鳥嶋和彦さん、三条陸さん、稲田浩司さんが2023年11月27日放送のJ-WAVE『ゆう坊&マシリトのKosoKoso放送局』の中で『ダイの大冒険』についてトーク。読み切りから連載化をするにあたって鳥嶋さんが考えたジャンプ内での作品のポジショニングなどについて話していました。
(Naz Chris)ちょっと稲田先生にもお聞きしたいんですけど。最初、その『デルパ! イルイル!』の原作が上がってきた時に、そのダイっていう少年はどういうイメージが最初に浮かんだというか。なぜ、このダイになったのか。ビジュアル的に。それをちょっとぜひ、聞きたいなと。
(稲田浩司)ただのわんぱく少年みたいなイメージだったんですけど。それに当時、自分で書いていた素直な絵柄があれだったんだと思いますけどね。こんなのなら、それこそ何回でも書けますよっていう感じの……自分の中で奇をてらったんじゃなくて、素直に出た自分が今、書ける元気な少年像だったなと思いますけど。
(鳥嶋和彦)だからそれが……原作があるがゆえに、それがスッと出せた。たぶんこれがオリジナルだったら、もっといろいろ考えてグルグルしちゃうんだよね。
(稲田浩司)そうかもしれないですね。
(鳥嶋和彦)だから、三条くんの原作あったおかげで稲田くんが本来持っている、いいものがストレートに出たんですね。三条くんも言ったけど、僕の依頼は「子供向けに書いてくれ」っていう。で、さっきも言ったけども、ドラクエ4の企画はアニメ(『勇者アベル伝説』)が割と上向けの設定のストーリーだったから。ジャンプのものは子供向けにしたいっていうのと、それと当時はジャンプの連載陣がね、結構上向けの漫画が多かったんだよね。絵柄も劇画風が多くて。だから、そこが空いているし。そこを狙えば、ある種票は取りやすいんじゃないかなって。
ジャンプに子供向け作品の枠が空いていた
(Naz Chris)なるほど。『聖闘士星矢』『魁!!男塾』『ジョジョの奇妙な冒険』とかが連載中だったっていう。なるほど。たしかに、ないですね。
(三条陸)だからその時に鳥嶋さんに「長期連載作品がすごく多いので。そうすると読者もそれについてきて歳を取っちゃう。今、ジャンプには子供たちが新しく入れるところがない。シンプルでパッと見て途中から入れるような漫画が『ドラゴンボール』ぐらいしかないんだ。固定ファンはがっちりいるけども、どんどんどんどん毎年、歳を取っていくから。これから子供たちが新しく入ってこなくなると、雑誌としてアウトなんだよ。だってお前、コミックスは370円なんだぞ? 『ドラゴンボール』しか好きな漫画がなかったら、『ドラゴンボール』のコミックスさえ買えばジャンプより安いだろう? 雑誌っていうのは3本ぐらいは面白いものがなかったら絶対買わないんだ」って言われて(笑)。
(鳥嶋和彦)そうそう。3本ないとね。1本だと、立ち読みされちゃう。
(三条陸)「だから今、まだ長期連載作品が続いてる間に子供たちが読める漫画を1本でも2本でも増やさないと、ここから先、雑誌がないんだよ」っていう話をこんこんとされて。
(鳥嶋和彦)いいこと言っているねー!(笑)。
(Naz Chris)89年の段階で、既に世代交代を考えていたっていう。
(三条陸)ロジックはすごいはっきりしているんで。こっちはすごい戦いやすいですね。
(鳥嶋和彦)その分析をして話をしたのは、僕が副編になりたてだったからだね。
(三条陸)状況が見えてきたっていう。
(鳥嶋和彦)そう。状況が見えて、自分の担当漫画以外を見た時に「焼け野原になるとまずいな」っていうね。
(Naz Chris)早いですよね。鳥嶋さんって。早い。3歩ぐらい先を見てるっていう。
(鳥嶋和彦)いやいや、見ないとやれないもん。誌面構成できないから。
(Naz Chris)でも世間はもう、「今がいい」みたいな時代じゃないですか。80年代後半なんて。「今がずっと続くんだ」みたいな。
(三条陸)たしかに、それはありましたね。そういうバブル的な時代だったんで。で、ジャンプの部数とかでも、トップで王様だったじゃないですか。そこででも「このままいくと数年後はこれしかなくなって、子供が来なくなるよ」って話をしたんで。なるほど感がすごいあるんですよね。
「数年後には子供が来なくなる」という危機感
