桂正和 鳥山明の作品連載中にモードチェンジできるすごさを語る

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桂正和さんと鳥嶋和彦さんが2024年11月30日放送のJ-WAVE『TOKYO M.A.A.D SPIN』の中で作品ごとに絵や作風を変えることについてトーク。作品連載中、いけると思ったら躊躇なく作品のモードチェンジを行うことができた鳥山明さんのすごさについて話していました。

(Naz Chris)質問したいんですけど。あるゲストをお招きした時に「今まで週刊連載してなかったから、むちゃくちゃ絵に時間をかけて、凝って書いてた。だけど、そんなやり方をしていたら週刊連載に間に合わないから、簡素化したというか。そこを自分の中で折り合いをつけて諦めた」っていう。

(桂正和)正しいですね。

(Naz Chris)それは正しいことなんですか?

(桂正和)正しいです。俺はバカなんで、やらなかったです。

(鳥嶋和彦)まあ、でもどっちかに分かれるな。

(Naz Chris)でも、そのある作品を見た時……私はどっちかっていうと、たぶん上の世代に近い方のジャンプ読者なので。「ああ、物足りないな」って思ったりするんですよ。

(桂正和)でも、その作家さんが最初から……学んで、途中から変わったんならそう思われちゃうかもしれないけど。スタートからまず、そこが見えていてその絵だったら、それはその人の絵なんで。だから「物足りない」とは思わない気がするんですよ。

(Naz Chris)前作は凝っていたけど……みたいな。

(桂正和)ああ、作品で変わったんだ。それはね、僕も変えちゃう方なんで。僕も作品ごとに絵がだいぶ変わるんで。

(鳥嶋和彦)それは、誰?

(Naz Chris)なんでそういうことを聞くんですか?

(鳥嶋和彦)聞かないと話が深掘りできないでしょう?

(Naz Chris)いや、でも(規制音)も切り替えたんだっていう。たとえばそういうことですよ。

(鳥嶋和彦)江口(寿史)さんの話じゃないの?

(Naz Chris)まあまあ、江口先生もそうですけどね。

前の作品をファンを捨てる気で書いていた(桂正和)

(桂正和)僕はその前のファンを捨ててます。捨てる気で書いてました。「たぶん『ウイングマン』の絵が好きな人は『電影少女』の絵は嫌いだろうな」と思いながら書いてました。

(Naz Chris)マジですか?

(桂正和)だってそうしないと、新しいことができないもん。

(Naz Chris)『電影少女』の方が読者から見ると「これ、時間がかかってるんだろうな」って。

(桂正和)いや、時間かかっているのが正義じゃないじゃん?

(鳥嶋和彦)それはね、僕がよく分かるのは漫画としての抜けとか読み味は僕も『ウイングマン』の方が上だと思うよ。

(桂正和)それ、ずっと言ってるけど(笑)。

(鳥嶋和彦)で、何が言いたいか?っていうと今、桂くんが言ったのはね、そのジャンプのメンツの中で戦ってくために新しい……『ウイングマン』をやって、その後にいくつかやってダメで。新しいものにチャレンジする時に絵柄を含めて「今、僕が君たちに新しさを提示しますよ」っていうことになったら、絵柄をああいう風に変えたのって戦略としてはよくわかるのよ。その時は僕はね、「さすがプロだな」と思ったわけ。もっとリアルに書く方向にね。ただ、出だしのところまでは僕がやったけど、その後は担当じゃないから。その時に思ったのは「これは担当、進行に苦しむよな」って。

(桂正和)絵が大変だからね。

(Naz Chris)でも逆じゃないですか? 抜け感とかがあった、すごい最高だった『ウイングマン』から「えっ、これ、同じ人が書いたの?」と思うぐらいの変わりようっていうのは逆に、嬉しい驚きじゃないですか?

(桂正和)いやいや、そんなことないですよ。いまだに……たとえば今、僕はドラマをやって。往年の40代、50代ぐらいの男の人たちが僕のXとかにいっぱいいますけど。あの当時のあの絵が正しいんですよ。

(Naz Chris)それは『ウイングマン』のですか?

