね、全く人気もないし、書いてる漫画が面白くないし、本人も楽しそうに書いてる感じがしなかったんで。で、副編になったんですよ。で、なった時に「桂をどう生かすか?」ってなって。もうね、このままじゃ使えないっていうのは見え見えだから。ただ、僕の感覚からするともう1回、書けるだけのものを持ってるはずなのよ。それで「打ち合わせしよう」って言って会って話したら、空っぽだってことがわかったわけ。「こいつ、全く何もない」って。

(桂正和)うん。何も書きたいものもなかったし。俺ね、切羽詰まっていなかったんですよ。そのへんの鈍感力でここまで生きているっていう気がしますよ(笑)。

(鳥嶋和彦)でね、その本人も危機を感じてないこともさることながら、空っぽでね。「これは参ったな。これじゃ、漫画を作れないのは当然だな」ってなって。それで、いろんな映画を。

(桂正和)うん。「見ろ、見ろ」って言われましたね。

(鳥嶋和彦)とにかく週1回、会って雑談をするってことをやっていったわけ。そのことによって、彼の中で動くものとか、感じるものが何かないか?ってことで。とにかく編集としては引っかかるものがない何かないと、引っ張り出せないから。ということでやってるうちに、映画『恋しくて』……『プリティ・イン・ピンク』じゃなくて。

(桂正和)まず「『プリティ・イン・ピンク』を見ろ」って言われたんだけども。『プリティ・イン・ピンク』も見たんだけど、同じ監督の『恋しくて』を見たら、なんとなく「ああ、なんか面白いな」って思ったんですよ。

(鳥嶋和彦)それで初めて彼の中で興味があるものとか動くものがあったんで。「じゃあ、これをもとにキャラを作ろう」って言って。

(桂正和)そうそう。ヒロインがボーイッシュの女の子で。「ボーイッシュな女の子を描きたい」って言って。

「ボーイッシュな女の子を描きたい」

(鳥嶋和彦)で、それだけだと漫画にならないんだよね。っていうことで、いろいろ話が、雑談が逸れていって。ちょうどその当時、ビニール本っていうエッチな本があって。一番大事なところがインクが隠れて見えないっていう。で、バカなやつというのが世の中、いつもいるので。「このインクを落とせる除光液みたいなものがある。それを塗ると、見える」っていう話があって。

(Naz Chris)マーガリン伝説ですよね。

(鳥嶋和彦)それでね、「男っぽい女の子がどうこう」っていう時に、かわいい女の子なんだけども後ろに男の写真があって。液を塗ると、それが染みちゃって一緒になっちゃうっていう話をしていて。「本当にバカな話を鳥嶋さん、しますね」って言っていたら、それが頭に残っていたみたいで。まんまは使えないけれども、それで『ビデオガール』の元になる画像がね、一緒になって出てくるっていうのがあって。

(桂正和)その頃、レンタルビデオ屋が流行っていたんで。裏本じゃなくて、レンタルビデオにしようと思って。

(鳥嶋和彦)それをね、持ってきた時はもう、さすがだなって。

(Naz Chris)それであのGOKURAKUが生まれるんですね。へー!

(桂正和)で、抜けてましたけど。その『アメージング・ストーリー』っていうアメリカのドラマで博士が液体、A液とB液を垂らすと写真が立体化するっていう話を見たらしくて。それと裏本を合体させて。そこから女の子が出てきて。で、ボーイッシュにするには裏写りして、その男の要素がちょっと増えるみたいな話で。「これでどうだ?」って言うから、「いや、それじゃパクリだからな」って(笑)。

(鳥嶋和彦)でもね、大事なのは何にも話の元がなかった時に、こうやってバカ話でリターンが来るようになったら、これはもう打ち合わせなんですよ。

(桂正和)うん。そうそう。これをしてくれないんですよ。なかなか、他の編集さんは。

5分打ち合わせで、55分が雑談

(Naz Chris)なるほど。鳥嶋さんから言うと「5分打ち合わせで、55分が雑談」っていうのは聞きました。

(桂正和)ああ、そんなもんですよ。雑談っていうか、だから本当くだらない空球をすっげえ打ってくんですよ。だけどその中でバーンって当たるのがあるから。

(鳥嶋和彦)まあ、だからそれを見てるわけですね。一番怖かったのは空っぽの時って、何を投げてもスルーされるの。

(桂正和)興味ないからね。

(鳥嶋和彦)この時のね、不毛感。これをどうするか?っていうね。だからおそらく2、3ヶ月かかっているんだよね。ちゃんと反応が返ってくるまでに。

(桂正和)まだ必死じゃないからね。なんか「いいや」と思ってるところあるから(笑)。

(Naz Chris)なるほど。なんかここまでの話を聞くとやっぱり編集者さんってディレクターでもあり、プロデューサーでもあり、マネージャーでもあるっていう側面があると思うんですけど。

