鳥嶋和彦と桂正和「プロの漫画家」になれる人の条件を語る

鳥嶋和彦と桂正和「プロの漫画家」になれる人の条件を語る TOKYO M.A.A.D SPIN

鳥嶋和彦さんと桂正和さんが2023年7月31日放送のJ-WAVE『TOKYO M.A.A.D SPIN』の中で「プロの漫画家」に向いている人について、話していました。

(Naz Chris)桂先生、でも鳥嶋さんが10代だった少年の漫画家の卵の実家まで行って、親御さんに頼んだっていう。これは後にも先に、鳥嶋さんにとって桂さんだけっていうのは?

(桂正和)ああ、それは本当にありがたかったですね。

(Naz Chris)それは千葉のご実家で行われたんですか?

(桂正和)そうです、そうです。うちまで来てくれました。

(Naz Chris)その時、どんな感じだったんですか?

(鳥嶋和彦)あなたも同席してた?

(桂正和)してない気がするんですよ。

(Naz Chris)してないんですか?

(鳥嶋和彦)ということは、ご両親と僕だけだよね?

(桂正和)たぶん。なんか記憶にないんですよ。

(Naz Chris)すごいですね。

(桂正和)いやだから本当にそれはねありがたかったですね。

(鳥嶋和彦)でもね、やっぱり僕が担当して新人漫画家の中でね、会った瞬間、「これはプロになれるな」と思ったのは、目の前にして言うのもなんだけど、桂くんが最初で最後かな。

(桂正和)すげえな、俺!(笑)。

(霜月たかなか)天才ですから(笑)。

(桂正和)うん。天才かもしれない(笑)。

会った瞬間「プロになれるな」と思った

(Naz Chris)この『Dr.マシリト最強漫画術』のお二人の対談、読むと相当涙が出るので、読んでいただきたい話なんですが。今みたいな話が載ってるんですけど。あれですよね? 親御さんが元々、絵の仕事をするのを反対されていて。

(桂正和)それね。鳥嶋さんが最初だと思ってたんですけど、実は僕、中学の時の美術の先生にも……なんかそういう、あるタイミングで僕を助けてくれる人が現れるんですよね。

(Naz Chris)親に会いに来る人がいるっていう。

(桂正和)ずっと絵の仕事っていうか、絵に携わることをするなって言われてきたんで。

(Naz Chris)なんでなんですか?

(桂正和)お金にならないと思ってたんでしょうね。で、中学の時も美術部に入りたかったんだけど「ダメだ」って言うから。で、美術の先生が家で来て同じように「この子、絵の才能があるからやらせてやってくれ」って言ってくれて、やってみたり。

(鳥嶋和彦)そう考えると、その美術の先生は恩人だな。

(桂正和)ですね。

(鳥嶋和彦)やっぱりそこでさ、絵を書いて続けてるから僕と会うところまでつながるわけで。

(桂正和)ああ、かもしれないし。俺も結構、鳥山さんと同じようなところがあって。言われてもやってたと、思いますよ。隠れて、絵を。ダメだと言われても(笑)。とにかく僕、コンポがほしかったんで。

(Naz Chris)テクニクスの。

(桂正和)だから中学の時から親に隠れて漫画をコツコツ書いてたんで。

(Naz Chris)で、その時のほしかったコンポが55万円ぐらいで。手塚賞の賞金が50万だったっていう。

(桂正和)そうそう。5万、足らないんですけど(笑)。

(Naz Chris)そこってすごく鳥山先生とシンクロしますよね?

(桂正和)似てますよね。お金を……僕、漫画には興味なかったんで(笑)。

(中略)

(Naz Chris)でも、面白いなって思って。鳥山先生も賞金ほしさに始めていて。最初は「漫画なんて、別に」っていうか。で、桂先生もコンポがほしいから、とにかく賞金が取りたかったから書いていたっていう。鳥嶋さん、これって得てして、才能の妙というか。面白いですよね?