(鳥嶋和彦)それが見えていた理由が二つあって。ひとつは編集部以外の外部の人と話をしたり、ディスカッションをしてた。さっき言った『OUT』の人たちとかね。で、その視点があるってことだよね。だから、外からジャンプを見る目があったっていうことがひとつと、もうひとつは「ファミコン神拳」とかの企画を立てる時に、当時の副編からのオーダーがコロコロに対してどう対抗するか?っていう。それでコロコロを研究することによって、ジャンプが見えてくるわけですよ。そうすると、どういう風にコロコロの卒業生を取って離さないようにするかが大事だっていうのが、見えてくるわけ。そうなった時にね、取ってきて読んでもらう漫画がないわけよ。だからそういうオーダーをしたんだよね。
(中略)
(Naz Chris)不躾な質問なんですけど。三条先生って、プロデューサーとしてやるみたいな選択肢ってなかったんですか? いろいろなもののプロデューサーっていう。
(三条陸)プロデューサーって、やっぱりフリーのプロデューサーの方とかもいますけど。基本はプロデュースって、制作会社や出版社だったらその会社の人がするっていう。漫画のプロデュースをするのは編集さんだし。
(Naz Chris)外部のって最近、結構いろいろありませんか?
(三条陸)でもプロデュースっていうのは、どうなんだろうな? わかんないですね。プロデューサーになったら、大変だと思いますけどね。
(鳥嶋和彦)あのね、三条くんの特色は「正確に仕事をしたい」っていう気持ちがあるんだよ。彼の仕事の仕方とか考え方には僕、職人魂を感じるの。
(三条陸)だからそのプロデューサー的な目っていうか、感覚があるとしたらその入る時には人よりは考えるかなっていう。「今回、もらった仕事がこうだ」っていう時に「これを上手くするためにはどうしたらいいかな?」とか「この人と仲良くすればいいのかな?」みたいなことはやっぱり、ちょっと人よりは多く考えるかなっていう気がしますね。
(鳥嶋和彦)だから、あれだよね。僕が原作を発注して楽だったのは、彼が編集的な視点でこの企画の持つ意味をちゃんと捉えて関わったっていうね。で、さっきもこの放送に入る前に言ったんだけど。今もって、企画物で少年ジャンプで当たったタイトルは、これしかないの。僕もVジャンプが創刊して行って、いろんな企画を立てたけど、ここまで成果が上がらなかったの。だから『ダイの大冒険』以外は基本的にはね、うまくいってないんだよね(笑)。
(Naz Chris)やっぱり難しいものなんですね。
『ダイの大冒険』以外の企画物はうまくいかなかった
(鳥嶋和彦)難しい。だからその時のタイミングもあるし。この2人のそれぞれの才能もあったけど。やっぱり、いろんなことがうまく合ったんだよね。
(三条陸)だから本当に、いただいた仕事はきちんと最後まで、うまくいかなくてもやるっていうのが一応、僕のポリシーなんですけど。それを言っいったら「これは絶対に失敗するからやめた方がいいですよ」って言って聞いてもらえなかったら、最初から降りることはありますよね。それでやっぱり、その版元さんとかが……だからダイと同じですよね。「このタイトルをこうやったら、絶対にうまくいかない」っていうのを聞き入れてもらえない時があるんで。そうしたら、もう最初から「僕は降ります」って。最初からやらないことがあります。
(鳥嶋和彦)彼は生意気なんですよ(笑)。仕事を受ける側、フリーなのに、降りるんだよ。
(三条陸)でも、それは失敗しますし。実際に降りた後、別の人がやって。それで見たら全部、失敗してますから。案の定のところで失敗するんですよね。みんな、呉越同舟だから一生懸命に力を合わせてやると思ってますけど。でも明らかに失敗するっていう理屈を言ってるのに、わかってもらえないんだったら、最初からそこは組めませんっていう話で。
(鳥嶋和彦)でもね、それはやっぱり漫画家も一緒で。編集が言う通り仕事にする人間に、残ったためしがない。やっぱりね、稲田くんもそうだけど、反論したり、言うことを聞かないっていうね。その、ある種の頑固さっていうのが作家性だから。それがないとやっぱりね、残っていけないよね。やっぱり塊がないとね。編集者はね、引き算とか、放り込んでいく作業はできるけど、塊を作ることはできないから。
(Naz Chris)ちなみに先ほど、三条先生がおっしゃった「受ける仕事・受けない仕事」っていうのは、さっきおっしゃったような基準以外にはなにか、ありますか?
