トミヤマユキコ 田沼朝『いやはや熱海くん』を語る

トミヤマユキコ 田沼朝『いやはや熱海くん』を語る アフター6ジャンクション

トミヤマユキコさんが2023年7月18日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で自身が選ぶ2023年上半期のおすすめ漫画作品を3作品、チョイス。田沼朝さんの『いやはや熱海くん』を紹介していました。

(トミヤマユキコ)じゃあ、次に行きますか。田沼朝さんの『いやはや熱海くん』。今日、ここにいるみんなが読んでいて、好きだと。

(宇垣美里)みんな大好き。

(つづ井)大好き!

(トミヤマユキコ)なので、さっそくみんなでしゃべりたいけど、一応内容だけ言っておきますね。熱海くんという男の子がいます。高校生です。学年1の美形です。女の子たちが熱海くんのことを見るとポーッとなっています。で、熱海くん自身も惚れっぽいんですけど、好きになるのは男の人なんですね。

だから、そこはそれぞれの片思いが結構一方通行になっちゃうっていうようなことが高校の中では起こっている。「僕のかわいいばっかりに……」みたいなことも自分で言うタイプなんですけど。まあ、ナルシストというのとは少し違う、どちらかというとちょっと天然に近いような。割とぽやーっと生きているような感じなんだけど、同性を好きになってしまうというようなところもあり。あと、顔が良すぎるということもあり、いろいろ本人が思うことは器用にその生活ができないというか、人間関係がうまくいきそうでいかないみたいなところがある中で、とある告白チャレンジした男の子がすごいいい子でね! この子と、お付き合いをするとかではないんだけれども、うまく人間関係を結べるようになったことで、なんか少しずつ彼の生活とか日常が変わっていくし、面白いことも起こっていくし。

なんか人を愛するってことに関しても、少しずつ階段を上っていくっていう感じで。全然急ぎすぎの話じゃないので。日常の描写、めっちゃいっぱいあるんで。まず、そこも味わってほしいなという感じです。生活。とにかく生活が等速直線運動のように淡々と丁寧に美しく描かれていて。でも、やっぱりキュンもあるんだよね。

(宇垣美里)かわいいんだよなー。

(トミヤマユキコ)みなさん、どうですか?

(宇垣美里)私はまず、関西弁母国語者として、この『いやはや熱海くん』の関西弁がちょうどよくて。ちょうどいい関西弁。電車で私たちがしゃべっている関西弁。「なんでやねん」ではない関西弁。ゆるい……。

(つづ井)わざとらしくない関西弁っていうか、ナチュラルな、ネイティブな感じ。

(宇垣美里)うんうん。しますよね!

(つづ井)します、します。

(宇垣美里)私たち、厳しいじゃないですか。関西弁じゃない関西弁に。

(つづ井)「おや?」って引っかかる時、あります(笑)。

わざとらしくない関西弁

(宇垣美里)でも、それが一切なくて。読んでいてすごく心地がいいし、なんかたぶん駅名とかでちょっと関西のワードが出てきたりして、すごくなんか懐かしい気持ちに私はなりました。つづ井さん、いかがでした?

(つづ井)たしかに。同じ気持ちです。なんか関西弁だけど、「あれ? これ、描いている人は関西の人じゃないな?」みたいな引っかかりはなくて。すごい馴染む感じというか。それがなんか、作品全体のあたたかみにも繋がっていて、すごくいいバランスだなと思います。

(宇垣美里)と、2人の関西弁話者が話しています(笑)。

(トミヤマユキコ)それはちょっと東北人なんで……そこはちょっと改めて読み直したいなと思います。

(宇垣美里)いかがですか?

(吉川きっちょむ)そうですね。このなんか関係性として、名前のつけがたい関係性の人たちがいっぱい出てくるんじゃなですか。それが、それの描き方がめちゃくちゃ上手いじゃないですか。そこが、大好きです。

(トミヤマユキコ)だから、男の子のことを好きになる男の子の話なんだけど、じゃあBLか?って言われると、なんか典型的なBLとして別に読む必要もないというか。もうちょっと、なんか広がりのある読み方がある作品かな、みたいに思いましたが。どうでしょうか?

(宇垣美里)たしかに。恋愛が主軸ではない。人を好きになるってそもそもどういうことだろう?っていうのから、もしかしたらあの子たちの間で話し合ってる……だからそれを見つけようとしてる作品のような気がしていて。それも含めて、すごくあったかい気持ちになるなって思いますね。

(トミヤマユキコ)つづ井さんとか、BLをいっぱい読んでいるからどう思われるかな?って。

(つづ井)BLはBLですごい大好きなんですけど。なんか『いやはや熱海くん』に関しては、なんか男の子が男の子を好きになってることをことさら強調してないっていうか。すごくフラットに描かれていて。熱海くん自身もなんかそこまで「うわーっ!」って思い悩んでいる様子とかは特に描かれてなくて。すごくフラットな、ナチュラルなこととして描かれている感じがすごい、あまり今までに見たことがなかった描き方っていうか。それをすごい丁寧に描かれてる感じがいいなと思います。

(トミヤマユキコ)ありがとうございます。きっちょむさん、どうですか?

(吉川きっちょむ)全員がちゃんとお互いの人間のことを考えてる感じがあって。

(宇垣美里)ですよね、みんな。

(トミヤマユキコ)人間だね。みんな。

(吉川きっちょむ)ちゃんとそこに、肉と血を持った人間がいるっていう感覚があって、嬉しくなりますね。読んでいて。

面白いワードセンス

(宇垣美里)言葉もちょっと面白いですよね。なんか「桂馬の位置」とか「26時中」とか。

(吉川きっちょむ)ああ、座席の。

(トミヤマユキコ)座席の位置が桂馬の位置になっているっていう。気になる子のね(笑)。

(吉川きっちょむ)「一番顔が見やすい」っていう(笑)。

(宇垣美里)「ワード、好きやわ」って思いながら読んでました(笑)。

(トミヤマユキコ)近すぎるとダメっていう。桂馬の位置ぐらいが一番いいっていう(笑)。

(吉川きっちょむ)こっそり見るのに一番いいっていう(笑)。

(宇垣美里)かわいい作品ですよね。本当に。これはぜひ皆さんに読んでいただきたいです。

<書き起こしおわり>

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