(鳥嶋和彦)あのね、漫画が好きで書いている人より、お金が好きとか、「これで食べていかないきゃいけない」と思う人の方が目標が明確で、プロに向いてるんですよ。

(Naz Chris)これ、だからちょっと皮肉な感じ、しませんか? すごい好きでも、うまくいかないことがあるとかっていう。思い入れ過ぎありすぎてっていう。

(鳥嶋和彦)ひとつあるのはね、僕はいろんな漫画と付き合って思うのは、やっぱり直し。編集者が「面白くないから、こういう風にしてほしい」っていう直しに耐えられない、タフさがない漫画家は、プロになれない。

(桂正和)ああー、わかるわー! 俺たち、そんな思い入れ、ないんですよ(笑)。

(Naz Chris)マジですか?

(桂正和)はい。だからたぶん漫画が好きな子は、自分の書いたそれを愛しちゃっているから、「直せ」って言われるちょっとそれに抵抗があるんすよ。

直しに耐えられない漫画家はプロになれない

(鳥嶋和彦)だからそれで言うとね、やっぱり同人誌も取材して、そこでスカウトした人たちとも付き合ったことがあるけど。まあ、隣にコミケを始めた原田さんがいる中で言うのもなんだけども。やっぱりその人たちってね、直しができないんですよ。だからプロに向かないの。

(Naz Chris)でも桂先生、私は結構青春ど真ん中というか。ちょっと遅れて読んだんですけど『電影少女』が大好きで、もう一コマ一コマがアートじゃないですか。このまま額に入れて一コマ一コマ、飾りたいって思えるような。これを見て「思い入れがない」とは思えないわけですよ。一コマ一コマ、めっちゃ時間かかけて書いてるでしょう?

(桂正和)なんだろうな? ええとね、いやいや。彼らが思い入れがあって直せないのは、自分が浮かんだアイディアを壊したくないんすよ。たぶん。で、こうやって漫画になって表現されるものって、そのネームがあっての表現方法だから。ここに関しては別に何も頭を使わずに、その自分の再現したいものを表現するだけだから。ここの思い入れと、そのボツになって直したくない思い入れっていうのは、ちょっと違うんですよ。この根幹の部分を彼らは動かしたくないから。

(Naz Chris)なるほど。

(鳥嶋和彦)もっと言うとね、直しができない人は誰が読んでくれるかの想像がつかない人たちなの。

(桂正和)ああ、なるほど。

(Naz Chris)でもそこ、すごい際どいラインですよね?

(鳥嶋和彦)際どくないよ。だって、読者が読んでくれるわかればお金が入らないんだから。

(Naz Chris)いや、もちろん。もちろんなんですけど……。

(鳥嶋和彦)だから、漫画を書くことによってお金をもらって生活してくっていうことがプロだから。ってことは、読者に届くように直しができないのは、プロ失格なんですよ。

(Naz Chris)でも桂先生、これって自分の「これだ!」って納得いく通りに書けない仕事が続くと、もうやめたくならないですか?

(桂正和)いや、そんなこと言ったらたぶん鳥山明さんもそうだけど。いまだに僕、思い描いたようには書いてないんですよ。

(Naz Chris)ああ、なんか「自分の好みじゃない」っておっしゃっていて衝撃だったんですよ。鳥山先生も。

(桂正和)僕もそうですよ。全部。過去のどの絵を見たって、全部嫌いですよ。

(Naz Chris)えええーっ!?

(桂正和)いやいや、そうじゃなくて。なんだろうな? 今、鳥嶋さんが言ったけど。僕も……鳥山さんはどうかは知らないけど。お尻の絵とか、いろんなもの。ヒロインのかわいさとかは全部俺、読者に向けてますから。「みんな、こうやったら喜ばないかな?」って思いながら書いてるから。

(Naz Chris)いやー、なんか、プロってすげえなって思いますね。

(桂正和)プロっていうか……僕は、天才なのかな?(笑)。

(Naz Chris)間違いないと思います(笑)。

(鳥嶋和彦)違う違う違う(笑)。あのね、『ウイングマン』だって結局、あれですよ。最初、僕のところに持ってきた時って80何ページ。この変身物ですよ? こんなの、ジャンプに載せられないわけですよ。

(Naz Chris)どうしてですか?

