鳥嶋和彦と三条陸『ダイの大冒険』連載前の読み切り『デルパ! イルイル!』『ダイ爆発!!!』を語る

鳥嶋和彦と三条陸『ダイの大冒険』連載前の読み切り『デルパ! イルイル!』『ダイ爆発!!!』を語る TOKYO M.A.A.D SPIN

鳥嶋和彦さん、三条陸さん、稲田浩司さんが2023年11月27日放送のJ-WAVE『ゆう坊&マシリトのKosoKoso放送局』の中で『ダイの大冒険』についてトーク。連載化する前の2回の読み切り『デルパ! イルイル!』『ダイ爆発!!!』について話していました。

(鳥嶋和彦)それで、読み切りに戻りますけども。あれは前編・後編?

(三条陸)前編・後編です。

(鳥嶋和彦)どうだった? 上がった原稿は。原作者として。

(三条陸)もう、狙い通り。イメージ通りですね。そもそも最初に、さっきの……たぶんハセガワさんですよね? ゲーム担当で、ダイの担当もしていただいて。ハセガワさんと4人でお会いした時に稲田先生が原作を見て、キャラのラフを書いてきてくれて。

(鳥嶋和彦)おおー、やるじゃん!(笑)。

(稲田浩司)やりますよ(笑)。

(鳥嶋和彦)さすが、暇人(笑)。

(三条陸)それで、それを見た時に当然、モンスターとかも書いてあったんだけど。あのニセ勇者の4人。あのキャラのまんまですよ。あの4人をあれで書いてきているんですよね。それで「ああ、これは面白い!」って。あの4人がほぼほぼ、最初からあの形で仕上がっていたんで。あの原作の漫画のネームを読んでこの4人が出てくるんだったら、キャラクター的にも大丈夫だなって思って。

最初からいたニセ勇者4人

(鳥嶋和彦)あの時にはもう原作、前編・後編を一緒に上がっていたの?

(三条陸)一緒に上がっていたはずですね。たしか。一緒に書いたはずです。

(鳥嶋和彦)原作に関してはね、ほぼ直しを出した覚えがないから。まんま、狙い通りで。稲田さんのコンテもほぼストレートで通したよね?

(三条陸)ほぼストレートで通ってましたね。たしか。

(鳥嶋和彦)ばっちりだったんですよ。ばっちりだったのか、僕が忙しくて全然よく見てなかったか(笑)。

(一同)アハハハハハハハハッ!

(鳥嶋和彦)そして、結果がすごくよかったんだよね。はっきり言って、想定以上の反響だったんだよね。たしか前編が5位で、後編が3位とかぐらいじゃないかな? あの当時のジャンプのラインアップでね。

(三条陸)5位の速報だか本チャンだかが出た時に編集部に行ったら、ちょっと空気が悪かったのを忘れませんよ(笑)。「何かあったのかな?」と思ったら「ドラクエのアンケートがよかった」っていう(笑)。「それはいいことじゃないんですか?」っていう(笑)。みんな、すごいピリピリしていて(笑)。

(鳥嶋和彦)要するに、企画物の読み切りがいいっていうことは、毎週やってる自分が担当の漫画のほとんどがそれより下なんですよ。20本ぐらい漫画がある中で5位とか3位ってことは、その読み切りより上の漫画って『ドラゴンボール』とあとちょっとしかないわけ。

(三条陸)僕は普通にライターとして他の編集さんとかともライティングの仕事をしていたので。「空気、悪いな……」と思いましたけども(笑)。でも、逆にほっとしたっていうか。そこを取りたいっていうか。まあ、そこまで高かったとは思わなかったですけど。でもベスト10内とかに入れば「ドラクエの名前を使ってこれか?」とは言われないから。安心はしましたけどね。

(鳥嶋和彦)稲田さん、どうでした?

(稲田浩司)俺のところにはそんな細かいことはなんにも伝わってこなくて(笑)。

(鳥嶋和彦)フハハハハハハハハッ! 本当に?

(稲田浩司)それこそ、家族総出で手伝ってもらって。「やっと仕上がった!」って。

(鳥嶋和彦)家族総出で?(笑)。

(稲田浩司)それこそ「総出」って言っても兄弟とかですけども。それで「やっと終わった! 読み切りも大変だったね。ふぅ……」って言っているだけで。その順位がどうこうだっていうのは聞いてないし(笑)。

(鳥嶋和彦)それから次の読み切りが前・中・後編?