(三条陸)いや、でもやっぱり人ですから。そういう自分の主張とかを理論立てて言っても、聞いてもらえない。わかってもらえないっていう時にはやっぱりできないし。性格的にちょっと合わないなっていう時もありますしね。そういう、「これは座組み」として無理だなっていう時には「人間的に無理だ」っていう時だけですよね。そうじゃない時に派、わざわざこちらにお仕事をいただいてるんで。もう当然、善処しますし。「一番いい方法は?」っていうのを自分なりに言いますけど。本当、人間的に合わない時だけですね。僕は。
(鳥嶋和彦)だからオーダーは正確に出してほしいだろう?
(三条陸)そうですね。
(鳥嶋和彦)それなんだよな。
(Naz Chris)鳥嶋さん、それで言うとたとえば漫画を作りたい。それで原作が必要だっていう時に、たとえばどういうオーダーを出されるんですか?
(鳥嶋和彦)作家のいいところと悪いところをはっきり言う。
(Naz Chris)ああ、全部言って?
(鳥嶋和彦)だから原作発注は逆に言うと、難しいんですよ。原作者の選定から始まって。
(Naz Chris)選定も、その方が今まで書いてらっしゃるもので、向き・不向きみたいなことも含めてですか?
(鳥嶋和彦)そう。だから実はね、ここで初めて言うんだけど。堀井さんの原作で漫画をいくつかジャンプでやったことがあるんですよ。
(Naz Chris)ああ、そうでしたっけ。へー!
(鳥嶋和彦)そう。だけど、やっぱりうまくいかなかった。あれは堀井さんの原作って、ゲームできるんだよね。
(Naz Chris)どれですか?
(鳥嶋和彦)僕も忘れちゃった(笑)。やった覚えはある。だから、なんだろうな? その原作と漫画家にそれぞれに才能がある。見るところがあるっていっても、組み合わせの問題とか、それがあるから。決して単発でどうこうとは言えない。それでやっぱり『ダイの大冒険』は企画の狙いがその時にあって。それできちっとした原作で出てきて。それを一番いい形でビジュアル化するにはどうしたらいいか?っていうことで稲田さんが出てきたんだよね。だから稲田さん自体にやっぱり書く力がなかったら、この原作をふくらませることができなかった。だからよく言われるのは「足し算はダメ。漫画と原作はかけ算にならないとやる意味がない」っていう。
漫画と原作はかけ算にならないとやる意味がない
(Naz Chris)三条さん、それで言うと、かけ算になるというのだと、たとえば原作でこういうキャラクターのイメージがある……たとえばヒュンケルであったりとか、マアム、ポップだったりっていうのをさらに稲田先生がイメージをふくらませて書いて、それがかけ算になる。そこもかけ算っていう感じんですよね?
(三条陸)そうですね。やっぱり狙った通りかそれ以上の表情に、もうネームの段階で上がってくるんで。やっぱり悲しいシーンでダイが泣くってなったら、本当に悲しそうな……悲しさが伝わってくるぐらい悲しそうなものを書いていただいているんで。僕、稲田先生のすごく大きな魅力のひとつは構成力と表情だと思うんですけど。そういうのがやっぱり自分の思った通り以上のものでくると、もうネームの段階ですごい手応えがあるっていうか。
(鳥嶋和彦)やっていて楽しいだろう?
(三条陸)ですね。
(鳥嶋和彦)ドライブ感があるよね。そこはやっぱり、やり取りの面白い部分だよな。やっぱりイメージを越えてこないとね。
(三条陸)そうですよね。狙った通りのセリフ以上の聞こえ方をするっていうのが、すごいよかったりするし。
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ゆう坊とマシリトのKoso Koso放送局
\三条先生、稲田先生に心からの感謝です??
?️三条陸先生(原作)
?️稲田浩司先生(漫画)?貴重なアバン先生&マトリフと
生みの親たちhttps://t.co/rdJSMjeIJi #maadspin pic.twitter.com/wX2UyGwcGB— J-WAVE TOKYO M.A.A.D SPIN (@MAADSPIN) November 27, 2023
<書き起こしおわり>