(鳥嶋和彦)誰も読まない。面白くないから。

(Naz Chris)それは読者層がってことですか?

(鳥嶋和彦)それも含めて。

(Naz Chris)戦隊物とかってそんなにはまらないんですか?

(鳥嶋和彦)あれはテレビで、あの映像で見るから、変身シーンとか含めて見れるもので。実写で、動くし、4色だしね。それを1色で変身シーンを見たって……ジャンプなんか、もっといろんな派手なアクションがあるわけだから。その中で戦うには、持たないわけ。そうすとやっぱりね、こういう風に少女を出してくるっていうね。

(桂正和)その意味で言うと、その女の子を出すっていうのもそうだけど。この人、まず「学生にしろ」って言ったんですよ。「中学生ぐらいしろ」って。

(Naz Chris)主人公を。

(桂正和)でも、俺の中で全く想定がなかったんで。でも俺、まだ19だったから。しかも田舎者なんで。「雑誌の人が言うんだったら、そうなんだろうな」って鵜呑みにしていたんで。俺、素直なんですよ。で、「ああ、学生かー」って。で、鳥嶋さんが「学生だから学生にまつわるもので変身した方がいいんじゃない?」っつったんですよ。で、俺はその帰り道、電車の中で「なにがいいかなー? 文房具かな? じゃあ、ノートで変身するか」って思ったんですよな。

(Naz Chris)なるほど!

(桂正和)そういう意味だと、100以上くだらないこと言うけど、ほんのちょっとね、すげえヒントになることを言ってくれるんですよ(笑)。

『ウイングマン』主人公を中学生にした理由

(鳥嶋和彦)あのね、「中学生にしろ」って言ったのには理由があって。中学生、学校の学生にするといちいち背景を説明しなくていいわけ。学校を書いちゃえば、読者のみんなにも設定がパッと伝わるから。で、中学生だとまんま、メイン読者層っていうことになるんで、「自分の話だ」と思ってもらえるわけですよ。これはやっぱり桂さんが書くものが読者にどういう風にストレートに伝わるか?っていうことの編集サイドのアドバイスになるわけ。で、それをやっぱり素直に聞けるってのが、ひとつの才能なわけ。

(桂正和)ただ右も左もわかんなかったから、聞くしかなかったんだけど(笑)。

(鳥嶋和彦)ここで反発されると、やっぱり非常に困るし、デビューが遠ざかっていくわけですよ。

(Naz Chris)『ウイングマン』が連載になった時、鳥嶋さんは編集部員何年目の時ですか?

(鳥嶋和彦)何年目だろう? 2年目で……いや、3年目からか。『Dr.スランプ』をやったのは。その翌年ぐらいかな?

(桂正和)違いますよ。もうとっくに『スランプ』は結構世の中でブームになってたし。アニメもバンバンやってたし。

(鳥嶋和彦)じゃあ、俺が入社5年目ぐらいか?

(桂正和)『スランプ』が始まって1、2年経ってると思いますよ。

(鳥嶋和彦)『ドラゴンボール』にはなってないな。じゃあ、『Dr.スランプ』は2年8ヶ月やってるから。

(Naz Chris)その3年目、4年目でそんな的確な指示を出せるもんなんですか? 編集者さんって。

(鳥嶋和彦)出せるでしょう? 毎日仕事してるんだから。

(Naz Chris)この『Dr.マシリト最強漫画術』に載っている鳥山さん、稲田さん、桂さんっていうのはもう鳥嶋さんからすれば世に送り出した三大ヒットメーカーっていうか。もう日本になくてはならない漫画家さんを世に出したわけで。

(鳥嶋和彦)でもね、たしかにその3人はヒットが出て、こういう風に単行本が残ってるから皆さんね、覚えてらっしゃいますけど。やっぱり彼らの後ろに、担当して、デビューしたけど続かなかったとかね、そういう漫画家も何人もいるわけですよ。

<書き起こしおわり>

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