(桂正和)はい。あれしか愛せないんですよ。あれがもう、好きなんです。

(鳥嶋和彦)だから何が言いたいか?っていうと、漫画って短時間で読む娯楽だから。美術品じゃないからね。だからそのキャラクター、ストーリー、その時の読んでる人たちの状況。

(桂正和)読んでる人の気持ちも乗ってるんで。だからどんな変な絵でも、それが一番の宝石なんですよ。

作品ごとにモードを変えて、前の作品のファンを捨てるぐらいの気持ちで書いていたという桂正和先生。それに対して鳥嶋和彦さんは鳥山明さんの『Dr.スランプ』と『ドラゴンボール』を例に出しながら、その作風の違いについて話していきます。

(鳥嶋和彦)それで言えば、ここにある『ドラゴンボール』は僕は『Dr.スランプ』に比べれば僕は作品として……両方、担当したけど。『Dr.スランプ』の方が作品としては上だと思うわけ。だけど、売れたのは『ドラゴンボール』。

で、鳥山さんの頭の中にあるものがものすごい勢いで連載でブワーッと出てきたあの勢いっていうものは、『Dr.スランプ』のあの時期にしか書けないものだから。ものすごい線も生き生きしてるし、キャラの動きとかキレッキレなのよ。あの時のパワーは。それに比べれば、まさにあれは鳥山明が持ってる天才たる所以の漫画なのよ。で、この『ドラゴンボール』って、これは秀才の漫画なの。

天才の『Dr.スランプ』と秀才の『ドラゴンボール』

(桂正和)ああ、なんか言わんとしてることは分かるけど。でも天才だから秀才ができたんでしょう?

(鳥嶋和彦)だから、強いて言えばね。これは要するに、明らかに読者に向けて受けるようにいろいろと試行錯誤して。

(桂正和)でも、それができる人はそんなにいないですよ。

(鳥嶋和彦)だから、そうやっていって作ったものだから。何回もモードチェンジしながら、スケールアップ、グレードアップして。

(桂正和)受けるためのことを一生懸命考えて。俺はね、鳥山明という作家、そこを一番尊敬していて。狙ってそれができるんですよ。

(鳥嶋和彦)普通はできないな。

(桂正和)できない。俺にはできない。理屈で分かってても、書けない。

(鳥嶋和彦)桂くんが言うように、鳥山くんは、いとも簡単にモードチェンジができるだよ。

(桂正和)できるんですよ。「お前ら、戦いが好きなんでしょう? ああ、当たっちゃった」ですよ。いや、感覚的に本当、そんな感じですよ。

(Naz Chris)ええっ、そうなんですか?

いとも簡単にモードチェンジできる鳥山明

(桂正和)自分が好きなように最初、西遊記のパロディ的なやつで始まって。自分の好きなファンタジーの世界で書こうと思っていたら、やっぱりあんまり反応が良くなくて。『スランプ』の頃から比べるとね。それで「うーん、やっぱりこいつら、戦いが好きなんだ。じゃあ戦い、してやるよ」ってやって。それで当てるんですよ?

(Naz Chris)天下一武道会から変えたっていうことですね。

(桂正和)そんな人、います?

(鳥嶋和彦)桂くんが言うところにひとつ、補足をすると普通は書いてきたものをそう簡単に捨てられないの。キャラクターを含めてね。

(桂正和)そう。「こういうのがやりたかったんだ」っていう思いがあるから。

(鳥嶋和彦)だけど、僕との打ち合わせの中で「そうだ」と思ったら、それをいとも簡単に切り替えられるのよね。

(桂正和)あの人、パッと捨てられる。

(鳥嶋和彦)だからそこが僕と合ったところであり、鳥山くんの他の作家にない手離れのよさっていうか。

(桂正和)そうそう。俺もよう言われたもん。鳥山さんに。「やめちゃえばいいじゃん」「いや、俺はこれを書きたい」「そんなのにこだわってるから……」って。まあ、あの人もなんやかんや言って鳥嶋さんに育てられてるから、言い口がそっくりなんですよ。「そんなことにこだわってるから、お前はいつまでも人気取れねえんだよ」とか俺、鳥嶋さんに言われて。「いやー、そう言われてもな……」って。

(鳥嶋和彦)俺の言ってることにそっくりだな、たしかに(笑)。

(桂正和)そうそう。コピーみたいなことを言いやがるんですよ。まあ、漫画の話をするってそれくらいですね、鳥山さんとね。

(Naz Chris)そんなことをおっしゃってたんですね(笑)。

鳥嶋さんとほぼ同じ口調で桂先生に指摘をしてくる鳥山先生、すごいですねー。やはり担当編集社の鳥嶋さんの影響は大きようです。元々、漫画が大好きで漫画家になったわけではなく、生計を立てるために漫画家という仕事を選んだ鳥山先生だからこそ、たとえ連載中であろうとも「読者に受ける」と確信が持てればそれまでのものを捨ててモードチェンジしていくことができたのかもしれません。

連載途中でのファンタジー路線からバトル路線への転換がなければ『ドラゴンボール』も全世界的に大ヒットする作品になっていなかったはず。絵やストーリーだけではない鳥山明先生のすごさが感じられるトークでした。

TOKYO M.A.A.D SPIN 2024年11月30日放送回

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