(三条陸)そうですね。これは僕が鳥嶋さんに希望してお願いしたんですけど。鳥嶋さんはもうそれで「連載だ!」っつっていて。「連載作品をこれだけ抜いたんだから、もう連載だろう」っていう話になって。で、僕的には逆に、さっき言った裏返しじゃないですけど。「モンスターたちを率いて戦う少年」っていうのは読み切りとして人気を取るためのセッティングだから。そこで「連載しろ」って言われると、やっぱりちゃんと主人公が強くて、みんなを引っ張れるキャラじゃなきゃいけないから。

(鳥嶋和彦)要するに、そこでモードチェンジをするために?

(三条陸)モードチェンジをしなきゃいけないので。

(鳥嶋和彦)その準備の準備として前・中・後編をやりたいっていう。

(三条陸)そうです。それを漫画の1話にすると、連載の出だしがすごくモタモタするから。その前にもう1回、読み切りでやって。そこでシフトチェンジして。お姫様みたいなのを出して。ヒロインも出してっていうのをやってからポンッて連載に入りたいという話をして。だから僕が「もう1回、読み切りやらせてください」っていう話をしたんですよ。

(Naz Chris)すげえ! そんなことまで!

連載前の準備としての前・中・後編『ダイ爆発!!!』

(鳥嶋和彦)前・中・後編ってまずね、僕の記憶ではないね。ミニシリーズはやったけどな。

(三条陸)でも、そもそも最初の読み切りも「1回でポンと終わるとインパクトがないから前・後編で行こう」って言ったのは鳥嶋さんで。

(Naz Chris)鳥嶋さん、すごいですね!

(鳥嶋和彦)いやいや、よく覚えてないけどね(笑)。で、前・中・後編は明らかに三条くんが言うように、連載はもう前提で狙いに行ったから。でね、彼が言ったように編集部の中の空気が悪いわけですよ。「ドラクエを借りた企画物の連載を鳥嶋が仕組んでる。またジャンプの中でよからぬことをあいつで始めてる」っていうイメージで、評判が悪いから。

(Naz Chris)「よからぬ」なんですか?

(鳥嶋和彦)そう。なぜかというと、オーソドックスな少年ジャンプタイプの漫画を僕は作ったことがないから。全部、今までないものをやるから。

(Naz Chris)そうか。『Dr.スランプ』も『ドラゴンボール』もたしかに漫画のニューウェーブっていう気はしましたよね。新しいっていう。

(鳥嶋和彦)で、その最たるものがこのドラクエの企画漫画だったの。だけど、その前・中・後編でアンケートを取ったわけですよ。これはもう、狙い通りで。三条くんが言ってきたらこっちも「ああ、それはいい考えだ!」って。

(Naz Chris)数字に対しては誰も楯突けないから。

(鳥嶋和彦)そこでアンケートを取れば、ダメ押しだから。で、連載会議はたしかにね、僕からすれば通るのは当然だから。連載会議の冒頭で「これ、当然通りますよね?」って言って通した覚えがあるな(笑)。

(Naz Chris)フフフ(笑)。その時、三条先生から見ていて鳥嶋さんの編集者っぷりみたいなのはどう見えてたんですか?

(三条陸)いや、やっぱり爽快でしたよね(笑)。本当に。逆に僕、鳥嶋さんがある種のジャンプの中でのイレギュラーっていうか、異端児的に暴れ回ってる人で。ジャンプのその標準のスタイルじゃないのかもしれないけど。ジャンプの標準のスタイルの人からして、わりかしやる気バリバリで、いろいろ新しい漫画をやろうとしているっていうところでは、結構みんな新しいものを狙っていて。山師的な人も多いっていう。その中で鳥嶋さんがさらに異端児的な存在だったんで。「こんなすごい人たちを相手に、さらに暴れ回って。それで実際にこの人、勝つんだもんな」っていうので。気持ちがいい(笑)。

(鳥嶋和彦)で、あれでしょう? 「連載だ」って見えてきた時、どうだった?

(稲田浩司)いや、それこそ連載までは聞いてなかったと思うんですよね。俺自身は。

(三条陸)それこそ、「もう1回、読み切りやるよ」ですよね(笑)。

(稲田浩司)「もう1回、読み切り」しか聞いてなくて。

(三条陸)その先に連載がある話なんて、聞いてないですよね?(笑)。

(鳥嶋和彦)でももう1回、読み切りがある時には嫌な予感はし始めていただろう?

(稲田浩司)いや、なにも。「ああ、もう1回か。もう1回ぐらいなら、できるかも」っていう感じでしたよね。

(鳥嶋和彦)それで「連載が決まりました」って言った時は?