(鳥嶋和彦)一言で言うと、雑用の塊だよね。だから全てが仕事。でもそれはやっぱり目の前の才能を信じてるからできることでね。やっぱりずっと『ウイングマン』の後、ダメダメだったけど。僕からしたら桂正和のポテンシャルっていうのはそんなもんじゃないと思ったから。高校生の時に見た彼はもっと、遥かに魅力がある、スケールのある作家だったから。

(Naz Chris)今もありますよ(笑)。

(鳥嶋和彦)だから唯一、僕は親のところまで行って「プロになれるから、預けてくれ」って言ったわけだから。

(Naz Chris)でも、それはものすごいいい話ですよね。

(鳥嶋和彦)でもね、やっぱり連載になっても、まだ義務を果たしてないですよ。単行本になってもまだ義務を果たしてないわけ。その単行本が売れて、ようやくですよ。義務を果たしてってなるのは。

(桂正和)なるほどね。よかったね。本当に売れてね。

(鳥嶋和彦)そうしないと、生活していけないから。

(Naz Chris)この『Dr.マシリト 最強漫画』でも触れてる読み切りでチャレンジして、編集会議を経て連載を獲得した後に、10話がコミックス1冊にまとまるから。そこまではやっぱり連載をさせてそ。その10話で続けるかどうかっていうのを手前でジャッジするっていう。やっぱりそのコミックスがあって、長期連載が決まっていてっていうところをまずプロの漫画家として、させてあげることっていう。

(鳥嶋和彦)今、『ウイングマン』のコミックスがあるけれども。これはね、徹底的にカバーをちゃんと書いて売ろうっていうね。

(Naz Chris)その話は……なんか『ウイングマン』の第1巻がものすごい爆売れしたっていう。

(桂正和)爆売れした!

(Naz Chris)どれぐらい売れたんですか?

(桂正和)だから、あの当時そういう漫画が何本かあったんですけど。

(鳥嶋和彦)「3マン」ってな。ラーメンマン、キン肉マン、ウイングマンって言われていて。

(桂正和)発売日当日に、あれですよ。本屋からなくなりました。

(Naz Chris)すごいですね!

(桂正和)だって、そんなに刷ってないし。

(鳥嶋和彦)俺は、もうはっきり言うと「この部数、甘いな」と思っていたけど。「まあ、いいや。話題になるから」って。「もっと刷ってくれ」とは言ったんだけどね。

(Naz Chris)『Dr.スランプ』の1巻の初版は15万部初日で完売したっていう。

(鳥嶋和彦)あれは半日だな。

(桂正和)半日。だからそんな感じでしたよ。「来たな!」って俺、思ったもん(笑)。

(Naz Chris)だからそれこそ、そのコミックスの表紙をオリジナルで書かせた方がいいんだっていうのは、鳥嶋さんのそういうアイディアが活きたっていうことですかね?

(鳥嶋和彦)そうそう。それまではね、有原(ありげん)を使ったりして。カバーのデザインもちゃんと考えてないわけね。やっぱり今見てもすごくきれいだもん。

(桂正和)でも、よく見てください? これ、『Dr.スランプ』のフォーマットですからね?

(鳥嶋和彦)違うよ。『ドラゴンボール』だよ。

(桂正和)『ドラゴンボール』でしたっけ? 『スランプ』じゃないの?

(鳥嶋和彦)『ドラゴンボール』。この白地で。

(桂正和)そこにマークを書いて? ああー。そうかそうか。

(Naz Chris)でも当時ってそのコミックスを担当するのって別会社さんになっていて。

(鳥嶋和彦)子会社だよね。で、1回目しかデザイナーを使えないの。予算が出てこない。

(Naz Chris)で、そこのコミックス改革をしようと思ったのは、どういうところからなんですか?

漫画家の預金通帳にお金を入れる

(鳥嶋和彦)いや、簡単ですよ。やっぱり預金通帳にお金を入れてあげるっていう。そうすれば、漫画家は嫌な仕事をしなくていいから。やっぱり生活に追われて、嫌な仕事をして、ストレスを溜めて……消えていく漫画とか、そういうのをたくさん見てるんでね。自分が信じた漫画家だけは……少なくとも僕の漫画家だけはそういう目に遭わせないっていう。他の漫画家は大変申し訳ないけど、しょうがないなって。編集が無能だから(笑)。

(桂正和)フフフ(笑)。

<書き起こしおわり>

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