(稲田浩司)だから、なんか本当にその時から書くのに大変で。一生懸命で。その編集部の内情とか、三条先生と担当さんのやり取りとか、なんにもこっちに入ってこないで書いているだけだったので(笑)。

(Naz Chris)それはあえて、そうしていたんですか? 稲田先生には。

(三条陸)いや、ちょっとは入っていると思いますけども。

(鳥嶋和彦)いや、たぶんね、半分はそうだったと思う。「あんまり細かいことを言うと、またこいつはピーピー言い出すな」っていう。

(Naz Chris)また、言い方が……(笑)。

(鳥嶋和彦)だから、必要最低限のことは言うけど、それ以外は言わない。もうひとつは頭のところだけ、『電影少女』と一緒で僕が関わって。でも副編集長だから担当は持たないんで。次の担当にバトンタッチしてるんだよね。あんまり僕がそこで入っちゃうと、次の担当がやりにくいだろうから。

(Naz Chris)ちなみに『ドラゴンボール』だと……今の場合だと三条先生には伝えてるけど、稲田先生にはいい意味で伝えてないことも、たとえば鳥山明先生には全部伝えなきゃいけない。でも、原作者さんと漫画家さんがわかれてる場合って、そういう利点とかっていうのもあるということですか?

(鳥嶋和彦)相手のキャラクターを見て、どういう風に伝えるか? どういう風に会話するか?ってのを編集は塩梅していかないと。鳥山さんの場合は全部言った方がいいタイプなの。

(Naz Chris)ああ、そういうことなんですか。

編集者として相手にどう伝えるのか?

(鳥嶋和彦)桂くんは全部、言うんだけれども。本当にまずい情報は後からちょっと言うとかね。稲田さんの場合は言うと反発する場合もあるから、時々隠すみたいな(笑)。

(Naz Chris)そういうことなんですか。

(鳥嶋和彦)結構ね、編集も大変なんですよ(笑)。

(Naz Chris)めちゃくちゃ大変ですね! 人のマネジメントもちゃんと、性格を見てしてあげないと……っていう。その一番いい才能の出し方があるっていうか。

(鳥嶋和彦)そう。で、この人の場合には数年間にわたる失敗が僕の中にトラウマであるから(笑)。

(三条陸)「トラウマ」って(笑)。

(鳥嶋和彦)そうだよ。たった1人、デビューさせられなかったんだから。

(Naz Chris)でも、もう人生ってわかんないですね。こんな……正直、ファンなので思うんですけども。こういう素晴らしい漫画を書いていて、どうしてデビューが……っていうのが全くわからないぐらい。「こんなの、速攻で決まるじゃん」って思うような素晴らしい絵なので。やっぱり読者にはわからないところがあるんですね。漫画家さんのデビューとか、そのタイミングっていうのは。

(鳥嶋和彦)だから稲田さんの場合はね、ある種の編集者的な言い訳をする、チェックをする人間が自分の中にいるわけですよ。これが作家としての稲田浩司を邪魔しているわけ。で、これを消すための何かっていうのを僕はずっと探していて。だけど現場にいる時には見つけられなくて。ちょうど三条くんのこの原作が稲田くんのある種のエクスキューズを消す役割をしたんだよね。

(Naz Chris)ああ、本当ですか。後付けじゃなくてですか?

(鳥嶋和彦)だからちょうどね、組み合わせがよかったんだね。

(三条陸)さっきのお話は本当に、僕が話をして。引き出しから稲田先生のコミックスが出てきた時に本当に鳥嶋さん、そう言ってましたからね。「こいつ、どうだ?」って言って出す時に「俺、こいつがデビューできたらもう思い残すことないと思っているやつなんだ」っていうので出したんですよ。

(Naz Chris)そうでしたか!

(鳥嶋和彦)そう。現場として……毎年、僕はいつも会社はじめの時にね、「今年はこいつを必ずデビューさせる」って目標を立てて、プランニングしてやっていたの。で、彼は2年連続で失敗したの(笑)。

(Naz Chris)いや、人生ってわかんないですね。1回目、2回目の時も、3回目で行く時もあるっていう。

(鳥嶋和彦)だから、よくテレビドラマとか映画風に言うと、最後に残っていた、「うん? これは何だ?」って落ちていた抽選券を拾ってやったら、当たったみたいな(笑)。

(Naz Chris)素晴らしい。

<書き起こしおわり>

鳥嶋和彦『ダイの大冒険』連載開始時のジャンプ内ポジショニングを語る
鳥嶋和彦さん、三条陸さん、稲田浩司さんが2023年11月27日放送のJ-WAVE『ゆう坊&マシリトのKosoKoso放送局』の中で『ダイの大冒険』についてトーク。読み切りから連載化をするにあたって鳥嶋さんが考えたジャンプ内での作品のポジショニングなどについて話していました。
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